アクティビストとは、積極的に企業に働きかける株主のこと。アクティビストの定義や活動内容、アクティビストファンドや理解が進む書籍について解説します。
1.アクティビストとは?
アクティビストとは、自らが保有する株の力を利用して、積極的に企業に働きかける株主のこと。その性質から「ものを言う株主」とも呼ばれます。
元来のアクティビストは投資家で、投資先の企業価値を高めて利益を得ることが目的でした。今ではそれにくわえ、社会問題や環境問題、地域の活性化などを目的とする社会運動型のアクティビストも誕生しています。
アクティビストによる企業への働きかけとして挙げられるのは、下記のとおりです。
- 役員報酬の引き下げ
- 取締役の選任や解任
- 増配の要求
- 自社株買いの要求
- 低収益事業の売却要求
- 高収益事業の買収要求
- 声明の発表
アクティビストは株価にも影響を与えうるとして、現在多くの投資家の注目を集めています。
英語「Activist」の意味は活動家
「Activist」は、直訳すると「活動家」です。政治的あるいは社会的な活動家を意味し、投資の分野に限って「積極的に企業介入する投資家」を指すのです。
なお経済の分野では、「景気向上のためには政府支出を活発化させるべきだ」と主張する「積極財政論者」のことも意味します。
2.アクティビストの活動内容
アクティビストは、現在の株価が低い企業に対し、対話や提案などで働きかけます。アクティビストの活動内容と活発化した背景について説明しましょう。
アクティビストがとる行動とは?
アクティビストがとる行動には、以下のものが挙げられます。
- 経営陣との対話や交渉
- 株主提案;株主総会の目的を株主側が定めること。条件を満たした株主はこの権利を有する
- 委任状争奪戦:株主総会における賛成票獲得のため、企業と株主が委任状の取得を争うこと
- 訴訟
委任状争奪戦や訴訟は、強硬派のアクティビストが多く見られた2000年代においてたびたび実行されていました。しかし現在のアクティビストには穏健派が多くなっています。よって一般的に少量の株式を取得したうえで、企業との対話や交渉を行うのです。
アクティビストが活発化した背景
アクティビストが活発化した理由のひとつと考えられているのが、投資状況の変化です。
2008年のリーマンショック以降、スチュワートシップ・コード(「投資家とは本来どうあるべきか」を定めた7つの原則で、多くの投資家が受け入れを表明)やコーポレートガバナンス(企業経営を監視するシステム)が浸透し、世界的な金融緩和が行われました。
「企業は投資家のもの」という考えにもとづいて、投資家が企業へ健全かつ公平な経営を求めたのです。さらに世界的な金融緩和によるファンドの活性化も追い風となり、2010年から日本でもアクティビストの活動が知られるようになりました。
アクティビストの投資先
アクティビストはバリュー株(企業本来の価値に対して現在の株価が低い銘柄)を中心とした短期運用を行うことが多く、なかでもコーポレートガバナンスが弱い企業を投資先に選ぶ傾向にあります。
本来の価値に見合う価格になってから売却すれば、それだけで利益が得られます。実際に2018年にアクティビストが介入した企業の大半は、「純資産に対して株価が割安」かつ「自己資本に対して利益が少ない」という傾向が見られました。
大量保有報告書からわかるアクティビスト銘柄
財務局の大量保有報告書(同一銘柄の5%以上を取得した際に提出する書類)を見れば、アクティビストの投資先がある程度推測できるのです。
アクティビストはリターンが見こめる企業へ積極的に介入するため、同一銘柄を大量購入する場合が多くなっています。つまりアクティビストによって大量購入された企業は、今後企業価値が上昇する可能性も高いのです。
アクティビスト自身による追加購入やほかの投資家の追随購入があれば、直近の株価上昇も期待できるでしょう。
3.アクティビストファンドとは?
アクティビストとして積極的に活動する投資ファンドのこと。経営者に対して増配や自社株の買い付け、株主提案などを積極的に行い、投資先の企業価値の向上とそれによる利益を目指します。
なかでもよく知られているのが、企業の買収や合併、分社化などにかかわるアクティビストファンドです。アクティビストファンドは、企業の買収や合併、分社化によって生じる大きな株価の変動を収益の機会と捉え、積極的に企業へ働きかけます。
世界の代表的なアクティビストファンドの一覧
世界的によく知られているアクティビストファンドは多数あります。以下の7つは、ダイナミックな要求を突きつけて、短期間で利益を上げて素早く売り抜けていく傾向にあります。
世界の代表的なアクティビストファンドについて、それぞれの特徴や設立経緯、主な投資先などを解説しましょう。
- エリオット・マネジメント
- キング・ストリート・キャピタル・マネージメント
- サード・ポイント
- シルチェスター・インターナショナル・インベスターズ
- ダルトン・インベストメントツ
- パーシング・スクエア
- バリューアクト・キャピタル・マネジメント
①エリオット・マネジメント
エリオット・マネジメントは、1977年にポール・シンガー氏が設立したアメリカのファンド。主な投資先としては、アメリカのAT&TやTwitter、日本のソフトバンクなどが知られています。
エリオット・マネジメントの有名な投資事例は債務不履行に陥ったアルゼンチンの国債です。返済を巡ってアルゼンチン政府と激しい争いを繰り広げ、最後は46.5億ドルもの返済を合意させました。
2021年には閉鎖した香港拠点の人員をロンドンと東京に振りわけており、これから日本株にもますます進出してくると見込まれています。
②キング・ストリート・キャピタル・マネージメント
キング・ストリート・キャピタル・マネージメントは、1995年に設立されたアメリカの大手ファンド。ディストレス投資(財務危機に陥り、行き詰まっている企業の債権を買い取る投資方法)を得意とし、割安企業に長期投資を行ってきました。
現在では180億ドルもの資産を運用しています。2017年に東芝の第三者割当増資を引き受け、日本でもその名が知られるようになりました。自社株買いや共同経営者の社外取締役就任など、東芝に対する数々の要求で世間の注目を集め続けています。
③サード・ポイント
サード・ポイントは、1995年にダニエル・ローブ氏が設立したアメリカのファンド。豊富な資金力を武器に、大手企業に対しても強気な要求を繰り返すのが特徴です。
主な投資先としては、アメリカの半導体大手インテルやスイスのネスレ、日本のセブン&アイ・ホールディングス、ソニーなどが知られています。
ソニー株の大量保有でその株価を上昇させ、経営不振が続くイトーヨーカドー(セブン&アイ・ホールディングスの元親会社)へ改革要求を突きつけ、会長人事にも積極的に介入したのです。
④シルチェスター・インターナショナル・インベスターズ
シルチェスター・インターナショナル・インベスターズは、1994年にスティーブン・バット氏がロンドンで設立したファンド。世界中で株式投資を行っており、日本株にも約1兆円を充てています。
日本における主な投資先は、建設や不動産、情報通信や地方銀行など。とくに株価純資産倍率が低い地方銀行へ投資する傾向にあるのです。
近年、日本化薬やダイセル、日本発条などの株を10%以上取得しており、今後も日本株への投資を強めていくと見込まれています。
⑤ダルトン・インベストメントツ
アメリカのダルトン・インベストメンツは、アジア株式に強く古くから日本株にも積極的に投資してきたファンド。2000年代の日本にて、スティール・パートナーズとともに積極的な株主提案を行ったことで知られています。
日本の主な投資先はエイベックスや新生銀行、レックなどで、新生銀行に対しては共同創業者を社外取締役に就けるよう要求したのです。
2021年には「ニッポン・アクティブ・バリュー」というファンドを新設し、20社ほどの日本の中堅企業へ投資を実施。今後も日本株への投資を強化していくと見込まれています。
⑥パーシング・スクエア
パーシング・スクエアは、2004年にウィリアム・アルバート・アックマン氏によって設立されたアメリカのファンド。アクティビストとしてだけでなく、ヘッジファンドとしても積極的に活動しています。
主な投資先は、アメリカのオートマチック・データ・プロセッシングやモンデリーズ・インターナショナル、カナダのバリアント・ファーマシューティカルズ・インターナショナルなど。
2022年1月にコンテンツ配信の大手「ネットフリックス」の株を大量取得し、世間の注目を集めました。
⑦バリューアクト・キャピタル・マネジメント
バリューアクト・キャピタル・マネジメントは、2000年にジェフリー・アッべン氏が設立したアメリカのファンド。主な投資先としては、アメリカのマイクロソフトやイギリスのロールスロイス、日本のオリンパス、任天堂などが知られています。
とくに有名な投資事例はマイクロソフトの経営改革です。GoogleやAppleがスマートフォンで幅を利かせるなか、バリューアクト・キャピタル・マネジメントの推したCEOが業績向上に大きな役割を果たしました。
4.日本におけるアクティビストファンド
日本のアクティビストファンドも存在し、よく知られているのは以下の4つです。それぞれの概要と特徴を説明しましょう。
- スパークス・グループ
- エフィッシモ・キャピタル・マネージメント
- ストラテジックキャピタル
- マネックス・アクティビスト・ファンド
①スパークス・グループ
スパークス・グループは、1989年に阿部修平氏が設立した投資顧問会社。2001年には資産運用会社として初めてジャスダックへの上場を果たし、2019年からは東京証券取引所第一部へと市場を移しています。
創業当初は小型株運用からスタートし、徐々に長期厳選投資や集中投資、ロングショート戦略などに手を広げてきました。現在ではアジアにも投資を展開しており、2021年3月末時点の運用資産は約1.5兆円。
調査を重ねて厳選した銘柄に絞りこんで投資する独自の手法を得意としており、世界の投資家たちの支持を集めています。
②エフィッシモ・キャピタル・マネージメント
エフィッシモ・キャピタル・マネージメントは、村上ファンドに勤めていた元社員が3人で集まって設立したアクティビストファンドで、現在は拠点をシンガポールに移しています。
運用資産は約1.4兆円といわれており、主な投資先は川崎汽船や日産車体、リコーやヤマダ電機、ニチイ学館などです。東芝の筆頭株主としても知られており、企業統治課題に対する調査を提案して可決されました。
川崎汽船の事例では役員選任や東芝の取締役再任に反対し、企業との対立も辞さずに自らの意見を強く表明し、ついに川崎汽船はエフィッシモ・キャピタル・マネージメントから社外取締役を採用したのです。
③ストラテジックキャピタル
ストラテジックキャピタルは、2012年9月に村上ファンドのナンバー2だった丸木強氏が設立したファンド。主な投資先としては、極東貿易や淺沼組、有沢製作所やタチエス、世紀東急工業などが知られています。
ストラテジックキャピタルの投資手法は、改善の余地がある企業のバリュー株を積極的に買い付けていくもの。これまでも株主提案や株式公開買付などにより、投資先の企業価値の向上、ひいては自らの利益を常に追及し続けてきました。
昨今、海外の投資家からの希望を受けて、環境や社会に貢献する企業への投資を強化していくとも表明しています。
④マネックス・アクティビスト・ファンド
マネックス・アクティビスト・ファンドは、2020年4月に松本大氏が設立したファンド。
日本やアメリカ、中国などに拠点を持つ大手金融機関「マネックスグループ」の子会社です。投資家と企業双方との対話を重視し、個人投資家と企業の懸け橋となる存在を目指しています。
バリュー株投資に似た手法を用い、割安な日本株を見つけて徹底的な企業分析をもとに長期的な投資を行っているのです。
2021年6月では、運用1年でのリターンが28%を超えています。設立されてまだ日は浅いものの、個人投資家を巻き込んでいくその独自の姿勢が注目を集めているファンドです。
5.アクティビストへの理解が進む書籍
アクティビストへの理解をさらに深めるには、関連書籍を読むのも効果的です。ここでは4冊の書籍の概要を説明します。
- アクティビストの衝撃 ―変革を迫る投資家の影響力
- アクティビスト 取締役会の野蛮な侵入者
- 株主の利益を引き出す「アクティビスト」の投資戦略
- バリュエーションの教科書
①アクティビストの衝撃 ―変革を迫る投資家の影響力
アクティビストに関連する情報を全般的に広く網羅しており、アクティビストについて一冊で詳しく学べる書籍です。著者の菊池正俊氏は、みずほ証券エクイティ調査部門のチーフ株式ストラテジストを務める人物。
内容はアクティビストの定義と現状、エリオット・マネジメント、サード・ポイント、バリューアクトなど主要アクティビストの事例や思考方法、国内のスチュワードシップ活動などが中心です。さらにアクティビストの投資対象になりそうな企業も予想しています。
②アクティビスト 取締役会の野蛮な侵入者
アクティビストの定義やこれからについても触れており、アクティビストの概要をつかめる書籍です。
著者のオーウェン・ウォーカー氏は、受賞歴も持つ経験豊富な金融ジャーナリスト。マイクロソフトやヤフー、ヒューレット・パッカードなどの大企業で実際に起こったアクティビストと企業の争いを紹介しています。
アクティビストがこれまでどのように企業と対立し、どのような結末を迎えたのかをストーリー仕立てで解説しているのです。
③株主の利益を引き出す「アクティビスト」の投資戦略
アクティビストについてプラスの側面を知るのに適した書籍です。著者の片野恒一氏は、外資系投資銀行の株式アナリストや国内ヘッジファンドの運用を経験したのち、自らヘッジファンドを立ち上げて独立した人物。
内容は、日本の投資信託のデメリットや日本の株式市場における投資家の位置づけなどを解説したのち、アクティビストの役割や魅力について解説しています。
④バリュエーションの教科書
アクティビストに特化してはいないものの、バリュエーション(企業価値評価)を解説するなかで、アクティビストの活動についても触れています。
著者の森尾明氏はグロービス経営大学院の教授であり、ドラマ『ハゲタカ』の監修も務めた人物です。アクティビストが行う企業分析において必須ともいえる、企業価値の算定方法やM&A、財務諸表といった基本を学べます。