事業部制組織とは? メリット・デメリット、職能別組織との違い

事業部制組織とは、会社直下に各事業を個別的に担当する組織を立ち上げる事業形態のことです。今回は、事業部制組織の特徴やメリット・デメリットについて解説します。

1.事業部制組織とは?

事業部制組織とは、本社の下に各事業を運営する組織(事業部)を置き、それぞれの事業部が事業を経営する組織形態のことです。

企業規模が拡大すると、事業数あるいは事業を運営する地域が増えることによって本社で管理しきれなくなり、事業部へ責任や権限を譲渡するケースがあります。事業部制組織は一定以上の規模の組織を効率的に運用するために用いられます。

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2.事業部制組織の特徴

事業部制組織では、各事業部内に開発・経理・営業といった部署が設けられ、本社の決済なしに意思決定できる場合がある。一定の裁量権を与えることで確認や許可の工数を減らし、効率的に事業を運営できます。

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3.事業部制組織と職能別組織との違い

事業部制組織と異なる形態に「職能別組織」があります。両者の大きな違いは、意思決定権の有無です。職能別組織とは、営業・人事・経理といった業務内容ごとに部門を分ける組織形態です。経営者の下に各部門が置かれ、部門に意思決定権は譲渡されない特性を持ちます。

一方、事業部制組織は一定の範囲内であれば意思決定が可能です。商談やトラブル時に上層部へ確認して対処する手間が減るため、ビジネススピードを迅速にできます。

職能別組織の例

職能別組織の例として挙げられるのが「松下電器産業(現パナソニック)」です。同社は、創業から取り入れていた事業部制組織を、1990年代に職能別組織へ転換しています。

理由は、デジタル化にともなう製品サイクルの短期化や価格の下落などによる業績不振を打開するためです。実施当初は一時的に業績が回復するも、技術部門と営業部門の連携が上手く取れず再度業績が低迷し、再び事業部制へと回帰しました。

職能別組織のメリット

職能別組織は、機能ごとに業務を分担して専門性を高めて効率的に業務遂行が可能であるため、生産性の向上が期待できます。

たとえば、とある製品の事業を「製造・購買・開発・営業」の4つに分けることで、得意な分野に秀でた人が業務に集中できます。すべてが1つの部門に集約されていると「開発は得意だが営業は苦手」といった人材は、その才能を十分に発揮できません。

職能別組織では各部門が特定の職能に特化して他部門と業務内容が重複しないため、専門知識とスキルが向上するのです。

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4.事業部制組織とカンパニー制との違い

事業部制組織と異なる形態の1つに「カンパニー制」という仕組みも存在します。両者の大きな違いは、完全に意思決定権が譲渡されているか否かです。

カンパニー制は社内で分社化しており、すべての権限を譲渡しています。そのため、完全独立採算が行えます。各事業部に決裁権がある点では事業部制組織と類似していますが、事業部制組織よりも独立性がさらに高い点が特徴です。

カンパニー制組織の例

国内でカンパニー制を実施している企業のうち、代表的なものが以下の会社です。

主なカンパニーの例
楽天グループ株式会社 ・フィンテックグループカンパニー
・コマースグループカンパニー
・インベストメント&インキュベーションカンパニー
株式会社みずほフィナンシャルグループ ・リテール・事業法人
・アセットマネジメント
・リサーチ&コンサルティング

なお、カンパニー制は運営を通じてカンパニー同士の統廃合を行う場合があります。

カンパニー制のメリット

カンパニー制は、投資や人事に関する裁量が大きいことによる迅速な意思決定が可能です。市場変化や顧客ニーズに迅速に対応できるため、収益性が向上します。

また、事業部制組織よりも独立性が高く計画から実行までのスピードが早いため、事業活動の活性化も可能です。責任者が経営者と同等の経験を積むため、経営スキルを持つ人材が育成できます。

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5.事業部制組織の種類

代表的な事業部制組織の種類は、以下の3つです。こちらでは、事業部制組織の種類について解説します。

製品別事業部制

製品別事業部制とは、取り扱う商品やサービスごとに事業部を構成する形態です。各事業部が特定の製品に特化することで、専門性を強化できます。

例えば「IT事業部」「建築事業部」など、特定のジャンルという大きなくくりで編成します。製品別事業部制は、新しい製品を開発して市場に参入する際に多く採用される形態です。一方で、市場優位性が下っても事業を撤退しにくい傾向にあります。

専門性を高めやすい製品別事業部

製品ごとに事業部を分けると、その製品の領域で専門性を高めやすい点がメリットです。一方で、重複するリソースの共有などがされづらく、ムダが出る可能性もあります。

例えば、前述した「IT事業部」「建築事業部」を事業部制組織で運用する場合、各事業に経理や総務といった間接部門を配置しなくてはなりません。そのため、ある程度の売上や継続が見込める事業でないと、リソースをムダに浪費してしまう可能性があります。

新製品や新規事業に対して行うのではなく、自社の主力商品やその派生商品に向いている形態です。

顧客別事業部制

顧客別事業部制とは、顧客の業界・法人・個人・家族構成・性別など、特性や属性に応じて事業部を分ける形態です。例えば、高齢者向け住宅の開発部、女性向け雑誌の編集部が挙げられます。

各顧客のニーズを迅速に把握し、製品やサービスの開発・販売に活かせる点が主なメリットです。ただし、顧客のセグメント(グループ)分けを誤ると、マーケティングそのものに失敗する恐れがあります。

顧客中心にサービス展開しやすい顧客別事業部

顧客別事業部制のメリットは、顧客ニーズに迅速かつ的確に対応できる点です。法人顧客と個人顧客にそれぞれ専用の事業部が対応し、顧客満足度を高められます。

法人相手と個人相手だとアプローチの手段が異なるため、顧客タイプを分けることでより効率的かつ集中したマーケティング・セールスが可能です。

一方、事業部の設定を見誤ると企業全体の統一性が欠けたり、資源の重複や無駄が生じたりするデメリットがあります。

地域別事業部制

地域別事業部制とは、地域ごとに事業部を設置し、地域に密着したきめ細やかなサービスを展開する仕組みのこと。展開するエリアを限定しているため、各地域の特性に合わせたスムーズに事業を運営できます。

地域別事業部制は、全国展開・地域進出・世界進出を検討している企業が取り入れる傾向にある形態です。地域の特性に合わせて柔軟かつ迅速に事業を展開できる反面、地域ごとの政治や経済状況に影響を受ける可能性があります。

地域のニーズに応えやすい地域別事業部制

地域別事業部制のメリットは、地域の特性に合わせて柔軟かつ迅速に事業を展開できる点です。

例えば、本社が東京だけだと九州や北海道といった場所で販促しようとしても、現地でのリサーチが困難でスピード感に欠けます。しかし同エリア内に支社を配置すれば、現地の人材を雇用でき、効率的なアプローチが可能です。

一方、リソースや能力の重複が起こりやすく、地域ごとの政治や経済状況に影響を受ける可能性があります。

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6.事業部制組織のメリット

事業部制組織は事業の運営をスムーズに進められる、本部の負担を軽減するといった点が主なメリットです。こちらでは、事業部制組織の具体的なメリットを解説します。

スピーディーな意思決定と行動

事業部制組織は各事業部に一定の権限が与えられているため、上層部への確認が不要です。そのため、迅速な意思決定と行動によってビジネススピードを向上させます。

リソースの重複は避けられないものの、市場や顧客のニーズが変わったときも早期に対応でき、競争力や利益の向上につながるのです。

本部の負担軽減

事業部制組織では各事業部に権限が委譲されるため、独自の活動が可能になり、本社の負担が軽減されます。本社は経営戦略の策定や意思決定に集中できるうえ、多くの人員を割く必要がありません。そのため、運営コストの低減も見込めます。

責任所在の明確化

事業部制組織では、事業部ごとの業績に対し責任の所在を明確化でき、組織図を簡素化できます。特定の事業の業績が悪化した場合でも、責任者とその責任範囲が明確なため、業績改善への意識が高まりやすく、問題点の特定も迅速です。

成果や課題の可視化

事業部制組織では、各事業部が独自に損益計算書を作成することで、事業ごとの売上や前年比を把握しやすくなります。事業の明確な可視化は、将来の経営戦略の立案にも役立つプロセスです。可視化は経営判断に役立ち、インセンティブの対象や付与基準も明確にできます。

幹部や後継者の育成

事業部制組織の各部門トップには一定の責任と権限が付与されているため、経営者と同等の目線が養われます。事業部を分散させることで役職のポストが増えるため、次世代の幹部やリーダーを育てやすいのです。

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7.事業部制組織のデメリット

事業部制組織には多数のメリットがある一方、一定の権限を与えられているがゆえに生じるデメリットも少なくありません。こちらでは、事業部制組織のデメリット面について解説します。

経営資源のロス

事業部制組織は各事業部が独立して必要な機能を持つため、本部単体のときよりも機能や資源の重複が発生し、コストが増加しやすい傾向にあります。例えば、経理や営業など共通する部門や、各地域で使う生産設備といった類が代表的です。これらは共有化が難しいコストなため、各事業部で用意する必要があります。

事業部間のコミュニケーションが減少

事業部制組織を導入すると各部門間に壁が生じ、相互の連携や協力が難しくなります。業務が独立しているため、全社に関わるような事業の達成が困難になる可能性が生じるのです。また、予算配分において業績による格差が生じ、事業部間での対立が生まれるリスクも否定できません。

全社的な統率が困難

事業部制組織では、各部門が独自の意思決定を行うことで全体の統制が難しくなります。任命する人物にある程度裁量が与えられるため、選出は慎重に判断する必要があります。重要な課題はトップに報告すれば統制できますが、細かな報告を求めると経営スピードがかえって遅くなる点には注意しなければなりません。

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8.事業部制組織の導入企業

こちらでは、事業部制組織の導入事例と効果を紹介します。組織体制を刷新する際の参考材料として、お役立てください。

大日本印刷株式会社

印刷と情報技術を主な生業とする「大日本印刷株式会社」は、1963年に製品別事業部制を取り入れ、包装材・建築部材・精密電子部品といった多角事業を成功させて印刷業界大手となりました。

オイルショックやバブル崩壊といったマイナスイベントが起きた際には、特定の組織の強化を図り、経済状況に合わせた柔軟な組織改革を起こしています。

現在は「情報コミュニケーション部門」「生活・産業部門」「エレクトロニクス部門」などの分野に分け、各分野に関連する事業部が置かれています。

三菱商事株式会社

日本の三大商社の1つである「三菱商事株式会社」は、地域別事業部制を採用し、国内外の各地域に合ったビジネスを展開しています。

アジア・オセアニア事業部では自動車やインフラ、アメリカ事業部では化学品や農業、ヨーロッパ・中東・アフリカ事業部では自動車や金融が中心です。

三菱商事の地域別事業部制では、自律性の領域と共有ビジョンを明確に分け、市場特性や現地文化に合わせられる柔軟性を実現しました。これにより、いずれの事業部も現地のパートナーと連携してニーズをとらえ、事業拡大を進めています。

トヨタ自動車株式会社

国内の大手自動車メーカーである「トヨタ自動車株式会社」は、主力事業の一部に製品別事業部制を導入しました。自動車事業部では一般車の製造と販売を、コネクティッドカンパニー部では車載システムやモビリティサービスの開発や提供を進めています。

なお、別途で職能別組織の側面を持つ供給チェーンマネジメント事業部も存在します。

これにより、各事業部は各々の市場に注力でき、絶えず変化するニーズを捉えた戦略・戦術を立てられるようになりました。

パナソニック

日本で初めて事業部制組織を採用したと言われているのが、総合エレクトロニクスメーカー「Panasonic(旧松下電器産業)」です。昭和8年5月、松下幸之助の独自の発想による「事業部制」を実施したものが始まりと言われています。

同社では「自主責任経営の徹底」と「経営者の育成」の2つを目的として導入されました。目的のとおり、各事業部の傘下に工場と出張所を置き、研究開発から生産販売、収支に至るまで一貫して行う独立採算の事業体を構成して一切を責任者に任せたそうです。結果として、多くの功績を残す企業にまで成長しました。

NEC

グローバルテックカンパニーである「NEC(日本電気株式会社)」が事業部制を採用したのは、1961年のできごとです。当時、同社は通信機・電波機器・電子機器・電子部品・商品の五事業部体制で編成し、事業部制の採用から60年間、各分野でさまざまな功績を残しました。

2022年に、NECは既存の体制の改革を発表し、事業部レベルの組織を市場・製品・機能の単位で大括り化しています。その結果、組織数を約150から約50へと1/3に再編しました。時代とともに事業部が小粒化し、リソースの配分などが難しくなったため、組織の規模やグローバル化・複雑化した市場に合わせた変化が求められていたそうです。

日本製鉄

国内最大手の鉄鋼メーカーである「日本製鉄」は、グループ事業のうち一部の製鉄事業において品種事業部制を導入しました。製鉄事業を厚板および建材・薄板・棒線・鋼管・交通産機品・チタンの6部門に分割しています。

また、各部門に技術部や営業部を置き、製造・販売・技術が一貫して連携できる体制構築が図られています。また「品種事業部基軸の運営」への転換を通じて、品種ごとの戦略をスピーディに実行することにも成功しました。

NTTアド

NTTの100%子会社のマーケティング機能会社である「NTTアド」は、顧客のマーケティングROI(投資収益率または投資利益率)の向上に向け、事業部制を導入しました。

同社では、コーポレート部・経営企画室と並列に最高開発責任者と最高執行責任者を配置し、その配下に各部門を置いています。

部門はコンサルティング部・メディア事業部・イベント事業部といった事業部に加え、管理部門も含めた構成です。これにより「Fanを創る、Funでつなぐ。」という同社のミッションにつながる、顧客企業の事業にスピード感を持って寄与できる仕組みづくりを実現しています。