イクメンとは育児を積極的に行う父親のこと。数年前から政府や企業からの注目度が高まっているイクメンについて解説します。
1.イクメンとは?
育児をするメンズ、すなわち子育てを積極的に行う父親を指す言葉のこと。近年、父親である男性も積極的に家事や育児に参加するようになり、イクメンと呼ばれる人が増えているのです。
イクメンはどんな人?
子育てを自ら楽しみ、子育てを通じて自らも成長する男性です。また「現在子どもはいないけれど将来は子育てに励むというライフスタイルを選択したい」と考えている男性をイクメンと呼ぶ場合もあります。
イクメン思考を持つ男性が増えれば夫婦と子どもたちのあり方が変わり、社会全体の変化へもつながるでしょう。
イクメンはいつから広まった?
イクメンという言葉が広まりはじめたのは2010年ごろからと考えられます。当時の日本は、世界に比べて男性が家事や育児に参加する割合が低く、男性の育児休暇取得率は1%以下でした。
この状況を改善するため2010年6月、厚生労働省の「イクメンプロジェクト」が始動。さらに当時の労働大臣が国会にて「イクメンという言葉を流行らせたい」と発言しました。これが発端となって、世間にイクメンという言葉が広まったと考えられています。
イクメンプロジェクトとは?
2010年6月に厚生労働省が始動した「イクメンプロジェクト」は、働く父親や男性に育児休暇の取得を促して、育児休暇が取得しやすい環境をつくるプロジェクト。
「男性が育児へ積極的に参加しない」点が女性の社会進出を妨げる要因になっていると考えられており、男女雇用均等のためにも男性の育児休暇取得は必要という思想から実施されました。
実際に男性の育児休暇取得率は向上し、2017年には5%、2020年には13%と増えつつあるのです。
2.イクメンの条件
どのような男性がイクメンに該当するのでしょうか。ここではイクメンと呼ばれる男性の条件について説明します。
- 育児に積極的
- 1人で子供のお世話ができる
- 育児を優先する
- 妻と同じくらい育児をする
- 妻のサポートもする
①育児に積極的
育児にかかわっていてもお手伝いレベルでは、イクメンと呼べません。本当のイクメンは育児をポジティブにとらえ、自ら積極的に取り組む能動的な働きをします。妻や周囲に言われて育児に協力するのではなく、自らが育児をしたいと思って行動しましょう。
②1人で子供のお世話ができる
「ミルクを作る」「オムツを替える」「料理を作る」「ごはんを食べさせる」「一緒に遊ぶ」「寝かしつける」「お風呂に入れる」といった1日のお世話を一人でできて初めて、イクメンです。乳幼児の子育てを楽しめる男性は、間違いなくイクメンでしょう。
③育児を優先する
仕事を蔑ろにするわけではなく、育児仕事と同じくらい重要な自分の役割と考えて家庭を優先します。そのためイクメンは家庭のために育児休暇や有給休暇を取得するのです。
仕事を終えて家に帰ってからも、育児のために自分の持てる時間をすべて使える男性もイクメンといえるでしょう。
④妻と同じくらい育児をする
母でなければできない育児は母乳の授乳です。しかしほかの育児は男性でも行えます。女性が外で仕事をして男性が家庭を守る家庭も増えており、男女の役割に差異がなくなりつつある状況です。
妻の育児や家事をサポートするといった消極的な姿勢ではなく、妻と同じくらい育児を能動的にする男性こそイクメンでしょう。
⑤妻のサポートもする
子どもの送り迎えをしたり幼稚園や学校行事に出席したりと、妻の役割を軽減できるようにサポートしましょう。イクメンは仕事をしながら料理や掃除などの家事も積極的にこなし、土日は育児を一手に引き受けて、妻をねぎらっている人が多いようです。
3.イクメンオブザイヤーとは?
2011年に制定された10月19日の「イクメンの日」にちなんで、育児を楽しみ頑張った人を表彰するイベントです。毎年、数々の著名人がイクメンオブザイヤーに集い、イクメンについてのスピーチと表彰が行われています。
男性の育児休暇取得推進運動の一端を担っているイベントである、イクメンオブザイヤーについて見ていきましょう。
開催イベント内容
授賞式とイクメンスピーチの2つです。
授賞式では、芸人やスポーツなど部門ごとに1人ずつ選定された受賞者が集い、1年間で一番育児を楽しみ頑張った父親、つまりベストオブイクメンが表彰されます。
イクメンスピーチとは厚生労働省の「イクメンスピーチ甲子園」のことで、この決勝大会も同時開催されるのです。決勝進出者3名がイクメンならではの子育てエピソードや、男性による育児休暇取得についてスピーチします。
目的は、世の中の男性や社会へ育児休暇取得の理解を広めてイクメンを増やすことです。
2020年度受賞した芸能人
2020年のイクメンオブザイヤーでは5人の受賞者がいました。
まずはものまね芸人部門受賞者である原口あきまささん。タレントでありながらミュージシャン、プロレスラー、北九州の観光大使を務めているのです。4人の子どもがいるにもかかわらず、家庭を尊重する父親の鏡といえます。
芸能部門受賞者である小林よしひささんは、NHK子ども向け番組「おかあさんといっしょ」で11代目たいそうのおにいさんを勤める体操インストラクターです。1児の父親であり、爽やかな外見と優しい父親像で親しまれています。
スポーツ部門受賞者である山田章仁さんは、3児の父親でありながらラグビー日本代表に抜擢されるほどの一流プレイヤーです。NTTコミュニケーションズシャイニングアークスに所属しており、ラグビーワールドカップでは日本中に存在を知らしめました。
落語家部門受賞者の海老名泰助さんは、2代目となる林家三平の名前を誇る落語家です。現在1児の父であり徳島県美馬市観光大使も務めています。
動画クリエイター部門受賞者カジサックこと梶原雄太さんは、現在登録者数200万人を超えるYouTuber。お笑いコンビのキングコングのボケ担当として活躍しています。現在5児の父親であり、知名度からも彼のイクメンぶりに影響される人は少なくないでしょう。
4.イクメン全国ランキングとは?
イクメン全国ランキングとは、積水ハウス株式会社が2019年から企業で働く男性の育児休暇取得率を調査した「イクメン白書」に掲載されているランキングのこと。全国47都道府県の小学生以下の子どもがいる男女を調査し、結果をランキング化しています。
ここでは、イクメン全国ランキングについて見ていきましょう。
2020年度の上位5県
2020年に実施されたイクメン全国ランキングは、下記のとおりです。
- 1位 佐賀県(205点)
- 2位 熊本県(192点)
- 3位 福岡県(191点)
- 4位 福井県(177点)
- 5位 長野県(176点)
主要都市部では唯一福岡県が3位になりました。見事1位を獲得した佐賀県は、子育てしやすい都道府県ランキングでも1位に君臨しています。
1位佐賀県のイクメン力
イクメン全国ランキングでは、育休の取得日数のほかにも、各項目で点数を設けて合計値でその都道府県のイクメン度を算出しています。
そのうち1位の佐賀県は、各項目で上位入りを果たしました。なかでも全国1位となった項目が「夫をイクメンと思うか」。妻が夫をイクメンと認めるほど佐賀県の夫は、育児に力を入れているとわかる結果です。
部門別上位3県
各項目の部門別上位3位を確認しましょう。
夫の普段の家事・育児実施数
- 1位 島根県 7.39個
- 2位 福井県 7.09個
- 3位 福岡県 6.91個
妻が評価する夫のイクメン度
- 1位 佐賀県 0.33
- 2位 熊本県 0.33
- 3位 北海道 0.31
夫の育休取得日数
- 1位 東京都 9.47日
- 2位 富山県 7.68日
- 3位 福島県 7.61日
夫の家事や育児の週間時間
- 1位 島根県 16.59分
- 2位 福岡県 16.54分
- 3位 山形県 16.44分
家事や育児に幸せを感じる夫
- 1位 高知県 1.25
- 2位 宮崎県 1.08
- 3位 香川県 1.06
福岡県は部門別上位2位と3位を獲得しており、島根県は部門別上位1位を2部門獲得しています。
5.イクメン企業アワードとは?
イクメンを応援して子育てのしやすい労働環境が整備されている企業を表彰するイベント。仕事と家庭の両立には、父親である従業員が勤める企業の協力体制が必要です。
このような育児に対する意識改革や制度改革を実施した企業名が公開されるため、手法や指針を広めていく効果もあります。
2020年受賞企業
2020年受賞企業は以下のとおりです。
グランプリ
- 株式会社技研製作所(高知県)
- 積水ハウス株式会社(大阪府)
奨励賞
- 双日株式会社(東京都)
理解促進賞
- 江崎グリコ株式会社(大阪府)
特別賞
- コロナ対応:日本航空株式会社(東京都)
- 地方特別:株式会社プロトソリューション(沖縄県)
36社の応募の中から見事イクメン企業アワードを受賞した企業は、従業員の育休取得にも協力的で、働きやすい環境といえるでしょう。
グランプリ企業の取組
イクメンとなる従業員が働きやすい労働環境をつくるため、それぞれの企業が取り組みを思案し実行に移しています。2020年イクメン企業アワードのグランプリを受賞した2社の具体的な取り組みについて見てみましょう。
技研製作所(高知県)
技研製作所では、男性育休に関する知識、意識調査を全従業員に実施し、男性育休推進のための取り組みについて思案しました。
まずは従業員が育休を取得しやすくなるよう、社用専用サイトで育休取得に関するマニュアルや育休を実際に取得した際の収入予測ツールを導入。また役員が男性育休取得推進宣言を宣言することで、男性従業員も育休取得しやすい環境をつくりました。
従業員の平均育休取得日数は110日と高い実績が出ています。
積水ハウス(大阪府)
積水ハウスでは、男性従業員の妻が出産した場合、3年以内に1カ月以上の育休取得を推進する「イクメン休業制度」を実施。経営者から管理者に向けて、積極的な育休取得を推進するように働きかけ、社内全体での意識改革を進めました。
社内の制度では家族で今後の育児や家事について話し合う家族ミーティングシートの提出や、仕事と家庭の事情に合わせて最大4回に分けた育休取得を可能としています。
さらに独自のWebアンケート調査をもとにしたイクメン白書を制作し、日本全体の男性育休取得推進運動にも貢献しているのです。
6.イクメン「嫌い」が7割
国会でも推奨されているイクメンですが朝日新聞が実施した調査では7割の人々が「イクメンという言葉が嫌い」と回答しました。なぜイクメンという言葉を嫌う人が多いのでしょうか。その理由について説明します。
違和感しかない
イクメンという言葉そのものに違和感を覚える男性がいます。男女が関係なく平等に家事や育児を行うことを特別視しているように感じられるのが、理由のひとつです。
男性が育児休暇をとりやすくなった昨今でも、周囲が男性を「イクメン」とはやし立てる場合があります。これらによって周囲の目から特別視されているような感覚を覚えてしまうようです。
当たり前のこと
イクメンという言葉が嫌いと答えた女性のなかには「男性も育児をするのは当たり前」と考える人も多くいました。
女性が家で家事や育児をして男性は外で働くという日本の古い風習はいまだに根強く残っています。それによって家事や育児をしない男性も少なくありません。そのような役割分担意識があるからこそ、少し育児を手伝っただけの男性でもイクメンと呼ばれるのです。
このような男性の育児を特別視する傾向は、現代の女性にとって納得しがたいのでしょう。
責任が増えるだけ
イクメンという言葉が広まり、男性も家庭で家事や育児を行う時代になった点を喜んでいない男性もいます。周囲や世間が男性の家事や育児を推奨し、自分にもイクメンとしての役割を押し付けられることに不満が生じるのです。
とくに「男性の役割は仕事」という意識を持つ人は、家庭で行うべき義務が増える点を迷惑に感じる場合があります。
7.イクメンエピソード
イクメンになった男性にはさまざまなよい変化が起こります。家庭だけでなく仕事にまでプラスの影響を与える場合もあるようです。ここでは具体的なイクメンエピソードをご紹介します。
子供との距離が近くなったと感じる
小さい子どもは、自分に構ってくれる人やお世話をしてくれている人に頼ります。父親より母親が好きな子どもの多さはどこからきているのでしょう。父親は普段仕事に出かけていてかかわる機会が少なく、母親とは普段から密にかかわっているためです。
イクメンとして子どものお世話や遊び相手になる状況が増えた結果、「今まで母親ばかりに懐いて甘えていた子どもが、最近は自分にべったり甘えてくれるようになった」と、実感する父親も増えています。
夫婦の絆が深まった
妻に家事や育児を任せっきりの男性に、妻の苦労や悩みは理解しにくいもの。イクメンになったある男性は「家事や育児を積極的に行うようになった結果、今まで気づけなかった妻の苦労や悩みがわかった。妻への接し方が変わった」と語っています。
夫が育児の苦労や負担を軽減して妻を支えられるようになれば、夫婦の絆もより深まるでしょう。
時間の使い方が変わり仕事へも良い影響
家事や育児の両立は、仕事へ良い影響を与える場合も。イクメンとして家事や育児をこなしていくと、どうしても仕事にかけられる時間に制限ができ、段取りや優先順位といった効率化を考えるようになるためです。
育児でも限られた時間で家事や育児をこなさなければならないので、やはり効率化を追求するようになります。また妻と連携を取る必要もあるので、密なコミュニケーションが増えるでしょう。連携の取り方もまた、仕事をするうえで役立ちます。