【高年齢雇用継続給付】申請手続き完全ガイド!必要書類と労務担当者のための実務ポイント

定年後も継続雇用される60歳以上の従業員が増加する中、賃金が低下した社員をサポートする「高年齢雇用継続給付」の手続きは、労務担当者にとって重要な業務となっています。しかし、初回申請から2か月ごとの継続申請、必要書類の準備まで、そのプロセスは複雑で間違いやすいものです。さらに2025年4月からは制度の大幅な縮小が予定されており、企業側の対応も急務です。

本記事では、企業の労務担当者が押さえておくべき申請の全手順と必要書類、そして制度変更への備えまでを実務に即して解説します。

高年齢雇用継続給付とは?制度の概要と受給条件

パソコンを囲みながら話し合うミドル・シニア世代のビジネスパーソン
高年齢雇用継続給付は、60歳以降も働き続ける高齢者のセーフティネットとして重要な役割を果たしています。

本稿では、この制度の基本的な枠組みから具体的な支給条件まで、労務担当者が押さえるべきポイントを解説します。まず60歳以上65歳未満の被保険者が対象となる「高年齢雇用継続基本給付金」と「高年齢再就職給付金」の2種類の違いや、60歳時点と比較して賃金が75%未満に低下した場合の支給条件、計算方法の基本から、具体的な申請手続きまで、実務に役立つ情報を順を追って説明します。

制度を理解し、適切に活用することで、高年齢者の雇用促進と労働者の収入確保を両立させましょう。

高年齢雇用継続給付金の目的と支給対象者

高年齢雇用継続給付は、60歳以降も働き続ける高齢者の所得を保障するための制度です。この制度の目的は、高年齢者の雇用を促進し、長く活躍できる社会を実現することにあります。

主な対象者は60歳以上65歳未満の雇用保険の一般被保険者で、被保険者期間が5年以上ある方です。さらに重要な条件として、60歳到達時点と比較して賃金が75%未満に低下していることが必要です。

この給付金には「高年齢雇用継続基本給付金」と「高年齢再就職給付金」の2種類があります。前者は60歳以降も同じ企業で働き続ける方向け、後者は失業給付を受けた後に再就職した方向けです。

高年齢再就職給付金の場合は、基本手当の支給残日数が100日以上あることや、1年を超えて雇用されることが確実な安定した職業に就いていることなどの追加条件があります。

いずれの給付金も、支給対象月の全期間にわたって被保険者であることや、育児・介護休業給付と重複して受給できないなどの制限があります。

支給額の計算方法と上限金額(令和7年最新)

高年齢雇用継続給付の支給額は、60歳到達時の賃金月額と比較した支給対象月の賃金の低下率に応じて計算されます。具体的には、支給対象月の賃金額に支給率を掛けて算出します。

賃金が60歳時点の75%未満に低下した場合に支給され、低下率が61%以下になると最大15%の支給率となります。

例えば、60歳到達時の賃金月額が30万円で、現在の賃金が20万円(低下率66.67%)の場合、支給額は16,340円になります。18万円(低下率60%)まで下がると、支給額は27,000円となります。

支給を受けるには、算出された金額が最低限度額を超える必要があります。また、支給対象月の賃金額が支給限度額未満であることも条件です。これらの限度額は毎年8月1日に改定されます。

なお、給付金は非課税所得ですが、受給額に応じて年金の一部が支給停止される場合があることも覚えておきましょう。

支給期間と受給要件の詳細チェックリスト

高年齢雇用継続給付の支給期間は、原則として60歳に達した月から65歳に達する月までの最大5年間です。ただし、毎月の初日から末日まで継続して被保険者である必要があります。

受給資格を維持するためには、いくつかの重要な要件を満たし続ける必要があります。まず、60歳以上65歳未満の一般被保険者であることが基本条件です。また、被保険者期間が通算で5年以上あり、60歳到達時点と比較して賃金が75%未満に低下していることが必須です。

高年齢雇用継続基本給付金の場合、支給対象月の賃金が支給限度額未満であり、算出された給付金額が最低限度額を超えている必要があります。

高年齢再就職給付金の場合は、再就職日の前日における基本手当の支給残日数が100日以上あることや、1年を超えて継続雇用されることが確実な安定した職業に就いていることなどの追加条件があります。

給付金の種類 支給期間 主な受給要件
高年齢雇用継続基本給付金 60歳~65歳 ・60歳以上65歳未満の一般被保険者
・被保険者期間5年以上
・賃金が60歳時点の75%未満に低下
高年齢再就職給付金 再就職日から1~2年
(最長65歳まで)
・基本手当の支給残日数100日以上
・1年超の継続雇用が確実な職業
・再就職手当と重複受給不可

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高年齢雇用継続給付の申請手続き完全ガイド

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高年齢雇用継続給付の申請手続きは複数のステップがあり、適切な書類準備が必要です。ここからは、初回申請時に必要な書類と手続きの流れ、受給資格確認票の記入ポイント、そして継続申請の方法について詳しく解説します。

労務担当者として押さえておくべき実務上のチェックポイントや申請期限の管理方法まで、スムーズな手続きをサポートする情報を網羅的に紹介します。申請漏れによる受給権の消滅を防ぐための管理のコツや、効率的な書類作成のポイントもお伝えしますので、ぜひ業務に役立ててください。

初回申請時に必要な書類と手続きの流れ

初回申請時には、「高年齢雇用継続給付受給資格確認票・(初回)高年齢雇用継続給付支給申請書」を提出します。これに加えて、60歳到達時から遡って1年間の賃金情報を記載した「雇用保険被保険者六十歳到達時等賃金証明書」も必要です。このとき、賃金支払基礎日数が11日以上ある月が6か月分必要となりますので、事前に確認しておきましょう。

また、賃金証明書の内容を証明するための賃金台帳(または給与明細)と出勤簿(またはタイムカード)、生年月日を確認できる書類(マイナンバー登録済みなら不要)、給付金振込先の本人名義通帳やキャッシュカードの写しも準備します。同時に支給申請も行う場合は、申請期間の賃金台帳と出勤簿も必要です。

申請はハローワークで行い、期限は最初の支給対象月から4か月以内です。

受給資格確認票の記入例と押さえるべきポイント

受給資格確認票の記入時には、被保険者番号や事業所番号などの基本情報を正確に記載することが重要です。特に「被保険者番号」は被保険者証に記載されている番号を、「資格取得年月日」は当該事業所で被保険者となった年月日を記入します。

事業所欄には事業所名、所在地、電話番号を記入し、事業主が申請内容に誤りがないことを証明します。なお、事業主経由で申請する場合は、事業主印の押印は不要とされています。

申請者氏名欄は被保険者本人が記載するのが原則ですが、申請内容を事業主が被保険者に確認し、「記載内容に関する確認書・申請等に関する同意書」を作成・保存している場合は、「申請について同意済み」と記載することで署名を省略できます。

また、払渡希望金融機関指定届には、被保険者本人名義の口座情報を記入します。金融機関によっては登録されていない場合もあるため、事前にハローワークに確認しておくと安心です。

2か月ごとの継続給付支給申請書の提出方法

高年齢雇用継続給付を継続して受給するためには、2か月ごとに「高年齢雇用継続給付支給申請書」を提出する必要があります。申請書類は初回受給後に2か月ごとにハローワークから本人宛てに送付されますが、届かない場合は事業所でも入手可能です。

申請書には、対象期間内の各月の賃金支払基礎日数と賃金額を正確に記入します。添付書類として、対象期間の賃金台帳(または給与明細書)と出勤簿(またはタイムカード)のコピーが必要です。

申請期限は支給対象期間の最後の月の翌月から起算して4か月以内です。提出が遅れると受給権が消滅するため、カレンダーに提出日を記入するなど管理方法を工夫しましょう。

労務担当者は社内で対象者を一覧表にし、申請漏れを防止するためのリマインド体制を構築することが重要です。

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企業担当者が知っておくべき実務上の注意点

電卓で計算するビジネスパーソンの手元
高年齢雇用継続給付の制度を企業の労務担当者として適切に運用するには、実務上のポイントを押さえておくことが重要です。制度を最大限に活用して従業員の所得を確保しつつ企業の負担を適正化するための賃金設計や、申請におけるよくあるトラブルとその対処法について理解しておくことで、スムーズな制度運用が可能になります。

以下では、実務担当者が知っておくべき主要なポイントとして、効果的な賃金設計の方法や申請時の注意点について解説します。

給付金を最大化するための賃金設計のポイント

高年齢雇用継続給付の受給額を最大化するには、賃金設計が重要なポイントになります。60歳以降の賃金が60歳時点の75%を下回ると給付金が発生しますが、賃金低下率に応じて給付率が変わります。例えば、賃金が61%に設定されると最大の15%の給付率となり、賃金と給付金の合計額が最も高くなる傾向があります。

企業としては、従業員の手取り額を大幅に減らさずに人件費を抑えられるメリットがあります。具体的には、賃金を61%前後に設定し、社会保険料負担を軽減しつつ、従業員には給付金で補填するという方法が効果的です。

また、賞与や各種手当の支給方法を工夫することで、月額賃金が給付条件を満たしながらも、総支給額を適正に保つことも可能です。ただし、過度な賃金調整は法的リスクをともなうため、労使間の十分な合意形成が必要です。

ポイント 内容
最適な賃金設定 賃金低下率39%(賃金61%)で給付率最大の15%
企業のメリット 人件費・社会保険料負担の軽減
従業員のメリット 給付金により手取り額の大幅減少を防止
注意点 過度な賃金調整は法的リスクあり、労使合意が必要

よくあるトラブルと対処法(申請漏れ・否認事例)

高年齢雇用継続給付の申請では、さまざまなトラブルが発生することがあります。特に多いのが被保険者期間の通算に関する誤解です。離職期間が1年以内であれば過去の被保険者期間は通算されますが、雇用保険の基本手当を受給した場合は通算されません。

また、申請漏れも頻発するトラブルです。申請期限は最初の支給対象月から4か月以内となっているため、この期限を過ぎると受給できなくなります。特に2か月ごとの継続申請を忘れるケースが多いため、カレンダーに記載するなどの対策が有効です。

「みなし賃金」の適用にも注意が必要です。本人都合による欠勤で賃金が減額された場合、通常より低い賃金で計算されないよう「みなし賃金」が適用されることがあります。

申請書類の不備も否認の原因になります。受給資格確認票の記入ミスや添付書類の不足は審査遅延につながるため、提出前の確認が重要です。万が一、支給決定に不服がある場合は、労働局の雇用保険審査官に審査請求が可能です。

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2025年4月からの制度改正と企業の対応策

人さし指を立て、カメラ目線で笑顔を見せる女性ビジネスパーソン
高年齢雇用継続給付制度は、2025年4月から大きな転換期を迎えます。ここでは、制度改正の具体的内容と、それに対応するための企業の人事戦略について詳しく解説します。

特に、支給率の縮小や適用対象者の変更点に注目し、労務担当者として押さえておくべきポイントを紹介します。また、高年齢者雇用安定法との関連性を踏まえた企業の対応策や、高年齢者が活躍できる職場環境づくりのためのアドバイスもお伝えします。

2025年4月からの制度縮小の具体的内容

2025年4月から、高年齢雇用継続給付は大きな変更を迎えます。「雇用保険法等の一部を改正する法律」の施行により、支給率が縮小される点が最も重要なポイントです。

具体的には、2025年3月31日以前に60歳に達した方(または同日時点で被保険者期間が5年未満の場合、5年を満たした日が2025年3月31日以前の方)は従来通り賃金の15%を上限として給付を受けられます。

一方、2025年4月1日以降に60歳に達する方については、支給率が10%に引き下げられます。これは政府による高年齢雇用継続給付の段階的縮小政策の一環です。

2025年4月1日以降に60歳に達した方は、各月に支払われた賃金の10%(変更後の支給率)を限度として支給されます。

企業の労務担当者は、この制度変更を従業員に適切に説明し、再雇用制度の見直しを検討する必要があります。

適用時期 対象者 支給率上限
2025年3月31日以前 60歳到達者
(またはこの日までに被保険者期間5年を満たした方)
15%
2025年4月1日以降 60歳到達者 10%

制度変更に備えた企業の人事戦略と高年齢者雇用安定法

少子高齢化社会における高年齢者の活躍は、企業の持続的成長と社会経済の活力維持に不可欠です。高年齢雇用継続給付の縮小・廃止に備え、企業は計画的な人事戦略の見直しが必要になります。

高年齢者雇用安定法の改正により、企業には70歳までの就業機会確保に向けた措置を講じる努力義務が課されています。具体的には、70歳までの定年引上げ、定年制廃止、継続雇用制度の導入などの選択肢から、自社の状況に合った制度を検討する必要があります。

人事戦略としては、高年齢者の豊富な知識・経験を生かす職務設計や、短時間勤務・業務委託など多様な働き方の提供が効果的です。さらに、キャリア支援や適切な評価制度の構築、安全衛生対策の充実も重要です。

従業員に対する丁寧な説明と意見交換を通じて、高年齢者がいきいきと働ける職場環境を整備することが、給付金縮小後も企業の競争力維持につながります。

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まとめ

腕を組み、カメラ目線で笑顔を見せる男性ビジネスパーソン
高年齢雇用継続給付は、60歳以上65歳未満の方が賃金減少しながら働き続ける場合に受給できる制度です。受給には60歳時点で雇用保険加入期間が5年以上などの条件があり、賃金減少率に応じて支給額が決まります。申請には雇用保険被保険者番号や賃金支払状況などの情報が必要で、支給申請書と受給資格確認票の提出が欠かせません。

労務担当者は対象者の把握や必要書類の準備、適切な賃金設計の検討が重要です。2025年4月からは給付率が引き下げられる予定で、企業は人事制度の見直しや高齢者活用の新たな戦略を検討する必要があります。

高年齢雇用継続給付の申請手続きには、賃金証明書の作成や2か月ごとの継続申請など、担当者の負担が少なくありません。労務管理システム「ロウムメイト」なら、電子契約書をクラウド上で締結できます。2025年からの制度改正にも迅速に対応できるよう、労務業務を効率化しませんか?