「させていただく」は、相手の許可や恩恵を受けて自分の行動を行うことを示す敬語表現です。正しい使い方、例文、使用する際の注意点などについて解説します。
目次
1.「させていただく」は誤用が多い敬語
「させていただく」という表現は、ビジネスシーンでよく見られる敬語のひとつです。しかし過剰に使ってくどい文になる、あるいは誤用してしまうケースも少なくありません。誤った使い方を避けるため、この表現の正しい意味と使い方を理解しておきましょう。
「させてもらう」の謙譲語
「させていただく」は「させてもらう」の謙譲語であり、相手の許可を前提に、自分が行動する際に使われます。また、自分の行為は相手の好意や承諾によって成り立つため、相手への感謝の気持ちを込めて敬意を表す語でもあるのです。
二重敬語になる場合も
「させていただく」は、ほかの敬語表現と組み合わせると二重敬語になる場合があります。たとえば「頂戴させていただきます」という表現の場合、「頂戴する(謙譲語)」+「させていただく(謙譲語)」が重複する誤用です。この場合は「頂戴します(いたします)」が適切といえます。
2.「させていただく」の正しい・間違った使い方を例文で確認
「させていただきます」という表現は、特定の条件下で使用しなければ誤用となります。これを機に正しい使い方を知っておきましょう。
正しい使い方
相手の許可を受けて何かを行うときであれば、適切な使い方だといえます。ただし使用シーンによっては、例外的にNGとなるケースもあるので注意が必要です。
訪問させていただく
相手が訪問を快く受け入れてくれることや、相手の時間や場所を提供してくれることに対する感謝の気持ちを伝える、適切な使い方です。
たとえば打ち合わせのために、相手のオフィスを訪れる約束を申し入れたとしましょう。相手が承諾したら、「では、○時に訪問させていただきます」と伝えれば、相手への感謝を現しつつ、双方の確認にもなります。
変更させていただく
相手の了承や承認によって変更が成り立つ場合に、相手への配慮や敬意を表現した適切な使い方です。
たとえば会議の日程を変更する際、事前に相手の了承を得なければなりません。相手の了承を受けたうえで、こちらの都合に相手が合わせてくれたことに敬意を示すときに、「会議は○月○日に変更させていただきます」などと伝えます。
欠席させていただく
ビジネスシーンなど、相手の承認や同意を得ることを前提として、自身の欠席を丁寧に伝えるときに使う言葉です。相手に対する配慮を表しています。
たとえばやむを得ない事情で重要な会議や研修に出席できない場合、一般的には事前に直属の上司などへ許可を取ります。そのうえで関係者に「会議を欠席させていただきます」と伝え、欠席の許可を得ていることと、失礼や不都合を詫びる姿勢を示します。
担当させていただく
社内で使われる謙譲表現で、特定の業務を引き受ける際、相手の依頼や信任に対する、感謝の気持ちを表します。この使い方は問題ありません。たとえば新しいプロジェクトの責任を引き受ける際に、「ぜひ担当させていただきます」と、自分を指名してくれたことに対する感謝と敬意を示します。
なお社外に対して、「御社を担当させていただく」と伝えるのはNGです。取引先に対して、担当者になる許可を取る必要はありません。この場合は、「御社を担当する(いたす)」などと表します。
間違った使い方
「させていただきます」の誤用は、二重敬語がほとんどです。とくに業務における連絡や打ち合わせに関連するシーンで誤用が多いため、注意しましょう。
ご連絡させていただく
「ご(敬語の接頭語)」+「させていただく」の二重敬語となり、基本的に誤用です。このような場合は、「ご連絡いたします」や「ご連絡します」といった表現で十分に丁寧さを伝えられます。
ただし相手の許可や了解を得ている場合は例外といえます。たとえば「○日までに返信がない場合は、こちらから連絡する」という約束を、あらかじめ取り付けているケースなどです。このようなときは、「○日を過ぎたため、ご連絡させていただきました」などと伝えても問題ありません。
拝見させていただく
「拝見する(謙譲語)」+「させていただく」の二重敬語となるため誤用。正しくは「拝見します」または「拝見いたします」です。
すでに謙譲表現である語に「させていただく」をつけてしまう場合は意外と多く、ほかにも「申し伝えさせていただく(申し伝える=謙譲語)」「お待ちさせていただく(お待ちする=謙譲語)」などが挙げられます。丁寧な表現に見えるため、つい使ってしまいがちな表現です。
いずれも過剰な敬語になる誤用だと覚えておきましょう。
お伺いさせていただく
「お(敬語の接頭語)」+「伺う(謙譲語)」に「させていただく」が組み合わさり、三重の敬語表現となる誤用。正しくは、「お伺いします」や「お伺いいたします」です。
取引先などへ不適切な敬語を使っていると、「勉強不足な担当だ」と見なされて自社の信用が低下する恐れもあります。また冗長な表現は、相手に対して不親切な印象を与えるかもしれません。
お送りさせていただく
「お~する(謙譲語)」と「させていただく」が含まれる二重敬語の誤用です。正しい表現は、「お送りします」「送付いたします」など。また「送らせていただく」という表現も敬語として問題ありません。
とくに相手から依頼されて何かを送る場合は、相手の許可や恩恵への感謝を含める必要がないため、「させていただく」は不要です。
務めさせていただく
「務めさせていただく」という表現もビジネスの場でよく見られます。しかし、場合によっては誤用となるのです。
たとえば会議の司会進行を務める場合、上司や議長から任命を受けている場合がほとんど。よって参加者の承諾を得る必要はないため、「させていただく」は不要です。単に自分の役割を説明するだけであれば、「務めます」で問題ありません。
確認させていただく
ビジネスメールや口頭でのやり取りでひんぱんに使われる誤用しやすい表現です。「自分が確認する」という行為に、相手の許可や了承は必要ありません。そのため「確認します」や「確認いたします」といった表現が適切です。
また「ご確認させていただく」と表すと、「ご(敬語の接頭語)」が含まれてしまい、二重敬語の誤用となります。
3.「させていただく」を使用する際の注意点
「させていただく」を使う際は、「相手の許可や恩恵を得ている」「二重敬語にしない」の2点にくわえて、いくつかの注意点があります。
一文での乱用
「させていただく」を一文中に何度も使うと敬語が過剰になり、文章全体がくどくなってしまいます。一度使用すれば十分な場面も多いです。文章全体の流れを考慮し、必要以上に使わないように心がけましょう。
たとえば「本日中に確認させていただき、そのうえで連絡させていただきます」といった表現は不適切です。
さ入れ言葉
「さ入れ言葉」とは、本来必要のない「さ」を挿入する誤った表現のこと。たとえば「読まさせていただく」「帰らさせていただく」などが挙げられます。「~させる(使役形)」と「させていただく」が混同した語であり、正しい日本語ではありません。
ただし「見させていただく」は、上司などが何かを見せる場合に限り、正しい使い方だとされます。
冗長表現
「させていただく」は丁寧さを示すために使われるものの、冗長な文章になりがちです。短く簡潔に伝えられる内容を、わざわざ長く表現するため、相手が読みづらくなる可能性もあります。
たとえば来客を案内する場合、相手の許可は不要です。「案内させていただきます」ではなく「案内いたします」「ご案内します」といった簡潔な表現が適しています。
させていただく症候群
「させていただく症候群」とは、「させていただく」を必要以上に使ってしまう状態のこと。とくに目上の人に対して「失礼のないように」と配慮した結果、「させていただく」を多用してしまうケースが見られます。
相手が「させていただく」の正しい使い方を知っている場合、「私は承諾していない」と不快になるかもしれません。
漢字での表記
「頂く」という表現は、「頂戴する」、つまり「相手から物を受け取る」ことを指す語で、物品の受領に関する意味合いを持っています。一方で「させていただく」は、「~させてもらう」の謙譲語であり、行動に対する謙虚さを示すもの。
物品の受領とは無関係な場面で使用されるため、ひらがなで「いただく」と表記するのが適切です。
4.「させていただく」の適切な言い換え表現
「させていただく」という表現は、「する」や「いたします」などのシンプルな言葉に言い換えられます。「させていただく」の誤用を避けるためにも、さまざまなパターンの言い換えを知っておきましょう。
「いたします」
「させていただく」の適切な言い換え表現としては、「いたします」が挙げられます。
たとえばセミナーなどで参加者に資料を配布するときの文言を考えてみましょう。「資料は当日配布させていただきます」と表現したくなるかもしれません。しかし資料の配布について、参加者の許可を得る必要はないため、「させていただく」は不要です。
「資料は当日配布いたします」など、シンプルかつ直接的な表現で言い換えられます。
「する」「します」
「させていただく」を「する」や「します」に言い換え、さらにシンプルな表現を選びましょう。「伺う」「拝見する」など、もともと謙譲語の場合は、「する」で終わらせるのが正しい使い方です。
また社内のやりとりでは、上司に対しても簡潔な表現が好まれ、過剰な敬語を避ける傾向にあります。たとえば「メールで送らせていただきます」ではなく「メールでお送りします」がベターです。
5.「させていただく」を使う人が増えた背景
「させていただく」という言葉は、明治時代の小説に存在しており、1990年代以降には一般的に使われていたとされます。また政治家の発言の影響や、相手への配慮を重視される風潮なども、「させていただく」が広まった背景のひとつです。
政治家による多用
政治家が公式な記者会見や議会の答弁で「させていただく」という表現をひんぱんに使用したことが、広く使われるきっかけになったとされています。
「ご報告をさせていただく」などの表現が、テレビやインターネットで広く放映されたため、「させていただく」の認知度が高まったのです。それ以降、ビジネスシーンや日常会話でも、「させていただく」が模倣されるようになったと考えられています。
配慮の表現に便利
相手に対する配慮を示すのに、「させていただく」が便利な表現であったともいわれています。とくにビジネスシーンでは、相手に失礼のないよう、敬意や謙虚さを示す表現が欠かせません。そこでさまざまな語と組み合わせやすい「させていただく」が使われるようになった可能性も高いのです。
そのため相手の許可が必要ないシーンでも、「させていただく」を使っているケースが増えています。