三現主義とは、「現場」「現物」「現実」の3つを重視し、直接的な経験や観察にもとづいて行動する経営理念のことです。重要性、事例、五現主義との違いなどについて解説します。
目次
1.三現主義とは?
三現主義(さんげんしゅぎ)は、主に製造業において「現場」「現物」「現実」の3つの要素を重視する経営理論です。経営者や管理者が問題の発見と適切な対処を行うためには、現場の実態、製品やサービスの実物、そして事実と現状の把握が欠かせません。三現主義によって効果的な判断が可能となり、企業の成長や競争力の強化につながります。
とくに情報化が進んだ近年では、データを過信せず自分の目で確認する重要性が高まっており、業種業界を問わず三現主義の注目度が高まっているのです。
現場
現場とは、実際に製品を製造している場所のことです。具体的には、工場、作業場、生産ラインなどが含まれます。
製造業の現場における主な課題は、生産性や品質の向上、コスト削減、労働環境の改善など。安全かつ効率的に生産を行うためには、作業環境、作業手順、機器の動作、安全対策など現場の実態を把握する必要があります。
現物
現物は、製造された製品そのものを指します。製品の品質や仕様は顧客満足度や競争力に直結するため、製品の実物に関する情報を正確に把握し、品質向上や顧客ニーズへの適合性を高めることが重要です。
たとえば加工機器がたびたび停止する場合、特定の部品に問題があるのかもしれません。現物を直接見ると、このような生産データから読み取りにくい問題を発見できる場合があります。
現実
現実は、市場環境や経済状況といった客観的な現状のことです。事業はこのような外部状況の影響を少なからず受けるため、適切な経営戦略や計画を立案するためには現実の状況を把握する必要があります。
市場動向や競合情報の分析をとおして問題点の改善を行うと、市場シェアの拡大や新規ビジネスの創出などにつながり、企業の成長を推進できるでしょう。
2.三現主義と三直三現主義との違い
三直(さんちょく)三現主義とは、三現主義の3要素へ「直ちに」を加えた経営理論のことです。具体的には「直ちに現場で立ち会う」「直ちに現物を見て調査する」「直ちに現時点での対応を行う」ことを意味します。
三現主義と異なるのは、問題が発生した際に即座に行動することを重視する点。事件や事故につながるような重大なトラブルほど、早期解決や事態の悪化を防ぐためにスピーディーな初期対応が求められます。
迅速かつ最適な判断を下すために、いち早く現場で状況や原因を把握する必要があるのです。
3.三現主義から派生した五現主義(5ゲン主義)とは?
五現主義とは、三現主義に「原理」「原則」を加えた経営理論のこと。五現主義では問題の根本原因を追求するために、原理(メカニズム)と原則(ルール)を重視します。
たとえば誰が作業しても同じミスが生じるならば、工程やマニュアルに問題があるかもしれません。この場合は現場、現物、現状だけを注視しても改善策が見つからない可能性があります。
原理
原理とは、その事象が発生する根本的なメカニズムを指します。
三現主義で組織や業務の現状から問題を発見できますが、原因が三現つまり表面上に現れるとは限りません。たとえば市場原理に沿って考えると、需要が高い製品を販売すれば売れるはずです。
しかし需要が高いのにもかかわらず、自社製品だけが売れない場合は「現物」以外に問題があるのかもしれません。このように原理(セオリー)を知ることで、問題の原因を掘り下げられるようになります。
原則
原則とは、一般的に当てはまる基本的な規則やルールのことです。たとえばビジネスにおける原則のひとつに、双方にとって価値のある取引を行うことが挙げられます。
組織ではさまざまな原則を行動の基準としており、問題解決や意思決定の際にも原則に沿って考えるのが基本です。そのため問題が生じた際、原則に反した行動がなかったかを調べると原因の発見につながる場合があります。
4.三現主義が重要な理由
三現主義が重要と言われる大きな理由は、品質や生産性の向上に寄与することです。ここでは三現主義が重要視される6つの理由を解説します。
品質の向上
三現主義によって、現場での実地調査やデータ収集をとおして品質に影響を与える要因が明らかになり、問題解決のための具体的なアクションを講じられます。
品質の向上は、顧客の信頼を得るうえで不可欠な要素。製品やサービスの品質が向上すれば、顧客満足度の向上、リピート購買の増加、口コミによる信頼獲得などが実現します。
生産性の向上
そもそも三現主義は、現場に潜む「ムリ、ムダ、ムラ」の3要素を発見し、生産性を高めるための考え方です。
企業における生産性向上には、作業効率の改善や技術革新、労働力の最適配置といった対策が挙げられます。しかしデータから作業効率を下げる3要素を読み取れるとは限りません。
問題の根本原因を見極めるためにも、三現主義に則って実際に現場に足を運び、作業現場での実態を直接把握する必要があります。
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適切なコスト管理
三現主義は、コストを最適化する際にも役立ちます。
たとえば毎月の棚卸しで、ある資材の在庫量が過多だと感じたとしましょう。三現主義ではただ在庫量を減らせと指示するのではなく、その資材がどのように使われているかを実際に確認するのです。
現場を見ると、どうしても必要な在庫量か、ほかの資材で代替できないかなどを判断できます。また三現主義で品質と生産性が高まると、同じコストでより大きな成果を得られるようになり、結果的にコスト削減につながるのです。
問題の本質を把握
問題を解決するには表面的な要因だけでなく、背後に潜む根本的な原因の理解が不可欠。そのため三現主義では、問題解決のために現場を直接観察し、データや報告書では得られない情報を収集することを重視します。
たとえば問題発生状況を調べていくと、マニュアルの記載内容に誤りが見つかったとしましょう。このような経緯を成果データのみから発見するのは困難です。
現場や製品の実態を把握し、問題の本質を見抜くことで最適な解決策を導き出せるようになります。
最適な意思決定
データや分析結果にもとづく意思決定は重要ですが、現状とデータに乖離があると決定の根底が崩れてしまいます。そのため意思決定は、現場での観察や関係者との対話を通じて、より広い視点から情報を収集したうえでなされるべきです。
三現主義による総合的なアプローチを行うと、現状にもっとも適した意思決定が可能となります。
安全意識の向上
三現主義で現場の問題を発見し、従業員へ周知すると、各従業員は自分事として捉えられるようになります。
組織内における安全意識の向上には、現場レベルでの教育と啓発が欠かせません。安全意識を浸透させると、事故や損害のリスクが低減し、組織全体の危機意識とパフォーマンスの向上につながります。
また三現主義では経営陣が現場を訪れ、従業員との密接な関係を構築することを重視しています。経営陣が現場で直接従業員と対話すると、安全意識やモチベーションをより高められるでしょう。
5.三現主義が古いと言われる理由
ビジネスが多様化した昨今では、三現主義の枠組みだけでは対応しきれない問題も見られます。そのため三現主義が古いと言われてしまうことがあるのです。
リモートでの状況把握が可能
従来の三現主義では、問題解決のためには現場に足を運ぶことが不可欠とされてきました。しかし近年はテクノロジーの進歩により、リモートによる状況把握や遠隔監視が可能です。
データや画像を通じて現場の状況をリアルタイムで容易に把握できるため、従来のような現場への物理的な移動は必要ないという指摘がなされています。
オムロンの「新3現主義」
電子機器メーカーのオムロンでは、「新三現主義」を掲げました。新三現主義の要素は「データによる現物の分析」「リモートによる現実の監視」「適切なタイミングと人員による現場作業」の3つです。
保全業務では、センサーから取得したデータをクラウドシステムに集約し、分析や判別までシステム化。保全作業や製造プロセスの運用がより効率化され、属人化の減少や人員配置の最適化などの効果が見られています。
真因把握が困難
三現主義だけでは根本的な原因の把握が困難であることも、古いと言われる理由のひとつです。
三現主義で現場、現物、現実を把握したとしても、真因が三現にあるとは限りません。複雑な問題の根本原因を特定するには、現場や現物の情報だけではなく、その事象が発生した原理と原則を理解したうえで、論理的に考える必要があります。
対策の早期創出が困難
三現主義だけでは真因を見出せない場合、問題解決に時間がかかり、対策の立案や実行が遅れる可能性があります。
一方の五現主義では現場や現物の情報に加えて、原理や原則も考慮。三現から得られた情報を分析し、原理や原則に当てはめながらさまざまな仮説を立てて検証を行います。そのため三現主義よりも問題の本質を早く特定でき、適切な対策に移れるのです。
クボタの改善チーム活動
農機製造のトップメーカーであるクボタは社内に五現主義を徹底し、五現主義から発見できる「7つのムダ」を解消するための「改善チーム」を立ち上げました。
クボタが挙げる7つのムダは次のとおりです。
- つくりすぎのムダ
- 手待ちのムダ
- 運搬のムダ
- 加工そのもののムダ
- 在庫のムダ
- 動作のムダ
- 不良をつくるムダ
改善チームの目的は、生産性や品質の向上、快適で安全な職場環境の構築など。そのために改善チームは各製造現場を回り、ムダの原因特定と対策の立案を実施しています。
6.三現主義の企業事例
三現主義はこれまで多くの企業で活用されてきました。ここでは大手企業における三現主義の活用事例を3つご紹介します。
トヨタ自動車株式会社
トヨタの元副社長であるディディエ・ルロワ氏は、トヨタで三現主義の重要性を学んだ人物のひとりです。プリウスのマイナーチャンジが行われ際のエピソードが良く知られています。
ある販売店では社内の連携不足から、プリウスの写真が一種類しかありませんでした。その販売店を訪れたルロワ氏は、店員との対話をとおしてこの問題を発見。これではプリウスの魅力が伝わらないと考えて、すぐに複数種類の写真をその販売店へ届けさせたのです。
まさに現場へ足を運ぶことの重要さを伝える事例と言えます。
本田技研工業
ホンダも三現主義を重視する企業であり、経営理念には「現場での直接的な体験こそ、問題解決の鍵である」という考えが掲げられています。そのためホンダは「現場を見ずに何かを判断しない」という現場重視の姿勢を持っていました。
コロナ禍によりリモートワークの導入を余儀なくされるも、コロナの収束後にはリモートワークを廃止し、社員に原則出社を義務づけています。現場での経験や対面を重視したホンダの姿勢が明確に表れている事例です。
花王株式会社
花王では「花王ウェイ」という企業理念を掲げ、行動原則のなかに「現場起点」を盛り込んでいます。
最良のアイデアは社内外の現場にあるという考えのもと、迷ったときは現場へ行くことを重視。顧客のニーズをつかむために生活の現場を体験し、各事業の現場では従業員の声を尊重したうえで意思決定を行っています。
現場を重視している花王は、それぞれの現場の変化を迅速かつ適切に把握し、現在も新しい価値やライフスタイルを提案し続けています。