サバティカル休暇とは、使用制限のない長期休暇のことです。ここではサバティカル休暇が注目される理由やメリット、導入する際のポイントなどについて解説します。
目次
1.サバティカル休暇とは?
「サバティカル休暇」とはもともとヨーロッパを中心に普及し、近年国内でも導入する企業が増えてきた休暇制度のこと。一定の長期期間勤続者に対して、通常の年次休暇とは別に長期間の休暇を付与する制度です。
サバティカル(SabbaticalあるいはSabbatical Leave)」は、「長期休暇」や「長期有給休暇」を意味し、「期充電休暇」「特別研究期間」と訳す場合もあります。
サバティカル休暇の取得期間に制限はなく、その期間は企業ごとに異なります。少なくとも1か月以上付与する企業が一般的ですが、なかには1年にわたる連続休暇を付与するケースもあります。
2.サバティカル休暇が注目される理由
サバティカル休暇は1990年代のヨーロッパで注目されるようになった制度です。当時のヨーロッパには、仕事だけでなく家族や自分自身の生活を重要視する「ワークライフバランス」の考え方が普及しはじめました。
それと同様に、日本国内でサバティカル休暇が注目されるようになってきた背景にも「ワークライフバランス」の考え方が広まったことが理由として挙げられます。
かつてのように「仕事のために私生活を犠牲にする」考えは古いものとなってきています。働き方への価値観が多様化するなかで、サバティカル休暇制度を検討する動きが活発になっているのです。
3.サバティカル休暇は経済産業省も推奨
サバティカル休暇を推奨しているのは企業だけではありません。労働者の長期的なキャリア形成のため、経済産業省もサバティカル休暇の導入を勧めています。
これには長期休暇の取得が労働者にとって学び直しや新たなキャリア形成の一助になるという考えがあります。サバティカル休暇を利用して就学したり、資格を取得したりすることが業務上のスキルアップにつながるのです。もちろん近年問題となっている働き過ぎによる健康被害も、十分な休養を取ることで回避できます。
4.サバティカル休暇のメリット
サバティカル休暇を導入することで、従業員はワークライフバランスを大切にした働き方を実現することが可能です。
企業側のメリット
従業員がプライベートの時間を尊重しながら働けるサバティカル休暇ですが、従業員にはもちろん企業にとっても次のようなメリットがあります。
企業に対する評価が上がる
サバティカル休暇導入による企業側のメリットは、社内外からの企業に対する評価が上がるということです。これまでの国内企業では、一か月以上という長期の休暇を取得する考えが基本的にありませんでした。長期休暇が取りにくい風潮が現代にも続くなか、サバティカル休暇を導入すれば他社との差別化や従業員エンゲージメントの向上をはかることができます。
社員の離職を防ぐのに役立つ
従来の国内企業には、長期の介護や育児、新たなことに挑戦したい従業員に長期休暇を付与するという仕組みはありませんでした。そのため、やむを得ず退職する従業員も少なからず存在していたのです。
サバティカル休暇によって数か月から1年程度の長期休暇が取得可能になると、それらを理由に退職してしまう人材を確保することができます。また介護離職や産後鬱などの社会問題の解決にもつながるでしょう。
業務の生産性が向上する
サバティカル休暇では長期間の休暇で心身ともにたっぷりとリフレッシュし、モチベーションの向上、生産性アップにつなげることが可能です「適切な労働時間と休憩時間が業務生産性を上げる」という研究結果も報告されています。
近年では長時間労働や過度の時間外労働などにより生産性が低下し、心身ともに追いつめられる労働者のニュースが後を絶ちません。そういったなかで、サバティカル休暇がさらに注目されているのです。
従業員側のメリット
サバティカル休暇の導入によって従業員が得られるメリットは、おもに「経験の蓄積」「リフレッシュ」「専門能力の向上」の3つです。
貴重な経験を得られる
前述のとおり、サバティカル休暇は1か月以上の長期間取得するのが一般的です。この期間を活かして業務と異なる経験をしたり、海外留学をしたりと、通常の業務や休暇では経験することのできない貴重な経験を詰むことができます。
サバティカル休暇を導入している企業の中には、留学や大学院進学などを後押しして会社への貢献を期待する企業もあります。
リフレッシュできる
日頃の溜まった疲れやストレスを、通常の休暇だけで完全に解消するのは困難です。長期にわたって休暇を取得できるサバティカル休暇なら、国内外の旅行に出かけたりフィジカルの回復期間にあてたりして、心身の健康を十分に回復することができます。しばらくのあいだ業務から離れて自分を見つめ直せば、新しいアイデアがひらめく可能性もあります。
専門能力を高められる
サバティカル休暇を利用して大学院や専門機関で学ぶことができれば、従業員自身のスキルアップはもちろん、企業にとっても専門能力の高い人材を得られることになります。休暇取得後にはスキルアップした能力を活かして、より付加価値の高い仕事をすることが可能です。サバティカル休暇を導入している企業のなかには、留学や研究機関での勉強に手当てを支給している会社もあります。
5.サバティカル休暇のデメリット
さまざまなメリットを持つサバティカル休暇ですが、同時にいくつかの問題が発生する可能性もあります。ここではサバティカル休暇導入のデメリットについて説明します。
企業側のデメリット
サバティカル休暇の導入によって企業側に生じるデメリットとして、おもに「離職の可能性」「現場の混乱」「社内環境の整備」の3つが挙げられます。
離職してしまうおそれがある
サバティカル休暇が労働者の離職を防ぐのに役立つことは前述のとおりですが、休暇中に労働者の考えが変わり、そのまま復帰しない可能性があります。キャリアアップを目的としてサバティカル休暇を取得したのに、別分野に興味を持ち、そのまま転職してしまうというパターンです。企業としては、離職を防ぐための休暇取得条件を整備する必要があります。
現場が混乱する可能性がある
ほかの従業員へ十分な情報共有がないままサバティカル休暇を取得してしまうと、現場が混乱するおそれがあります。ほかの従業員の業務量が増えたり、業務が停滞したりする可能性があるため、業務量の管理や引継ぎの調整を十分に行わなくてはなりません。
労働者が安心してサバティカル休暇を取得できるよう、企業は実務の引き継ぎはもちろん、長期不在に備えた余裕のある人員配置を行いましょう。
社内環境を整備する必要がある
たとえ勤続年数が長い労働者であっても、サバティカル休暇によって長期休暇を取得した直後は業務の把握や遂行に時間がかかります。年単位で現場を離れれば、当然プレゼンスも下がります。
企業としては復職後のキャッチアップに備えて社内環境を整備しなければなりません。しかし慢性的な人手不足が続く企業では、バックアップ体制の整備が難しいのが現実です。
従業員側のデメリット
サバティカル休暇を取得するデメリットは、従業員側にも存在します。「収入の減少」「復帰に問題が生じる」「そもそも取得しにくい」の3つです。
休暇中の収入が減少する
サバティカル休暇中の給与を有給とするか無給とするかは企業の判断によって異なります。これはそもそもサバティカル休暇が年次有給休暇や育児、介護休暇などと違って、法律で保障された休暇制度ではないからです。
海外では休暇中に給与が支給される企業もありますが、制度が十分に整備されていない日本では無給としている企業も少なくありません。
業務への復帰に問題が生じるおそれがある
サバティカル休暇中も企業は活動し、業務内容や人間関係は変わり続けています。そのため休暇明けに職場環境が変化し、適応するのに時間がかかる可能性があります。
また休暇中にほかの社員が業務を引き継ぎ、休暇後もそのまま業務を続ける場合は、サバティカル休暇を取得していた社員が元の仕事に戻れないというケースも考えられます。
休暇が取得しにくい
国内企業では長期休暇の取得はまだまだ一般的ではありません。それどころか法律で保障されている年次有給休暇や育児、介護休暇すら取得しづらい風土も残っているのが現状です。
実際にサバティカル休暇を導入している企業でも休暇を取得しにくい、周囲の理解が得られない、そもそも制度自体が浸透していないなどの問題を抱えています。
6.サバティカル休暇を導入する際のポイント
サバティカル休暇を導入する際は、どのような点に気を付ければよいのでしょうか。ここではサバティカル休暇を導入する際のポイント4点について説明します。
休暇を取りやすい環境を整える
サバティカル休暇導入を成功させるためには、休暇を取得しやすい環境を整えることが重要です。社員の1人がサバティカル休暇を取得しても、ほかの社員や実務に影響のないシステムを構築しなければなりません。
フィンランドやスウェーデンなどサバティカル休暇の導入が進んでいる国では、長期休暇取得中に代替要因を雇うことが義務付けられています。
制度の目的を明確にする
サバティカル休暇を導入する際は、環境や制度を整えるのと同時に制度の目的を明確にする必要があります。スキルアップやリフレッシュなど、休暇を取ろうとする社員の目的を把握することは、社員の離職を防ぐためにも有効です。
「他社が導入しているから」「何となく効果がありそうだから」と漠然とした目的のまま導入するのではなく、自社に導入する意義は何なのかを明確にしておく必要があります。
休暇中の給与について制度化しておく
前述のとおり、サバティカル休暇は育児や介護休暇、年次有給休暇と違って法律で保障された制度ではないため、無給であっても国から指摘を受けることはありません。
給与が支給されるかどうかは企業の判断によりますが、在籍中は社会保険に加入し続けているため、保険料、住民税の支払いが必要になります。休暇中の給与についてはトラブルに発展しやすいため、あらかじめ制度を構築しておく必要があります。
制度を社内に周知させる
現代においても、日本には「必要以上に休暇を取得することは怠慢だ」とする考えが根深く残っています。企業がサバティカル休暇の制度を整えていても、休暇に対する理解が社員に浸透していない、そもそも制度自体が周知されていない状態では、人間関係の悪化を招くおそれがあります。サバティカル休暇の取得を推奨すると同時に、休暇を取得しやすい風土を作ることも必要です。
7.サバティカル休暇を導入している企業事例
日本にはサバティカル休暇に関する法律や規定がなく、名称や内容はそれぞれに異なりますが、実際にサバティカル休暇を導入する企業も増えてきました。ここではサバティカル休暇を導入している企業の実例を紹介します。
ヤフー株式会社
ヤフー株式会社は日本でいち早くサバティカル休暇を導入した企業のひとつです。2013年という比較的早い時期からサバティカル休暇を導入し、2か月から3か月の範囲で長期休暇の取得を推奨しています。
取得の対象となるのは勤続年数が10年以上の正社員です。休暇中は「特別支援金」と称した給与が支給されますが、休暇取得後のレポート提出を必須としているのが特徴です。
ソニー株式会社
2015年に「フレキシブルキャリア休暇制度」という名称でサバティカル休暇を導入したのがソニー株式会社です。その名のとおり私費留学や配偶者の海外赴任同行など非常に自由度が高く、最長5年間という長期の休暇取得が可能です。
休職中は無給ですが、社会保険が会社支給になったり、私費留学の初期費用が一部保障されたりします。
株式会社リクルートテクノロジーズ
株式会社リクルートテクノロジーズでは勤続3年ごとに最大28日間の休暇を取得できる「STEP休暇」の制度を導入しています。休暇の取得目的に制限はなく、自己成長や心身のリフレッシュなど、休暇中の過ごし方は個人の判断に任されています。
また休暇取得の応援を目的として、一律30万円の休暇支援金を支給しているのも特徴です。
株式会社ぐるなび
海外でいうサバティカル休暇ほど長期の休暇ではありませんが、株式会社ぐるなびでは「プチサバティカル休暇」という休暇制度を導入しています。勤続5年以上の従業員に3日間の連続休暇を付与する制度です。
休暇の目的は「新たな経験や知識の学び、キャリアの振り返り」としており、それにあわせた活動支援金も支給しています。
全日本空輸株式会社
2021年からサバティカル休暇を導入している全日本空輸株式会社では、パイロットや客室乗務員、地上職など勤続1年以上の正社員を対象としています。取得期間は1か月から5か月、1年や1年半、2年と長期の取得を推奨しているのが特徴です。
期間中は原則として無給となりますが、1年以上の場合は留学や資格取得に充てるための補助金20万円を支給しています。