変化の激しい経営環境に適応し、社員の能力や成果を最大限に引き出すため導入する企業が増えている「ミッショングレード制」。役割等級制度とも呼ばれ、社員の役割や成果にもとづいて評価・報酬を決定する制度で、年功序列から脱却し、実力主義を重視する仕組みとして注目されています。
この記事では、ミッショングレード制の基本的な仕組みから、ほか等級制度との違いや具体的な導入手順までを解説します。また、メリットだけでなく、デメリットや他社の導入事例も紹介するので、ぜひ導入を検討する際の参考にしてみてください。
目次
1.ミッショングレード制とは?
ミッショングレード制は、社員に与えられた役割(ミッション)に基づいて等級(グレード)を決定し、その成果を評価する制度です。この制度は、日本で従来用いられていた職能資格制度と職務等級制度を組み合わせたようなもので、まだ新しい等級制度として注目されています。
ミッショングレード制の特徴は、役割の難易度とそれに応じた成果に基づいて賃金を決定すること。これにより、社員の能力と役割、成果をバランスよく評価し、適正な賃金を実現しやすくなります。
また、企業理念に沿った役割分担が可能となり、日本の企業文化に合った制度とされています。
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2.ミッショングレード制の具体例
等級ごとの役割定義の例を示すと、下記のようになります。
等級 | 役職 | 役割定義 |
M3 | 部長 | 組織全体の経営戦略立案および方針の実行を主導。重要な意思決定を行い、経営陣と連携して企業全体の成長を図る。 |
M2 | 課長 | 経営陣の方針を現場で実行する役割として、業務計画策定・運営を担い、目標達成のための戦略を策定する。また、リソースを効率よく配分しながら、複数のチーム間を調整し、業務がスムーズに進むようサポートする。 |
M1 | 係長 | 課長からの指示をチームメンバーに伝達し、具体的な業務計画に落とし込む。自身も専門業務を担当しながら、チームが目標を達成できるよう、現場を取りまとめる役割も担う。 |
L1 | 主任 | プロジェクトやチーム内でリーダーとして、目標達成のために数名のメンバーをまとめ、業務上のアドバイスや技術的な指導を行う。また、問題が発生した場合は、迅速に対処し解決を図る。 |
S3 | 一般社員 | 自身の判断で業務を遂行できるだけでなく、他のメンバーをサポートし、業務全体の進行を円滑に進められる。 |
S2 | 一般社員 | チーム内で割り当てられた業務を主体的に遂行。業務の優先順位を自ら判断し、効率的に進められる。 |
S1 | 一般社員 | 基本的な補助業務を遂行できる。上司や先輩社員の指示に従い、日常的な業務に必要なスキルを習得しながら作業を進められる。 |
3.ミッショングレード制の仕組み
ミッショングレード制は、役割の大きさや難易度に応じて評価・報酬が決まる仕組みです。以下では、3つの視点から具体的に解説します。
賃金決定の仕組み
ミッショングレード制では、社員に与えられた役割の難易度と重要度に基づいて賃金が決まります。各役割には等級(グレード)が設定され、それぞれの等級に対して賃金の範囲が設定されています。
たとえば、部長職は900万円〜1,000万円、課長職は700万円〜800万円といった具合です。この仕組みによって、社員の役割と成果に見合った適正な賃金を支給できます。
昇給・降給の仕組み
ミッショングレード制における昇給は、昇給は、役割の重要性が高まった場合に実施されます。たとえば、より高度な役割を任されたり、プロジェクトのリーダーに就任したりした際、昇給が検討されることが多いでしょう。
一方、降給は「プロジェクトの終了によりリーダーの役割がなくなった」「組織変更により、担当する役割の重要度が下がった」など、役割の価値が低下した場合に生じやすくなります。これらの変更は通常、人事異動のタイミングで実施されることが多いです。
昇格・降格の仕組み
ミッショングレード制では、昇格と降格も役割の変化に連動しています。より高度な役割や責任の大きい職務を任された場合、それに応じて昇格します。そのため、社員が昇格するためには、与えられた役割を十分に果たすことが必要です。
一方、組織変更や業務縮小などで担当する役割が軽くなった場合、降格となる可能性もあります。この制度では、年齢や勤続年数よりも、実際に担っている役割とその成果が評価されるため、若手社員でも重要な役割を任されれば昇格や昇給のチャンスがあるのです。
4.ミッショングレード制と他の等級制度との違い
等級制度は、「職能資格制度」、「職務等級制度」、そして「ミッショングレード制」の3つに大別されます。ここでは、ミッショングレード制と職能資格制度と職務等級制度との違いについて解説します。
職能資格制度との違い
職能資格制度は、社員の職務遂行能力や経験に基づいて等級を決定し、評価や報酬を設定する日本独特の仕組みです。
社員の能力や経験は勤務年数や経験を重ねることで向上するため、年功序列の傾向が強く、長期的な能力開発やゼネラリストの育成に適しています。ただし、勤続年数の長い社員が増えると、人件費が増加しやすいです。
一方、ミッショングレード制は年齢や勤続年数に関係なく、実際の役割と成果が評価の中心です。そのため、若手社員でも重要な役割を果たせば昇進のチャンスがあり、社員の主体性を高め、モチベーションの向上を促す効果が期待されます。
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職務等級制度との違い
職務等級制度は、職務の内容にもとづいて等級を決める欧米型の制度です。職務内容や難易度、必要なスキルを明確にするため、事前の職務記述書の作成が欠かせません。
この制度では、職務が固定化されやすいため、特定分野の専門性を高めるスペシャリストの育成に適しています。また、定められた職務をこなせば全社員に同じ賃金が支払われるため、ミッショングレード制と比べて成果主義が色濃く反映されるのです。
一方で、社員の業務内容を詳細に把握する必要があるため、評価には手間や時間がかかる場合もあります。さらに、社員が真摯に取り組んでいても、外部要因で契約が成立しない場合やプロジェクトが遅れる場合、適切な評価が難しくなることがあります。
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5.ミッショングレード制のメリット
ミッショングレード制を導入すると、以下の4つのメリットが得られます。それぞれについて、詳しく見てみましょう。
- 各職務の内容を具体的に明示できる
- 評価や報酬の合理性が高まる
- 社員の主体性が上がる
- 会社内での連携を促進しやすい
①各職務の内容を具体的に明示できる
ミッショングレード制の大きな特徴は、各役割に求められる成果や責任範囲を具体的に示せる点です。等級ごとに、会社の目標を達成するため各社員が何をすべきか、明確に定められています。
これには、日常的な定型業務だけでなく、管理職などのポジションに応じて期待される柔軟な対応や非定型的な業務も含まれます。職務内容が明確になるため、社員は自分の役割を理解しやすくなり、効率的に仕事を進められるようになるのです。
②評価や報酬の合理性が高まる
ミッショングレード制では、役割の重要度や難易度に応じて評価や報酬が決定されるため、年齢や勤続年数に関係なく、公平で合理的な評価が可能です。これにより、社員は自身の成果に見合った報酬を受け取れるため、評価への納得感が高まります。
③社員の主体性が上がる
ミッショングレード制では、社員一人ひとりに明確な役割と目標が与えられます。そのため、社員は自分の目標を明確に把握でき、主体的に業務に取り組む意識が高まるでしょう。
また、役割に応じた評価が行われるため、若手社員でも重要な役割を任されれば昇進のチャンスがあり、モチベーションも向上します。
④会社内での連携を促進しやすい
ミッショングレード制では、各役割が明確に定義されるため、社内の連携がスムーズになります。社員の役割や目標が給与テーブルに反映され、社内で共有されると、どの場面でほかの社員と協力する必要があるかがわかりやすくなります。
また、ほか社員の役割を理解しやすくなるので、効果的な協力関係も築けるでしょう。この仕組みにより、組織全体の生産性が向上し、業務の効率化が期待されます。
6.ミッショングレード制のデメリット
ミッショングレード制には多くのメリットがある一方、どのようなデメリットがあるのでしょうか。ここでは、主なデメリットを4つ紹介します。
- 不満を持つ社員がでる
- 評価基準が曖昧になる
- 制度の運用が難しい
- 意図しない降格のリスクがある
①不満を持つ社員がでる
年功序列を期待していた社員、特に長年勤務している年配の社員から不満が出る可能性もあります。ミッショングレード制では、職務内容の評価によって給与が決定されるため、どの社員にも降格や降給のリスクがあります。
年功序列で昇進を重ねてきた社員は、突然の制度変更に戸惑いや不安を感じるでしょう。このような不満を減らすには、制度の目的や評価基準を丁寧に説明し、全社員の理解を得ることが重要です。
②評価基準が曖昧になる
ミッショングレード制では、評価基準が曖昧になるリスクがあります。職務等級制度と比較して、評価基準がより抽象的になる傾向があるため、社員が具体的な業務内容や目標を見失う可能性があるからです。
また、評価する側も抽象的な基準で社員の仕事を評価するため、より多くの時間と労力が必要です。さらに、同じ評価基準でも社員によって仕事への取り組み方が異なるため、個々の社員の特性や成果を適切に評価することが難しくなる場合があります。
この場合、評価基準の明確化と公平性の確保が課題となるでしょう。
評価基準とは?【作り方をわかりやすく】目的、項目の具体例
評価基準とは評価するための水準であり、公平かつ客観的な評価を行ううえで重要な指標です。人事評価への不満は優秀人材の離職の原因ともなり、最悪のケースでは業績不調を招く恐れもあります。
今回は、評価基準と...
③制度の運用が難しい
ミッショングレード制を導入するには、役割の明確化や評価基準の設定、社員への周知など、多くの準備が必要です。また、評価基準は公的な規定がないため、各企業が独自に策定する必要があります。
全社員が納得できるような評価基準を作成し、それを適切に運用するには、人事評価に関する専門知識や経験が求められるもの。また、役割や成果の評価を公平かつ客観的に行うには、評価者の訓練やプロセスの透明性を確保する継続的な取り組みが必要です。
④意図しない降格のリスクがある
ミッショングレード制では、役割の変化や組織再編に伴い、社員が意図せず降格や降給となるリスクがあります。たとえば、プロジェクトの終了や組織変更により、担当していた役割がなくなった場合、本人の能力や成果に関係なく、等級や報酬が下がる可能性があります。
このような降格は、社員のモチベーション低下につながる恐れもあるため、等級の引き下げを防ぐ仕組みづくりや、降格時のフォロー体制の整備が重要です。
7.ミッショングレード制の導入手順
制度の変更により社内から反発が生じる不安を感じる方もいるでしょう。ここでは、導入の際に必要なプロセスを4つのステップにわけて解説します。
- 方針を設計する
- 役割定義書を作成する
- 制度の浸透プロセスを設計する
①方針を設計する
ミッショングレード制を導入する際はまず、全体の方針を明確にしましょう。この段階では、現在の評価制度や将来の方向性を踏まえて、新制度の目的や評価・報酬への反映方法など、大枠を決めます。
具体的には、制度導入の目的、期待される効果、既存の人事制度との整合性などです。この方針をしっかり設計すると、その後の詳細な制度設計がスムーズに進み、統一性のある仕組みを作り上げられます。
②役割定義書を作成する
次に、導入後の役割設定と共有をスムーズに行うため、役割定義書を作成します。役割を具体的かつ明確に定義しなければ、役割間の境界が曖昧になり、制度が形骸化する恐れもあります。
運用時に分かりやすい定義書を作成すると、マネージャーとメンバーのコミュニケーションが円滑に進むでしょう。
役割等級数・等級定義を決定する
役割等級の数と各等級の内容を明確に定義します。一般的に、管理職は2〜3段階、一般社員は4〜6段階の等級数が適切でしょう。さらに、社内の職種ごとに等級数を設定することも重要です。
等級数が多すぎると差異が不明確になり、逆に少なすぎると同じ等級内で役割のレベル差が大きくなりすぎる可能性があります。
評価基準を設定する
各役割における評価項目とその基準を設定します。評価基準は具体的かつ客観的であることが必要です。明確な評価基準を設けると、公平な評価が可能となり、社員の納得感も高まります。
評価項目には、業績目標の達成度、責任の範囲、必要なスキル、求められる行動の実践度、専門性の発揮度などが含まれます。また、評価プロセスの透明性を確保し、定期的に基準を見直す仕組みも重要です。
報酬を決定する
基本給、役割給、成果給などの構成要素を決定し、各等級に適した報酬体系を設定します。また、昇給・降給のルールも合わせて設定しましょう。これらの基準は、公平性と透明性を確保しつつ、社員の成長を促進するものでなければなりません。
③制度の浸透プロセスを設計する
新制度の円滑な導入と定着のために、浸透プロセスを慎重に設計します。まず、経営層や管理職向けの説明会を開催し、制度の目的や運用方法について理解を深めます。次に、全社員向けの説明会や研修を実施し、新制度の概要やメリット、これまでの制度との違い、評価プロセスの詳細について周知しましょう。
また、制度導入後のフォローアップ体制を整え、定期的な評価面談や制度の見直しの機会を設けます。社員からのフィードバックを積極的に収集し、必要に応じて制度を改善していく姿勢が重要です。
8.ミッショングレード制の企業導入事例
役割等級制度は、どのような経緯で導入され、どう活用されているのでしょう。ここでは、役割等級制度を採用している2つの企業事例を紹介します。
ソニーグローバルソリューションズ株式会社
ソニーグローバルソリューションズ株式会社は、ソニーグループの情報システム部門が独立して設立された専門会社です。
同社は、役割(ジョブグレード)制度を導入し、現在の役割に応じて等級を設定し、個人の専門性を発揮する「I等級群」と、組織運営を担う「M等級群」の2つに分類しています。
基本給は、現在の役割(ジョブグレード)に応じた範囲内で決まり、毎年の「実績」と「行動」を統合した「総合評価」に基づいて改定されます。この仕組みにより、成果に応じた柔軟な対応が可能となり、個人の努力を支える制度として機能しています。
出典:ソニーグローバルソリューションズ株式会社「人事制度」
株式会社ココナラ
株式会社ココナラは、個人の専門知識やスキルを売買できるオンラインプラットフォーム「ココナラ」を運営しています。同社では、社員の主体性と助け合いの文化を重視するため、ミッショングレード制を導入しました。職種や専門領域に応じて4つのグレードに分け、それぞれマネジメントかスペシャリストの道を選べる仕組みを採用しています。
評価は、成果(ミッションの達成度)とスタンス(バリューの体現度)を50:50の割合で実施し、業績だけでなく努力や貢献も評価に含めます。また、等級ごとに給与を連動させ、半年に一度の昇給機会を設けて、社員のモチベーション向上にもつなげているのです。
出典:Speaker Deck「ココナラ 会社紹介資料 / coconala_Company_Profile」
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