スキルベース組織(skill-based organization)とは、従業員のスキルや能力を重視して人材管理を行う組織形態を指します。スキルデータを構築し、従業員のスキルや能力を軸にして人材の採用や配置、教育、評価などを実施します。
これまでジョブ型の人材管理が主流だった欧米を中心に、一部の企業がスキルベース組織の導入を進めています。スキルベース組織を導入すると、人材不足の解消や業務効率および生産性の向上、従業員エンゲージメントの向上、多様性の実現などの効果が期待できるでしょう。
この記事では、スキルベース組織の概要を説明したうえで、スキルベースとジョブ型の違い、スキルベース組織が注目される理由、スキルベース組織のメリットなどを解説します。
1.スキルベース組織とは?
スキルベース組織とは、従業員の職位や役割ではなく、スキルや能力を基準にして運営する組織形態のことです。個人のスキルデータをもとに、人材の採用・配置・育成・評価などの人材マネジメントが行われます。
従来の組織では、従業員は特定の役職や部署に割り当てられることが一般的でした。しかし、スキルベース組織では自身の持つスキルや能力を基準に役割が割り当てられます。
スキルベース組織は、急激な環境変化や先行きの見えない状況において、柔軟かつ迅速に対応するための有効なアプローチとして注目を集めています。
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スキルベースとは?
スキルベースとは、従業員の職位や役割ではなく、個人のスキルや能力に基づいて意思決定する考え方のこと。なお、スキルベース組織における「スキル」とは、個人が持つスキルや能力(コンピテンシー)全般を指します。
たとえば、専門的な知識および技術や、課題解決能力、コミュニケーション能力、マネジメント能力、リーダーシップなど。このようにスキルの内容は多岐にわたります。
2.スキルベースとジョブ型の違い
スキルベース組織と対比する形で、ジョブ型雇用が挙げられることがあります。ジョブ型雇用とは、特定の職務内容(ジョブ)に基づいて従業員を雇用する制度のことです。
あらかじめ職務を設定し、その業務に必要なスキルを持つ人材を採用することで、企業の求める職務や役割に適したスキルや経験を備えた人材を確保できます。スキルベースとジョブ型の違いを表にまとめると以下のとおりです。
スキルベース | ジョブ型 | |
基準 | 個人のスキル | 職務(ジョブ) |
人材配置 | 柔軟 | 固定的 |
組織の柔軟性 | 高い | 比較的低い |
キャリア形成 | 多様な経験 | 専門性の追求 |
次の項目ごとに内容を詳しく解説します。
- 基準の違い
- 人材配置の違い
- 組織の柔軟性の違い
- キャリア形成の違い
①基準の違い
スキルベースは、個人の持つ多様なスキルや能力を基準としており、これには専門的な知識および技術だけでなく、コミュニケーション能力や問題解決力などのソフトスキルも含まれます。
ジョブ(職務)をタスク(作業)レベルまで細分化し、従業員の持つスキルや能力とマッチングさせることで、より効果的な役割配置での業務を遂行可能。
一方、ジョブ型は特定の職務(ジョブ)を基準とし、その職務に必要なスキルや経験を重視し、企業が求める職務や役割に適したスキルや経験を持つ人材を雇用します。
②人材配置の違い
スキルベースでは、個人のスキルセットに応じて柔軟に配置を変更可能です。例えば、プロジェクトやタスクの要件に合わせて、適切なスキルを持つ人材を配置することができ、柔軟性が高いといえます。
一方、ジョブ型では、特定の職務に対して人材を固定的に配置する傾向があり、配置変更は比較的少ないのが特徴的です。その結果、ジョブ型では、職務やポジションごとに従業員の役割や責任が明確に固定されており、柔軟性に欠ける特徴があります。
③組織の柔軟性の違い
スキルベースの組織は、個人のスキルを活かして様々な業務に対応できるため、環境変化に対して柔軟に対応できる特徴があります。
たとえば、新しいプロジェクトや業務が開始される場合、適切なスキルや能力を持った従業員を迅速に配置可能です。一方、ジョブ型は職務が明確に定義されているため、組織変更には比較的時間がかかる傾向があります。
④キャリア形成の違い
スキルベースでは、個人が多様な経験を積むことでキャリアを形成していきます。そのため、様々なプロジェクトや業務に携わることで、幅広いスキルを獲得可能です。
組織は、従業員のスキル向上を促進し、最新の技術や知識を獲得できるように支援すると、良い循環が生まれます。
一方、ジョブ型では、特定の職務における専門性を深めていくキャリアパスが一般的になっており、専門家としての地位を確立しやすい反面、キャリアの幅が限定される可能性があります。その結果、職務の変化やスキルの転換が比較的困難です。
3.スキルベース組織が注目される理由
スキルベース組織が注目される理由として、下記のような背景があります。それぞれ重要なポイントですので、詳しく見てみましょう。
- 「ジョブ型」運用の限界
- 市場の変化への対応
- 働き方の多様化
①「ジョブ型」運用の限界
ジョブ型雇用は、職務を明確に定義し、その職務に適した人材を配置する方式ですが、急速に変化する現代のビジネス環境では、この方式に限界があります。
業務内容が次々と変化するなかで、固定的な職務定義では環境変化に迅速に対応することが難しく、組織の柔軟性が低下する傾向にあるためです。また、従業員の多様な能力や潜在的なスキルを十分に活用できないという課題もあります。
②市場の変化への対応
ビジネス環境の急速な変化に伴い、企業には迅速な適応力が求められています。スキルベース組織では、個人のスキルを基準に人材を配置するため、市場の変化に応じて柔軟に人材を再配置できるところがメリットです。
デジタル技術の進歩により、従来の職務の一部がAIに代替されるなか、人間の役割を再定義する必要性も高まっています。スキルベース組織では、新たな事業機会に素早く対応したり、イノベーションを促進したりすることが可能です。
③働き方の多様化
現代の労働市場では、従業員のキャリア志向や働き方の希望が多様化しています。その点、スキルベース組織は、個人のスキルや能力に焦点を当てることで、従業員の多様なキャリアパスを支援し、個人の成長と組織の発展を両立させられます。
さらに、フリーランスやプロジェクトベースの働き方が増加するなか、スキルベースのアプローチは、こうした柔軟な労働形態にも適応しやすいところが魅力的です。
企業が一人ひとりのスキルを把握し、それぞれに応じたスキルや能力を活かせる業務や役割を与えれば、従業員は自分に合った環境で能力を十分に活かせるよう努める効果が期待できます。
4.スキルベース組織のメリット
スキルベース組織には、以下のようなメリットがあります。それぞれどのようなメリットなのか、詳しく確認しましょう。
- 生産性が向上する
- スキル開発が促進される
- 人材不足を解消できる
- キャリアの多様性に対応できる
- 従業員エンゲージメントが向上する
①生産性が向上する
スキルベース組織では、個人のスキルを適切に把握し、最適な業務に配置可能です。そのため、各従業員が自身の強みを活かして仕事に取り組めます。
また、スキルにもとづいた柔軟な人材配置により、プロジェクトや業務の要求に迅速に対応できるため、組織全体の生産性が向上します。適材適所の人材配置が実現できると、即戦力として期待できるため、組織の生産性が高まり、教育や研修などのコストを最低限に抑えられるでしょう。
②スキル開発が促進される
スキルベース組織では、従業員のスキルが可視化されるため、各自が自分のスキルレベルや不足しているスキルを客観的に把握できます。これにより、従業員は自発的にスキル開発に取り組むようになることもありますし、上司や先輩が適切なフィードバックを行えるようになります。
また、組織側も必要なスキルを特定し、効果的な研修や育成プログラムを提供可能です。結果として、組織全体のスキルレベルが向上し、競争力の強化につながります。
③人材不足を解消できる
スキルベース組織には、最初に学歴や経験で候補者を絞り込まない採用をすることで、従来の方法よりも応募者数が増え、自社に適した人材を確保しやすくなります。
本来ならば組織で活躍できる人材を逃しません。また、既存の従業員のスキルを最大限に活用することで、外部からの採用に頼らずに人材不足を解消できる可能性があります。
④キャリアの多様性に対応できる
スキルベース組織では、従業員が自身のスキルや興味に基づいて柔軟にキャリアを選択可能です。従来の縦型のキャリアパスだけでなく、横断的なキャリア移動もできるようになるため、従業員の多様なキャリア志向に対応できます。
その結果、従業員の満足度が向上し、組織の人材定着率も改善されますし、従業員一人ひとりが自身のキャリアを真剣に見直し、今後どうありたいか考えるきっかけにもなります。
⑤従業員エンゲージメントが向上する
スキルベース組織では、従業員が自身のスキルを活かせる業務に従事できるため、仕事への満足度が高まります。また、スキル開発の機会が増えることで、自己成長を実感できる環境が整います。
さらに、組織が個人のスキルを重視していることが従業員に伝わり、組織への帰属意識が強まるでしょう。これらの要因により、従業員のエンゲージメントが向上し、組織全体のパフォーマンスが改善されます。
5.スキルベース組織の問題点
スキルベース組織にはメリットがあるものの以下のような問題点もあるため、注意が必要です。スキルベースを採用する際は、こういった問題点を把握しておかなければいけません。それぞれについて詳しく確認しましょう。
- 正確なスキル評価が難しい
- 現在のスキルにもとづいた評価により成長性が見逃される
- 企業文化に合わない人材を採用してしまう
①正確なスキル評価が難しい
スキルベース組織では、個人のスキルを正確に評価することが重要です。しかし、スキルの定義や測定基準が曖昧になりがちで、客観的な評価が難しい場合があります。
とくに、コミュニケーション能力やリーダーシップなどのソフトスキルは数値化が困難で、評価者の主観や経験によって評価にばらつきが生じる可能性もあります。
公平で一貫性のある評価をするためには、明確な評価基準を定めたり運用の仕組みを構築したりすることが必要です。
②現在のスキルにもとづいた評価により成長性が見逃される
スキルベース組織では、現在持っているスキルに基づいて人材を評価および配置しますが、この方法では個人の成長可能性や潜在能力を見逃してしまう恐れもあります。
たとえば、現時点では特定のスキルが不足していても、学習能力が高く将来的に大きく成長する可能性のある人材を見落とすかもしれません。また、現在のスキルにのみ注目することで、長期的な人材育成や組織の将来的な競争力向上が疎かになる可能性もあります。
③企業文化に合わない人材を採用してしまう
スキルベース組織では、個人のスキルや能力を重視するあまり、企業文化との適合性を見落としがちです。技術的なスキルは高くても、チームワークや企業の価値観に適合しない人材を採用してしまう恐れがあります。
企業文化との不適合は、採用した人材の早期離職につながる可能性もあるため、スキル評価と同時に、企業文化との適合性も慎重に評価する必要があります。
6.スキルベース組織実践のポイント
スキルベース組織を実践する際は、以下の3つのポイントを押さえておきましょう。上記のポイントを押さえると理想のスキルベース組織に近づけます。
- スキルベースの採用をする
- スキルと業績をリンクさせる
- スキル開発の支援をする
①スキルベースの採用をする
スキルベースの採用では、従来の学歴や職歴中心の採用から脱却し、候補者の持つスキルや能力を重視します。そのため、組織が現在および将来的に必要とするスキルを明確化し、採用基準を策定することが重要です。
採用プロセスでは、スキルテストや実践的な課題を用いて、候補者の能力を客観的に評価していきましょう。この方法により、多様な背景を持つ人材を採用できる可能性が広がります。
②スキルと業績をリンクさせる
スキルベースの目標設定を行い、それぞれの従業員のスキルセットを考慮したうえで目標を設定しましょう。また、スキル向上と業績向上を結びつけるために、高いスキルや能力を持つ従業員はそれに見合った高い報酬を受け取れるようなシステムを導入するのがポイント。
継続的なフィードバックを提供し、従業員のスキル向上が組織全体の目標達成にどのように貢献しているかを明確にすることで、モチベーションを高めることができます。
③スキル開発の支援をする
企業は従業員のスキル開発を積極的に支援する必要があります。たとえば、社内トレーニングプログラムの展開、オンライン学習プログラムの提供、外部セミナーへの参加支援、専門書籍や資料の購入支援など。
また、時間的なリソース確保も重要で、従業員が業務時間内外で学習活動に参加できるような制度を整備する必要もあります。継続的な評価とフィードバックを行い、トレーニングの効果を測定し、必要に応じてプログラムを改善することが重要です。