ベストオブブリードとは、異なる企業が製造したシステムやアプリを組み合わせて、業務効率やパフォーマンスを最大化する戦略のこと。スイートとの違い、メリットとデメリットなどを解説します。
目次
1.ベストオブブリード(Best of Breed)とは?
ベストオブブリード(Best of Breed)とは、ベンダー(ソフトウェアやアプリの製造元)にこだわらず、システムやアプリなどを組み合わせて利用する戦略のことです。「マルチベンダー」とも呼ばれます。
最適なものをかけあわせて、より最善な組み合わせを作るのが特徴です。たとえば評価管理業務にはA社のシステムを使い、採用管理業務ではB社のシステムを使い、業務ごとに最適なシステムを採用するケースが該当します。
各業務のパフォーマンスを最大化できるため、業務効率や生産性の向上、ひいては売上や利益の増大などももたらすのです。
英語での意味
Best of Breedを直訳すると「最善(Best)を育成する(Breed)」となり、ビジネスシーンでは商品やサービスの選定において「最善の組み合わせ」を意味します。
2.ベストオブブリードの特徴
ベストオブブリードのもっとも大きな特徴は、ベンダーの違いにこだわらず、最適なシステムやアプリかを重視する点。
同じ部門内でも各業務の遂行においてもっとも適したシステムやアプリは異なるので、それらすべてを単一ベンダーの製品で賄うのは難しいでしょう。
賄えたとしても「業務Aには最適だが、業務Bを進めるには機能が足りず使いにくい」といった状況が想定されます。業務効率を最大化するには、システムやアプリをかけ合わせる必要があるのです。
たとえばGoogle Workspaceというサービスは、オンラインストレージ、メール、チャット、ビデオ会議、カレンダー、文書作成などのアプリをセットにして提供。
このうちチャットアプリは、よりファイルの管理と共有がしやすい他社製品(ChatworkやSlackなど)を使うといったケースがベストオブブリードに該当します。
3.ベストオブブリードと比較されるスイート(Suite)とは?
ベストオブブリードの対極の概念に、「スイート(Suite)」があります。スイートとは、単一ベンダーのシステムやアプリで統一すること、あるいはさまざまな機能をもつシステムやアプリをセットにした製品やサービスを指します。
スイートの特徴
スイートを提供しているベンダーは、幅広い分野のソフトウェアやアプリケーションを開発している大手企業に限られます。
たとえばAdobe社は、20ものマーケティングアプリを内包したスイート「Adobe Experience Cloud」を提供。またMicrosoft社は文書作成アプリやオンラインストレージ、メールアプリなどをセットにした「Microsoft Office 365」をスイートとして提供しています。
4.ベストオブブリードのメリット、デメリット
インターネット上でアプリを利用できる「SaaS(サース)」というサービス形態が広がり、ベストオブブリードを実現しやすくなりました。
とはいえベストオブブリードにはメリットだけでなく、デメリットも存在するため、双方を知ってからよく検討する必要があります。
メリット
ベストオブブリードのもっとも大きなメリットは各業務の効率を最大化できること。ここではさらに得られる7つのメリットを解説します。
- 高い柔軟性
- 最先端のテクノロジーが搭載
- セキュリティの強化
- ROIの向上
- システムの入れ替えがかんたん
- ベンダーロックインの回避
- ビジネス成長の可能性
①高い柔軟性
利用できるシステムやアプリの選択肢が広く、組み合わせの柔軟性が高まる点がメリットです。
同じ企業のなかでも、各部門の各業務で利用するシステムやアプリに求める機能や性能は異なります。たとえば財務管理であれば経理や会計に関する機能が必要です。販売管理ならば顧客管理や売上管理などがなくてはなりません。
しかしそれぞれの部門がもっとも使いやすいと感じるシステムやアプリを、同一ベンダーが提供している可能性は低いでしょう。ベストオブブリードを実施すれば、各部門のニーズに適したシステムやアプリを導入するといった柔軟な対応が可能です。
②最先端のテクノロジーが搭載
ベストオブブリードでは、つねに最先端のテクノロジーを搭載したシステムやアプリを利用できます。特定の分野に特化したシステムやアプリは、最先端の技術を早期に取り入れることが多いからです。
そのためベストオブブリードで構築されたシステムは、時代の変化にともなったアップデートが容易になります。
③セキュリティの強化
ネットワークセキュリティにおいても、ベストオブブリードが有効です。複数のソフトを組み合わせると、ベンダーごとのセキュリティ問題を解決しやすくなります。
実際にネットワークセキュリティを専門とするベンダーは多数あり、それぞれが得意とする分野でシステムやアプリを開発しているのです。
- マルウェア(悪意のあるソフトウェア)に対するセキュリティ
- エンドポイント(PCなど末端にあたる機器)のセキュリティ
- ファイアウォール(外部からの不正な通信をブロックする機能)
各分野で新たに判明した脆弱性にも、各ベンダーが迅速確実に対応できるため、高度なセキュリティを維持しやすくなります。
④ROIの向上
ベストオブブリードの導入で、ROI(費用対効果)の向上が期待できます。最適なシステムやアプリを活用すると各業務の効率が最大化できるため、コストに対する利益がアップしやすくなるからです。導入に要した費用も早期に回収できるでしょう。
ROI(投資利益率)とは?【意味をわかりやすく】計算方法
ROIとは「投資収益率」や「投資利益率」のことです。ここではROIの計算方法やメリットとデメリット、最大化する方法などについて解説します。
1.ROI(投資利益率)とは?
ROI(Return On...
⑤システムの入れ替えがかんたん
ベストオブブリードは、個々のソフトウェアを入れ替えが容易です。スイートのようにオールインワンではなく、複数のシステムやアプリを組み合わせているので、あるソフトだけ別のソフトへ入れ替えるといった柔軟な運用が可能となります。
⑥ベンダーロックインの回避
システムを同じベンダーの製品でそろえた場合に、「ベンダーロックイン」といわれる特定のベンダーに依存した状態に陥ってしまいます。ユーザー側の自由度が低下してしまうため、ほかのソフトウェアを容易に利用できなくなるのです。
ベストオブブリードは、複数のベンダーの製品を使いますのでベンダーロックインを回避できます。
⑦ビジネス成長の可能性
ベストオブブリードでは、自社の戦略や規模に合わせて最適な組み合わせを選べるため、ビジネスの成長を促進します。
たとえば従業員が数人ならば、Excelでも十分に評価管理を行えるかもしれません。しかし人数が増えるほどその負担が増大するため、評価管理システムを導入するといった切り替えが必要でしょう。
このようにベストオブブリードならば、組織が大きくなる際の課題や抵抗を減らしつつ、業務効率や生産性を向上し続けていけるため、事業の成長や拡大にもつながります。
デメリット
ベストオブブリードは最適なソフトウェアを寄せ集めるため一貫性がなく、コストや手間がかかるリスクといったデメリットもあります。
- デザインに一貫性がない
- 窓口や保守がベンダー毎に変動
- 投資コストの発生
- 多くの作業工数
①デザインに一貫性がない
異なるベンダーの製品やサービスを取り入れるベストオブブリードでは、システムやアプリなどのデザインに一貫性を出せません。システムやアプリに統一感を持たせて企業としての一体感を出したい場合には向かないでしょう。
②窓口や保守がベンダー毎に変動
システムやアプリに関するトラブルや相談などが生じた場合、各ベンダーと個別にやり取りをしなければなりません。
とくにネットワークの編成や調整、トラブルシューティングなどが複雑化しやすくなります。また複数のシステムやアプリを用いると、互換性の低さがトラブルを引き起こすこともありえるのです。
各ベンダーの窓口や相談先に関する最新情報をまとめる手間や、エンドユーザーである従業員のトレーニングなどの手間もかかるでしょう。
③投資コストの発生
異なるベンダーのシステムやアプリを利用するため、それぞれライセンス料が必要です。金銭的コストだけでなく、ライセンスの管理という手間も生じます。
またネットワークシステムにベストオブブリードを取り入れる場合は、システムやアプリに加えて接続するネットワーク機器の交換なども発生するでしょう。
ベストオブブリードの導入では、結果的に投資コストが増大する可能性があります。
④多くの作業工数
ベンダーが異なるシステムやアプリは、連携が困難な場合があります。
たとえば人事管理に最適なシステムと、経理業務に最適なシステムを選んでも、システム同士が連携できなければ、手動でデータの入出力や受け渡すという工程が増えてしまうでしょう。入力ミスや処理忘れなどのリスクも高まります。
各部門においては業務効率がアップしたとしても、全体の業務効率は低下するといった結果になりかねません。
5.スイート(オールインワン)のメリット、デメリット
スイートとベストオブブリードのどちらを選ぶのかは多くの企業が悩む点であり、今でも議論が絶えません。スイートのメリットとデメリットも把握したうえで検討することが大切です。
メリット
スイートのメリットは、導入時の作業負担が少なく、各アプリの連携の連携が取りやすい点です。また窓口が一本化される点もメリットといえます。
- 導入における負担の軽減
- 連携を前提とした設計
①導入における負担の軽減
スイートは、特定分野の業務遂行に必要なアプリをまとめて提供するうえ、それらを管理するためのプラットフォームまで利用できる場合があります。
そのためひとつのスイートならば、ほかのシステムやアプリを手配する必要がなく、導入後もすぐに利用を開始できるのです。またスイートでは、各アプリの利用料金が単独利用の料金よりも安価に設定されていることも多く、費用面の負担も減らせます。
②連携を前提とした設計
スイートに内包されている各アプリは、連携を前提に設計されているため、互換トラブルが起こる心配がありません。たとえばOffice365ならExcelとAccessが互換しており、一方のアプリで作成したデータベースは、そのままもう一方へインポート可能です。
扱えるデータ形式も統一されているため、部署間であってもスムーズにデータをやり取りできます。
デメリット
スイートのデメリットは、導入価格が高めでありながら、機能は平均的な点です。また単一ベンダーの製品へ依存しやすいというデメリットもあります。
- 導入コストが高額
- 統一製品への依存
- 各機能の質が平均的
- 切り替えが困難
①導入コストが高額
ベンダーが提供するスイートは、複数のアプリをパッケージ化しているため、導入に必要な初期費用が高額になりがちです。「自社では使わない」アプリが含まれていても、パッケージ料金を払わなければならず、企業によっては割高感を覚えるかもしれません。
②統一製品への依存
一度スイートを導入してしまうと、その製品への依存度が高まります。他社製品へ切り替えるにも、手間とコストがかかるからです。そのため使い勝手が下がったり、機能が不足したりしても、そのままスイートを使い続けるケースも少なくありません。
スイートへの依存度が高まると、ベンダーがそのサービスやサポートの提供を終了したときに、多くの業務が停止するリスクがあります。
またスイートの不便さを解消するために、従業員がシャドーIT(企業が使用許可をしていないデバイスや外部サービス)を使うかもしれません。システム管理者が把握できないセキュリティリスクが生じてしまう恐れもあります。
③各機能の質が平均的
スイートに含まれるアプリの多くは、より多くの業務に対応するため、平均的な機能が搭載されています。そのため業務の専門性によってはアプリの機能が不足し、スイートに含まれるでは最大のパフォーマンスを出せない場合もあるのです。
専門性の高い業務の場合はスイートにこだわらず、その分野に特化したベンダーのアプリを併用するのも検討しましょう。
④切り替えが困難
オールインワンのスイートを一度導入してしまうと、アプリの切り替えが困難になります。
スイートのアプリに物足りなさを感じて、そのうちのひとつだけを別ベンダーのアプリと差し替えた場合、業務プロセスに余計な工程が発生し、効率を下げる恐れがあるからです。