ケイパビリティとは企業が持つ強みのこと。ケイパビリティを生かすには、どんな戦略をどのように実践したらよいかを把握することが必要です。
- ケイパビリティの具体例
- 人事担当者が知っておくべき自社のケイパビリティを見極めるポイント
などを紹介しましょう。
目次
1.ケイパビリティとは?
高い品質や迅速なスピードなど、ライバル企業よりも優位に立てる能力を、ケイパビリティといいます。企業全体が持つ組織的な能力、また企業が得意とする能力のことです。
ケイパビリティは、企業成長の原動力となる組織的な強みのことで、経営戦略を立てる際、把握しておかなければなりません。他社との差別化を図り、持続的に競争に勝つためにも、ケイパビリティを高めることが必要なのです。
ケイパビリティを日本語にすると、
- 能力
- 才能
- 素質
- 手腕
- 機能や性能
- 可能性
などを指す意味もあります。能力の一語で、知能や技能、また実行力や指導力などといった意味で使われることもあります。
ビジネスで優位性のある組織的な能力
自社のケイパビリティを把握し、見極めた上で刷新していかなければ、競争社会の中で勝ち残ることが難しくなります。人事担当者は従来の慣習や考え方にとらわれ過ぎず、ニーズに合わせ変化に対応できる組織づくりが必要でしょう。
そのためには、
- さまざまな部門の交流の推進
- 多様性のあるチームづくり
- 多彩な価値観の中でニーズに合った正確な判断ができるよう配慮
などが必要となるのです。
ケイパビリティの具体例
ケイパビリティは能力を表す言葉の一つですが、企業においては、
- 全体として持っている能力
- 企業が得意とする組織的な能力
を指します。
例としては、
- スピード
- 効率性
- 高品質
などでしょう。これらは、競争社会の中で企業が生き残るため重要な柱となる要素です。他社との差別化が難しい社会で勝ち残るには、現在のケイパビリティを把握しつつ高めていく必要があります。
ケイパビリティの事例(アップル)
ケイパビリティを理解できる事例に、アップルがあります。iPhoneやMacintoshなど、アップル製品の持つデザイン性を好んで利用している人も多いのではないでしょうか?
洗練されたデザイン、おしゃれな見た目は商品選びの際重要なポイントとなりますが、このデザインこそが彼らのケイパビリティであり、他の企業にない唯一無二の魅力となっているのです。
ケイパビリティの定義
他社との差別化を図り、競争社会で勝ち残っていくケイパビリティが戦略において優位性があると定義したのは、Competing on Capabilities: The New Rules of Corporate Strategyという論文です。
この論文は、BCGのジョージ・ストーク、フィリップ・エバンス、ローレンス E.シュルマンの3人が1992年に発表しました。この中で、特定の技術力や製造能力を指すコアコンピタンスとの違いを伝えています。
ケイパビリティはバリューチェーン全体に及ぶ組織能力であることを解説し、戦略論と関連して明確に定義しているのです。
ケイパビリティとコアコンピタンスとの違い
ケイパビリティとコアコンピタンスの違いを把握しておきましょう。どちらも、企業の強みをどのように捉え、戦略にしていくかという点においてさまざまな論争が繰り広げられてきましたが、近年ではあまり使い分けされなくなってきています。
しかし、見方によっては意味が異なるのです。コアコンピタンスは企業の中核となる強みのこと。例を挙げるなら、ホンダのエンジン技術やソニーの小型化技術などです。これらの技術は、圧倒的な強みといえるでしょう。
企業は時代のニーズに合わせてこのようなコアコンピタンスを構築することが重要です。
一方ケイパビリティは組織能力と定義されています。アメリカにおけるホンダのオートバイ事業から分かるように、優れたディーラー管理がケイパビリティの本領を発揮しました。
コアコンピタンスと違うのは、特定の技術ではなく、ビジネスプロセスを重要視している点です。
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2.ケイパビリティを重視した経営とは?
自社の強みを打ち出し、戦略を立てて実践してきた企業は多いでしょう。ケイパビリティを重視した経営、従来の経営戦略との違いや戦略の立て方などについて解説します。
ケイパビリティと従来の経営戦略との違い
従来多かったのは、市場における地位やシェアに重点を置いた分析により、自社の順位を高める戦略です。今までは儲かる市場におけるポジショニング戦略をしていたといえます。
しかしケイパビリティは、儲かる市場ではなく、自社の強みや得意分野を高め、それを持った戦略が大切と考えます。
マイケル・ポーターの「ポジショニング・アプローチ」
戦略においてはポジショニングの向上も重要でしょう。経営戦略におけるポジショニング・アプローチでは、マイケル・ポーターの「ファイブ・フォース・モデル」が知られています。
ポジショニング・アプローチとは、
- 新規参入の脅威
- 企業間の敵対関係
- 代替製品・サービスの脅威
- 買い手の交渉力
- 売り手の交渉力
という5つの外部要因に注目しながら分析し、競争が激しくないところを選んで競争優位を確立する、という考え方です。
人材など企業の内面を強化する戦略
ポジショニング・アプローチは、外的側面へ作用します。それに対して、組織の内的側面を強化し、組織能力を高めて社会競争に勝つ、という戦略がケイパビリティです。
企業風土や人材、組織体制といった企業の内的側面に注視するのがケイパビリティを重視した戦略であり、これを実現するには、社内の組織において対応や仕組みを構築する必要があります。
スキルや情報システム、プロセスなどにおけるケイパビリティを高め、組織能力をアップさせることが、ケイパビリティの実践になるのです。
成功企業に学ぶ、ケイパビリティをベースとした競争の基本原則
ケイパビリティをベースとした競争の基本原則を解説しましょう。
原則1 | 企業戦略を構成する要素は、製品や市場ではなく、ビジネスプロセスである |
原則2 | 主要なビジネスプロセスを他社に勝る価値を継続的に顧客に提供できるような戦略的ケイパビリティに転換することが競争の勝敗を左右する |
原則3 | SBU(戦略事業単位)と職能分野を結びつける一方双方の力を、これまでの限界を超えて引き出すためインフラに投資し、戦略的ケイパビリティを構築する |
原則4 | ケイパビリティは必然的に複数の職能部門にまたがるため、ケイパビリティ戦略を推進するのはCEOの仕事である |
ケイパビリティでは特定の製品や技術だけではなく、ビジネスプロセスにも着目しなくてはなりません。常に時代の変化やニーズに対応したものを提供して、初めて他社との差別化が図れるものなのです。
実践するには、
- 社内の意識改革
- 投資
- CEOの力
が必要となります。
ケイパビリティ戦略の立て方
ケイパビリティ戦略の立て方に必要なことは、以下の2点です。
- 会社のケイパビリティを定義
- 人材採用・維持
①会社のケイパビリティを定義
まず、会社におけるケイパビリティの定義が必要です。たとえばアップルでは最初からデザインを重要とした戦略を立て、デザイン性を優位にする組織を構築してきました。
ファッション業界からのデザイナーの採用などもケイパビリティの構築に一役買っています。単に市場を見て儲かる点を考えるのではなく自社が持っている強みを考え他の企業に負けないものを生み出すことが大切です。
②人材採用・維持
ケイパビリティが構築され、実践されている会社は魅力的であるため、人材が自然と集まります。採用した人材に企業のケイパビリティを伝えることで、それが社会に広まるでしょう。
企業の価値や優先順位がしっかりと構築されていれば、
- ムダな投資がない
- 必要な人材を採用できる
- 人が離れることも減る
のです。人材雇用面のコスト削減にもなるでしょう。
優位性を開発する方法(成功事例)
企業の優位性を開発する方法を把握する成功事例を見てみましょう。フリトレーのダイレクト・ストアデリバリー・ケイパビリティです。
ケイパビリティは、
- 組織
- ツール
- システム
- 知識
などを組み合わせ、構築すること。フリトレーのダイレクト・ストアデリバリー・ケイパビリティでは、自社製品を販売する小売店舗への流通方法の構築に着目したのです。
方法は、自社でトラックに投資し、製品を直接店舗に配送するというものでした。この方法は店舗内の自社の販売スペースを直接確認できるため、消費者のニーズをダイレクトに把握できます。
1日置きにニーズの変化に対応できることで、他社との差別化ができるようになったのです。ダイレクト・ストアデリバリー・ケイパビリティがあれば、新商品を無料で店舗に置き、反応を見ることもできます。
これが成功しているのは、
- 配送ルートやトラックのネットワークなど、高度なテクノロジーをベースとしたプロセスの構築
- トラックドライバーの教育
ができているからです。
自社の強みを見つけるには?
ほとんどの企業では、組織のどこかにケイパビリティがあります。しかし、他社との差別化が図れないことも多いです。それはなぜでしょう?多くの企業は市場に対する明確な個性を打ち出すことができていないのです。
企業活動がうまくいっている企業には何らかのケイパビリティがあり、個別性を打ち出して卓越したレベルに高めています。すべてのプロセスで優位に立つ必要はなく自社の得意な分野においてケイパビリティを高めることが大切なのです。
また、同じものがずっと受け入れられるわけではありません。それを踏まえると、常に変化する市場ニーズの把握方法を構築することが重要になります。
そして、どのようなケイパビリティを優先するべきかを把握し、その次の段階として他の領域にも展開する価値があるかを見極めるとよいでしょう。
3.環境変化に対する組織の適応力:ダイナミックケイパビリティとは?
ケイパビリティは時代の変化に応じて刷新しなければなりません。ビジネス環境の変化が厳しい現代では、ケイパビリティを絶えず柔軟に刷新し続けるダイナミックケイパビリティが重要になるのです。
環境の変化に対応する組織の適応力となるダイナミックケイパビリティとは、何でしょうか?
ケイパビリティとの違い
まずダイナミックケイパビリティと、一般的ケイパビリティの違いです。
- 一般的ケイパビリティ:ものづくりや資材の調達、マーケティングなど、オペレーションを円滑に実行するための力
- ダイナミックケイパビリティ:より高い次元から、一般的ケイパビリティを適切に組み替える力
必要に応じて既存のスキルやシステムなどを利用し、新しい市場を創造する力がダイナミックケイパビリティです。
環境変化で優位性はなくなる
企業は、独自のコア・ケイパビリティを構築し、優れた価値を生み出すことで競争社会において優位に立ちます。しかしコア・ケイパビリティは、ある時点で環境変化により有効でなくなるのです。
それを変革するのが、ダイナミックケイパビリティです。ケイパビリティを有効にするには、資源の統合、再構成が必要となります。
変化に合わせて資源・ケイパビリティを組み替える
競争社会で優位に立つには、環境の変化に合わせて、あるいは変化を先取りして、資源・ケイパビリティを組み替えるダイナミックケイパビリティを持つことが必要です。
イーストマン・コダックと富士写真フイルム(現・富士フイルム)は、同じ資源・ケイパビリティを持っていました。
しかし、環境変化に対応できない企業と対応できる企業の違いによって、
- イーストマン・コダック:2012年に経営破たん
- 富士フイルム:医療機器や化粧品をはじめ、多角的な事業を展開し、勝ち残った
という差が現れたのです。