ビジネスにおいてコミュニケーションはとても重要です。同僚や上司、部下、クライアントと、コミュニケーションスキルが試される場は多いため、人当たりがすべてではないかと感じている人も少なくないでしょう。
こうしたコミュニケーションの場で力を発揮するスキルがアサーションです。知っておいて損のない、アサーションについて詳しく知っておきましょう。
目次
1.アサーション(assertion)とは?
アサーション(assertion)とは、自分も相手も大事にして、主張はしっかり行うものの、相手は傷つけない、絶妙なコミュニケーション方法です。相手の主張を否定したり、自身の主張を無理に押し付けたりするのではなく、お互いの意見を尊重し、より良い結論に導きます。
コミュニケーションにおいては、大まかに表現すると伝える力と聞く力の2種類がポイントとなります。ごく当たり前の考えかもしれませんが、この基礎をいかに研ぎ澄ませられるかがとても大切です。
伝える力にこだわれば、主張が強すぎる人間に映るでしょう。かといって、聞き手に回ってばかりでは伝えるべきことが伝えられず、チャンスを逃しやすくなります。そこでアサーションを使うのです。
アサーションは医療用語?(語源と歴史)
アサーションと聞くと、横文字でまさに今風といった印象を受けます。しかしアサーションの始まりは1949年に出版された、精神医学、行動医学の書籍にあります。これらにおいて医療用語として記述されたのが始まりだそうです。
このときは「アサーション=自己主張」として定義されていました。人間的な尊厳を取り戻し、回復を図る上で有効といった書き方になっていたのです。
現代のような使い方をし始めたのは、起源から約20年が経った1970年前後です。アメリカの黒人差別における公民権運動がきっかけとなり、相手を傷つけず、なおかつしっかり主張は行うというコミュニケーションの定義に発展したのです。
コミュニケーションにおけるアサーションの意味
アサーションは、細かく考えると少し複雑かもしれません。強く主張するでもなくかといって完全に受け身に回るわけでもない、どっちつかずの考え方だからです。
コミュニケーションにおいては自分と相手双方を大切にするという「円滑さ」に焦点を合わせた概念と捉えるとよいでしょう。
アサーショントレーニングとは?
アサーションの習得には反復練習が大切です。実際のコミュニケーションの中で実践して、感覚を掴んでいきましょう。アサーションは、相手をコントロールするような手法ではありません。
重要なことは相手の気持ちをしっかり考えながら、自分の気持ちや考えや信念を、いかにその場にふさわしい方法で表現するかです。
そのためにもまずは、相手と対等な目線に立ちましょう。その中で、円滑な主張を行うことにより、理想的な人間関係へとつなげられます。
2.自己主張の3つの種類と具体例
自己主張のパターンは、主に3つに分かれ、それぞれを知ることでより理想的なアサーションに近付きます。重要なのは、自分のパターン以外も理解しておくことです。円滑な関係を築く上で、有効な知識となるでしょう。
主張のパターンは分かりやすくアニメや漫画でお馴染みのドラえもんのキャラクターに例えました。アサーションが分かりにくい人でも、しっくりくるのではないでしょうか。
- アグレッシブ(攻撃タイプ)
- ノン・アサーティブ(非主張タイプ)
- アサーティブ(攻撃的タイプと非主張タイプの黄金比)
①アグレッシブ(攻撃タイプ)
まずは、アグレッシブこと攻撃タイプです。特徴は、
- 思ったことをズバズバ言ったり大声を張り上げたりと主張が強い
- 自分の意志を全うするためであれば、明確な悪意が伴うこともある
- 勝ち負けで物事を決める(いわゆるマウンティングを好み、常に優位に立とうとする)
- 精神的に幼い
などです。割合的には結構多く、組織においては少々やっかいでしょう。このタイプをいかにいなすかは腕の見せどころといえます。
ドラえもんでいうところの、ジャイアン
ジャイアンというニックネームの、体が大きな大将肌の少年で、主張が強く、いつも大声で怒鳴り散らしています。ケンカっ早く、勝ち負けにこだわるところはまさに攻撃型といえるでしょう。
ただ、友情に厚く妹に優しいという人情家の面や親に頭が上がらないという一面も持っています。悪ガキながら憎めないキャラクターです。
②ノン・アサーティブ(非主張タイプ)
ノン・アサーティブの特徴は、
- 自己主張が控えめ、もしくは苦手
- 物静かな性格といった印象
- 曖昧な言い方でかわすことを好む
- 言い訳が口癖になっている
などです。アグレッシブと真逆の位置付けともいえるでしょう。アグレッシブのような面倒くささはほとんどないものの、組織の一端としては、やや扱いづらい印象を与えます。
ドラえもんでいうところの、のび太
物語の中心的な位置付けにある少年です。まさにノン・アサーティブの代表のような性格をしており、控えめかつ息を吐くように言い訳を繰り返します。しかし、そんな彼だからこそいつも助けてくれるドラえもんの存在が際立つのでしょう。
またマイナス面に反し、人の痛みを理解できる優しい少年で自然を大事にするといった温かい側面も持ち合わせています。
③アサーティブ(攻撃的タイプと非主張タイプの黄金比)
アサーティブの特徴は、
- 自分の気持ちを率直に伝えつつ、なおかつ相手の気持ちも考えられる
- 場の空気まで重んじる
- 適宜表現をチョイスできる
- アサーティブ型を人に薦められる
などで理想的なタイプともいえます。言うならばアグレッシブとノン・アサーティブの中間。つまりアサーションを扱いこなせるタイプでバランス型と表現できるでしょう。
ドラえもんでいうところの、しずかちゃん
黄金比ともいえるアサーティブを使いこなせるキャラクターには、ヒロイン的な立ち位置であるしずかちゃんが挙げられます。可愛らしく人気者、さらにしっかりしていて勉強もできるなど、ステータスまでもバランスが取れている少女です。
彼女は、のび太のあこがれの女の子でもあります。主張するところは主張し、引くところは引ける、だからこその人気でもあるのでしょう。
自分のタイプをチェックしよう(例題1)
アサーションを身に付けるには、まず自分のタイプを知ることが大切です。日本・精神技術研究所の例題からチェックしてみましょう。(こちらの設問と回答は株式会社日本・精神技術研究所の記事から引用しています)
参考 アサーション〈自己表現〉トレーニングとは?株式会社日本・精神技術研究所ある日、電車の切符を買うため列に並んでいると、突如知らない人が列に割り込んできました。そのとき、以下のどのような対応をしますか?
回答
- 何も言わない、心の中でムッとするものの、声には出さない
- 怒りをしっかり表現。不正に対して怒鳴り、列から離れさせようとする
- 不正を指摘しつつも、冷静かつ人道的に諭して後ろに並ぶよう頼む
①「何も言わない」を選んだ人
何も言わない人は、ノン・アサーティブです。怒りという感情は込み上げているものの、主張は行わず内に秘めているからです。仮に主張したとしても、曖昧で遠まわしな表現をしがちでしょう。
とかく空気を読む日本人においては、このタイプが多いかもしれません。しかし、事態の解決は難しいでしょう。
②「怒りをしっかり表現」を選んだ人
はっきり主張をする人は、アグレッシブです。文字通り攻撃を行い、不正をした相手に勝利しようとします。話が早いため、事態の解決を考えるなら、ある意味効率的でしょう。
しかし、相手の気持ちを無視しているとも言い換えられます。もしかすると、割り込んだ人にも何らかの真っ当な意見があったのかもしれません。一概に正解とはもいえないでしょう。
③「後ろに並ぶように頼む」を選んだ人
不正を指摘し、意見を主張しつつも気持ちを高ぶらせることなく冷静に対処できる人は、アサーティブでまさにバランス型といえます。主張しつつ頼むというやり方で一歩引いているため、意思を伝えつつも相手の尊厳を損ないません。
怒りよりも、歩み寄りの精神が大きいといえるでしょう。
自分のタイプをチェックしよう(例題2)
以下にて、3つのタイプに分類した質問を行います。それぞれ〇と×で回答して、A・B・Cのどの項目に〇が多かったかで検証します。(こちらの設問と回答は株式会社ダイレクトコミュニケーションの記事から引用しています)
参考 アサーション①自他尊重のコミュニケーションとは?精神保健福祉士が解説Direct Communication項目A |
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項目B |
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項目C |
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Aの○が一番多い場合
項目Aについて〇が多く付いた人は、アグレッシブ型といえるでしょう。不器用でプライドが高い、そして怒りっぽく、相手より優位に立ちたいという考えが先行するタイプです。
Bの○が一番多い場合
項目Bに〇が多く付いたのであれば、ノン・アサーティブ型が考えられます。主張が控えめであり、声の大きい相手に苦手意識を持っています。
Cの○が一番多い場合
項目Cこそが、理想的なアサーティブ型といえるでしょう。上記2種類をバランスよく持ち合わせており、穏やかかつ円滑なコミュニケーションを目指します。
3.アサーショントレーニングで学ぶアサーティブなコミュニケーション方法
ここまでの説明の通り、アサーティブは、まさにコミュニケーションの理想形です。アサーティブを身に付けるにはどのようなトレーニングをすればよいのでしょう。
基本となるのは、自己主張の段取りです。相手主体ではなく、自己を主体とした表現から入ります。自分を基準とした例を見せてからコミュニケーションが始められるため、円滑なやりとりが目指せます。
さらにレベルアップを図るなら、以下のアサーショントレーニングを実践してみてください。
①You(あなた)ではなくI(私)から始めるコミュニケーション
「あなた」を主語にすると相手を責める口調になりやすいですが主語を「私」に変えると、自分の主張を相手を傷付けずに伝えられるのです。
You(あなた) | 「(あなたは)いつもどうしてそう報告書の提出が遅いのか」 |
I(私) | 「(私は)あなたの報告書が早いと助かるよ」 |
攻撃的なコミュニケーションパターンの人は、I(私)から始めてみるといいでしょう。
②気持ちを伝えることで主張しやすくなる
感情や今の気持ちを伝える表現を加えることで、正直な意志が伝えやすくなるでしょう。たとえば「~していただけると助かります」、「~に困っています」などです。
非主張的なコミュニケーションパターンで主張が苦手な人は、これによって伝えやすくなります。
③お願いの表現を使うことで、意見の対立を防ぐ
「~すべきだ」「~しなさい」と断定、支配、命令的な主張ではなく「~して欲しい」「~してください」というお願いの表現を使えば、互いの意見が違っても話し合いの余地が生まれるのです。
④否定的な言葉ではなく、肯定的な言葉にする
「~できない」という否定的な言葉は相手が受け入れにくいものです。しかし、日常の場面でも、職場でも否定的な言葉を言わなければならないことはあります。否定したくないから曖昧にして言葉を濁すのは問題外でしょう。
「明日の納期は厳しいのですが、明後日の早朝でしたらなんとかなりますがどうでしょうか」というように否定で終わらせず、前向きな善処策を一緒に提案することで、相手は受け入れやすくなるのです。
4.アサーショントレーニングの練習問題とワークシート
以下は、アサーショントレーニングに効果的なワークシートによる練習問題です。例題を読んで、自分ならどうするか、どのような対応がアサーティブなやりとりにつながるか、イメージしてみましょう。
アサーションを理解してアサーティブな表現を目指すには、反復練習が重要となります。もちろん、実践における経験こそが何よりの学びではありますが、ワークシートのような教材も効果的です。ぜひ、役立ててください。
例題
あなたは、自分で企画書から提案したプロジェクトを進めています。
全体の60~70%まで進めた段階で、上司から「そのプロジェクトは時間の無駄だから中止にしよう」と告げられました。
あなたならどう答えますか?