アドラー心理学は今、注目を集めている心理学です。どのような内容でどんな風に役立つのでしょうか。アドラー心理学について詳しく解説します。
目次
1.アドラー心理学とは?
アドラー心理学とは、オーストリアの精神科医であるアルフレッド・アドラーが提唱した心理学で、アルフレッド・アドラーが提唱したテーマ、「人は目的のもと生きている、幸せになるには勇気を持つ」という思考から成ります。
アドラーの後継者たちは、個人心理学として思想と治療に関する技法を体系化しました。
2.アドラーとフロイトの違い
フロイトは、アドラー同様、オーストリアの精神科医で心理学の世界に大きな影響を与えました。
精神分析学の創始者としても知られており、「人間は、過去の経験が原因となって今の行動が規定される」という「原因論」を提唱し、夢分析の分野でも名を残したのです。
3.アドラーとユングの違い
ユングも心理学の世界で活躍した人物の一人で、スイスの精神科医です。対話を重視した手法で患者を分析し、多くの人間に共通する無意識の存在を「集合的無意識」として提唱しました。
ユングもフロイトと同様に夢分析を行っていましたが、フロイトとは異なるアプローチであったことが判明しています。
4.アドラー心理学が広まった背景
アドラー心理学が広まったきっかけは、2013年に岸見一郎と古賀史健の共著によって出版された書籍『嫌われる勇気』のヒットにあります。この本は後にドラマ化され、広い世代にインパクトを与えました。
- SNSがコミュニケーションツールとして全盛を極めている現状
- その現状によって生じた「承認欲求」「気遣い」に対する疲弊
が相まって、アドラー心理学は現代人へ救いの手を差し伸べる一筋の光として話題性を高めていったのです。
5.アドラー心理学の特徴
アドラー心理学の特徴を、4つの要素から解説しましょう。
- 目的論
- ヨコの関係
- 課題の分離
- 勇気付け
①目的論
目的論とは、人間の行動にはすべて目的があり、自分が現在置かれている状況は自分の目的を達成するために自らが選択した道である、という考え方です。
対して、目的論と対比されることの多い原因論は、結果にはすべて原因があり、自分が現在置かれている状況は自らの過去によって決められるという考え方になっています。
②ヨコの関係
ヨコの関係とは、横並びに位置した人たちがお互いに、信頼関係を築く・尊敬し合うという関係が構築されていることで、タテの関係は、「上から下への支配」「下から上への依存の関係が構築されている」ことです。
支配や依存から生まれるタテの関係からは、他人から承認されたいという承認欲求が生まれます一方、ヨコの関係では、自分以外の人を対等な立場と見なすため、共同体感覚を生み出します。
③課題の分離
課題の分離とは、同質ではないが対等な関係にある他者が持っている課題と、自分の持っている課題を分離させること。
ヨコの関係が築ければ、他者に劣等感や忖度感情を持つ必要がなくなります。その上で、課題が自分の課題でないと判断できたら、「これは他者の課題だ」と考えを整理して、他者の課題に介入しすぎないようにするのです。
④勇気づけ
勇気づけとは、困難を克服するための内なる活力のこと。アドラー心理学が別名「勇気の心理学」と呼ばれている点からも分かる通り、勇気付けによって、自分の目的や行動が変わることで新しい自分を構築できるのです。
勇気づけは他者に対しても発信でき、他者が自分自身の力で生きていけるようサポートすも含めた言葉と解釈されています。対等な立場でお互いを尊重しながら新しい一歩を踏み出す勇気、これこそがアドラー心理学の神髄です。
6.アドラー心理学のメリット
アドラー心理学によって得られるメリットとはどのようなものでしょうか。5つのメリットについて解説します。
- 物事をシンプルに捉えられる
- 問題との向き合い方が分かる
- 「どう生きるか」が明確になる
- 自分のすべてを活用できる
- 自分を変えられる
①物事をシンプルに捉えられる
「今の自分の状況は、自分が選択してきた道だ」「自分の問題は誰への忖度もなく、自分で解決してよい」「自分で課題を解決すると、自分の未来を望むように変えられる」といったロジックにより、物事をシンプルに思考できます。
②問題との向き合い方が分かる
問題に直面した際、「どうしたらいいのか悩まなくなる」「自分の課題に対して行うのは、解決方法を決定するだけ」となります。周囲とのしがらみを考えず、自分の課題に自分で答えていくだけなので、問題との向き合い方が分かるようになるのです。
③「どう生きるか」が明確になる
アドラー心理学によって自分の課題や選択肢についてシンプルに考えられるようになります。その結果、「自分がどう生きるか」といった哲学的な人生観を明確にできるのです。
④自分のすべてを活用できる
アドラー心理学は、「自他共に尊重される」「自分の課題に自分で答えていく」ため、自分に自信を持って前に進めるようになります。自分が持つ知識やスキルも存分に引き出せるため、自分自身のすべてをフル活用できるようになるでしょう。
⑤自分を変えられる
「自分を変えて将来を変える」「自分を柔軟に変えていくと、将来も柔軟なものになる」これが分かれば、自分を変えることに抵抗感がなくなるでしょう。「自分を変える」という内発的な意識が芽生えれば、現実的に自分を変えていけるようになります。
7.アドラー心理学のデメリット、問題点、課題
しかし、アドラー心理学には、デメリットと考えられる軽度の問題点もあるのです。それは、「自分の変化を前提にしている点」。
もし、「自分を変えたくない」「自分を変える必要はない」と考える人にこの考え方を強いてしまった場合、問題が起きてしまうでしょう。「自分を変えてもよい」といった提案から進めれば、問題になりにくいです。
8.書籍で学ぶアドラー心理学
数多く発売されているアドラー心理学に関する書籍から、3冊をピックアップしてご紹介します。
『アドラー心理学入門』
アドラー心理学に関する書籍として多くの読者に親しまれているのは、『アドラー心理学入門』です。これは日本におけるアドラー心理学の第一人者である岸見一郎の単著で、1999年にリリースされました。
アドラー心理学の基本的な考え方や実践などが紹介されており、アドラー心理学初心者でも理解しやすい内容になっています。オーディオブックもあるため、入門書として手軽に手に取れるでしょう。
『嫌われる勇気』
『嫌われる勇気』は、岸見一郎と古賀史健による著書で、世界累計部数475万部を超えるベストセラーとなりました。
一部、アドラー心理学の考え方を過度に誇張するような記述もありますが、「なぜいつまでも自分が変われないか」「劣等感を克服できないのはなぜか」「どうして幸せを実感できないのか」といった、誰しもが思い悩む課題について対話形式で解説しています。
『アドラー心理学 ―人生を変える思考スイッチの切り替え方― (スッキリわかるシリーズ) 』
アドラー心理学に関する書籍の中でも気軽に読める読み物として人気があるのは、『アドラー心理学 ―人生を変える思考スイッチの切り替え方― (スッキリわかるシリーズ) 』です。
本書は、臨床心理士でもある八巻秀が、イラストや漫画、図版を使って心理学の世界に馴染みのない人にも分かるように書いたもの。よくある悩みに会話形式で答えるページも人気です。
9.セミナーで学ぶアドラー心理学
アドラー心理学を学びたい場合、書籍だけでなくセミナーを受講する方法もあります。
セミナーでは、基礎やロールプレイングによる実践などを効率よく学習できるのです。中には、1日で理解を深められるセミナーも。社内の教育研修に組み込むなど、アドラー心理学セミナーを上手に活用していくとよいでしょう。