退職金は、従業員が企業を退職した際に支給される金銭で、退職後の生活基盤を支える原資として、労働者にとっては重要な意味を持ちます。近年、この退職金制度に改革の波が押し寄せているのです。
- 退職金とは何か
- 退職金制度の仕組み
- 退職金の支給方法
- 退職金の種類
- 税金や控除
- 自社の退職金制度の調べ方
などについて、ここで改めて考えてみましょう。
目次
1.退職金とは?
退職金とは、企業を退職した労働者に対して支払われる金銭のことで、退職手当や退職慰労金といった名称で呼ぶこともあります。
終身雇用制を前提とした企業経営が全盛期だった時代、退職金は老後の生活設計基盤となっていました。しかし、法律では退職金について特段の定めはないため、会社には退職金を支払う義務はないのです。
また、実力主義や成果主義が主流になりつつある現代では、
- 退職金制度の廃止
- 退職金制度を最初から設けていない
という企業も増えています。もちろん、制度を設けている企業も多く存在しますが厚生労働省の「平成30年就労条件総合調査結果の概況」でも、退職金給付制度を設置している企業は全体の80.5%。制度を設けている場合、退職金の額は企業ごとに設定されます。
退職金の支給方法は、
- 退職時に一括して一時金を支給する「退職一時金制度」
- 退職後に年金として一定の金額を支給する「退職年金制度」
のどちらか、もしくは両者の併用となります。日本経済団体連合会の調べでは、退職一時金制度と退職年金制度を併用している企業は6割を超えています。
大学卒の定年退職金は2,156万円、高校卒は1,965万円
退職金の相場については厚生労働省の「平成30年就労条件総合調査結果の概況」のデータから読み解くことができます。調査では、勤続20年以上かつ45歳以上の退職者で管理、事務、技術職の定年退職金は、
- 大学卒1,983万円
- 高校卒1,618万円
退職給付制度の形態別に見てみると、大学卒の管理、事務、技術職では、
- 退職一時金制度のみ1,678万円
- 退職年金制度のみ1,828万円
- 両制度の併用2,357万円
高校卒の管理・事務・技術職の場合では、
- 退職一時金制度のみ1,163万円
- 退職年金制度のみ1,652万円
- 両制度併用2,313万円
さらに日本経済団体連合会が「2018年9月度 退職金・年金に関する実態調査結果」で発表した退職金の金額は、標準的に昇進した管理、事務、技術労働者など総合職が60歳で定年退職した場合、
- 大学卒で2,255.8万円
- 高校卒で2,037.7万円
2.退職金制度の仕組み
退職金は、公的年金に上乗せする私的年金といわれる部分に該当するもので、従業員の将来の生活の基盤を維持するための生活資金として、企業が独自で設けている制度です。
そのため、退職金制度を設けるかどうかの判断も含め、退職金の金額の設定や退職金の支給方法については、各企業の裁量に任されています。
退職金制度を設けている企業では、
- 確定給付企業年金
- 確定拠出年金
- 厚生年金基金
といった制度を活用して、退職金の原資を貯蓄しているのです。そのため、たとえば企業が退職金の原資を確定給付企業年金と確定拠出年金、2つの制度で蓄える場合もあります。
この場合、退職金の受け取り方法としては、
- 確定給付企業年金の部分を、年金で受け取る
- 確定拠出年金の部分は、一時金で受け取る
といった年金と一時金の併用が可能になります。
退職金制度と確定拠出年金の違い
確定拠出年金は、退職金制度と同様に受け取った金銭を、老後の生活資金、生活保障に役立てるための制度です。
確定拠出年金と退職金制度の違いは、
- 確定拠出年金は「日本版401k」とも呼ばれており、60歳以降に一時金、もしくは年金の形式で金銭が支給される
- 退職金制度は、会社を退職する際に金銭を受け取る
といった支給される時期に違いがあります。
そのほか、
- 確定拠出年金は、加入者自身が資産を運用するため、将来の年金額は加入者の運用結果による
- 退職金制度は原資を企業が用意し、退職金が必要になった場合には、企業が当該従業員に対し退職金を支払う
といった違いもあるのです。
退職金と退職共済金の違い
企業が退職する従業員に支払う退職金に関する制度は、いくつかの種類に分けることができます。その中で代表的なもののひとつは、「退職金」、もうひとつは「退職金共済」。
- 退職金:企業から退職する従業員に対して、直接支払われる金銭
- 退職金共済:企業が共済に加入することで、加入している共済を通して退職する従業員に対し支払う金銭
また、退職金共済の中には、さまざまな共済が存在しています。
- 商工会議所を通じて支払われる「特定退職金共済」
- 中退共と呼ばれる組織が運用する「中小企業退職金共済」
などが有名でしょう。退職金制度といった場合、
- 退職金
- 退職金共済
- 退職金と退職金共済の併用
いずれかの形で支給されます。退職金制度を設計する場合、このような退職金制度の種類も念頭に置く必要があります。
3.退職金の支払義務
退職金は、企業に対して法律上の支払いが義務付けられているものではありません。仮に退職金制度を設けていない場合、事業主は退職する従業員に対して退職金を支払う必要はないのです。
ただし、就業規則などで従業員の退職時に退職金を支払う旨の記載がある場合、退職金は賃金と見なされます。労働基準法第11条は賃金の支払い義務を定めており、企業には賃金と見なされる退職金についても支給義務が生じます。
注意しておきたいのは、現在、就業規則の中に退職金に関する規定がない場合でも、
- 過去に退職金を支給した実績がある
- 就業規則の中で明文化していないが、一定のルールの下で慣行として退職金を支払っている
といったケースでは、退職金の支払い義務が生じる可能性があること。就業規則に退職金規定がないけれど慣行として退職金を支払っていたという企業は、要注意です。
退職金制度がある企業とない企業の違い
退職金は、法律で企業にその支給を義務付けている金銭ではありません。退職金制度を設けるか否か、退職金制度を設ける場合には、支払いや金額をどうするかなどに関しては、企業ごとの裁量で決定できます。では、実際にどのくらいの企業が退職金制度を導入しているのか、具体的な数字を見てみましょう。
厚生労働省が発表した「平成30年就労条件総合調査結果の概況」によれば退職金制度を導入している企業の割合は、
- 従業員数1000人以上の企業では、92.3%
- 従業員数300~999人の企業では、91.8%
- 従業員数100~299人の企業では、84.9%
- 従業員数30~99人の企業では、77.6%
この結果からは、企業規模の大きいほうが導入率が高い傾向にあると分かります。
4.退職金の受取時期
退職金について、退職金の支給日を定めた法律はないため、退職金の受け取り時期は企業によって異なります。
しかし、就業規則などに退職金規定がある、退職金規定の中で退職金の支払い時期を定めているという場合、退職金規定に定めた時期までに退職金を支払わなければなりません。
退職金には、
- 会社が内部に積み立てている退職金
- 会社が共済に加入し、共済を通して退職する従業員に対し退職金を支払う退職金共済
の2種類があります。通常の退職金の場合、当該社員の退職の決定によって担当者が掛金の計算や書類作成、入金手続きなどを進めることで退職金が支払われます。
しかし、退職金共済の場合、企業と退職者の間に共済組織などの組織が絡むことから、は退職後1~6カ月の間に支給されることが多いのです。
5.退職金の支給方法
退職金制度を設けている多くの企業では、退職する従業員が退職金を受け取る方法として、
- 一時金として受け取る
- 年金として受け取る
- 一時金と年金とを併用して受け取る
3つから選択できるようになっています。3つの受け取り方法について、簡単に説明しましょう。
- 退職一時金制度
- 企業年金制度
- 退職一時金制度と企業年金制度の併用
①退職一時金制度
退職一時金制度とは、従業員が退職する際、退職金が一括でまとめて支給される制度のこと。退職金について法律上の決まりはなく、各企業が設けている就業規則や退職金規定に沿って支払われます。
退職金を一時金で支払う場合、就業規則などにその旨が記載されていることになりますが、それに関する記載が従業員の退職時まで変更されない限り、経営状態の良し悪しを問わず、支払いは確約されるのです。
②企業年金制度
企業年金制度とは、退職した従業員に一定期間や生涯といった長期にわたって一定の金額を年金として支給する制度のこと。
年金は、企業側が示した「2%」「3%」といった具体的な数字の運用目標にもとづいて分割支給されます。また退職金を受け取ることのできる期間は、5年、10年、20年、終身など、企業の退職金制度によって異なるのです。
③退職一時金制度と企業年金制度の併用
退職金の受け取りには、退職一時金制度と企業年金制度を併用した支給方法があります。
一時金として一定金額を支給された後、退職後の一定期間に年金として一定金額を受け取れるため、安定的な老後の生活資金になるでしょう。
6.退職所得と退職金の税金
退職金に課税される税金を算出する際、まず、退職所得を把握します。退職所得とは、従業員が退職するにあたって、企業などから支払いを受ける退職に関わる所得の総称。
退職所得を具体的に見ると、
- 従業員が退職するときに企業から受け取る退職手当などの所得
- 社会保険制度などで退職に基因することにより支払われる一時金
- 適格退職年金契約に基因することにより生命保険会社または信託会社などから受け取る一時金
といった退職に基因する所得が含まれています。
また、
- 労働基準法第20条の規定に基づいて支払われる解雇予告手当賃金
- 賃金の支払の確保等に関する法律第7条の規定によって退職者が弁済を受ける未払賃金
なども退職所得の中に含まれます。
退職所得の計算方法
退職所得の計算方法は、
- 源泉徴収される前の金額、すなわち収入総額
- 退職所得控除額
退職所得は、(源泉徴収される前の収入金額(収入総額)-退職所得控除額)×1/2で算出できます。退職所得を計算する場合に注意したいのが、退職一時金の中に従業員自身が出資した掛金や保険料がある場合。
確定給付企業年金規約に基づいて支給される退職一時金などで、従業員自身が保険料や掛金を負担した場合、支給された退職一時金から従業員が負担した分の保険料や掛金の金額の総額を差し引いて残った額が、退職所得の収入金額となるのです。
退職所得控除の計算方法
退職所得があった場合、退職所得控除を計算しますが、計算方法は、勤続年数によって違いがあります。
- 勤続年数20年以下の場合では、40万円×勤続年数(最低80万円)
- 勤続年数20年超の場合では、70万円×(勤続年数-20年)+800万円
たとえば勤続年数が40年の場合で退職所得控除を計算すると、70万円×(40年-20年)+800万円で、退職所得控除は2,200万円となります。
勤続年数に応じて上記の計算方法で退職所得控除を計算したら、退職金から控除額を差し引き、差し引いて残った金額を2分の1にすることで算出できる課税対象額を導き出します。
7.各支給方法の特徴|お得に受け取る方法
退職金を受け取る方法には、一時金と年金があり、多くの企業で受取方法を選択できるようになっています。
一時金受取のメリット
一時金受取を選択した場合のメリットは2つです。
- 退職所得控除を受けられる
- 社会保険料の計算対象にならない
①退職所得控除を受けられる
退職金には、老後の生活資金である退職金に対しての税負担が軽くなるよう配慮された「退職所得控除」という所得控除枠が認められています。
退職所得控除を受ける場合、従業員は会社に所得税法第203条1項各号に定められている『退職所得申告書』を提出しなければなりません。
この申告書の提出によって、会社は所定の手続きを行い、結果、退職一時金を受け取った従業員は、その時点で源泉徴収などの申請が不要になるのです。
②社会保険料の計算対象にならない
社会保険料を計算する際、当該従業員が手にする収入の総額をもとにしますが、退職金を一時金で受け取る場合、金額は社会保険料を計算するときの総収入に含めないため、社会保険料の額を抑えられるのです。
一時金受取のデメリット
長寿であった場合、ある分岐点から年金受取よりも退職金の受取総額が少なくなってしまうのです。長寿であればあるほど、受取金額の差が開いていく点には注意が必要でしょう。
年金受取のメリット
退職金を年金として受け取る場合、年金として支払われる退職金の原資を企業が一定の運用利率で運用し、退職した元従業員はその運用収益を得ることになるのです。
退職金を一時金として支給されたら、運用成果の部分は享受できません。運用効果を享受できることは、年金受取の大きなメリットといえるでしょう。
年金受取のデメリット
退職金を年金として受け取ることには、デメリットもあります。
- 所得税・住民税の課税対象になる
- 社会保険料や介護保険料の計算対象になる
①所得税・住民税の課税対象になる
退職金を年金として受け取ることのデメリットは、所得税や住民税の課税対象になる点。一時金であれば退職所得として他の所得と分離して所得税額が計算されますが、年金受取では、所得税や住民税の課税対象になります。
②社会保険料や介護保険料の計算対象になる
退職金を年金として受け取ると社会保険料や介護保険料の計算対象になるため、年金として支払われる金額分の社会保険料や介護保険料が増えてしまいます。
8.さまざまな種類の給付算定方式
退職金制度は、下記の2つに大別できます。
- 退職一時金制度
- 退職年金制度
しかし、この分類は広義の退職金制度の分類方法です。実際には、一時金や年金のほかにも、従業員が在職中に退職金を前払い金として給与などに上乗せして支給する退職金前払い制度などがあるのです。
退職金制度は、
- 退職一時金制度
- 退職年金制度
- 退職金前払い制度
など多様な制度で構成されているという点を認識しておきましょう。
定額制退職金制度とは?
定額制退職金制度とは、従業員の勤続年数に応じて退職金の金額を設定する、退職事由に応じて退職金額に係数を乗じるといった計算方法によって、退職金の金額に差をつけていく退職金制度のこと。
、勤続年数が長い従業員や会社都合で退職する従業員に有利な制度と考えられています。
算定例
定額制退職金制度のモデルケースに従い、具体的な算定例を見てみましょう。
- 勤続年数15年
- 自己都合退職
の場合で考えてみると、退職金の額は120万円になると算定できます。
基本給連動型退職金制度とは?
基本給連動型退職金制度とは、原則として退職時の基本給、勤続年数、退職事由の3つを連動させて、退職金額を決定する制度のこと。
具体的な計算式で用いるのは、
- 退職時の基本給
- 勤続年数に基づく支給係数
- 退職事由に基づく削減率
これらを使って、以下の計算を行って退職金を算定します。
退職時の基本給×勤続年数に基づく支給係数×退職理由に基づく削減率
基本給連動型退職金制度の大きな特徴は、
- 退職時の基本給については、在職中に行われたベースアップ等によって、当初の想定よりも水準がアップすることもある
- 勤続年数が長ければ長いほど、支給係数がアップする
一般的に、計算にあたっては、
- 勤続年数の月単位を切り捨て
- 自己都合退職は勤続年数による削減率の増減
が行われています。
算定例
基本給連動型退職金制度のモデルケースに従い、具体的な算定例を見てみましょう。
- 勤続15年
- 基本給30万円
- 自己都合退職
の場合、基本給30万円×勤続年数による退職金支給係数10カ月分×退職事由による係数0.72(係数)を計算することになります。その結果、モデルケースの場合には、退職金は216万円と算定できます。
別テーブル制の退職金制度とは?
別テーブル制の退職金制度とは、退職金制度と給与制度を切り離し、全くリンクさせずに勤務年数に応じた基準額を設定する、退職時の役職など等級別に応じた係数を掛けるなどによって、退職金の金額を算出する制度のこと。
別テーブル制の退職金制度を導入するメリットは、下記の通りです。
- 給与と連動しないので、将来必要となる退職金額の把握や計算が比較的容易である
- 給与制度と退職金制度が連動していないことから、仮に給与制度の変更があった場合でも退職金制度の変更を検討する必要がない
しかしその一方で、別テーブル制の退職金制度では勤続年数や退職時の役職や等級によって退職金が算定されるため、在職期間全体を通しての企業貢献度が退職金に反映されないといったデメリットもあるのです。
算定例
別テーブル制の退職金制度のモデルケースに従い、具体的な算定例を見てみましょう。
- 勤続年数が10年
- 自己都合退職
- 退職時の等級は3等級
であった場合、退職金の金額は、退職金基準額550,000円と等級別係数1.1をもとにした、550,000円×1.1によって算出できます。この場合の退職金の金額は、605,000円です。
ポイント制退職金制度とは?
ポイント制退職金制度とは、在職中の従業員に企業への貢献度に応じたポイントを毎年付与し、そのポイントを累計してポイント単価を乗じ、退職金の金額を算定する制度のこと。
ポイント制退職金制度は、1965年にフジテレビが導入したことで広まりました。ポイントを付与する方式にはいくつかの種類がありますが、最も広く普及している方式は、職能資格制度の資格等級に応じてポイントを付与する方式です。
職能資格制度が確立している場合、資格等級ポイントを設けることで、能力や成果を退職金の金額に反映させやすいというメリットがあります。
また、ポイント制退職金制度では、仮に勤続年数が同じ者が定年退職をした場合でも、資格等級ポイントの高低によって約2倍の退職金格差を設定できるのです。ポイントで社員の士気を高め、企業業績を向上させる効果が期待できるでしょう。
算定例
ポイント制退職金制度のモデルケースに従い、具体的な算定例を見てみましょう。たとえば、
- 大卒
- 入社7年後に現場リーダー(2級)に昇格
- 入社11年後に現場リーダー(2級)のままで退職
といった場合の退職金の金額を考えてみます。
まず、在籍ポイントと等級(役職)ポイントを計算します。
在職ポイントは、
- 入社3年目まで:3P×12月×3年=108P
- 入社3年目以降:5P×12月×8年=480P
で計算され、在職ポイントの合計は、588Pだと分かります。
次に、等級(役職)ポイントは、
- 1級(一般)時:1P×12月×7年=84P
- 2級(現場リーダー)時:5P×12月×4年=240P
と計算され、等級ポイントの合計は、324Pになります。
在籍ポイントと等級(役職)ポイントを合計して総計ポイントを計算すると、558P(在職ポイント)+324P(等級ポイント)=882Pとなり、これに退職事由係数0.75を乗じると661.5Pとなります。ポイント単価は1,000円なので、退職金は661,500円です。
9.退職金額の算定手法に関する近年の傾向
退職金の金額を算定する手法には、トレンドがあります。トレンドを読み解くことで、どのような手法を導入することが時代のニーズにマッチしているのか理解できるでしょう。
現在、人気のある退職金制度や多くの企業で導入されている退職金制度には、人気があるだけのメリットがきっとあるはずです。
退職金制度の導入を検討している企業や、退職金制度の改変に着手しようとしている企業にとって、制度のトレンドをつかむことは重要でしょう。
現在、大企業を中心に、基本給連動型からポイント制へと退職金制度が移行しているといわれています。このトレンドが中小企業にも波及する可能性は高いでしょう。
基本給連動型が最多
厚生労働省が発表している常用労働者30名以上の民間企業6144社を調査対象とした「平成25年就労条件総合調査」から、退職金制度のトレンドを確認してみます。
調査企業全体では、
- 基本給連動型55%
- ポイント制19%
- 別テーブル制15%
- 定額制8%
- その他3%
また、調査企業のうち従業員30~99名の小規模企業に限定した導入割合は、
- 基本給連動型61%
- ポイント制13%
- 別テーブル制14%
- 定額制9%
- その他3%
となっています。調査結果から調査企業全体を見ると、基本給連動型の退職金制度を設けている割合が、全体の半数以上を占めていると分かります。
年功序列や終身雇用といった、定年退職まで長期にわたって企業と従業員の間に雇用関係が結ばれる日本独特の企業文化が、退職金制度にも大きく影響を与えていると考えられるでしょう。
大企業ではポイント制が最多
厚生労働省が発表している「平成25年就労条件総合調査」では、調査企業を従業員1,000人以上の大企業に限定した退職金制度の調査も行っていますが、その結果は下記の通りでした。
- 基本給連動型25%
- ポイント制51%
- 別テーブル制15%
- 定額制4%
- その他5%
大企業に限定して退職金制度を見た場合、基本給連動型よりもポイント制が広く普及していました。これは、年功序列といった従来の日本型雇用が崩壊し、成果主義に重きを置く大企業が増加していることが原因だと考えられます。
10.自社の退職金制度を調べる方法
自社がどのような退職金制度を導入しているのかについては、就業規則や賃金規定を確認しましょう。退職金がある場合、これらの規則や規定に制度の詳細が明示されています。
退職金規定の中に記されている項目は、退職金の金額や支払日などですが、退職金制度は会社の経営状況や社会情勢といった外部環境に左右され改変されることも多いため、規定の改変が行われたらその内容をチェックしておかなければなりません。
また、退職金制度の中で企業年金掛金、退職金掛金、確定給付掛金といった社員負担がある場合、給与明細に金額が掲載されるので併せてチェックしましょう。
就業規則や賃金規定、給与明細などで制度概要や掛金額を把握できない場合は、直接企業の総務部や人事部といった管理部門を担当している部署に問い合わせます。
11.退職金の支払いが遅れている場合には?
退職金は、退職後の生活の基盤を担う重要な原資で、退職の事実を確認したら就業規則などの規定に従って、速やかに支給されるべき金銭です。
もし退職したにもかかわらず退職金が支払われていない場合には、退職金支給対象者は企業に対し、「退職金が支給されていない」旨を通知し、退職金を請求します。
請求後、企業側が7日以内に退職金を支払わない場合、労働基準法第23条の適用によって違法と見なされるのです。
人事部や総務部などに退職金の支払いを請求した後、7日を経過しても退職金が支給されない場合は、労働基準監督署に問い合わせましょう。
12.退職金や賃金制度の見直しの動き
現在、企業の多くで、退職金を含む賃金規定を見直していく動きが加速しています。
賃金規定の見直しが進む背景には、下記のようなものがあります。
- 中途採用市場の活況からも窺える雇用の流動化
- 労働人口の減少に伴う働き手の確保
- 企業競争力を高めるため、有能な人材の確保
年功序列や終身雇用といった従来の日本型雇用が根強く残る企業では、長期勤務をするだけで退職金が自動的に増える仕組みになっています。
しかし、年齢や勤続年数だけでない有能な人材を取り込むために、賃金規定や退職金制度を改革、改変しようとする企業が確実に増加しているのです。