チーミングは企業活動を最適化するために必要な概念です。比較的新しい用語のため、その概要と実践方法を理解したうえで業務に落とし込むことが欠かせません。今回はチーミングについて注目が集まる理由や手法を解説します。
目次
1.チーミングとは?
チーミング(teaming)とは、チームを表す「team」と進行形を表す「ing」を組み合わせた造語で、状況の変化に応じて最良なチームワークを構築することです。一人のリーダーに依存せず、全メンバーが主体的に活動に参加し、協業してより良いチームづくりを目指せる点が特徴となります。
チーミングは、2012年にハーバード大学教授エイミー・C・エドモンドソン氏によって提唱されたもので、比較的新しい概念です。
単に手順に従う固定化されたチーム運営から脱し、状況の変化に応じて学習と実践を継続することによるプロセスの改善・成長を可能とすることを意味し、変化に富んだ現代に求められる概念とされています。
他分野におけるチーミングとは
人事・マネジメント分野でのチーミングは学習と実践の継続により、最良なチームワークを追求することを指します。一方で、以下2つの分野でもチーミングという言葉が使われています。
- ゲーム:本来敵同士であるプレイヤーが結託し、人数有利の状態で戦う違反行為
- インターネット:複数のネットワークアダプタ(NIC)をグループ化して、1つのNICとして仮想的に使用する技術
チームビルディングとの違い
チーミングもチームビルディングも最良なチームを作るための取り組みといった点で共通しています。しかし、チームビルディングでは、各メンバーの能力を最大限発揮し、目標を達成できるチームを作り上げていくことが主です。
つまり「目標を達成するためのチーム」という固定されたゴールに向かうプロセスを経ているのです。
一方で、チーミングでは固定のゴールを設定せず、変化する状況のなかでベストなチームを目指して取り組み続けるプロセスを経ています。また、ゴールは状況に応じて常に変化するため、チーミングはチームビルディングと比較して柔軟さがあります。
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2.チーミングが注目されている理由
チーミングが注目されている理由は、外部環境の急速な変化や多様な働き方に対応するためです。ここではチーミングが注目される2つの理由を解説します。
VUCA時代の社会に対応するため
VUCA時代の到来がチーミングの重要性を高めています。現代は曖昧で不確実性をまとった予測不可能な時代「VUCA時代」といわれており、状況の変化が予測できない中で、チームの在り方も常に変化し続けているのが現状です。
変化が激しい中では、従来のピラミッド型組織やトップダウンに依存した組織体制では、急激かつ複雑な変化に迅速に対応するのは難しい現状があります。
そうした環境下で重要になるのが、状況の変化に応じて主体的に行動しパフォーマンスを発揮し続けられるチームを作る視点なのです。これに対応できる概念がチーミングのため、注目が集まっているといえます。
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非対面下でのチーム意識を醸成するため
非対面可でのチーム醸成にもチーミングは欠かせません。近年は新型コロナウイルスの影響でリモートワークが普及しています。
リモートワークで多様な働き方に対応できるようになった反面、対面でのコミュニケーションが難しくなり、チームワークの構築・維持が難しくなる課題を企業は抱えているのです。
チーミングなら、オンライン上でも積極的なコミュニケーションが促進されるため、非対面でもチーム意識を持って仕事を進められます。チーミングの概念を社内に共有することで、チームワークを絶え間なく模索できるのです。
チーミングを進め、各メンバーが主体的に活動したり、積極的に意見交換をしたりすることで、非対面下でもチームの一体感を保てるようになります。
3.チーミング成功のポイント|優れたチームの条件
チーミング成功のポイントは、優れたチームの条件を達成することにあります。優れたチームの条件としては以下3つが挙げられます。
- 対話的である:相手の話を聞き、互いの考えを伝え合う
- 生成的である:自分と相手の考えを掛け合わせて新しいものを作り出す
- 発達的である:対話的かつ生成的な関係性の中で常に進化を求めて段階的に進んでいく
ここでは優れたチームの条件を達成し、チーミングを成功させるために必要な具体的なポイントを解説します。
心理的安全性を確保する
良いチームワークを構築するには、活発な意見交換が必要です。そのためには、発言に不安や恐れを感じない心理的安全性が不可欠です。
失敗を恐れず発言・行動できる環境では、チームの目的・目標達成に向けたアイデアを提案したり、挑戦したりと行動を起こしやすくなります。組織内で失敗を認め、そこから学ぶ文化が醸成されるとプロセスの改善・成長が促され、企業に良い影響を及ぼします。
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双方向のコミュニケーションを実現する
リーダーが命令を下し、それに従うだけのチームはベストとはいえません。最良のチームを作り上げるには、チーム全体の双方向のコミュニケーションが重要です。相手の話を聞き、自分の考えも伝えられる環境を整えると、お互いの考えが相互作用しイノベーションが生まれます。
そのためには、多様性を尊重して個人を認めることがポイントです。各自が自分にはない価値観や考えを受容し、取り入れることで新たな気づきや改善点が発見でき、組織の成長にもつながります。
共通言語・目的を持つ
チームが目指すべき方向や達成すべきビジョン、会話や情報交換で使用される全メンバーが共有する言葉を持つこともポイントです。業務を進めるうえで、共通言語・目的があることでメンバー間の認識のずれを軽減し、効率的なコミュニケーションが可能になります。
とくに、ミッションやビジョン、バリューや価値観といった概念は、チームの一体感を高めるだけでなく、仕事を進める上での判断軸・基準となる重要な要素です。
改善と実践のプロセスを継続する
組織は対話的・生成的な関係性の中で段階的に成長していくものです。そのため、突如として理想のチームに成長することはなく、失敗や効果を実感しない期間も経て、段階的に構築されるものとの認識が欠かせません。
組織の成長を目指すには、チームを信じ、改善と実践のプロセスを継続し続けることが必要です。たとえすぐにチーミングの効果が得られなくとも、失敗や効果が出ない原因を究明し改善し続けることで、やがて最良なチームが作り上げられるのです。
4.チームの5つの成長ステージ
チーミングは5つの成長ステージに分類されます。アメリカの心理学者、ブルース・W・タックマン氏が提唱した「タックマンモデル」では、チームの成長ステージを「形成期」「混乱期」「統一期」「機能期」「散会期」の5つに分けています。
チーミングするうえではチームの成長ステージに合わせたアプローチが必要です。ここではチーミングの各成長ステージを詳しく解説します。
形成期
形成期はチームが形成されたばかりの初期ステージです。形成期のチームにおける特徴は以下の通りです。
- お互いをまだよく知らず探り合っている
- 不安や緊張がある
- メンバーはお互いに遠慮があり、本音を隠している
- リーダーの指示を期待している
- 目標や役割が定まっていない
形成期は組織において圧倒的にコミュニケーション量が不足した状態です。お互いをよく知らないことから、心理的安全性も低い傾向にあります。この段階ではコミュニケーション量を増やし、心理的安全性を高めることが最優先で必要になります。
混乱期
混乱期はチーム内の心理的安全性が高まり、相互理解が進んでいくステージです。それゆえに本音が出やすく、対立や衝突が起こりやすいフェーズと言えるでしょう。混乱期のチームの特徴は以下の通りです。
- 個人の価値観や考え方の違いが明らかになる
- メンバーの役割や責任が明確になっていない
- コントロールが難しく生産性が低下しやすい
このタイミングではチーム内のヒエラルキーも明らかになりつつあり、影響力の強いメンバーが中心になりやすい特徴があります。そのため、責任者はそうでないメンバーが孤立しないよう、周囲をよく見ることが欠かせません。
また、衝突を嫌う人は消極的になり、一見問題ないように見えるが内心不満を抱えている場合も見られます。
組織において衝突や対立はチーム形成において必要なステップであるため、都度解決していくことが重要です。率いる立場にいる人材は、各メンバーの役割を明確にし、個々が意思決定しやすい状態に持っていく取り組みが不可欠です。
統一期
統一期は、混乱期を経てチームが確立していくステージです。メンバーの多様性を受容し、チーム内のルールが確立し、安定と一体感が生まれます。統一期のチームの特徴は以下の通りです。
- 自分たちのやり方を見つける
- 共通した価値観が生まれてくる
- メンバー同士の相乗効果が生まれる
統一期になると衝突や対立が起こりにくく、建設的な会話やフィードバックが行える傾向があります。メンバーはチームでの動き方にも慣れ、生産性が上がりはじめます。
機能期
機能期はチームの結束力が高く、最大限チームワークを発揮できるステージです。機能期のチームにおける特徴は以下の通りです。
- リーダーの指示がなくとも自律的に動ける
- チームへの帰属意識が高い
- 共通の目的を持っている
- モチベーションやパフォーマンスが高まる
ここはチームの成果が見え始めるステージで、組織においてメンバー同士は信頼関係が構築できており、それぞれが主体的に動ける状態になっています。目標達成のためにサポートし合える理想的なチームが形成され、実際に機能しています。
散会期
散会期は組織が目標を達成したり、プロジェクトが終了したりして、チームが解散するステージです。散会期のチームの特徴は以下の通りです。
- リーダーの助言は不要
- チームメンバーがスキルや経験を身につけている
散会期はチームが達成した成果の確認と評価、チーミングの効果を検証します。メンバーがチームの解散を残念と思っている場合、チーム形成は成功したと判断できます。
なお、このフェーズにおいてはメンバーが気持ちよく次のステージに進めるよう、リーダーはこれまでの活動を振り返り、メンバーにポジティブなフィードバックや激励を伝えることが大切です。
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5.チーミングのやり方
ここからはチーミングのやり方を解説します。
- 目的・ビジョン・方針を共有する
- 心理的安全性を高める
- 相互理解を促進する
- 改善して学習する
①目的・ビジョン・方針を共有する
まずは目的やビジョン、方針をメンバーで共有します。チームとして一体感を持つためには目的やビジョン、方針を共有しチームとして進むべき方向を明確にする必要があるのです。プロジェクトやチームの未来像を共有し、メンバーが自律的に行動できるように基盤を整えます。
②心理的安全性を高める
次にメンバーの心理的安全を確保します。チーミングではメンバーが自発的に行動できるかが重要です。メンバーが自分の力を発揮するには心理的安全性を高めることが欠かせません。
失敗しても責められない、非難されない環境であれば、失敗を恐れずに自発的に挑戦していけるのです。
また、安心して発信できるチームであれば、アイデアの提案も活発になり、行動した分だけ成長できイノベーションの創出やチームの成長が活性化されるメリットもあります。
③相互理解を促進する
チーミングではメンバー同士の理解を深めることも欠かせません。1on1やミーティングを定期的に実施し、メンバー間の相互理解を促進します。
また、心理的安全性を高めるためにも、相互理解は重要です。メンバーがお互いの違いを知り、違いを尊重しそれぞれの強みが発揮できる環境を整えると効果的なチーミングが叶います。
④改善して学習する
チーミングには改善や学習が欠かせません。最良なチームワークを追求するためには、状況の変化に応じてチームのあり方や行動を改善していき、学習し続ける必要があります。心理的安全性が高いチームでは、挑戦・行動の数だけ失敗も経験できます。
ここでの失敗は決してネガティブなものではなく、成長に必要なプロセスのため、組織において大きな効果をもたらすのです。
また、失敗からしか学べないこともあるため、行動の結果を検証し、改善と学習のサイクルを継続することが重要といえます。
6.学習する組織とは?
チーミングでは、学習する組織をつくることが重要になります。学習する組織とは、メンバー個々がチームとして、継続的かつ効果的に変化を作り続ける組織です。
学習する組織となるためには、各メンバーに環境変化への柔軟性や適応性、そして自ら創造・デザインする自発性、さらに自ら進化しようとする向上心が求められます。
メンバーの個々がこうしたスキル・姿勢のチーミングに取り組むことで、組織として持続的なパフォーマンスを出せるようになるのです。
学習する組織の目的
学習する組織を作る目的は、チームパフォーマンスの向上です。組織においては、個々の学習が結果的にチームの成果に反映することが求められます。現代はビジネスサイクルの短縮化により、保有するスキルや情報の陳腐化も早まっているのが現状です。
また、情報社会であるため新たな情報の拡散・上書きも早く変化への対応が不可欠です。そうした中で組織と個人が環境に適応し、成長していくには既存のやり方やチームに固執せず、新たな方法を模索することが欠かせません。
チームパフォーマンスの向上のためには学習する組織が有効です。
7.チーミングで学習する組織を作るためにやるべきこと
学習する組織をつくることで、チーミングの効果の効果は高められます。ここでは学習する組織をつくるためにやるべきことを紹介します。
リフレクション
リフレクションとはビジネスでは「内省」を意味する用語です。学習する組織の土台となるもので、自分自身の行動や考え方を客観的に振り返ることを意味します。学習はただ新たな学びを得るだけでなく、現状を改善していくことも必要です。
取り組みから良い点だけでなく、改善点を探し出すことで、より良い成果の達成や生産性向上が期待できます。なお、リフレクションは一人で行うだけでなく、チームメンバーと協働して行うことで効果的に進められます。
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ディシプリンの学習
学習する組織をつくるために学ぶべき5つの領域を「ディシプリン」と呼びます。ディシプリンでは「学習して実践すべき理論や技術」を指します。ここではディシプリンについて、具体的な内容を紹介します。
システム思考
システム思考は解決すべき課題を全体的な「システム」とみなし、その構造を理解する力です。複雑な物事を構造的に理解できると多角的な見方で原因を特定したり、解決策を検討できるようになります。
また、多角的な視点が養われることで、異なる意見や考えを尊重できるようになることから、チームの心理的安全性を高めるためにも効果が期待できます。
自己実現
自己実現はメンバーが自分自身の業務や役割を望ましい方向へ広げていくことを指します。各人が現状と理想のギャップを明らかにし、そのギャップを埋めるために自ら必要な知識やスキルを身につけられるようになるため、個人の成長の促進が可能です。
自己実現で個々の成長が促される結果、チーム全体の能力やモチベーションが高まり、チームとして高いパフォーマンスを発揮できるようになるのです。組織としては、メンバーそれぞれが理想に近づけるような役割分担やチーム編成を行うことが求められます。
メンタルモデル
メンタルモデルは個人の根底にある、ブレることのない考え方やイメージを指します。周囲から捉えられないだけでなく、本人も認識できていないものがほとんどです。
しかし、メンタルモデルは思考の核となる部分であり、その人の行動や意思決定に影響します。また、その人を形成する固定化された要素であり、変えることは難しいものです。
組織においてはメンバー一人ひとりのメンタルモデルを理解した上で、組織の方向性を決定したり、成長を促したりすることが必要です。
ビジョン
ビジョンはチームが共有する明確な目標・方向性です。異なる価値観や考えを持つ人が集まるチームでは、同じ方向に進むための道標が必要であり、それがビジョンになります。
ビジョンの設定においては、共有されるビジョンが明確であり、かつメンバーが賛同できるかが重要です。なお、組織において、主体的にビジョンの達成に取り組んでもらうには、個人のビジョンとチームのビジョンの連動性もポイントです。
チーム学習
チーム学習はチームとして成長を目指すことを指します。個人だけでは解決が難しい課題でも、チームで協力することで個人では不可能だったことを可能とする考えです。
双方向のコミュニケーションを実現し、互いの考えを取り入れることでチームの全体の成長を目指すため、組織内ではチームとして学び合う姿勢が欠かせません。