QMS(品質マネジメントシステム)は、顧客満足度の向上を目的に製品・サービスを継続的に改善していくための仕組みです。QMSを導入することで顧客満足度向上に向けた継続的な品質改善が可能となり、最終的には企業の利益向上につながります。
今回はQMSについて、導入の目的やメリット・デメリット、構築の手順などを詳しく解説します。
目次
1.QMSとは?
QMS(品質マネジメントシステム)とは、顧客満足度向上に向けてQCD(品質・価格・納期)を改善するための仕組みのことです。なお、QMSは「Quality Management System」の略称です。
一度顧客が満足した商品・サービスであっても、ニーズの変化や類似品の登場により、現状に満足できなくなる恐れもあります。つねに顧客の満足を獲得し、市場での優位性を確保するには、QMSによって継続した改善サイクルを確立することが必要です。
マネジメントシステムとは?
マネジメントシステムとは、組織目標を達成するために管理する仕組みのことです。目標達成に向けたアクションは「誰が」「何を」「いつまでに」「どのように」実行するか、達成できない場合にはどうするかを決めなければなりません。
また、アクションを実行した後には検証と改善が必要です。マネジメントシステムでは、このような目標達成に向けた一連の管理を行うための制度やルールを指します。
2.QMSにおける品質とは?
QMSにおける品質とは、顧客満足度の向上につながる価値を指します。単に製品やサービスの良し悪しを測るものではなく、顧客が期待する・求めるレベルに達しているかが問われます。
そのため、どんなに高性能な製品でも、顧客が望まないものであればQMSが成功したとはいえません。
常に顧客が期待する・求めるレベルに到達・維持するためには、QMSによって継続的に品質を高めていく取り組みが求められます。
3.QMS導入の目的
QMSを導入する最大の目的は、顧客満足度を高めることです。QMSでは、顧客満足度の向上を測る指標として品質目標を設定します。品質目標を達成し、具体的な結果を出すためのPDCAサイクルの実行をサポートするのがQMSの役割です。
下記で、QMS導入の目的をさらに詳しくみていきます。
品質の向上
組織のサービスや製品の品質向上には、QMSの導入が不可欠といっても過言ではありません。製造過程で問題を早期に発見・改善することで、出荷する製品の一貫した品質向上が可能となります。品質の良さは顧客満足度を高め、最終的には企業の利益向上につながります。
品質の安定化
製品・サービスの品質が安定していることは、継続的な利益を創出するために欠かせません。とくに、製造業では安定した品質を保った製品を製造し、納品することが期待されています。
あるロットで品質が低下した、あるいは全体的に最初よりも品質が低下したといった事態を防ぐためにも、QMSによる継続的な品質管理と向上への取り組みが重要です。
継続的な改善
顧客満足を向上し続けるには、継続的な品質改善の仕組みづくりが必要です。品質の継続的改善は、ISO9001において最も重要な概念のひとつでもあります。
要求事項にはPDCAを行える仕組みも含まれており、QMSのような継続的な改善を可能とするシステムの構築が求められます。
4.QMS導入のメリット
QMSを導入すると、顧客満足度の向上を達成できるほか、下記のようなさまざまなメリットが得られます。
業務効率の改善
QMSによって継続的な品質改善を行うことで、業務の「ムリ・ムダ・ムラ」が発見できます。「ムリ・ムダ・ムラ」を発見・解消することにより、作業効率と生産性の向上が期待できます。また、業務が標準化されるため、ブラックボックス化の解消にも有効です。
結果、同じ作業を少ない時間で完了でき、かつ誰が実行しても同等の品質を維持できるようになります。
品質管理の見える化
QMSの導入により品質に関する各種データが可視化されると、自社の品質管理が「見える化」します。誰もが現場や品質の状況をリアルタイムで把握できるため、品質向上への意識が高まりやすくなります。
また、表面化しにくい問題も発見しやすくなり、早期に問題の解決に取り組めるようになります。
指標の明確化
品質に関するKGIやKPIを明確に設定でるため、その指標から従業員は自分が何をすべきかが明確になります。QMSにおけるKGIは「顧客満足度の向上」であり、そのために達成すべき細かな要素がKPIとなります。
指標を明確にすることで効率的な組織活動が可能となり、進捗も管理しやすくなります。
迅速な問題解決
QMSでは異常有無をリアルタイムに確認できる仕組みがつくれるため、トラブル発生時にも迅速に原因が究明できます。さらに、QMSのデータ収集・解析機能は、異常が発生した際の損失を低減するのにも有効です。
企業イメージアップ
QMSに関する規格基準は厳しいものが多く、それゆえに認定を受けることで消費者やサプライヤーからの信頼が獲得でき、企業イメージが向上します。
認定を受けていることを示す「JISマーク」が付いていることで消費者に安心感を与え、購入の決め手になることも期待できます。
5.QMSの規格を満たすことが重要な理由
つねに顧客が満足する品質を提供し続けるには、継続的な品質管理が不可欠です。しかし、いくら厳格な品質管理を行なっていても、外部からはどういったプロセスで品質を管理し、その結果どれほどの品質が担保されているのかは見えません。
そこで役に立つのが規格です。規格があることで、その企業の品質管理が一定以上の基準を満たしていることが客観的に証明されます。規格という第三者の立場から評価されている実績は、ビジネスにおいての信頼性を高める効果があります。
品質管理においても一定以上の基準を満たし、品質を担保できていることを証明するためにも規格を満たすことが重要です。
6.QMSに関する3つの規格
QMSに関する主な3つの規格をご紹介します。
ISO9001
ISO9001は、国際標準化機構(ISO)が発行する品質マネジメントの国際規格です。世界で最も普及している規格であることから、信頼性が高い点が特徴です。
ISO9001の認証を取得するには、組織の状態やリーダーシップ、目指す品質の目標と方針、評価や改善も含めた運用計画や運用方法などを明確化し、それらをすべて満たす必要があります。
ISO9001とは? 要求事項、認証取得のメリットや方法を簡単に
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JIS Q 9001
JIS Q 9001は、日本工業規格(JIS)が策定した品質マネジメントの国内規格です。ISO9001の要件を基に策定しているため、基本的な枠組みや要求事項に大きな違いはありません。
しかし、JIS Q 9001には日本独特の製品規格や法令などを取り入れています。国内規格ではあるものの、ISO9001と互換性があることから国内外での品質基準として利用できます。
SQF
SQFは「Safe Quality Food」の略称であり、米国のFMI(食品マーケティング協会)が管理する国際的な食品安全マネジメント規格です。
食品の安全と品質を確保することを目的とした規格であり、適正な品質管理や衛生管理がなされているか、その手順を文書化しているかが主な認証要件です。産業分野ごとに要求事項が求められており、分野ごとに最適な食品安全マネジメントの仕組みが構築できます。
7.ISO9001の要求事項
ISO9001では、全10項目の要求事項を設定しています。ここでは、10項目のうち主な要求事項について詳しくご紹介します。
リーダーシップ
ISO9001に限らず、ISO全体でリーダーシップが重視されています。というのも、リーダーシップはあらゆるマネジメントを実行するうえで不可欠な存在であるからです。
ISO9001においても、トップとしてのコミットメントや資源の確保・権限の割当および伝達、マネジメントレビューの主に3つからリーダーシップや責任のあり方について項目化されています。
計画
ISO9001において、PDCAサイクルは重要な概念であり、その中でも「Plan(計画)」は最も重要とされています。
ここでいう計画とは、測定可能な品質目標を設定し、達成のための実施事項や必要とする資源、評価方法やリスクへの対処を明確にするプロセスのこと。計画を明確にしないことには品質目標は達成できないため、計画の質が重視されます。
文書化された情報
システムの効率的な運用や品質管理活動の証明などのため、品質管理において必要な文書の策定と保管が定められています。
製造時の指示書や発注書といった実務的な文書のみならず、品質方針や品質目標など各種計画や実施時の記録、評価結果など、品質管理に関連するすべての文書が文書化・保管の対象です。
運用
PDCAサイクルの「Do:実行」にあたる項目です。運用計画の管理方法や運用プロセスの明確化、顧客の要求事項とそれに適合していることを証明する方法などを明確にすることが求められます。
組織独自の運用における個別の要求事項はあるものの、下記5つは確実な実施と運用が必要です。
- 製品・サービスに関する要求事項を明確にすること
- プロセスに関する基準、製品・サービスの合否判定の基準を設定すること
- 製品・サービスの要求事項を達成するために必要な資源を明確にすること
- 2の基準に従ったプロセスの管理を実施すること
- 運用プロセスの程度についての記録を明確にし、維持・保持すること
パフォーマンス評価
PDCAサイクルの「Check:評価」にあたる項目です。ここでは、監視や測定を行なって目標を達成していけるかを評価する仕組みが問われます。マネジメントシステムそのものが品質を評価する仕組みですが、そのマネジメントシステム自体も評価対象となります。
改善
PDCAサイクルの「Action:改善」にあたる項目です。評価を受けてどのようなプロセスで改善の対象となる製品・サービスやQMSなどの修正・是正を行うかが問われます。
ここでのポイントは「改善の機会を明確にすること」です。改善の機会は内部監査や外部監査といった特定の機会だけでなく、測定データから問題を発見するといったような日々のQMSのプロセスも含まれます。
8.QMSの認証取得のメリット・デメリット
QMSの認証を取得することは企業イメージの向上やステークホルダーからの信頼獲得など多くのメリットがあるものの、一方でデメリットも存在します。ここでは、QMSの認証取得のメリット・デメリットについて詳しくみていきます。
メリット
QMSの認証を取得するメリットには、下記4つが挙げられます。
- 他社との差別化
- 生産性の向上
- 従業員教育の効率化
- 責任と権限の明確化
①他社との差別化
認証を取得していることで、国際基準を満たす製品やサービスが提供できる企業であることが証明されます。認証により確実な安心感と信頼感を得られるといった点で、同業他社との差別化が図れます。
また、多くの企業は自社のリスクを抑えるためにも、QMSの認証を受けていることを取引条件として重要視しています。取引を新規獲得・拡大するうえでも、QMSの認証が役立つシーンが多いでしょう。
②生産性の向上
認証を取得するにあたって、第三者機関からの監査を受けます。監査では業務上の問題や改善点が明確となり、認証取得のために改善に取り組んだ結果、生産性の向上につながります。
また、認証取得後もマネジメントシステムを運用し続けることで製品の品質や従業員の品質意識も高まります。
③従業員教育の効率化
マネジメントシステムの構築により、業務プロセスも標準化されます。これにより、教育者ごとに教え方や内容が異なるといった混乱が解消され、従業員の教育の効率化にも期待できます。
また、作業工程が整備されることで現場に統一感が生まれ、従業員のモチベーション向上にも効果的です。
④責任と権限の明確化
認証取得にあたって要求事項を満たす上で、業務手順や役割、責任や権限の明確化が必要です。これらが明確になることで、組織として必要な力量が把握できます。
業務のムダだけでなく、保存すべき書類と不要な書類が明確になることで文書管理も容易になります。さらにシステムに沿った業務運営により、トラブルも解決しやすくなります。
デメリット
一方、認証取得には以下のようなデメリットがあります。
- 認証取得後もコストが発生
- 管理者負担が増大
①認定取得後もコストが発生
認証取得のための環境整備や審査には、ある程度のコストがかかります。取得後も継続したシステム運用や書類保管、そして認証の定期更新にコストが発生します。認証を取得し、今後も維持・更新するためにはランニングコストがかかる点に注意しましょう。
②管理者負担が増大
認証取得に向けてマニュアル作成や記録業務などが増え、管理者や担当者への負担が一時的に増加します。ISO9001の認定取得には事前準備や人材の確保などでリソースが必要となりますが、十分なリソースが確保できないことで認証を諦める企業もあるほどです。
認証を取得するにあたって、管理者や担当者の負担や補充すべきリソースを予測し、必要なリソースを確保することが重要です。
9.QMS構築の手順
あわせて、QMS構築の手順をステップに沿って解説します。
- 社内共有
- 業務のマニュアル化
- 業務の分類
- 運用・改善
①社内共有
まずは、QMSを構築・導入することを組織全体に説明・共有することから始めましょう。QMSは組織全員に関係することであるため、方針や目標を浸透させ、従業員全員で取り組む姿勢を醸成することが重要です。
組織全体に浸透させるには、経営層が積極的に関与することがポイントです。
経営層から直々に発信があることでQMSの必要性や重要性が理解しやすく、経営層の意思決定をベースにスムーズにQMSの構築・導入が進められます。
②業務のマニュアル化
業務手順やルールを明確にし、共有することが品質管理の基本です。現在行っている業務の手順やルールを文書化し、マニュアルとして運用できる体制を整えましょう。
マニュアルは現実的、かつ実際の業務に沿った内容にすることが必要です。いくら効率向上が見込めるとはいえ、非現実的な手順では実際の業務との乖離が大きく、PDCAサイクルが機能しなくなるため注意しましょう。
③業務の分類
業務内容のマニュアルが完成したら、マニュアルごとに業務を分類します。分類によって業務内容が可視化され、管理しやすくなります。
マニュアルの重要度やQMSの運用体制を体系的に整理するためにも、業務は上位から下位の流れを意識して分類することがポイントです。
④運用・改善
作成したマニュアルにもとづいて業務を運用し、その過程で発見された問題点や課題は改善していきます。実際に運用することで体系的な品質管理が可能となり、結果にもとづいた効率的な改善が可能です。改善した箇所は、都度マニュアルにも修正をくわえましょう。