CAGRとは「年平均成長率」のことで、複数年にわたる成長率から、1年当たりの幾何平均を求めたものです。株取引の際などに投資先の将来性を見る判断材料のひとつとして使われます。
目次
1.CAGRとは?
CAGR(年平均成長率)とは、企業の複数年にわたる成長率から1年当たりの幾何平均を求めたものです。Compound Annual Growth Rate (複利計算・年率・成長率)の略で、ビジネスでは、企業の業績を知るため、複数年にわたり複利計算式で見ることが基本です。CAGRは「一定の期間で平均どのくらい成長しているか」を判断材料にする際に有効な手段です。
2.CAGRを算出する意義
企業のCAGRは、複数年の売上高から成長率の平均を求めるものです。同じ企業でもCAGRを求める年数を変えてみると、
- 過去5年のCAGRは直近の経営陣の力が分かる
- 過去10年のCAGRは会社の本質的な力が分かる
というように多角的に見ることができるのです。
これまでの経営を示すための指標
CAGRを見ると、毎年平均何%ずつ成長してきたかが分かるため、これまでの経営がどのように行われていたのかが明らかになるのです。また、毎年同じ率で成長しようとすると、今後の予想もつけやすくなります。
CAGRのみで投資判断を行うのは難しいですが、ひとつの指標にすることは可能です。
複利とは?
複利とは複利法によって計算される利率や利子のことで、CAGRは複利をもとに成長率の平均を求めます。元金のみならず、元金に付いた利子にもまた利子が付いていくという考え方です。
複利に対する言葉は単利で、元金のみに対し利息が付くというものです。年数を経るごとに、複利と単利とでは大きな差が出ます。
CAGRの計算式
CAGRの計算式は、(N年度の売上/初年度の売上)^{1/(N年-初年)}-1です。実際に数字を当てはめてみましょう。
初年度(1年目)売上が100、5年目の売上が200だとすると(200/100)^{1/(5-1)}-1=18.92%となり、この5年間でのCAGRは18.92%となります。
3.CAGRを簡単に計算する方法
CAGRの計算式を使うと、数値を当てはめれば年度を売上を手早く算出できます。CAGRは、一般的に数値が大きいほど成長率が高いことを示すのですが、その成長が長期的か短期的かをしっかり見極める必要があるのです。
Excelで計算する手順
CAGRの数値を求める際、エクセルを使えばすぐに算出できます。エクセルはマイクロソフト社が開発・販売している表計算ソフトで、事務系では必須のアイテムとなり、実際にデスクワーク従事者の多くが利用しているのです。
まずExcelに求めたい年度と売上高の入った表を作成し、その後、数式を準備します。数式は、=(N年度の売上/初年度の売上)^{1/(N年-初年)}-1。
そして「N年度の売上」「初年度の売上」「N年」「初年」の部分に、実際の数値が入っているセル名を置き換えるのです。実際に数字を入力してみると理解しやすいでしょう。
Googleスプレッドシートで計算する手順
エクセルは非常に優れた表計算ソフトですが、有償ソフトであるためバージョンアップや新規導入の際、費用がかかってしまう場合も。エクセルの代わりにGoogle社の「Googleスプレッドシート」を使うこともで可能です。
これはオンラインで提供されている表計算ソフトで、基本的に操作はExcelとほぼ同じで、Excelのように関数を入れた計算やグラフの作成もできます。また、ダウンロードやインストールは必要なく、Googleアカウントがあれば利用できるのです。
同じGoogle提供のブラウザ「Chrome」の拡張機能を使うと、Excelファイルを開いて編集したり保存したりすることもできます。GoogleスプレッドシートでCAGRを算出する際も、操作はExcelのときとほぼ同じです。
CAGRの注意点
CAGRを見ると、企業の将来をある程度予測できます。しかし、業績が安定せず好不調にムラがある企業の将来を把握するのは困難です。従って、下記のような企業の今後を見るために役立てるとよいでしょう。
- 比較的業績が安定している企業
- 毎年収益を増やしている、成長力の高いベンチャー企業
あくまでもひとつの指標として活用する
CAGRは企業の成長率を見るために有効な指標ですが、必ずしも「投資に成功する」といった予測が可能というわけではありません。過去の業績がよく、株主に配当金を毎年出していても、翌年もそうであるとは限らないからです。
またそのときの経営判断が影響するため、業績が上がっていても株主への増配につながらないこともあります。
4.CAGRと相性の良い2つの指標
CAGRは企業の株式投資の際に重要な指標ですが、他にも併せて使いたい2つの指標があります。
- PER(株価収益率)
- PBR(株価純資産倍率)
CAGRと相性のよい、これらについて見ていきましょう。
PERでは割安・割高が判断できる
PERとは、Price Earnings Ratioの略で株価収益率のこと。「現在の株価÷1株当たりの収益」で算出できます。1株当たり収益の何倍の値段が付いているかを表し、算出された数値は、株価が割安か割高かを示すのです。
- 株価が500円で1株当たりの利益が50円ならPERは10倍
- 株価が500円で1株当たりの利益が25円ならPERは20倍
PERの数値が低いほうが、株価が割安だと判断できます。
PBRでは株価の割安感が判断できる
PBRとは、Price Book-value Ratioの略で株価純資産倍率のこと。「現在の株価÷1株当たりの純資産で算出できます。1株当たり純資産の何倍の値段が付いているかを表し、算出された数値は、株価の割安感を示すのです。
- 株価が500円で1株当たりの純資産が400円ならPBRは1.25倍
- 株価が500円で1株当たりの純資産が500円ならPBRは1倍
PBRの倍率が低いほうが割安だと判断できます。
複数の指標を組み合わせることが大切
投資を考える際、企業価値を判断するためには、CAGRだけでなくPERやPBRも利用するとよいでしょう。1つだけの指標だけに頼るのではなく複数の指標を組み合わせて総合的に判断する必要があるからです。
また、CAGRひとつ取ってみても何年分の指標を見るかで数値が変わりますし、5年分と10年分では数値の持つ意味合いも異なるもの。さまざまなパターンに当てはめて計算した数値や、複数の指標を見るなど多角的な判断が必要です。
5.【具体例】CAGRは成長分野を示す指標として使われやすい
CAGRは成長している市場や産業を示すときによく用いられます。過去の業績を見ることで数年先のCAGRを試算し、市場や産業の成長を予測して投資に役立てられるのです。ここでは、ニュース記事などからCAGRの具体例について見ていきましょう。
具体例①第3のプラットフォーム市場
調査会社のIDC Japanは、日本国内の第3のプラットフォーム市場に関して、下記の予測を発表しました。
- 2018~2023年のCAGRは5.5%で推移する
- 2023年の市場規模は19兆4817億円に達する
特に企業市場の場では、クラウドサービスの利用が進み、デジタルトランスフォーメーションへの投資が増えていくと考えられます。今後も高い成長率で推移すると見られており、2018~2023年の間のCAGRは9.5%と予測されているのです。
具体例②PaaS市場
2015年に前年比48.1%増の648億円となった国内のPaaS(Platform as a Service)市場について、IDC Japanは2016年に下記の予測を出しました。
- 2015~2020年のCAGRは22.1%となる
- 2020年の市場規模は1761億円に達する
企業のクラウドデータサービスの利用が広がるなどその後もPaaSの活用が拡大すると予想し、非常に高いCAGRを継続していくとしました。
具体例③ウェアラブルデバイス市場
IDC Japanが、ウェアラブルデバイスの世界市場について2018年に出した予測は下記の通りで、ここではCAGRが2ケタ台の高い成長を続けるとしています。
- 2018年から2022年までのCAGRは13.4%
- 出荷台数は2017年に1億3290万台だったものが2022年に2億1940万台へ
一方、日本国内の市場に関しては、世界市場に比べれば控え目ながらも高い成長になるとの予測になりました。
- CAGRは5.5%
- 出荷台数は2022年に110万台