ゆでガエル理論とは、変化に気がつかないことが致命傷になることです。ここでは、ゆでガエル理論について解説します。
目次
1.ゆでガエル理論とは?
ゆでガエル理論とは、ゆっくりとした環境の変化に気がつかず、自分が気付かないうちに致命的なダメージを受けることです。
たとえば、
- 売上が低迷してきても対策を先延ばしにした結果、取返しのつかない経営状態に陥った
- 陳腐化したスキルを放置した結果、周りに追い越されてポジションを失った
などのことを指します。
なぜゆでガエルなのか
なぜゆでガエルが用いられるのか。
それは、
- カエルをいきなり熱湯に入れれば驚いて逃げ出す
- カエルを冷たい水に入れ徐々に温度を上げていくと、タイミングを逸して熱湯でゆで上がり死んでしまう
ことを引用しているからです。
科学的根拠はあるのか
ゆでガエル理論に科学的根拠はありません。実際にカエルを使って実験すれば、熱湯になる前にカエルは飛び出して逃げます。
それでもゆでガエル理論が広く認知されている理由は、たとえ話であっても人間の陥りやすい傾向を見事に語っているからです。
2.ゆでガエル理論に説得力がある理由
ゆでガエル理論に説得力があるのには理由があります。ここでは、説得力がある理由を3つあげて簡単に解説します。
現状維持を好む
ゆでガエル理論に説得力がある1つ目の理由は、現状維持を好むという人の特性を理解しやすいことです。行動経済学では、人は現状維持を好む傾向があることを、現状維持バイアスと呼んでいます。
有意義・有益な変化であったとしても、
- 新しいことを受け入れることへの抵抗
- 現状や過去の成功体験への固執
によって、人は変わることを拒否しがちだからです。
大事なことを後回しにしてしまう癖がある
ゆでガエル理論に説得力がある2つ目の理由は、人には大事なことを後回しにしてしまう癖があることわかりやすく説明していることです。
- いつか取り組もう
- もう少し後で取り掛かろう
- 今すぐに取り掛からなくてもいいだろう
など、人はやるべきことが大事であればあるほど、そこから逃げる傾向があります。先延ばしにした結果、取返しのつかないことになるのがゆでガエル理論です。
緩い変化に対応できない
ゆでガエル理論に説得力がある3つ目の理由は、人は緩い変化に対応できないことを端的に示していることです。人は、ゆっくり迫ってくる危機や変化に対しては、
- 危機や変化に気が付かない
- 危機や変化に気が付いても対応を急がない
といった傾向があります。のんびりしているうちに緩い変化が積み重なり、大きな波となって襲ってくることになります。
3.ビジネスシーンにおけるゆでガエル理論の例
ビジネスシーンにおけるゆでガエル理論の例があります。ここでは、4つの例と共に関連用語もあわせて解説します。
成功体験から抜け出せない経営者
ビジネスシーンにおけるゆでガエル理論の1つ目の例は、成功体験から抜け出せない経営者の例です。ひとつのビジネスモデルで成功を納めた企業であっても、そのビジネスモデルが未来永劫利益をもたしてくれるとは限りません。
顧客から飽きられても、経営者が過去の成功体験に固執してリニューアル程度で済ませるならば、ゆでガエルのように瀕死状態に陥るでしょう。
問題を先送りする責任者
ビジネスシーンにおけるゆでガエル理論の2つ目の例は、問題を先送りする責任者の例です。責任者が問題を先送りする背景には、
- 責任逃れ
- 結論を出すまでの時間稼ぎ
- 意思決定を他人に委ねる
といったことがあります。このような態度で戦略的な事業展開にブレーキをかかってしまうため、企業はゆでガエル状態に陥ります。
脱年功序列に危機感を覚えない中高年労働者
ビジネスシーンにおけるゆでガエル理論の3つ目の例は、脱年功序列に危機感を覚えない中高年労働者の例です。
- 年功序列
- 終身雇用
といった日本型雇用に胡坐をかいている中高年労働者は、ゆでガエルになりがちです。自分は会社で働き続けられるといった安心感からスキルアップを怠れば、会社のお荷物的存在となるでしょう。
イノベーションを軽視する経営者
ビジネスシーンにおけるゆでガエル理論の4つ目の例は、イノベーションを軽視する経営者の例です。
- 新規軸としての事業構築
- 新たな価値の創造
といったイノベーションに取り組まず、自社の製品をより高性能なものにすることのみに固執する経営者は、自分でも気が付かないうちにゆでガエルになってしまうことがあります。
【関連用語】ゆでガエル世代
関連用語に、ゆでガエル世代があります。ゆでガエル世代とは、1957~1966年生まれの男性を示す言葉です。
- 高度経済成長
- バブル経済
などの経済成長に甘んじていた彼らは、
- バブル崩壊
- リーマンショック
といった危機を経験してもなお、安泰を信じていました。しかし、成果報酬制度などの導入により、今、厳しい状況に追い込まれています。
4.ゆでガエル理論に陥らないためにすべきこと
ゆでガエル理論に陥らないためにすべきこととして、ハーバード大学ビジネススクールのジョン・コッター名誉教授が提唱した「変革の8段階のプロセス」について解説します。
危機意識を持つ
「変革の8段階のプロセス」の1つ目のプロセスは、危機意識を持つことです。ゆでガエルにならないためには、従業員一人ひとりが
- 自分の仕事
- チームとしての成果
- 企業の将来
などに対して危機意識を持って取り組むことです。
従業員の意識付けをしっかりと行わないと、その後の変革プロセスに歪みが生じかねません。
チーム作りを行う
「変革の8段階のプロセス」の2つ目のプロセスは、チーム作りを行うことです。チーム作りに際しては、変革を確実に実行に移せる社員を軸に設定します。軸となる社員は、
- 危機意識
- リーダーシップ
- 広い人脈
- 信頼
- 権限
を持った人物が望ましいとされています。
また、チームメンバーにも、変革を恐れない人物を集めることが鍵になります。
ビジョンを考える
「変革の8段階のプロセス」の3つ目のプロセスは、ビジョンを考えることです。ビジョンを考えることは、変革への推進力になります。
ぬるま湯につかり続けることなく確実な変革を遂げるためにも、
- 意義や目的、実現可能性などを兼ね揃えたビジョンを策定する
- ビジョンを実現するための戦略を考案する
ことが重要です。
ビジョンの周知徹底を行う
「変革の8段階のプロセス」の4つ目のプロセスは、ビジョンの周知徹底を行うことです。変革を行うには、
- ビジョン
- 意義
- 戦略
などを従業員と共有する必要があります。
そのため、ただ単に変革の概要を説明するだけでなく、
- 理解
- 共感
が得られるよう継続的で丁寧なコミュニケーションが求められます。
社員の自発を促す
「変革の8段階のプロセス」の5つ目のプロセスは、社員の自発を促すことです。変革をスムーズに進めるためには、
- 社員の積極的な行動
- 社員の自発的なアイデア
が不可欠です。
これらを阻む、
- 慣行
- システム
- 組織構造
などを徹底的に除去することで、社員がお湯の中から勇気を持って自ら飛び出し、新しい世界を切り開けるよう促します。
短期的成果を実現させる
「変革の8段階のプロセス」の6つ目のプロセスは、短期的成果を実現させることです。人は、目の前にある小さな目標がクリアできれば、次の段階にある新たな目標へ進めます。
最終目標に到達するためにも、短期的目標を設定して小さな成功や成果を積み重ねていきます。また、成果や貢献などに応じた報酬の設定も重要です。
さらなる変革を推進する
「変革の8段階のプロセス」の7つ目のプロセスは、さらなる変革を推進することです。短期的成果が積み重なってきたら、得られた成果をもとにさらなる改革を進めていきます。
たとえば、
- システムの変更
- 組織の再構築
- 制度改正
- 新たな人材の採用
- インセンティブの支給
- 能力開発
などを積極的な改革を展開していきます。
新しい方法を企業文化に定着させる
「変革の8段階のプロセス」の8つ目のプロセスは、新しい方法を企業文化に定着させることです。成功の集大成は、企業文化として定着させていかなければなりません。
企業文化を変えることは、非常に難しいことです。しかし、変革プロセスの過程で得た新しい方法を企業文化に取り込めば、
- 現状に甘んじない企業
- 変化を恐れない企業
が誕生します。
5.新型コロナウイルスとゆでガエル理論の関係
新型コロナウイルスとゆでガエル理論には、ある関係性があります。ここでは、両者の関係について解説します。
デジタル経済社会化への移行
新型コロナウイルスとゆでガエル理論のひとつの関係は、デジタル経済社会化への移行です。従来の日本は、ぬるま湯につかり続けることでデジタル化への移行を後回しにしがちでした。
しかし、新型コロナウイルス感染症の広がりでテレワークなどの働き方改革が一気に進み、デジタル化社会へ急速に移行せざるを得なくなりました。
対面サービスのオンライン化
新型コロナウイルスとゆでガエル理論のふたつ目の関係は、対面サービスのオンライン化です。密を避け感染を防ぐために、対面サービスが次々とオンラインサービスに切り替わっています。
病院内の院内感染を防ぐためのオンライン診断は、コロナ禍があったからこその進化であり、ゆでガエルにならずに熱湯から飛び出した例のひとつです。
6.ゆでガエル理論を学べる書籍
ゆでガエル理論を学べる書籍があります。ここでは、
- 危機感なき茹でガエル日本
- 「ゆでガエル現象」への警鐘
を紹介します。
『危機感なき茹でガエル日本』
「危機感なき茹でガエル日本」は、小林喜光の監修、経済同友会著による書籍です。副題は、「過去の延長線上に未来はない」とあり、危機意識の希薄な日本に対して、経営者集団である経済同友会がどのように難局を乗り越えていくかを指南してくれます。
日本が知らず知らずのうちにゆでガエルになっていた現状をさまざまな角度から分析した良書です。
『「ゆでガエル現象」への警鐘』
「ゆでガエル現象」への警鐘は、中桐有道著の書籍です。
- 「ゆでガエル現象」とは何か
- どのような背景を持っているか
- 現象を止めるにはどのような対策があるのか
などを具体的に解説してくれます。
- マーケティング
- マネージメント
についても言及されているのでビジネスマン必見の一冊と言えるでしょう。