働き方の自由度が上がり、兼業や副業への注目度は高まる一方です。今回は、兼業と副業の違いや従業員側・企業側それぞれのメリット・デメリット、兼業の注意点などを解説します。
目次
1.兼業とは?
兼業とは、本業以外にも仕事を掛け持ちする働き方です。本業と別の仕事を経験することでスキルアップを目指したり、副収入を得たりする手段として兼業への注目が高まっています。
なお、本業以外の仕事がひとつの場合もあればふたつ以上の場合も兼業と言い表すことができ、本業と同程度の労働時間や労力を費やすこともあります。
2.兼業と副業、ダブルワークとの違い
兼業と副業、ダブルワークの定義に明確な違いはありませんが、一般的には以下のような分類で使用されます。
- 兼業:本業と同程度の労働時間・労力を費やしておこなう仕事
- 副業:本業と比べて労働時間や労力を費やさない仕事
- ダブルワーク:2つの仕事を掛け持ちすること
たとえば正社員としてある企業に勤めながら、別の企業でアルバイトをする場合、どの表現を使用しても問題ありません。
3.兼業・副業が注目を集める理由
兼業や副業が注目を集める大きな理由のひとつは、厚生労働省の動きによるものです。
働き方改革や兼業・副業を希望する人材の増加を踏まえて、平成30年1月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が作成され、同ガイドラインは令和2年9月、令和4年7月に改訂が入り都度アップデートされています。
さらに厚生労働省が公開している「モデル就業規則」からは、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。」の文言が削除され、実質的に兼業・副業を推進する風潮が高まっています。
4.兼業・副業のメリット
兼業・副業は企業側にどのようなメリットをもたらすのでしょう。ここでは、企業側と従業員側のそれぞれのメリットを解説します。
企業側
企業側にもいくつかのメリットがあります。具体的には以下のとおりです。
人材育成と従業員のスキルアップ
兼業・副業を認めることで、従業員の人材育成とスキルアップが望めます。副業や兼業を通して異なる環境で働くことにより、社内で得られない経験を積めるためです。
また、他社とかかわるなかで、本業だけでは得られないスキルを獲得し、結果的に本業の生産性向上にも期待できます。開業を伴う内容であれば、経営の経験も積めるでしょう。
エンゲージメントの向上
兼業・副業を認めることで、従業員のエンゲージメントの向上に期待できます。近年、価値観の多様化により、「自己実現」の重要性が増していると実感するシーンも増えたのではないでしょうか。
そのような変化のなかで、本業を続けながら兼業で興味のある仕事に挑戦できると、働くことに対する従業員のモチベーションが向上します。軸となるキャリアや収入を得ながら、自由度があり自己実現が叶う職場に対してはエンゲージメントの向上が期待できます。
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人材の流出防止
兼業・副業を認めることで、人材の流出を防ぐ効果が期待できます。兼業・副業が認められている場合、収入アップを動機とした転職や、他社への興味による転職などを防ぐ効果をもたらすためです。
人材不足が顕著になるなかで、自由度の高い働き方は優秀な人材が定着するポイントになり、新たな人材の確保にも効果的です。
従業員側
次に、兼業・副業の従業員側のメリットを解説します。
収入の増加
兼業・副業により見込まれる収入の増加は、一番わかりやすいメリットだと言えるでしょう。本業として勤めている会社の給料を上げるのには年月がかかりますが、兼業・副業を行うと給料とは別の収入源を確保できるため、収入を増やしやすいといえます。
また、複数の収入源を持つことで経済的なリスクを分散し、将来的な生活の安定にも役立ちます。
キャリアアップ
兼業・副業により、キャリアアップにつなげられる点もメリットです。本業でメインとなるキャリアを築きながら安定収入を得て、兼業・副業ではそれ以外の新しいスキルや経験を積むために行動するのもよいでしょう。
本業に還元されるようなスキルに限らず、別分野への挑戦も可能になり、幅広い知見や経験を得られます。結果としてビジネススキル全体が向上し、自身のキャリアアップにつながります。
自己実現
兼業・副業により、自己実現ができる点は大きなメリットです。本業で一定の収入を得ていると、兼業・副業では自身の興味を軸に仕事を選ぶことも可能です。
本業以外に挑戦してみたいことがある人にとっては、会社をやめたり収入がストップするリスクを回避できるため、兼業のメリットが大きいでしょう。
また、自己実現を通して自分の新しい能力を発見したり、新しいコミュニティへ参加することにより、生活全体の満足感も向上します。
5.兼業・副業のデメリット
兼業・副業にはデメリットもあります。企業側と従業員側のそれぞれのデメリットを解説します。
企業側
企業側のデメリットは以下のとおりです。
労働時間の管理
兼業を認めることで、従業員の労働時間の管理が煩雑になるデメリットがあります。
勤め先が複数に分かれる場合も、合計した労働時間に対して労働基準法が適用されるため、従業員が兼業で別の企業と雇用契約を結んで勤める場合には、原則として、自社の労働時間を副業・兼業先の労働時間と通算する「労働時間の通算管理」が必要になります。
情報漏洩のリスク
兼業を認めることで、情報漏洩のリスクが発生します。自社の情報が他社に漏れるリスクのみならず、社員が他社の情報を自社に取り込みトラブルになる危険性もあります。
対策として同業での兼業に制限をかける他、セキュリティ対策を徹底する、情報漏洩の危険性を認知させるなどしてリスクを低減する必要があります。
離職のリスク
兼業を認めることが人材を留める魅力になる一方、離職を招くリスクも否定できません。従業員が副業や兼業によって他社での労働を経験することで、自社以外の魅力が強まる可能性があるためです。自分の適性を他社で感じたり、スキルアップした先に独立を目指すこともあります。
従業員側
兼業・副業による従業員側のデメリットは以下のとおりです。
労働時間の増加
兼業・副業により、合計の労働時間が増加します。労働時間が増加すると、休息を取る時間や余暇の時間が少なくなるでしょう。それにより体調を崩しやすくなったり、本業の業務効率が下がるなどの影響も懸念点です。
最悪の場合は本業を休職・退職する事態につながる可能性もあるため、自身の労働時間は必ず管理しましょう。
義務や責任の増加
兼業・副業により、いくつかの義務に対する責任が増加します。具体的には、職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務などです。
通常の就業規則に含まれることが多い項目であるものの、兼業するにあたって義務に違反するリスクが増えるため、知らぬ間に違反しないように注意が必要です。
雇用保険の適用外になる可能性
兼業・副業を行なっていると、雇用保険の適用外になる可能性があります。所定労働時間が週20時間以上などの加入条件があり、それを下回るとどの事業所でも雇用保険に加入できないリスクがあります。
雇用保険の対象にならないと、離職した際の失業保険なども受け取れません。加入条件や、自身の就業状況を確認しましょう。
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6.兼業・副業はどんな働き方が可能?
会社員が他社で兼業する場合の働き方を紹介します。
正社員・契約社員
あまり知られていませんが、本業で正社員として勤務しながら、他社でも正社員や契約社員として勤務することが可能です。本業として勤める企業で雇用契約を結び、兼業・副業先の企業でも雇用契約を結ぶことになります。
しかし、勤務時間の兼ね合いなどで実際には少ないケースでしょう。また、本業の雇用契約で、他社で雇用契約を結ぶことが禁止されている場合もあるため、契約違反にならないように確認が必要です。
派遣社員
本業で正社員として勤務しながら、他社で派遣社員として勤務することも可能です。派遣社員も正社員・契約社員と同様に企業と雇用契約を結ぶ形態ですが、派遣社員が契約を結ぶのは「勤務先」ではなく「派遣元(派遣会社)」という点に違いがあります。
正社員・契約社員としての兼業と同様に、派遣社員として兼業するケースは少ないでしょう。
アルバイト
アルバイトは、短時間での労働など融通が利きやすいため副業・兼業として取り入れやすい方法です。アルバイトも企業と雇用契約を結ぶ勤務形態ですので、契約方法の面から見ると、勤務先と雇用契約を結ぶ正社員・契約社員と同様といえます。
なお、アルバイトでも社会保険や年末調整の必要があるため注意しましょう。
業務委託
業務委託とは、企業と個人で雇用契約を結ばず、成果物や役務の提供に対して報酬を受け取る契約形態です。
仕事内容は多種多様で、たとえばスキルシェアサービスなどを通して個人的に受注するイラスト作成、動画編集、またはフードデリバリーサービスの配達員などが例として挙げられます。一般的にイメージされる「副業」は、業務委託であるケースが多い傾向にあります。
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7.兼業・副業は禁止できるのか?
企業が従業員の兼業・副業を禁止することは、基本的にできません。以下では、禁止する場合の条件等を解説します。
禁止できる条件
基本的に、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、労働者の自由であるとされているため、企業側が制限することはできません。
ただし、就業規則によって兼業・副業の扱いを規定することは可能です。なお、これは法律が兼業・副業の禁止を認めるものではなく、あくまでも就業規則の範囲です。
厚生労働省の『副業・兼業の促進に関するガイドライン』によると、「裁判例を踏まえれば、原則、副業・兼業を認める方向で検討することが適当」とされています。
厚生労働省が公開しているモデル就業規則は以下の通りです。
(副業・兼業)
第68条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することがで
きる。
2 会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が
当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを
禁止又は制限することができる。
① 労務提供上の支障がある場合
② 企業秘密が漏洩する場合
③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
④ 競業により、企業の利益を害する場合
出典:厚生労働省『副業・兼業の促進に関するガイドライン』
上記のように、自社に不利益を与える副業・兼業に関して制限を定めることは可能です。
違反した場合の処分
自社の定める就業規則に従業員が違反した場合には、処分の対象とすることも可能です。ただし、就業規則違反が懲戒処分の対象であることを明示しておくことが前提です。
また、過去の裁判例では、形式的に就業規則の規定に抵触したとしても、本業への影響がない場合は懲戒処分を認めなかったケースもあり、ケースごとの慎重な判断が必要となります。
8.兼業・副業の解禁前に企業が行うべきこと
兼業・副業を自社で認める場合には、体制の整備が必要です。兼業・副業を解禁する前に企業側が行うべきことを解説します。
就業規則の見直し・整備
副業・兼業の解禁が決定したら、就業規則の見直し・整備を行います。現行の就業規則が兼業・副業を認めない内容になっていたり、そもそも規定がされていない場合が考えられるため、 副業・兼業を認める内容に更新します。
就業規則を整備する際には、兼業・副業を禁止できる条件や、規定に違反した場合の処分についても規定しましょう。また、副業・兼業の有無を企業が把握する方法として、労働者からの届出が必要である旨なども忘れずに盛り込みましょう。
就業規則とは?【要点を簡単に】作成・届出の方法と流れ
就業規則は、常時10人以上の従業員を使用する使用者が作成しなければならない規定です。職場のルールや労働条件に関わる内容が記載されているため、従業員もその内容を把握しておく必要があります。
ここでは、
...
届出制度の整備
従業員が届け出る内容や運用方法を整備します。厚生労働省のガイドラインでは、「副業・兼業が労働者の安全や健康に支障をもたらさないか、禁止または制限しているものに該当しないかなどの観点から、副業・兼業の内容として次のような事項を確認することが望ましい」とされています。
具体的な内容は、以下です。
基本的な確認事項
①副業・兼業先の事業内容
②副業・兼業先で労働者が従事する業務内容
③労働時間通算の対象となるか否かの確認
労働時間通算の対象となる場合に確認する事項
④副業・兼業先との労働契約の締結日、期間
⑤副業・兼業先での所定労働日、所定労働時間、始業・終業時刻
⑥副業・兼業先での所定外労働の有無、見込み時間数、最大時間数
⑦副業・兼業先における実労働時間等の報告の手続
⑧これらの事項について確認を行う頻度
出典:厚生労働省『副業・兼業の促進に関するガイドライン』
9.兼業・副業解禁時の注意点
兼業・副業解禁時の注意点を企業側と従業員側で説明します。
企業側
企業側の注意点は以下のとおりです。
申出内容の確認
従業員が届出制度に則って提出した内容に、問題がないか確認します。情報の過不足や、就業規則に違反する内容がないかなどです。申出の内容は、事前に就業規則で定める他、届出時に要件を満たしているか確認が必要です。
勤務状況の確認
兼業・副業を行う従業員の勤務状況を確認します。とくに他社でも雇用契約を結ぶ場合、長時間労働、企業への労務提供上の支障等に留意します。また自社と兼業先で合計した「労働量や労働時間」で安全配慮義務に違反する可能性が高くなるため、注意する必要があります。
兼業・副業を行う動機は経済的な補助のため・能力を発揮したいなど、個人によりさまざまであるため、希望に応じて幅広く副業・兼業を行える環境の整備が重要です。
従業員側
従業員側の注意点は以下のとおりです。
就業規則の確認
兼業・副業を行うにあたって、就業規則の確認が非常に重要です。申請の必要性や守秘義務など、トラブルを防ぐために違反しないよう注意します。万が一違反となった場合は、処分の対象になることも考えられます。本業に影響を与えるリスクになりうるため、慎重に行いましょう。
労働時間・体調の管理
兼業・副業を行うには、労働時間・体調の管理が必要です。兼業・副業で新たに雇用契約を結ぶ働き方(正社員・契約社員・派遣社員・アルバイト)では企業側に労働時間を報告する必要もあります。
業務委託など個人で仕事を受ける場合は、自身で労働時間を管理する必要があり、過重労働にならないようとくに注意が必要です。