経営企画とは、経営層とともに企業の成長や目標達成に向けて、経営計画の立案や実行を担う部門です。経営層の右腕として意思決定をサポートし、現場の各部門との仲介役として機能します。
今回は経営企画について、その役割や仕事内容、求められるスキル・資格、経営企画が必要な企業の特徴などを詳しくご紹介します。
目次
1.経営企画とは?
経営企画とは、企業の成長や目標達成を実現するため、経営計画の立案・実行・管理を担う部門です。経営層に近いポジションに位置し、経営者の意思決定をサポートしたり、企業の将来の方向性を定めたりする役割を持ちます。
また、経営陣のサポートだけでなく、経営陣と各部署の架け橋となる企業の中枢的な存在です。経営において重要な役割を果たすポジションであることから、求められるスキルや仕事のレベルが高い職種といえます。
2.経営企画と事業企画の違い
経営企画に類似する企画職に事業企画があります。両者の違いは以下のとおりです。
経営企画 | 事業企画 | |
軸 | 会社全体 | 事業単位 |
目的 | 会社を成長させるため | 収益を上げるため |
仕事内容 | 中長期の経営計画の策定・実行をはじめとした経営全般の業務 | 短中期の営業計画や行動計画の策定・実行・管理 |
組織でのポジション | 経営層に近い | 現場に近い |
経営企画は経営陣の近くで会社全体を俯瞰して戦略を立てていく部門であるのに対し、事業企画は現場の近くで事業単位の成長を目指して戦略を立てていく部門です。経営層の下層に事業企画があるイメージです。
対象とする範囲が「会社全体」と「事業単位」で異なるため、仕事内容や役割も異なります。
3.経営企画の役割
経営企画は会社全体の方向性を決め、目指すべき姿・目標の達成のために具体的な戦略を策定・実行していく企業の中枢ともいえるポジションです。具体的にどういった役割を持つのか詳しくみていきましょう。
企業の方向性や戦略の策定
メインとなる役割は、企業の将来の方向性を経営層とともに定め、そこに到達するための戦略を策定することです。ただ戦略を策定するだけでなく、進捗を確認し、必要に応じて軌道修正するなど、つねに組織の現状を把握した行動が必要です。
経営企画は、企業の成長や利益最大化を実現するために、中長期的かつ会社全体を俯瞰する視点を持って、業務に取り組むことが求められます。
経営層の支援
経営企画は、経営層の意思決定を支えたり、経営判断に必要な情報を収集・分析したりと、経営層を支える裏方的な役割も持ちます。マーケティング視点から経営に関わるポジションともいえます。
経営計画を策定する上では、市場や消費者・顧客のニーズ、競合他社など多くの外部情報も必要です。こうした情報も踏まえた上で、今後どう対応していくか、どういった分野・事業に注力していくかなど、上流部分の決定を経営層とともに行います。
組織の横断的な調整役
経営層に近いポジションでありながらも、現場との連携も必要なポジションです。経営層の意思決定を現場に伝え、実際の業務に落とし込んでもらうことも経営企画の重要な役割です。
また、円滑な組織運営を実現するため、企業内のコミュニケーション推進や社内風土改善など、組織を横断的に調整する役割も求められます。
4.経営企画の具体的な仕事内容一覧
経営企画の具体的な仕事内容は、主に以下のとおりです。
- 経営戦略の立案
- 経営戦略の実行と管理
- 新規事業の企画
- コーポレート・ガバナンスやIRなどの対応
- ステークホルダーとの交渉・調整
経営企画の仕事内容を詳しくご紹介します。
①経営戦略の立案
経営戦略の立案は経営企画のメインの役割であり、主な仕事内容です。会社の将来の方向性をふまえ、ビジョンや経営目標を達成するための戦略を策定します。
企業が成長するためには、新たな事業や海外への展開、M&Aによる買収や不採算事業の廃止など、状況に応じてやるべきことが多岐にわたります。企業の成長のため、こうした決定を下すのも経営企画の役割の一つ。
目標を実現するためどう対応すべきかを市場やニーズ、競合他社などの調査で得た情報をもとに、多角的な目線から戦略を練っていきます。
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②経営戦略の実行と管理
立案した経営戦略や経営計画を具体的な行動に落とし込み、実行していくことも経営企画の仕事です。経営層の決定を現場に展開し、各部門や関係者と連携して具体的な行動に落とし込んでいきます。
経営層の決定をスムーズに現場に反映できるかは、経営企画の力量にかかっているといっても過言ではないでしょう。
実行後は定期的なミーティングや報告書、モニタリングを通じて、進捗を確認します。問題点や課題は早期に把握し、必要に応じて軌道修正を行っていくなど、実行中の管理も欠かせません。
③新規事業の企画
新たな事業を企画することも経営企画の仕事の一つです。中長期的なスパンでみて、企業の成長やビジョン達成のため、あるいは時代の変化に対応した新規事業が必要になる場合もあるでしょう。
新たに展開したい事業が現実的に実行可能か、利益を出せる見込みがあるのかといった視点から企画し、展開後はその進行状況を分析して事業を管理することも経営企画の仕事です。
④コーポレートガバナンスやIRなどの対応
企業の社会的なイメージや信頼を守るためのコーポレートガバナンスへの対応も重要な仕事です。経営における不祥事は、企業の信頼やイメージの低下を招きます。
そうした事態を未然に防ぐため、社内におけるコンプライアンス遵守や健全な経営の推進・管理も行います。
また、株主や取引先などのステークホルダーに情報開示するIR活動も経営企画の仕事の一つ。上場企業は有価証券報告書の開示義務があるため、対応すべきIR業務も多くなります。
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⑤ステークホルダーとの交渉・調整
経営活動においては、株主や取引先、金融機関などさまざまなステークホルダーとの関わりがあります。
事業規模によっては、行政機関や地域社会、周辺企業といったステークホルダーとの利害調整が必要です。社内だけでなく、経営全般に関係するステークホルダーとの仲介役としても機能します。
5.経営企画部が必要な企業の特徴
企業規模が大きい、または一定の規模に到達しそれ以上の成長を目指す企業は経営企画が必要です。組織が大きいと経営者だけでは管理しきれず、経営層と現場で隔たりが生じてしまう恐れもあります。
経営企画がいることで各部門や関係者とのコミュニケーション・調整が図れ、経営層の意思決定を社内に浸透・展開することが可能です。
また、さらなる成長を目指している企業では、経営層と現場の方向性にズレが生じることを防ぎ、組織が一体的になって目標を達成していくためにも経営企画部という仲介役が必要です。
企業規模によって役割や業務範囲は異なるものの、ビジョンや目標を達成するため支援する役割を担う点は変わりません。
中小企業や創業してまもない企業は経営層が兼任
中小企業や創業してまもないベンチャー・スタートアップでは、経営層が経営企画部の役割を兼任することも多いです。
そもそも、経営企画は経営層の支援役としてのポジションです。経営層だけでは管理しきれない規模の企業に必要ということは、逆をいえば経営層だけで管理できる規模であれば、経営企画部がなくとも現場と連携した円滑な経営が行えるでしょう。
こうした企業では、経営層や経理・人事といった周辺部門が経営企画部の役割を果たしています。
6.経営企画に向いている人の特徴
他の職種と同じように、経営企画の仕事にも向き不向きがあります。経営企画に向いている人の特徴は、以下のとおりです。
- コミュニケーション能力が高い
- サポートすることにやりがいを感じる
- 好奇心旺盛
- 行動力がある
- メンタルが強い
①コミュニケーション能力が高い
経営企画は経営層と現場、企業とステークホルダーとさまざまな立場の人の間に立って調整する役割を持ちます。コミュニケーション能力が高い人は各立場の意見を把握し、円滑に進めていくための調整ができるでしょう。
単に話すスキルだけでなく、相手の話を聴き、相手の意向を汲み取るスキルも含めて高いコミュニケーション能力がある人は、経営企画として活躍できます。
②サポートすることにやりがいを感じる
経営企画は、経営層のように表立った仕事ではありません。縁の下の力持ちとして、裏方に徹して会社を支える役割です。裏方としてサポートすることにやりがいを感じられる人は、経営企画に向いています。
③好奇心旺盛
経営企画の仕事は経営戦略や新規事業の策定、市場調査やステークホルダーとの交渉など、その役割は多岐にわたります。
財務や経理、法律やマーケティングなどの幅広い知識を求められるだけでなく、市場動向など世の中の最新情報もキャッチアップすることが必要です。好奇心旺盛で新しい分野にチャレンジすることを楽しめる人も経営企画への適性があるでしょう。
④行動力がある
立案した経営計画や経営戦略を実行に移していくことも経営企画の役目です。計画を実行に移すには、単に経営層の指示を伝達するだけでなく、周囲を巻き込んで主体的に推進していく行動力が必要です。
課題解決にも積極的に取り組み、粘り強く物事に向き合える人は経営企画に向いています。
⑤メンタルが強い
経営企画は経営の方向性など重要な決定に関わるポジションであるため、そのやりがいが大きい反面、責任も大きい仕事です。
ときには、困難な課題に向き合わなければならないときや決断に迷うこともあるでしょう。そうしたときも諦めることなく、情熱的に取り組むにはメンタルの強さも必要です。
7.経営企画に求められるスキルと資格
経営企画に求められるスキルや資格をご紹介します。
求められるスキル
経営企画の仕事に求められるスキルには、以下のようなものがあります。
- 情報収集力・分析力
- 論理的思考力
- 問題解決力
- 会計知識
①情報収集力・分析力
経営戦略や経営計画は情報を収集し、分析した結果を落とし込んで策定するものです。そもそも正しいデータを収集できないと、いくら分析しても正しい結果には辿り着けないでしょう。
客観的なデータに基づいて意思決定を行う能力は経営企画に欠かせないため、正しい情報収集と論理的な分析スキルが必要です。
②論理的思考力
一つの判断ミスが経営全体に影響することもあります。論理的思考力があれば物事やデータを俯瞰でき、幅広い視点から筋道を立てて業務を進めていけるでしょう。
また、経営者の意思決定を支援するにあたって、経営者を納得させることも重要です。正しい意思決定・判断に導くためにも、相手を納得させるための論理的思考力が欠かせません。
③問題解決力
経営活動を進めていくうえで、さまざまな要因から問題が生じることも多々あります。そうした中でも経営課題の本質を捉え、解決策を導き出す力が必要です。
表面的な課題だけでなく、潜在的な課題を見極めて問題が大きくなる前に解決することが期待されます。
④会計知識
経営戦略や経営計画を進めていく上で、決算書類に触れたり、資金繰りに携わったりする機会も多くあります。経営戦略を実行するにあたっても、経営資源としてのカネを把握し、適切に分配できるスキルが必要です。
会計知識があることでリソースをふまえた現実的な戦略が立案できたり、ステークホルダーに自社の状況を正しく伝えたりすることができます。
求められる資格
経営企画の職に就くにあたって必須の資格はないものの、資格があれば深い知識のもと経営企画の仕事を進められるようになるでしょう。経営企画の仕事に役立つ資格として、以下があります。
- 中小企業診断士
- 公認会計士
- 日商簿記
- MBA
①中小企業診断士
中小企業の経営コンサルティングや経営課題の診断・助言を行う専門家であることが証明される国家資格です。中小企業診断士は中小企業の成長をサポートする役割であり、経営企画の業務と共通します。
経営に関する幅広い知識や経営課題の解決スキルなど、経営企画の業務に役立つ知識・スキルが身に付きます。
②公認会計士
公認会計士は監査・会計の専門であり、中小企業診断士と同様に国家資格です。「監査証明」を主たる業務として、会計や税務、コンサルティング業務を行うこともあります。経営に関わる会計は、一般的な会計よりも高度な知識が必要です。
公認会計士の知識・スキルがあることで、経営状態を財務面から診断できるようになり、精密な経営計画や事業計画の立案に役立ちます。
③日商簿記
会計・監査における専門知識を習得できる、経理関連で最も知名度の高い資格です。1級を取得していると、企業会計に関する法規もふまえた経営管理や経営分析が行えるレベルです。
2級でも財務諸表から経営状態を読み取れるなど、経営企画の業務に役立てられるスキルが習得できます。
④MBA
MBA(Master of Business Administration)は「経営学修士」であり、経営学の大学院修士課程を修了することで授与される学位です。資格とは異なるものの、マーケティングやファイナンス、リーダーシップなど経営に関する幅広い知識やスキルを習得できます。
8.経営企画になる方法・キャリアパス
経営企画は経営層のサポート役となる重要なポジションです。高度な知識・スキルや豊富な経験が求められるため、過去に実績を上げた人などエース級の人材が集められる傾向にあります。
経営企画になるには、経営に関する幅広い知識やスキルを身につけること、経理や人事などの管理部門で経験を積むことがキャリアパスの一つです。
企業によっては他職種から経営企画に異動したり、新規事業を立ち上げた事業企画担当者がその実績を評価されて経営企画寄りのポジションの仕事を任されるケースもあります。
また、経営企画とともに経営改革の推進に携わったコンサルタントが引き抜かれるケースも多くみられます。
経営企画として経験を積んだあとは、CXO(最高戦略責任者)やCFO(最高財務責任者)、CEO(最高経営責任者)といった経営層ポジションに就いたり、経営コンサルタントとして独立開業するなどのキャリアパスが挙げられます。