キャリア自律とは?【支援を求められる背景】促し方、事例

キャリア自律とは、従業員一人ひとりが主体的にキャリアを考え、自律的にキャリア開発を行うことです。社会構造の変化や多様な価値観などが普及したことで、企業ではキャリア自律を促し、支援することが求められつつあります。

今回はキャリア自律について、必要とされる理由や支援するメリット、問題点やキャリア自律の促し方などを詳しくご紹介します。

1.キャリア自律とは?

キャリア自律とは、個人が主体的にキャリアを考え、自律的にキャリア開発を行うこと

米国のキャリア・アクション・センター(Career Action Center:CAC)では、キャリア自律を「変化する環境において自らのキャリア構築と学習を主体的かつ継続的に取り組むこと」と定義しています。

1990年代半ばにアメリカで提唱され始めた概念であり、近年は「キャリアオーナーシップ」とも呼ばれます。

これまでの日本企業ではキャリア自律とは対照的に、キャリア形成は会社に任せている部分が多く、受け身であることが基本でした。

そのため、自分でキャリアについて考えることはほとんどなく、年功序列や終身雇用制の影響により、勤続年数を重ねてキャリアが上がっていくスタイルが一般的だったのです。

キャリア自律は従業員と企業の双方にメリットがあり、これからの時代はキャリア自律できている人材の重要性が高まっています。

自立と自律の違い

自律と類似する言葉に、自立があります。

  • 自立:「人の力を借りずに、一人で行動すること」
  • 自律:「自分の意思で選択し、自己実現のために行動すること」

自立は外的要素、自律は内面的要素における独り立ちといえます。自立は行動に他者が介入しませんが、自律には他者との協調や協力が含まれます。ゆえに、キャリア自律は他者とも協力・協調しながら自己実現を目指して、自らが意思決定を行いキャリア開発していくことです。

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2.なぜキャリア自律が必要とされるのか?

キャリア自律が必要とされている背景には、終身雇用制度の崩壊やジョブ型雇用の普及などの時代の変化が挙げられます。ここでは、キャリア自律が必要とされている主な3つの理由をみていきます。

これまでの雇用制度の崩壊

高度経済成長期からはじまり、日本企業に浸透していた終身雇用制度や年功序列制度は時代の変化・流れとともに実質崩壊しつつあります。現代、キャリア形成の一環として転職が当たり前となり、従業員の個や成果に注目する企業が増加しています。

過去の制度が実質崩壊したことで、従業員も企業に属しているからと必ずしも安定したポストを得られるわけではなくなりました。そのため、自律的にキャリアを考える必要性が増し、企業もそれをサポートすることが求められているのです。

ジョブ型雇用の普及

ジョブ型雇用とは、職務遂行能を定義し、適したスキルを持つ人材を雇用する制度です。アメリカを中心に多くの国で普及しており近年、大手企業をはじめ、ジョブ型雇用を導入する企業が増加しています。

ジョブ型雇用は役割を明確にしたうえで雇用できるため、テレワークといった多様な働き方にも有効です。また、仕事の成果もわかりやすいため、人事評価の効率化にもつながります。

ジョブ型雇用の普及により、希望する仕事に就くためには積極的なスキルアップやリスキルが必要となるため、キャリア自律との親和性が高いとして注目を集めています。

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働き方の多様化

働き方の多様化が広まっているのも、キャリア自律が必要とされる理由のひとつ。近年、派遣やフリーランス、副業やダブルワークなど、多様な働き方を選択する人が増加し、国も働き方改革の一環として副業解禁を実施しました。

従業員が多様な働き方を選択する背景には、人生の充実度や満足度を重視する人が増えていることが挙げられます。自分の人生をより豊かにすることを軸に働き方や仕事のやり方を模索する考え方は、キャリア自律を後押しする要因です。

変化に対する柔軟性を保ちつつ、自分の軸を見失うことなくキャリア開発していくには、適切なキャリア自律ができるようになる必要があります。

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3.キャリア自律を支援するメリット

キャリア自律は個人にメリットがあるだけでなく、支援する企業にとってもさまざまなメリットがあります。ここでは、企業目線からキャリア自律を支援するメリットを解説していきます。

エンゲージメントの向上

企業がキャリア自律を支援することは、従業員のスキルアップや成長を支援することと同義です。従業員が企業に支援されていることを実感できれば、エンゲージメントや帰属意識が向上し、企業のために貢献しようという意欲も高まります。

また、従業員の支援に手厚いことが口コミで広がれば、優秀な人材の採用や企業イメージの向上など、採用力の強化にも期待できます。

従業員のスキル・能力の向上

キャリア自律では、従業員が自己実現のために主体的にスキルアップに取り組み、キャリア開発を行います。そのためにも、企業は従業員の仕事に対する価値観や思いを尊重し、必要に応じた支援を提供することが必要です。

ジョブ型雇用で業務に必要にスキルが明確である、昇格・昇給の条件が評価制度で明確に提示されている場合は、そこに向けて従業員もキャリア自律がしやすくなります。自発的に成長イメージやキャリアを描けるようになれば、おのずと個々がスキル・能力の向上に取り組めるようになるでしょう。

労働意欲・生産性の向上

キャリア自律が高い従業員は、自らの成長のために仕事に積極的に取り組む姿勢がみられます。また、自己成長・キャリア開発といった目的意識を持って仕事に取り組むため、労働意欲も高い傾向にあるのです。

こうした従業員が増えれば、組織的な生産性の向上に期待できます。労働人口の減少により、人材確保が課題となっている現代では、いかに生産性を上げるかが企業成長の鍵です。

生産性の向上は業務の質向上につながり、最終的には企業の利益や成長につながります。

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4.キャリア自律の問題

企業がキャリア自律を支援するうえで、以下のような問題もあります。企業は、問題に向き合いながらキャリア自律に取り組むことが必要です。

転職を促す可能性

従業員に自律的なキャリアを促すことで、転職につながる可能性もあります。

キャリアは今いる会社がすべてではなく、キャリア自律のために外部との交流を持ったり、今よりも活躍できる企業を見つけたりするなど、転職を考えるきっかけを与えてしまうかもしれません。

とはいえ、企業がキャリア自律を支援することは、企業や仕事への満足度向上、その結果帰属意識が高まる効果にも期待できます。こうした結果を促すためにも、従業員が社内で理想のキャリアを実現できる環境を整えることが大切です。

キャリア自律に対する従業員間の温度差

なかには、出世に興味がなく、日々の業務を淡々とこなして収入を得るだけで満足できるなど、キャリア自律を望まない従業員もいます。

つまり、企業がキャリア自律を促しても全ての従業員に浸透するとは限らないのです。しかし、一部がキャリア自律を高めても全体として期待できるようなメリットは得られません。

組織全体がキャリア自律に必要な体制や要素を整え、すべての従業員に対してキャリア自律を強制することなく促すことが求められます。

支援体制の整備不足

キャリア自律の高い従業員は、自分の能力が発揮でき、正しく評価されることを求めています。メンバーシップ型雇用が依然として主流である日本では、必ずしもそうした場が提供できるとは限りません。

キャリア自律を進めるうえでは、企業がキャリア自律を促せ、かつ親和性の高い制度や体制を整えることが重要です。

また、部下のキャリア形成に大きくかかわる上司がキャリア自律への理解を持っているかもポイント。上司やマネジメント層へキャリア自律の意識づけを行うことも、キャリア自律を進める上では欠かせません。

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5.キャリア自律の促し方

キャリア自律と聞くだけではふわっとしたイメージで、従業員にどう促していくかわからないという企業も多いでしょう。ここでは、具体的なキャリア自律の促し方をご紹介します。

  1. 評価基準・職務・ポストの明確化
  2. キャリア研修・面談の実施
  3. 副業といった第二の活動を推奨
  4. キャリア意思の表明

①評価基準・職務・ポストの明確化

職務やポストを明確にすることで、従業員が将来のキャリアをイメージしやすくなります。どういったキャリアパスがあるのかが明確であれば、キャリア目標を持ちながら自律的なキャリア開発に取り組めるでしょう。

また、そのうえでの評価基準が明確であるのも重要です。何を達成すればキャリアアップにつながるかがわかっていれば、具体的なアクションプランが策定しやすく、キャリア自律も促せます。

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②キャリア研修・面談の実施

キャリアについて改めて考える時間がない、考えようと思わない人もいるかもしれません。そうした人に対して、キャリアについて考える・知る機会を提供するのも大切です。

キャリアは年代に応じて目指すところが異なるため、年代別や役職別に実施することがおすすめです。周囲との対話から、自分だけでは考えられなかったキャリアがイメージできるようになります。

また、上司と部下がキャリアについて対話する面談の実施も有効です。自律的にキャリアを考える必要性を伝達したり、上司が支援できることを一緒に検討したりすることでポジティブにキャリア自律を考えられるようになるでしょう。

キャリアプランシートを活用するなどして、具体的にキャリアが考えられるよう工夫してみてください。

③副業といった第二の活動を推奨

副業をはじめとした、第二の活動を推奨することもキャリア自律の促進に有効です。外部にも目をむけることで自社では得られないスキルや価値観が吸収でき、新たな考えが生まれたり、視野が広がったりすることで自律的なキャリア形成につながります。

そのためにも、企業側は副業者を抑圧・抑制しないよう注意しましょう。副業などの第二の活動が推奨されているだけでなく、積極的に取り組める環境を整えることも大切です。

④キャリア意思の表明

キャリア自律は、従業員が自分の心のうちで秘めているだけでは進まないため、その意向を上司や会社に伝える機会が必要です。上司とのキャリア面談やキャリアカウンセリング、社内公募制度などを導入することも有効な施策です。

とくに、公募制度はキャリア自律の促進に効果的。必要な人材やポジションを明確に公募することで、従業員が目的意識を持って必要なスキルや経験を積めるようになります。

企業側は従業員のキャリア表明を人事異動や配置転換にしっかりと反映し、尊重していることを認識してもらうことが必要です。

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6.キャリア自律支援成功のポイント

キャリア自律の実践を促すだけでは不十分。組織文化としてキャリア自律が浸透するためにも、キャリア自律支援成功のポイントを押さえましょう。

  1. キャリア自律を支援する体制を整える
  2. 管理職の意識を変革する
  3. 相談窓口を提供する

①キャリア自律を支援する体制を整える

キャリア自律は企業の支援があることで、組織に浸透するもの。キャリア研修・面談の実施、スキルアップが図れる機会の提供、副業の認可など、企業側がキャリア自律を支援する体制を整えることが重要です。

ジョブローテーションや社内公募制、社内FA制度などの人事制度を整備し、キャリア自律の機会を提供することも有効です。キャリア自律を促す上で、自社に足りていない要素や制度、課題を洗い出し、カバーできる体制を整えましょう。

②管理職の意識を変革する

管理職の意識が変わらないと、現場の従業員のキャリア自律も促されません。まずはマネジメントする立場にある管理職にキャリア自律支援ができるよう、育成する必要があります。

また、面談やアドバイスで部下に対して説得力を持たせるためにも管理職自身がキャリア自律を実現できているかも重要です。管理職へキャリア研修を行う、積極的にキャリア自律のための行動をとってもらうことも意識しましょう。

③相談窓口を提供する

相談窓口があることで、従業員にキャリア自律を促す発信やアドバイスができるようになります。キャリアについて迷いや悩みが生じたとき、どこに相談すればよいか明確なら、すぐに行動に移せるでしょう。

相談することで従業員の考え方も徐々に変化し、キャリア自律が実現に期待できます。

一方で、相談窓口を使いにくいという若手も少なくありません。そうした場合に備えて、メンター制度の導入もオススメです。年の近い先輩社員がメンターとなるため、キャリアについても相談しやすくなるでしょう。ただ窓口を設置するだけでなく、利用者やシーンに応じて複数の窓口を用意することがおすすめです。

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7.キャリア自律支援の取り組み事例

実際に企業ではどのようなキャリア自立支援の取り組みが行われているのか、2社から事例をご紹介します。

ソニー株式会社

ソニー株式会社では、ベテラン・シニア社員のためキャリア支援施策「キャリア・カンバス・プログラム」を開始。人生100年時代を生きる社員がライフプランを主体的に考え、実行に移すことを目的としたキャリア自律プログラムです。

ソニー単体の平均年齢は43歳、バブル期に入社した社員が50代に差し掛かり、社内におけるベテラン社員層も割合が大きくなったことを機に開始しました。下記は、「キャリア・カンバス・プログラム」での主な取り組みです。

新しい分野への挑戦を促す「キャリアプラス」 現在の部署に籍をおいたまま、2〜3割ほどで別の仕事を兼務できる制度
新たなスキル獲得・学び直し「Re-Creationファンド」 50歳以上の社員が新たなスキル獲得のために自己投資をした場合、上限10万円までの費用を会社が補助:金銭的な問題で学び直しができない課題を解消
ワークショップ型研修「エクスプローラー」と「ネクストステージ」の実施 ・対象は、「50~53歳」と「57歳」の全社員
・エクスプローラー:「キャリアを考えるのは楽しい」と感じてもらうことが目的
・ネクストステージ:定年後を見据えたお金の計算や再雇用の検討など、将来設計をするためのサポート

雪印メグミルク株式会社

雪印メグミルク株式会社では、多様な施策で従業員一人ひとりのキャリア形成を支援しています。具体的には、全従業員にキャリアデザイン冊子を配布、研修やワークショップ、面談やカウンセリングにより、個々に寄り添ったキャリア自律支援を実施。

研修やワークショップは、従業員一人ひとりがこれまでの業務や経験を振り返り、⾃らの価値観や強みなどの⾃⼰理解を深め、学びを含む今後のキャリア形成を考える機会となっています。

また、上司と部下のキャリア⾯談は、上司にとっても部下のキャリア形成を⽀援する意識の向上や部下の価値観への気づきなどへの効果があるのです。

社内キャリアコンサルタントによる相談では、社内外の環境や法令・制度に関する理解の促進や気づき、視野の広がりなどの効果がみられています。

従業員アンケート調査結果では、「会社はキャリアについて考える機会を提供している」について、従業員の6割が肯定的にとらえ、7割の従業員が⾃らのキャリアの将来像を描けているとの回答が得られています。