マイクロマネジメントとは、部下や新人の行動を管理しすぎる過干渉なマネジメント方法のこと。本記事では、マイクロマネジメントとマクロマネジメントの違いや、マイクロマネジメントが起こる原因などについて解説します。
目次
1.マイクロマネジメントとは?
マイクロマネジメントとは、部下や新人の行動を管理しすぎる過干渉なマネジメント方法のこと。一般的に、ネガティブな意味合いが含まれており、部下の行動を逐一確認したり、細かい指示を出しすぎたりすることを指します。
部下の性格や状況によっては有効なマネジメント手法ですが、必要以上の管理は部下にとって負担となり、悪影響を与える場合のほうが多いでしょう。
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2.マイクロマネジメントの具体例
マイクロマネジメントは、部下や新人に対して過干渉になるマネジメントのこと。具体例としては以下などが挙げられます。
- ひんぱんに細かい進捗報告を求める
- 仕事の進め方を必要以上に細かく指示する
- 電話の掛け方や話し方など、ひとつひとつの行動に口出しする
- 部下の居場所や行動を常に把握しようとする
- チャットは10分以内に返信するなどルールを強要する
- リモートワーク中はWebカメラをオンにさせて監視する
- すべてのメールのccに自分の名前を入れるよう強要する
- 提案書や企画書を必要以上にチェックし、難癖をつける
- あらゆる業務に自分のやり方を押し付ける
- 小さなミスも執拗に追及する
進捗報告や必要な指摘およびアドバイスは、業務を円滑に進めるため、または、部下を成長させるために必要不可欠です。
しかし、上記の具体例で挙げたような行為は度を超えており、なかにはハラスメントとみなされかねないものもあります。度を超えた管理は、業務効率やモチベーションの低下といった悪影響を与えるため、改善しなければいけません。
3.マイクロマネジメントとマクロマネジメントの違い
マクロマネジメントとは、マイクロマネジメントの対義語で、干渉しないマネジメント方法のことです。大きな違いは、部下の主体性を尊重して裁量を与えるところ。
マクロマネジメントは、組織の方向性を示した上で、仕事の進め方ややり方は部下に任せます。部下は、ある程度の裁量を与えられるため、主体性を持って仕事に取り組むことができ、責任感や自律性、モチベーションを高められます。
ただし、適切なマクロマネジメントができないと部下が「どうしていいかわからない」「十分なサポートが受けられない」と不満を感じてしまうこともあります。つまり、単なる放任ではなく、部下の状況や能力などを把握し、必要なサポートを提供することが重要です。
4.マイクロマネジメントが起こる原因
近年は、リモートワークの普及が進み、働き方や人材の多様化が進んでいることからも、これまでのような画一的な管理が難しくなってきています。
こうした環境の変化もマイクロマネジメントが起こってしまう原因のひとつ。しかし、同じ環境下でもマクロマネジメントができている上司もいるのは事実です。
マイクロマネジメントをしてしまう根本的な原因として、以下2つが挙げられます。それぞれについて解説します。
- 部下に対する不安
- 上司の自己顕示欲の高さ
①部下に対する不安
部下を管理できているのか不安に感じている、または、部下のミスが自分の評価にも影響することを恐れているなど、部下に対して何らかの不安を抱えていると過度に干渉してしまう傾向にあります。
また、自分と同じような失敗をしてほしくない、あるいは、初めてのマネジメントで部下をしっかり成長させたいなど、ポジティブな感情が空回りしてマイクロマネジメントを引き起こしているケースも挙げられます。
②上司の自己顕示欲の高さ
自分に対する絶対的な自信や成功体験があるがゆえに、マイクロマネジメントをしてしまうケースもあります。
自分のやり方を強要する、または、こと細かに口出しするといった行為には、自己顕示欲が見え隠れしていることも少なくないでしょう。
自己顕示欲の高さゆえにマイクロマネジメントしてしまう人は、部下の成功や成果を自分の手柄として見せたい、あるいは、部下から信頼や尊敬を得たいといった思いが強い傾向にあります。
5.マイクロマネジメントをおこなう上司・管理職の特徴
マイクロマネジメントしてしまう上司や管理職には、以下のような特徴が見られます。無自覚のうちにマイクロマネジメントしてしまっている可能性もあるため、自分や上司に当てはまる特徴がないか、確認してみてください。
- 部下に対する態度や言動が横柄
- 部下の考え・価値観を尊重しない
- 自分が正しいと自信を持っている
- 些細なミスも執拗に追及する
- 細かいルールを作る
①部下に対する態度や言動が横柄
マイクロマネジメントをする上司のなかには、部下を自分の指示に従わせるために高圧的な態度を取っている人も少なくありません。
部下の恐怖心を煽る、または、自分のほうが立場が上であることを態度で示そうとすると、部下に対する態度や言動が横柄になりやすいでしょう。自分の力を示すためにわざと人前で叱るといった行為は、パワハラにもなるため要注意です。
②部下の考え・価値観を尊重しない
部下の考えや価値観を尊重しない人は、自分の考えや価値観、やり方を押し付けがち。
自分の基準でしか物事を判断しないため、本来は正しいやり方のひとつであっても、頭ごなしに間違っていると指摘したり、部下の考えや意見が自分と違うとすぐに否定したりします。
③自分が正しいと自信を持っている
実際に成果をあげてきた人は、自分のやり方が正しいと絶対的な自信を持っているため、同じようにすればよいと相手のやり方は無視して強要してきます。
視野が狭く、自分以外の人は信用できないと思っている人にありがちな特徴のひとつです。
④些細なミスも執拗に追及する
ときには部下のミスを指摘して指導することも必要です。しかし、マイクロマネジメントをする上司は、些細なミスも執拗に追及するといった特徴があります。
悪質なケースでは、指摘箇所を探すために提案書や企画書を入念にチェックし、重箱の隅をつつくように指摘します。
⑤細かいルールを作る
業務効率や成果に直結しない、かえって効率の悪化を招きかねない不必要な細かいルールを作るのも、マイクロマネジメントする上司や管理職にみられる特徴のひとつ。
これらは、部下を信用していない、または、部下に不安を抱えていることが原因となっています。ルールを細かく設定することで部下の行動を把握し、コントロールしようとしています。
6.マイクロマネジメントによる部下への悪影響
マイクロマネジメントは、部下にさまざまな悪影響を及ぼすリスクが高いものです。部下への具体的な悪影響は以下の通りです。それぞれについて解説します。
- モチベーションの低下
- 成長機会の損失
- 主体性の喪失
- メンタルヘルスの悪化
①モチベーションの低下
上司から過度に干渉され、管理されている環境では、上司から信頼されていないと感じ、モチベーションが低下してしまいがちです。
何をしても何かしらを指摘される、または、自分の考えや意見がいっさい聞き入れられない状況では、仕事へのやりがいも喪失し、主体的に動くことに対して恐怖を感じてしまいます。モチベーションが低下すると生産性も上がらず、負のサイクルとなります。
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②成長機会の損失
本来、部下が自分で考えて行動や判断して、そのフィードバックを受けることで成長につながるものです。
しかし、マイクロマネジメントがおこなわれていると、自分で考えて行動や判断する機会が少なく、フィードバックは基本的にネガティブな指摘のみとなってしまいがちです。
こうした状況では、成長につながるどころが、部下の自信が失われてしまいます。部下が成長しなければ企業の将来を担う人材が育たないだけでなく、離職につながるリスクも高まります。
③主体性の喪失
積極的に動いても何かしら指摘される、または、上司の指示に従わないと怒られる環境下では、主体性は育まれません。
その結果、指示待ち人間になってしまい、いかなる場面でも自分で判断することができなくなってしまいます。
また、成果につながっても「上司の指示に従っただけ」と捉えてしまい、仕事へのやりがいや喜びを感じなくなってしまうこともあります。
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④メンタルヘルスの悪化
常に監視されている、または、何かすると指摘されるかもしれないという恐怖感がある環境下では、ストレスも大きいでしょう。
過度なストレスを感じる環境に身を置き続けると、メンタルヘルスが悪化し、最悪のケースでは適応障害やうつ病などを引き起こすことにもなりかねません。
メンタルヘルスの悪化は生産性の低下だけでなく、休職や退職を招く恐れがあります。その結果、組織全体のパフォーマンスが低下し、つねに人手不足の状況になるかもしれません。
7.マイクロマネジメントによる組織への悪影響
マイクロマネジメントは部下だけでなく、組織にも悪影響をおよぼします。その具体例は、以下の通りです。
- 離職率の上昇
- 採用・育成コストの増加
- 上司・管理職の機能低下
- 生産性・パフォーマンスの低下
①離職率の上昇
モチベーションが低下し、仕事へのやりがいを見出せない、または、成長につながらずキャリアアップも望めないと思えば、退職を考えるもの。労働人口が減少し、人材確保が難しいなかで離職率が上昇することは、組織の衰退を意味します。
また、離職率が高いと求職者からもネガティブなイメージを持たれやすく、人材確保が難しくなります。
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②採用・育成コストの増加
離職が発生すれば、その穴を埋めるために新たな人材が必要です。つまり、離職によりこれまでの採用・育成コストが無駄になるだけでなく、新たな採用・育成コストが発生します。
マイクロマネジメントがおこなわれる状況が改善されなければ、従業員の離職と採用・育成を繰り返す負のループに陥ります。
③上司・管理職の機能低下
部下の干渉や管理に時間をかけすぎてしまうため、本来上司や管理職がやるべき業務が疎かになることもあるでしょう。
また、そうした上司のもとで育ってきた部下も将来的に同じようなマイクロマネジメントをおこなってしまう恐れもあります。
上司や管理職の本来の役割が機能しなくなると、組織を牽引する人がいなくなり、組織の成長も阻まれてしまいます。
④生産性・パフォーマンスの低下
主体性が損なわれ、指示待ち人間が増えた組織からは、イノベーションが生まれず、従業員のモチベーションが低いため生産性も低下してしまいがち。
組織の成長は人材があってこそのため、離職率が高まることで戦力が失われ、かつパフォーマンスの低下により組織の成長は鈍化の一途を辿ってしまいます。
市場が飽和化し競合が多い現代では、そうした企業から淘汰されていくでしょう。
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8.マイクロマネジメントの対策・改善策
マイクロマネジメントは、従業員にも組織にも悪影響を与えるため、マイクロマネジメントを防止および改善する必要があります。続いて、マイクロマネジメントの対策や改善策を紹介します。
- 進捗確認・報告のタイミングを決める
- 上司・管理職の役割を認識し直す
- 部下への一方的な思い込みをなくす
- オープンクエスチョンを取り入れる
- 適切な業務範囲を任せる
①進捗確認・報告のタイミングを決める
あらかじめ進捗確認や報告のタイミングを決めておくことで、必要以上に干渉せずとも状況が把握できるようになります。
部下にとってみても、タイミングが決まっていれば、それを基準にして計画的に業務を進めやすくなります。
なお、タイミングを決める際は部下に適切な回数や方法、タイミングなどをヒアリングすることをおすすめします。
②上司・管理職の役割を認識し直す
上司や管理職の本来の役割は、組織の成果を最大化することであり、部下の管理および監視ではありません。
部下の管理は、あくまでも手段です。本来の目的を見失っているがゆえにマイクロマネジメントをしてしまっている可能性もあるでしょう。
とくに初めて上司や管理職の立場になった人には、しっかりと役割を伝えるようにしましょう。
③部下への一方的な思い込みをなくす
部下に対して「これくらいはできるだろう」と過度に期待したり、反対に「できるわけない」と決めけたりしないようにしてください。
また、自分の基準だけで相手を評価しないことも大切です。部下に対する一方的な思い込みをなくすことが、マイクロマネジメントの防止および改善の第一歩です。
④オープンクエスチョンを取り入れる
オープンクエスチョンを取り入れることも大切です。オープンクエスチョンとは、「はい」「いいえ」で答えられない質問のこと。
オープンクエスチョンを取り入れることによって、部下が自分で考える力が養われます。さらに、上司も部下の考え方を知る良い機会となり、部下がミスしそうなことを先回りして気付けるようになります。
部下のことを理解する、または、部下が自分で考える機会を設けることは、マイクロマネジメントの防止や部下の成長に有効です。
⑤適切な業務範囲を任せる
能力やキャパシティに応じた適切な業務範囲を任せることで、不安による過干渉を回避できます。
部下にとっても、適切でない業務範囲を任せられることはミスにつながりやすく、ストレスや負担も大きいため、効果的な対策だと言えます。
成長は段階的にしていくものであるため、上司は部下の現状のレベルを把握し、適材適所に配置することが重要です。
9.マイクロマネジメントの利点
マイクロマネジメントは、適切なシーンや方法でおこなえば利点もあります。たとえば、仕事の進め方やビジネスマナーがまだしっかりと身についていない新入社員に対しては、マイクロマネジメントが有効です。
都度指摘されることで早期に改善でき、指示があることで基本的な仕事の進め方ややり方が身につきます。基本を習得する段階では十分なサポートが必要であるため、マイクロマネジメントを取り入れるのもひとつの方法だといえるでしょう。
ただし、横柄な態度を取ったり、執拗にミスを責めたりして、いつまで経ってもマイクロマネジメントをおこなうことはしないように気をつけなければいけません。