脱炭素経営とは? メリットとデメリット、取り組み方や事例を紹介

脱炭素経営とは脱炭素、いわゆるCO2削減の視点を持って企業経営に取り組むことです。地球温暖化が世界的な重要課題となった今、CO2の排出に多くの影響を与えている企業は脱炭素に向けた積極的な動きが求められています。

今回は脱炭素経営について、取り組むメリットや具体的な取り組み方、企業事例などを詳しくご紹介します。

1.脱炭素経営とは?

脱炭素経営とは、気候変動対策の一環として脱炭素の視点を織り込んだ企業経営のことです。炭素はCO2のことであり、脱炭素はCO2削減を意味します。

これまで気候変動に対する企業の対策はCSR活動の一環として行われることが多かったものの、近年は環境問題が世界的な最重要課題であることからも、気候変動対策を経営に絡めて全社を挙げて取り組む企業が増加しています。

2016年にはパリ協定が発効され、主要排出国を中心に世界的に温室効果ガスの具体的な削減目標を掲げています。2020年には日本でも菅政権によって、2050年までに温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させて実質ゼロを目指す「カーボンニュートラル」の達成が宣言されました。

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2.脱炭素経営で知っておくべき3つの枠組み

脱炭素経営を進める上で知っておくべき、3つの枠組みをご紹介します。

TCFD

TCFD(Taskforce on Climate-related Financial Disclosures)は「機構関連財務情報開示タスクフォース」のことで、気候変動に関連する財務情報の開示を促す枠組みです。

ESG投資を行う投資家や金融機関は、企業が気候変動のリスクを認識し、経営戦略に織り込んでいるかを重視しています。TCFDにより、投資家や金融機関が適切な投資判断が行えるようになります。

なお、TCFDは主要国の中央銀行、金融監督等当局、財務省等の代表からなる安定理事会(FSB)の下に設置される機能です。

SBT

SBT(Science Based Targets)はパリ協定が求める水準と整合した、企業が設定する温室効果ガス排出削減目標です。1年で4.2%の削減を目安とし、5〜10年先の目標を設定します。

SBTではサプライチェーン排出の削減が求められており、事業活動に関するあらゆる排出量の合計を算出することが必要です。

なお、SBTは国際NGO団体「CDP」と国連グローバルコンパクト(UNGC)、世界資源研究所(WRI)と世界自然保護基金(WWF)の4機関が運営しています。

RE100

RE100とは、事業を100%再生可能エネルギー電力で賄うことを目標とする企業連合です。年間消費電力量が100GWh以上である企業を対象としますが、特例として現在日本企業は50GWh以上に緩和されています。

この条件外でも、RE100事務局が重視する地域・業種である、グローバルまたは国内で認知度・信頼度が高いなど、1つ以上の特徴を有している場合は例外的に加盟できる可能性があります。

2023年9月時点で参加企業は世界全体で419社にまで増加し、うち日本企業は83社です。RE100に取り組むことで、安価で安定した再生可能エネルギーの供給が受けられるようになる、ESG投資の呼び込み効果が得られるなど、さまざまなメリットが得られます。

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3.脱炭素経営が注目される理由

脱炭素経営が注目される理由は、脱炭素の重要性が高まっているからです。脱炭素経営が注目される主な理由をみていきましょう。

政府の2050年カーボンニュートラル宣言

地球温暖化は年々進行し、このまま気温が上昇すればさらに深刻化する恐れがあり、CO2などの温室効果ガスの排出削減に取り組むことが緊急の課題となっています。

2015年12月に採択されたパリ協定では、温室効果ガス削減に関する国際的取り決めが合意され、2016年11月に発効されました。これをふまえて、日本でも2050年までにカーボンニュートラル、いわゆる「脱炭素社会」の実現を目指すことが宣言されています。

2021年4月の地球温暖化対策推進本部及び気候サミットでは「2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指す。さらに、50%の高みに向けて、挑戦を続けていく」ことを表明しました。

企業が温室効果ガスの主な発生源

温室効果ガスの発生源は約8割が政府や企業といわれており、目標達成には企業が脱炭素経営を意識することが必須です。今やグローバル市場では脱炭素経営に取り組むことが当たり前との見方が増えていることから、脱炭素経営が注目されています。

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4.脱炭素経営のメリット

企業が脱炭素経営に取り組むと、地球温暖化の抑止につながるといった大きなメリットがあります。くわえて、企業が脱炭経営に取り組むことは以下のようなメリットも得られます。

企業の評価が高まる

地球温暖化は、誰もが認識する世界的な重要課題です。SDGsでも⽬標13「気候変動に具体的な対策を」と取り上げられています。

温室効果ガスの排出に大きな影響を与えているのは企業の事業活動であるからこそ、企業が脱炭素に向けた取り組みを行うことは当たり前との認識になりつつあるのです。

脱炭素経営を行う企業は地球や社会のことを考えている企業と認識され、社会的な評価の向上につながります。ステークホルダーからの評価が高まることは企業価値の向上だけでなく、投資面で有利になる、人材を集めやすくなるなどさまざまなメリットをもたらします。

株式会社日本総合研究所の調査によると、「環境問題や社会課題に取り組む企業で働く意欲がある」との回答は全体の47.2% を占めるほどです。

参考 若者の意識調査(報告)― ESG およびSDGs、キャリア等に対する意識 ―株式会社日本総合研究所

ESG投資で有利になる

ESGは「環境(Environment)」「社会(Social)」「企業統治(Governance)」のことであり、ESG投資はこれら3要素に配慮した事業活動ができているかに着目して投融資を行うことです。

世界全体のESG投資残高に占める日本の割合は2016年時点で約2%でしたが、2020年には約8%と4年で4倍の市場に拡大。今後も拡大傾向にあることから、ESG投資を行う投資家・金融機関が増加することが見込まれます。

脱炭素経営に取り組むことは、ESGに配慮した事業活動に値するもの。企業が持続的に成長・発展するためには資金力も必要であり、脱炭素経営に取り組みESG投資で有利になることは企業力の強化につながるといます。

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省エネによるコストカットにつながる

脱炭素経営では、自社だけでなくサプライチェーン全体で脱炭素を進めることが求められています。つまり、事業活動に関係するあらゆる工程でのエネルギー利用の見直しが必要です。

サプライチェーンのどこで温室効果ガスの排出があるのかを知ったうえで削減できれば脱炭素経営に取り組めるだけでなく、光熱費や燃料費のコストカットにもつながります。また、再生可能エネルギーへの切り替えも省エネに有効です。切り替えには初期費用がかかってしまいますが、脱炭素経営の前進に大きく影響を与えます。

再生可能エネルギーを導入する企業が増えて市場規模が拡大すれば、エネルギー料のさらなるコストカットにも期待できるでしょう。

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5.脱炭素経営のデメリット

デメリットには、新たなコスト発生・増加が挙げられます。再生可能エネルギーへの切り替えなど、新たな設備や施設の導入には初期投資が必要であり、メンテナンスなどにも維持費がかかります。

デメリットの解消法として、脱炭素経営に取り組むために活用できる補助金・支援の利用があります。また、脱炭素経営を推進していくための人材育成にコストや時間がかかる点もデメリットの1つ。そして、取引先の関係性の見直しが必要となる場合もあるでしょう。

脱炭素経営においては、サプライチェーン全体で脱炭素を行う必要があり、取引先が脱炭素経営に前向きでない場合は関係を見直す必要が出てくるケースも珍しくありません。

これらのようなデメリットがあるものの、脱炭素経営に取り組まないリスクの方が大きいといえます。

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6.脱炭素経営の取り組み手順

脱炭素経営は、闇雲にCO2の削減を図るだけでは非効率です。手順に従って、脱炭素経営に取り組むことで計画的かつ効率的に実施できます。

脱炭素経営への取り組み方は環境省が公開する「中小規模事業者向けの脱炭素経営導入ハンドブック」や「SBT等の達成に向けたGHG排出計画策定ガイドブック」などに記載があります。2つの資料を参考に、脱炭素経営への取り組み手順を解説します。

  1. 脱炭素経営で目指す方向性の検討
  2. 自社のCO2排出量の見える化
  3. 削減対象の特定
  4. 削減計画の策定
  5. 削減計画の実行・評価
  6. ステークホルダーへの伝達

①脱炭素経営で目指す方向性の検討

日本では、2050年にカーボンニュートラルを達成することが現状の目標です。自社にできることは何かを検討し、自社ならではの脱炭素経営の方針を定義しましょう。

方向性を検討する上では、脱炭素経営について理解を深めることも大切です。自社に影響するカーボンニュートラルに向けた動きを把握することで、自社ができることややるべきことを自分事としてとらえられるようになります。

脱炭素経営に関するセミナーや講演会も多く開催されているため、積極的に参加するのもよいでしょう。

②自社のCO2排出量の見える化

方針が定義できたら、具体的な施策に落とし込んでいきます。その上で、まずは自社のCO2排出量の把握が必要です。

CO2排出量は「エネルギー使用量 × CO2排出係数」で算出できます。エネルギー使用量は業務日報や請求書などを用いて算定でき、係数はエネルギーごとに決まった数字があります。

下記は、算定対象となる主なエネルギー種別です。

  • 電力
  • 灯油
  • 都市ガス
  • ガソリン
  • A重油
  • 軽油
  • 液化石油ガス
  • 液化天然ガス

また、日本商工会議所が提供する「CO2チェックシート」の活用もおすすめです。エネルギー種別に毎月の使用量・料金を入力・蓄積することで、CO2排出量が自動的に計算されます。

③削減対象の特定

自社のCO2排出量は事業活動や事業所単位によってもさまざまであるため、細分化して分析し、優先的に削減すべきところを明確にすることが必要です。

事業所単位・事業活動単位でCO2排出量をグラフ化して比較するとわかりやすくなります。主な排出源を特定することで削減対策も具体的に検討でき、どの程度のCO2排出量が削減できるのかを推定するためにも活用できます。

④削減計画の策定

排出削減には、中長期での抜本的な削減が必要です。短期的かつ実行可能な対策に偏りがちですが、短期的な対策も取り入れつつ、中長期的な視点でより根源的な計画を策定することがポイントです。

また、実行できないことには削減にはつながらないため、検討した削減対策は実施が容易な対策から徐々に拡大していくように策定することが重要です。

あわせて、定量的な目標も策定していきます。目標を達成するための具体的な削減対策をリストアップし、対策ごとに実施期間を決めましょう。「省エネ」「燃料転換」「再エネ電気の調達」の3つの視点から、自社でできる対策を見つけてみてください。

⑤削減計画の実行・評価

策定した計画に沿って、削減対策を実行していきます。実施にあたって設備投資が必要な場合もあるため、国や地方自治体の補助金制度も活用しながら進めることがおすすめです。

対策実施後のCO2排出量を定期的にチェックしながら、目標に対する進捗やギャップを確認し、必要に応じて対策や計画を見直していきましょう。PDCAを回して、効率的かつ効果的にCO2の削減に取り組んでいくことが大切です。

⑥ステークホルダーへの伝達

ステークホルダーに対して、脱炭素経営に取り組んでいることを発信しましょう。なぜ脱炭素経営に取り組むのか、どのような対策を実行してどのような成果を出す・出しているのかを説得力のあるストーリーとして構築することがポイントです。

環境省「SBT等の達成に向けたGHG排出計画策定ガイドブック」では、説得力のある脱炭素経営の実現による成長ストーリーの構成例を紹介しています。

  • 自社のパーパス、ビジョン、ミッション
  • 戦略
  • 取り組むべき重要な課題(マテリアリティ)の特定
  • 具体的な削減施策
  • 取り組み成果(非財務情報)
  • 財務面への効果

取り組みの過小評価を避けるためにも、自社の脱炭素経営の有効性を説得力を持って伝えることが重要です。

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7.脱炭素経営の企業事例

脱炭素経営への取り組み方は、企業によってさまざまです。環境省が公開する「中小規模事業者向けの脱炭素経営導入 事例集」より、3社から事例をご紹介します。

株式会社パブリック

同社は、事業者や家庭から排出された廃棄物の収集・運搬、中間処理、最終処分を一貫して担う企業です。

2005年のISO14001認証 取得を機に脱炭素経営に取り組み、「今の地球環境は未来の子供たちから借りている」を合言葉にCO2排出量の抑制や再資源化を通して、次世代につなぐ企業になることを目指しています。

取り組み ・本社高効率変圧器への更新
・電力監視システムの導入
・再エネ電源メニューの導入など
効果 ・電気使用量の削減により、光熱費の大幅削減を実現
・脱炭素経営企業としての認知度向上により、自治体からリサイクルに関する引き合いが発生
・社内外への脱炭素経営の取り組み発信により、社員のモチベーションと人材獲得力が向上

株式会社スタンダード運輸

運送業は、温室効果ガスの排出に大きな影響を与える業種。同社は健康経営と脱炭素経営の両軸の経営を実践し、カーボンフリー輸送の実現を目指しています。

スモールスタートで削減効果を検証して実施可否を判断することで、無駄をなくしながら取り組みを前進していきました。

取り組み ・電気の使用による排出量に対し、照明のLED化や再エネメニュー切替の対策を実施
・燃料による排出量にはエコドライブの徹底やEVトラックの導入を検討
効果 ・荷主のバリューチェーンにおける脱炭素に貢献することで優位性の構築
・先進的な取組の社外発信による知名度・認知度の向上
・CO2削減に向けた取組の評価制度の導入による社員のモチベーション向上
・経営方針に対する支持を受け、異業種含めた人材獲得面での差別化

株式会社NTC

情報通信業は、脱炭素経営の取り組み事例が少ないものの、先駆けて取り組むことで新たな強みの創出を目指した事例です。

取り組み ・働き方改革により、電気使用によるCO2の削減
・削減対策のため、社内検討・CO2排出量の分析、専門家への相談を実施
・サプライチェーン排出量削減のため、パートナー企業との勉強会や情報共有等の支援を実施
効果 ・パートナー企業の中で、先行して脱炭素経営に取り組むことで優位性を構築
・ 省エネによる電気代の削減

炭素排出に関連の低い事業でも日常業務やサプライチェーンを細かく分析すると、脱炭素への取り組めるポイントがみえてきます。また、脱炭素に向けた知識を身につけることも、脱炭素経営の取り組みの一環です。

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8.脱炭素経営の参考資料

脱炭素経営に取り組むうえで、まずは脱炭素経営について理解を深めることが大切です。脱炭素経営を理解するために参考にできる資料をご紹介します。

中小規模事業者向けの脱炭素経営導入ハンドブック

これから脱炭素経営に取り組む企業が一読しておくべき資料です。脱炭素経営とはどんな取り組みかをふまえ、事業者が脱炭素経営に取り組むメリットや重要性、脱炭素経営に向けたステップなどをわかりやすくまとめています。

「中小規模事業者向けの脱炭素経営導入 事例集」もあわせて活用すると、具体的な対策が検討しやすくなります。

参考 中小規模事業者向けの脱炭素経営導入ハンドブック環境省

SBT等の達成に向けたGHG排出削減計画策定ガイドブック

環境省が2021年3月に公開した資料です。SBT(Science Based Targets)は、パリ協定が求める水準と整合した、企業が設定する温室効果ガス排出削減目標のこと。

ガイドブックには、削減対策策定の一連の流れと各プロセスのポイントなどが詳細に記載されています。

脱炭素計画の目標達成に向けた削減対策の策定・実施に役立てられる資料であり、脱炭素経営に向けて具体的に動いていきたい人におすすめです。

参考 SBT等の達成に向けたGHG排出削減計画策定ガイドブック環境省