エイジハラスメントとは、年齢を理由とした差別や嫌がらせ行為のこと。発生原因や具体例、予防策などについて解説します。
目次
1.エイジハラスメント(年齢差別)とは?
エイジハラスメントとは、年齢を理由にしたハラスメント行為のことです。相手の年齢や世代を用いた差別的な言動が該当します。そのため男性や女性に関わらず、だれもが加害者にも被害者にもなりえるのです。エイジハラスメントにはさまざまなケースがありますが、よく見られるのは下記の3つのケースです。
- 特定の年齢や年代を持ち出して相手にあてはめる
- 年齢や年代のみを理由に仕事内容を変える
- 相手の年齢だけで、結婚や出産の時期や子どもの有無などを決めつける
そもそもハラスメントとは?
ハラスメントとは、相手に不快や脅威を感じさせる行為のこと。たとえ加害者側に相手を傷つけたり、おびえさせたりするような意図がなかったとしても、受け手が不快な感情を持てばハラスメントは成立してしまいます。
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ハラスメントの実態
日本労働組合総連合会が2019年5月に発表した「仕事の世界におけるハラスメントに関する実態調査2019」では、労働者全体の38%が職場でハラスメントを受けた経験があると回答。
ハラスメントの受け手側となった労働者全体のうち、22.4%は心身に影響が出るなどの不調を抱え、18.9%が離職しているのです。なお離職率がもっとも高かったのは20代で27.3%でした。
2.エイジハラスメントが注目されはじめた理由
エイジハラスメントが認知されるようになったきっかけとして、インターネットや2015年ごろのドラマなどが挙げられます。ただしエイジハラスメントという言葉が定義される以前においても、エイジハラスメントに該当する行為は存在していました。
ドラマの影響
2015年に放送された内館牧子原作の「エイジハラスメント」というTVドラマの影響が挙げられます。ある企業に入社した若い女性が若いことを理由に望まない仕事をさせられるなどのエイジハラスメントを受け、逆境に立ち向かっていくというあらすじです。
このドラマで「自分がされていたのはエイジハラスメントだった」と気づいた人も多かったことから、世間に認識が広まっていきました。
インターネット上での議論
インターネット上の書き込みなどでは、以前から「エイジハラスメント」に該当するような、年齢に関する意見や相談が多く見られました。
たとえば職場で同僚が結婚するたびに、「あなたもそろそろ結婚したほうがいい」と言われたり、「そんな年齢なのにこんな簡単なこともできないのか」と言われたりするケースについて、議論が交わされていたのです。
3.エイジハラスメントの具体例
エイジハラスメントのパターンはさまざまです。そのため日常的に交わされている会話や行動が、エイジハラスメントに該当してしまうことも少なくありません。実際の職場で起こりえる、あるいは発生した具体例を紹介します。
年齢を理由にする
相手の年齢を理由にした言動は、エイジハラスメントと受け取られる場合があります。たとえば若年層に対する「若いんだから○○すれば」といった言葉や、「若年を理由に雑用をさせる」などの行為です。
中高年に対しては「その年にもなってまだ○○なのか」などの言葉や、「定年が近い年齢であることを理由に仕事を回さない」などの行為が挙げられます。
また労るつもりで「もう年なんだから無理しないで」などと言った場合も、エイジハラスメントにあたる可能性があるので注意が必要です。
世代を理由にする
世代でひとくくりにした言動も、エイジハラスメントと受け取られる場合があります。たとえば「団塊の世代」や「ゆとり世代」など、相手の世代を持ち出して「これだから○○世代は」などと言うケースです。
これは相手のパーソナリティを無視して、年齢だけで相手の性格や特徴などを勝手に決めつける行為であり、エイジハラスメントに該当します。
新人であることを理由にする
具体的に年齢を指す言動ではなくても、「新人=若い」という意識からの言動もエイジハラスメントと受け取られる場合があります。たとえば「新人は何でも許されていいよね」といった言葉や、「新人という理由で雑用をさせられる」などの行為です。
また理不尽な業務を押し付けると、パワーハラスメントと取られてしまう恐れもあります。
役職を理由にする
年齢と役職を引き合いに出す言動も、エイジハラスメントと受け取られる場合があります。たとえば「○歳なのにまだ平社員なのか」などの言葉や、「役職についていないことを理由に仕事を回さない」などの行為です。
「○歳で役職についている人は優秀な人、ついていない人は仕事ができない人」といった勝手な判断もエイジハラスメントに該当する恐れがあります。
4.エイジハラスメントが起こる原因
エイジハラスメントを未然に防ぐためには、発生の原因を知ることが重要です。発生原因はさまざまですが、社員の認識不足や、社内制度などの整備不足が挙げられます。とくに社員の意識が向上しないと、「何気なく言った言葉がエイジハラスメントになる」という状況が続いてしまうでしょう。
コミュニケーション不足
職場のコミュニケーションが不足していた場合には、何気ない一言が「エイジハラスメント」として受け取られてしまう可能性があります。普段から世代や年齢が異なる相手とコミュニケーションを取っていないと、自分と相手の間で生じる「ジェネレーションギャップ」を理解できないからです。
あらかじめ相手の価値観や考えを尊重していれば、エイジハラスメントと受け取られるような言動を避けられるでしょう。
ハラスメントに対する認識の甘さ
そもそもハラスメント自体に対する認識が甘い可能性があります。たとえば「この程度の言動はハラスメントにあたらない」や「自分が言われても嫌だと感じないのだから、相手も嫌だと感じないだろう」といった考え方が挙げられるでしょう。
ハラスメントはあくまでも「受け取る側がどう感じるか」によって認定されるものです。まずは自分と相手が同じ価値観を持っているという認識から改め、言動を起こす前に相手の立場や目線になって考えてみましょう。
ハラスメント対策のための制度整備がなされていない
ハラスメントを未然に防ぐための環境や制度などの整備が遅れていることも理由のひとつです。以下のような取り組みが実施されていない場合、整備が遅れていることが考えられます。
- 経営層からのメッセージ発信
- ハラスメントに関する啓発や研修
- 相談窓口の設置
- 就業規則への記載
- ハラスメントを行った場合の罰則
5.エイジハラスメントを防止する重要性
エイジハラスメントが発生すると職場の雰囲気が損なわれ、社員のモチベーションや生産性の低下、最悪の場合は社員の離職につながるでしょう。放置してしまうと「ハラスメントが行われる企業」と見なされて自社のイメージを下げてしまうおそれがあります。
訴訟リスクがあるため
エイジハラスメントを受けた社員が、精神的または肉体的被害に対する賠償を求めて、上司や自社を訴えるケースも珍しくありません。提訴された企業は以下のような法的責任が追及されます。
- 民法第715条:使用者責任
- 民法709条:職場環境配慮義務違反の不法行為責任
- 民法415条:職場環境配慮義務違反の債務不履行責任
人材がいなくなるため
エイジハラスメントを放置すると、優秀な人材を失いかねません。ハラスメントを受けた社員のメンタルヘルスに不調が生じて、休職や退職を選んでしまう可能性があるからです。休職や退職までに至らないとしても、モチベーションは大幅に低下するでしょう。
また問題解決を担当した管理職も疲れ果てて離職するというケースもあるようです。
企業イメージが低下するため
エイジハラスメントの発生が万一メディアなどに公表された場合には、実際の事実関係はともかく、大幅な企業イメージの低下につながります。最近ではSNSや口コミサイトなどで簡単に公表されてしまう可能性もあるのです。
ハラスメントが発生した企業というイメージがついてしまうと、採用活動などにも大きな影響を及ぼします。
6.エイジハラスメントの対処法
以前は問題にされなかった言動や行動も、最近ではエイジハラスメントとして問題とされるケースがあります。エイジハラスメントは未然に防ぐことも大事ですが、起きてしまった場合にどのように対処するのかも重要です。
起こさないための予防策
エイジハラスメントは社内であればどこでも発生する可能性があります。定年の延長などが進められている現代において、これからも注目される問題でしょう。エイジハラスメントを予防するために、社内での認知度を向上させる研修や社内アンケートなどの対策が考えられます。
研修を行う
エイジハラスメントの基礎知識だけでなく、実際の事例などを学べる研修を開催しましょう。何気ない会話の中にもハラスメントとなりうる言動が潜んでおり、エイジハラスメントはだれもが被害者にも加害者にもなってしまう可能性があるからです。
またエイジハラスメントに対する社内全体の意識を向上させなければなりません。一般社員や人事部や総務部などの実際の対策を担う部署だけでなく、経営者層を含む全社員を研修の対象としましょう。
社内体制を整備する
エイジハラスメントの発生時に、いち早く察知して対処するためには社内体制の整備も欠かせません。「社内規則の中にハラスメントに対する対策や罰則などを具体的に盛り込む」あるいは「内部通報制度の導入」なども効果的といえます。
消費者庁が公表した「平成 28 年度民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書」では、設置した通報窓口に寄せられた通報でもっとも多かったのが「職場環境を害する行為(パワハラ、セクハラなど)」だったからです。
先に挙げた規則や内部通報制度に加えて、ハラスメントに対する方針の周知や社内研修、相談窓口と担当者の設置などの体制整備も行いましょう。
社内アンケートをとる
ハラスメントを発見する方法として、社内アンケートの実施も有効な手段のひとつ。エイジハラスメントは実際には顕在化しない場合が多いとも言われているからです。
匿名性が高いアンケート調査を実施すれば、個別の事例としてではなく組織に内在する課題を洗い出せ、ハラスメントが発生する風土の改善につなげることも可能です。社員から直接情報を得られるので対策の方向性も明確になります。
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起きてしまった際の対処法
エイジハラスメントが起きてしまった場合、慎重に対応する必要があります。ハラスメントに対しては、どちらかが一方的に悪いことが考えにくいケースが多いからです。まずは情報収集を十分に行い、社内で対処するか外部機関へ相談するかを検討しましょう。
聞き取りを行う
エイジハラスメントが起こった場合には、まずはじめに事実関係を把握するために聞き取りを行います。聞き取りのステップは以下のとおりです。
- 被害者からのヒアリング
- 加害者からのヒアリング
- 目撃者や関係者のヒアリング
- 言い分が食い違う場合は再ヒアリング
この中で注意しなければならないのは、「加害者へのヒアリングを行う際には必ず被害者の同意を得る」こと。安易に加害者にヒアリングを行うと、加害者と被害者双方の人間関係がさらに悪化する可能性があるためです。
社内相談窓口に相談する
社内に相談窓口を設置しておけば、エイジハラスメントを受けた社員が相談できるので、早期発見と早期対処が可能になります。社内窓口の担当者にはハラスメントに対する知識と対処方法、相談相手に対する対応などを研修しておきましょう。
人事部や労務部などに設置すると、配置転換や懲戒処分などの対処がスムーズになります。
外部機関を活用する
社員が相談しやすくするために、外部専門機関の相談窓口を設置する方法もあります。社内相談窓口はエイジハラスメントの予防に効果的ですが、「相談したら上司に伝わるのではないか」などの不安から、社員が相談に踏み切れないケースがあるからです。
そのため社内に相談窓口を置かず、弁護士や社会保険労務士などの第三者機関へ相談窓口を委託する企業も少なくありません。
7.エイジハラスメントの相談機関
相談窓口の設置を進めていても、設置前にエイジハラスメントを受けてしまう可能性もあります。そのような社員には公的機関への相談を提案してみましょう。
総合労働相談コーナー
各都道府県の労働局や労働基準監督署内などに設置されている窓口。厚生労働省が所管していて、ハラスメントをはじめ、解雇や不当労働などさまざまな労働問題の相談を受け付けています。
予約不要なうえに無料で相談でき、場合によっては紛争調整委員会のあっせん制度(弁護士や有識者などの第三者介入による調整)が利用できるのがメリットです。
みんなの人権110番
法務省が所管する「みんなの人権110番」は、各種ハラスメントや人権問題、虐待などに関する相談を受け付ける電話相談窓口。相談電話は「法務局・地方法務局」につながり、法務局職員もしくは人権擁護委員が対応します。
また法務局・地方法務局では、直接来訪による対面相談やインターネットからの相談も受け付けています。
労働相談センター
全国労働組合総連合(全労連)が解説している相談窓口。全国労働組合総連合とは、労働者の権利を守り、よりよい生活の獲得を目的として1989年に発足した全国規模の労働組合組織です。
エイジハラスメントだけではなく、職場における差別や嫌がらせ、不当労働や賃金に関する問題など、労働問題全般に関して電話相談を受け付けています。