「カーボンニュートラル」とは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること。今回は概要や日本の取り組みを詳しく解説します。
目次
1.カーボンニュートラルとは?
カーボンニュートラルとは、二酸化炭素やメタン、フロンガスといった温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること。2015年のパリ協定にて、地球規模の課題である気候変動問題の解決に向けた世界共通の長期目標です。
具体的には以下の2項目が挙げられています。
- 世界的な平均気温上昇を産業革命以前の2℃以下に保つ(1.5℃に抑える努力を追求する)
- 今世紀後半に人為的に発生する温室効果ガス排出量と吸収源による除去量との間の均衡させる
現在、日本をはじめ世界120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」を目指して取り組みを進めています。
2.カーボンニュートラルの概要
カーボンニュートラルの理解を深めるためにも、定義や目的、問題点などを知っていきましょう。ここではカーボンニュートラルの概要を説明します。
「カーボン」「ニュートラル」の意味とは?
カーボンニュートラルは、「カーボン」と「ニュートラル」の2つを合わせた造語です。ここではそれぞれの意味を説明します。
カーボンとは?
カーボン(Carbon)とは、二酸化炭素を構成する「炭素」を指す英単語で、炭素の元素記号は「C」です。
炭素は地球上で14番目に多く存在する原子とされており、地上では主に炭酸ガス、地中では主に岩石や石炭、石油、生物中ではさまざまな有機物の形で存在しています。化学的にも極めて安定して使い勝手がよいのです。
導電性を持つと判明してからさまざまな分野で使われるようになりました。近年、半導体や電子部品の製造段階において欠かせない材料の1つです。
ニュートラルとは?
ニュートラル(Neutral)とは、いずれにも偏らない様子を指す英語。「中立的」や「中間的」「中性的」などと訳され、カーボンニュートラルでは、二酸化炭素を含む温室効果ガスの排出量と吸収量の偏りをなくす、つまり均衡を保つことを意味するのです。
なお自動車の運転や機械の操作でもニュートラルという語を使う場合があります。その場合は動力電源装置と動力が切り離された状態や、ギアがかみ合わない状態、あるいは動力が伝達されない状態を指すのです。
環境省のカーボンニュートラルの定義とは?
環境省はカーボンニュートラルを、「温室効果ガスを削減あるいは吸収し、すべての総排出量をほかで埋め合わせること」と定義しています。
現在の排出量を削減あるいは吸収する取り組みを実施しても上回ってしまった総排出量については、ほかの取り組みを通して削減あるいは吸収することを目指しているのです。
このカーボンニュートラルへの取り組みは、事業者だけが行うわけではありません。市民や企業、NPOやNGO、自治体や政府なども主体的に取り組むべきとされています。
カーボンニュートラルを目指す目的とは?
目的は「気候変動を回避すること」。世界の平均気温は年々上昇しており、工業化以前(1850から1900年)と比べると、2017年時点で約1℃高くなっています。
また近年、国内外で発生している豪雨や猛暑などの気象災害でも、平均気温上昇による気候変動が深く関係していると考えられているのです。
このような深刻な気候変動の原因のひとつが温室効果ガスであるため、各国でカーボンニュートラルへの取り組みが推進されています。
いつまでに、誰がカーボンニュートラルを実現する?
2021年1月時点、パリ協定にて「2050年まで」にカーボンニュートラルを実現すると「日本を含む124か国と1地域(中国は2060年までの実現を表明)」が宣言しています。
なぜ2050年に設定したのでしょう。
「国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」による「IPCC1.5度特別報告書」という資料内にあった「産業革命以降の温度上昇を1.5℃以内に抑えるには、2050年近辺までのカーボンニュートラルが必要」という報告があったからです。
カーボンニュートラルの問題点
これからの地球環境を考えるうえで不可欠なカーボンニュートラルには、重大な問題が2つあります。それは「排出量をどうおさえるか」と「再生成の担保」です。
排出量をどう抑えるか
排出量の削減では、化石燃料の使用量をいかに抑えるかが課題となります。排出量を抑えるために植物由来の燃料を作ったとしても、製造から輸送の過程で少しでも化石燃料を使えば排出量が上回ってしまうからです。
そのため植物の栽培や伐採から輸送までの全過程にて、環境負荷のない再生可能エネルギーを導入するという方法が挙げられており、各国で研究が進められています。
再生性の担保
大気中の二酸化炭素を削減するためには、「再生性の担保」にも取り組まねばなりません。再生性とは、植物由来製品の燃焼や分解で発生する二酸化炭素を早く確実に地中に埋め戻すこと。
大気中に二酸化炭素を長時間滞留させてしまうと、温暖化を促進しかねません。再生性の実現には、広大な土地で二酸化炭素の吸収力が高い植物を栽培する方法が挙げられます。
3.日本のカーボンニュートラルに対する取り組み
カーボンニュートラルを実現するには、事業者だけでなく個人でも主体的に取り組まねばなりません。そのためには実施されている取り組みを知るとよいでしょう。ここからは日本のカーボンニュートラルに対する8つの取り組みを、説明します。
日本の2050年カーボンニュートラル宣言とは?
2020年10月の臨時国会にて、当時の菅首相が所信表明演説のなかで「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と宣言しました。「全体としてゼロ」の意味するところは、「排出量から削減量と吸収量を差し引いた合計をゼロにする」こと。
2015年に採択されたパリ協定は、5年後にあたる2020年から取り組みが本格化されます。そのため菅首相はこのタイミングに合わせて「これから日本はカーボンニュートラルへ主体的に取り組む」という宣言を出したと考えられるのです。
日本のカーボンニュートラルの実現に向けた8つの取り組み
2050年までのカーボンニュートラルの実現に向けて、日本は14の取り組みを実施しています。取り組みの分野は、エネルギー関連の開発だけでなく、街づくりや金融などさまざまです。ここでは主要な8つの取り組みについて解説します。
- 脱炭素化事業支援機構(仮称)
- 改正地球温暖化対策推進法 成立
- グリーン成長戦略
- ゼロカーボンシティの表明から実現へ
- 脱炭素経営への取組
- 脱炭素ライフスタイルへの転換
- サステナブルファッション
- ゼロカーボン・ドライブ
①脱炭素化事業支援機構(仮称)
脱炭素事業へ出資する新たな出資ファンドのこと。2022年3月現在、環境省が創設を検討しています。目的は、脱炭素事業に意欲的に取り組む民間事業者などを集中的かつ重点的に支援することです。
2021年12月には200億円の産業投資計画が国会へ提出され、まずは1,000億円規模の脱炭素事業の実現を目指しています。またこの取り組みでは、脱炭素投資という新たなビジネスモデルの構築や活性化も期待されているのです。
②改正地球温暖化対策推進法 成立
1998年に成立した「地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)」の改正法のこと。
温対法では、事業者に対して温室効果ガス排出量の報告や公表を義務とし、地方自治体に対して温室効果ガス削減や再生可能エネルギー導入などの目標の策定を義務としています。
温対法は成立後に7回改正されており、直近の改正は2021年。改正法では、事業者に対して排出量情報のデジタル化とオープンデータ化を推進しています。
③グリーン成長戦略
再生可能エネルギーといった「グリーンエネルギー」を導入および拡大し、このエネルギーシフト活動を経済成長にもつなげていく戦略のこと。2020年12月に「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」にて報告されました。
新興国を中心としてエネルギー需要が増加するなか、今後の日本のグリーン成長は日本再生戦略でも重要な戦略の柱のひとつと位置付けられているのです。また今後も取り組みを進めていくことが期待されています。
④ゼロカーボンシティの表明から実現へ
2050年までに二酸化炭素排出量「実質ゼロ」を目指す自治体のこと。環境省では、ゼロカーボンシティを宣言する地方自治体への支援事業を進めており、情報基盤の整備や計画策定の支援、設備などの導入整備をサポートしています。
2020年に環境省が全国の自治体へ呼びかけ、2021年8月末には全国で400を超える地方公共団体が名乗りをあげました。
一部の自治体ではすでに取り組みを開始しています。太陽光発電やごみの減量、電気自動車の普及促進など、自治体によって取り組むテーマはさまざまです。
⑤脱炭素経営への取組
カーボンニュートラルの考え方を反映させた企業経営のこと。製造や物流などで生じる二酸化炭素も脱炭素化に含まれるため、ほぼすべての事業者が対象と考えられ、今では金融機関や投資家からの重要な投資判断の基準にもなっているのです。
環境省はパリ協定でTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に沿って、SBT(中長期的な削減目標設)やRE100(再生可能エネルギーへの転換目標)のための取り組みをサポートしています。
⑥脱炭素ライフスタイルへの転換
気候変動への影響を抑えた持続可能なライフスタイルのこと。ライフスタイルに起因する温室効果ガスの排出量は、日本全体の排出量の6割以上を占めるともいわれています。
そのため環境省と地方自治体が連携し、「食事、移動、住居」で排出される二酸化炭素の削減を目指した生活様式を促進しているのです。すでに取り組みが開始されており、食品ロスの削減や断熱住居の推進、テレワークの制度化などが実現されています。
⑦サステナブルファッション
持続可能(Sustainable)な衣類(Fashion)のこと。衣服の生産から着用、廃棄の一連の流れにおいて、自然環境に配慮する取り組みを指します。
衣類の原料調達や製造で、排出される二酸化炭素は年間9万キロトン。さらに年間約48万トンもの衣服がゴミとして焼却され、そこでも二酸化炭素が排出されるのです。
環境省では状況を改善するため、サステナブルファッションの普及拡大に取り組み、脱酸素素材や廃棄製品を再利用したリサイクル繊維の使用、アップサイクル(中古品の元の形状を生かしつつ技術やデザインによって価値を高めること)などを推進しています。
⑧ゼロカーボン・ドライブ(略称:ゼロドラ)
自動車の脱炭素化を目指す取り組み。目的は走行時に排出される二酸化炭素をゼロにすること。具体的には以下の電力や自動車の活用を推奨しています。
- 再生可能エネルギー
- 電気自動車(EV)
- プラグインハイブリッド車(PHEV)
- 燃料電池自動車(FCV)
環境省ではゼロカーボン・ドライブに関する支援として、再エネ車購入時の補助金支給(最大80万円)や駐車場無料化などを行っています。
4.カーボンニュートラルを目指す企業の事例
多くの大企業がカーボンニュートラルへの取り組みを開始しています。事例を参考にしてみてはいかがでしょう。
三井住友フィナンシャルグループ
金融会社の三井住友フィナンシャルグループでは、温室効果ガス排出削減量を目標とし、具体的な数値を設定しました。
内容は、2030年度までに自社グループの排出量をネットゼロ(放出温室効果ガス量と大気中からの除去量が等しい状態)、2050年度までに融資先企業や投資先企業の排出量をネットゼロにすること。
同社では、後者の目標に関連した取り組みとして「グリーンファイナンス(地球温暖化対策や再生可能エネルギーなどに取り組む企業に対する融資)」にも注力しています。
トヨタ自動車
大手自動車メーカーのトヨタ自動車では、2015年に「トヨタ環境チャレンジ2050」を発表し、持続可能な社会の実現に取り組んでいます。
具体的には新車平均走行時の二酸化炭素排出量90%削減を目指す「新車CO2ゼロチャレンジ」や、生産ラインの二酸化炭素排出量ゼロを目指す「工場CO2ゼロチャレンジ」など、6つの項目を策定。
取り組みは順調に進んでおり、2021年には新たな目標「2035年までに全世界の自社工場で二酸化炭素排出ゼロ」を掲げました。
イオン
大手流通チェーン店を展開するイオンでは、2018年に「脱炭素ビジョン2050」を発表。店舗側だけでなくサプライヤー(仕入先企業)や購入者とも一緒にカーボンニュートラルに取り組み、「2040年に店舗の二酸化炭素排出ゼロ」を掲げています。
とくに再生可能エネルギーの活用に力を入れており、太陽光発電の導入やEV車を活用した各家庭の再エネの買い取りなどを実施。このような取り組みをとおして、2018年から2019年の1年間だけでも、二酸化炭素排出量を約10%削減しています。
東芝
電気メーカーの東芝では、⽔力や地熱、太陽光や⾵⼒での発電にて再生可能エネルギーを活用し、二酸化炭素排出量の抑制を目指します。さらにそれらを実現するための技術開発などに努めているのです。
その一環として、2021年に子会社の東芝エネルギーシステムズに「カーボンニュートラル営業推進部」を新設。この部署では、自社製品を活用したカーボンニュートラル対策を顧客へ提案しています。
二酸化炭素排出量は2017年から減少し続けており、2020年の排出量は目標値166万トンを大きく下回る105万トンでした。
東急不動産
総合不動産会社である東急不動産は、2016年に再生可能エネルギー事業へ参入し、2019年にRE100に加盟。東急不動産は、不動産業でRE100に加盟した初の企業でした。
目指す方向に「クリーンエネルギーの普及」と「環境に配慮した街や暮らしの創造」を掲げており、宅地開発の技術や地域と一緒に事業に取り組むノウハウを生かして再エネによる地域活性化を進めています。
具体的な目標は「2025年までにカーボンマイナス(二酸化炭素の削減量を排出量が上回ること)」や、「2050年までにネットゼロ」です。
阪急電鉄
関西の鉄道会社である阪急電鉄では、二酸化炭素排出量を実質ゼロにする「カーボン・ニュートラル・ステーション」という取り組みを2010年に開始。
実際にカーボン・ニュートラル・ステーションとして「摂津市駅」を開業しており、太陽光発電やLED証明、無水トイレなど排出量を削減する設備があります。
また同時に2020年から2021年の実績では、二酸化炭素排出量において約43%削減を達成。残りの57%は削減が困難であるため「森林カーボンオフセットサービス(森林保護支援による排出量の埋め合わせ)」を活用し、排出量実質ゼロを実現しました。