キャリアマネジメントとは? 必要性、進め方、企業事例を簡単に

キャリアマネジメントとは、自らが設計したキャリア目標に向かって計画を立て、実行していくことです。キャリアマネジメントによって従業員は自己実現しやすくなり、自律的な成長促進や離職防止といった効果にも期待できます。

今回はキャリアマネジメントについて、その必要性や進め方、キャリアマネジメントに有効な人事施策や企業事例などを詳しくご紹介します。

1.キャリアマネジメントとは?

キャリアマネジメントとは、将来のキャリア目標を立てて、達成のために計画・実行することです。環境やそのときの状況に合わせた成り行きのキャリアではなく、自ら理想の姿やキャリア上の目標を設定し、そこに向けて計画的に行動していきます。

従来は終身雇用・年功序列が一般的だったことから、企業側が従業員のキャリアを主導することが一般的でした。しかし、近年は終身雇用の実質的崩壊やキャリアの多様化により個人主導にシフトし、キャリアマネジメントの重要性が高まっています。

キャリアを個人主導で計画・実行しつつも、企業が従業員のキャリアマネジメントに協働し、戦略的にキャリアを形成していくことが求められます。

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キャリアマネジメントとキャリア自律の関係

類似する言葉に「キャリア自律」があります。キャリア自律とは、キャリアを主体的かつ継続的に開発していくことです。

キャリアマネジメントもキャリア自律も、自身のキャリアについて主体的に考え、理想のキャリアを実現するために継続的に行動していく点で共通しています。キャリア自律はキャリアマネジメントを行う上で欠かせないマインドといえます。

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2.キャリアマネジメントの必要性

近年、キャリアマネジメントの必要性が高まった背景には、時代の変化があります。主な変化はこれまで主流だった終身雇用制度や年功序列は実質崩壊し、人材の流動性が高くなっている点です。

また、働き方の多様化により、キャリア選択の自由度も高まっていることが変化の一つです。

こうした時代に対応するためにも、従業員・企業の双方がキャリアマネジメントに取り組むことが重要です。ここでは、従業員・企業双方の視点からキャリアマネジメントの必要性をみていきます。

従業員

従業員にキャリアマネジメントが必要な背景には、企業との関係性の変化、自己実現の重要性が高まったことが挙げられます。まずは従業員視点から、キャリアマネジメントの必要性をみていきましょう。

安定した雇用が難しくなりつつあるため

これまでは新卒で入社してから定年まで同じ企業で働き続ける終身雇用・年功序列を前提に、採用やキャリア開発が行われていました。

しかし、現代は不確実性と曖昧性をまとったVUCA時代に突入し、企業活動においても安定が難しい時代になりつつあります。

バブル崩壊やリーマンショック、新型コロナウイルスの蔓延などさまざまな経済危機を経て、終身雇用が実質的に崩壊し、企業も安定した雇用を提供することが難しくなりつつあるのです。

一方、従来は企業によって敷かれたレールを進めばよく、従業員が個人のキャリアについて深く考える必要はありませんでした。

終身雇用の前提が崩壊した現代では企業のキャリアに依存できないため、従業員が自身のキャリアについて責任を持つ必要性が高まったことからキャリアマネジメントが求められています。

自己実現していくため

現代は雇用の不安定化や労働環境の変化により、企業にキャリアを委ねられない状態です。

くわえて、リモートワークやフレックスタイム、フリーランスなど働き方も多様化しています。キャリア形成の一環として転職も一般化し、個人のキャリア選択の自由度が高まっている状況は、個人がキャリアについて主体的に考える必要が高まったともいえます。

企業と従業員が相互に依存したキャリア形成が難しい環境になったことから、従業員も主体的にキャリアについて考え、自己実現していくことが必要です。そこで重要となってくるのが、キャリアマネジメントなのです。

企業

キャリアマネジメントを活用することで従業員のモチベーションを高めつつ、必要な能力を習得してもらうことは結果的に企業の利益創出につながります。また、企業がキャリアを支援してくれる姿勢が感じられることは、従業員のロイヤリティ向上にも有効です。

ここでは、企業視点からキャリアマネジメントの必要性をみていきます。

企業力を高めるため

少子高齢化が進み、労働人口が減少しているなかでも人材の流動性が高まっています。その中でも優秀な人材ほど、良い条件・環境へと流れていってしまう傾向にあります。

企業力を高めるには人材が欠かせないなか、人材確保が困難な現代では人材の流出は企業にとっては大きな痛手です。

そんななか、キャリアマネジメントは従業員のモチベーションやスキルを高めるために有効なツールです。

企業が積極的にキャリアマネジメントにかかわることで、従業員は企業から自身のキャリアを支援してもらえていることが実感でき、離職率の低下や従業員満足度の向上に期待できます。その結果、生産性が高まることで企業力の向上につながります。

労働環境の変化に対応するため

働き方の多様化は多様な人材を確保できる点で企業にとってもメリットである一方、優秀な人材の流出につながったり、優秀な人材を確保したりするのが難しくなる側面もあります。

これまでは「企業が個人を選ぶ」構造で成り立っているものの、現代は「企業と個人が選び、選ばれる関係性」に変化しつつあります。

労働環境が変化する中で、従業員個人のキャリアを尊重し、かつ必要な支援を提供することが求められるため、キャリアマネジメントが必要なのです。

競争優位性を高めるため

ビジネス環境の変化が激しく、かつ市場の飽和化やサービスのコモディティ化が進む中で企業が地位を確立し続けるには、競争優位性を高めることが必要です。

そのためにも、従業一人ひとりのパフォーマンスを最大化する必要があり、人材開発の視点からもキャリアマネジメントが役立ちます。

企業が求める変化に対応できるようキャリア設計を促すことで、企業が求めるパフォーマンスを発揮できる人材へと成長できる可能性に期待できます。

また、企業が従業員のキャリアを積極的に支援する姿勢は、ブランディングの観点でも優位性を高めます。

人材確保が困難な現代において、選ばれる企業になるためにも従業員を大切に扱い、必要な支援を提供してくれる企業であることをアピールできる要素としてもキャリアマネジメントが機能します。

ダイバーシティ&インクルージョンに対応するため

キャリアマネジメントは「個」を尊重したキャリア設計とその実行を指します。企業の持続的な成長に必要とされる要素の一つである、ダイバーシティ&インクルージョンに対応するためにもキャリアマネジメントが役立ちます。

ダイバーシティ&インクルージョンとは、性別や年齢、国籍などの違いを尊重して個性を活かし、組織内でその多様性を受容すること。具体的な取り組みには、女性や外国人材の積極的な活用、多様な働き方の整備などが挙げられます。

キャリアマネジメントを通じてダイバーシティ&インクルージョンを実現することで、企業価値の向上につながります。

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3.キャリアマネジメントの進め方

キャリアマネジメントは、以下のプロセスで進めていきます。

  1. プランニング
  2. 能力開発
  3. 内省と行動の継続

下記で、キャリアマネジメントの進め方を詳しく解説していきます。

①プランニング

まず行うのは、キャリアのプランニングです。将来の理想の姿を目標に、そこに到達するための最適な道筋を検討します。

このとき、自分のこれまでの経験や経歴、環境などから総合的に考えることがポイントです。同時にライフイベントも設計することで、より具体的なプランニングが可能となります。

同じ目標を持っていても、個々の経験や今ある能力、理想とするライフプランは異なるため、自分に合ったプランを設計することが大切です。

②能力開発

プランニングの次は実行のプロセスとなる能力開発です。能力開発するにあたって、まずは現状の能力を把握する必要があります。その上で目標に到達するために不足、あるいはブラッシュアップすべきスキルや知識を洗い出していきます。

目標を達成するには、スキルや知識の習得だけでなく、実践経験が必要になる場合もあります。その場合は、異動や転職、副業なども一つの手段です。

③内省と行動の継続

キャリアマネジメントは、継続的なプロセスが求められます。というのも、最初に設計したプランが変わったり、環境の変化で難しくなったりする場合もあるからです。

そのため、状況や環境の変化に合わせて行動と内省を繰り返し、修正・改善・調整していくことで理想とするキャリアを徐々に実現していきます。

一度プランニング、能力開発して終わりではなく、内省を通じて新たな計画や目標を設定し続けることで継続的な成長を目指すことが重要です。

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4.キャリアマネジメントの注意点

キャリアマネジメントを実施するうえでは、以下ポイントに注意が必要です。

主体性を優先する

キャリアマネジメントは、個人が主体的にキャリアを計画・実行することが前提にあります。企業側も積極的に協働し、必要な支援を提供することが求められるものの、企業側が一方的に従業員のキャリアマネジメントを行わないよう注意しましょう。

なぜなら、企業が一方的にキャリアマネジメントを実施してしまうと、従業員はキャリアを他人事ととらえてしまう恐れもあるからです。

従業員が主体であることを認識させるためにも、キャリアマネジメントの結果が評価や成果に結びつくような内発的動機づけと関連させて取り組むことがポイントです。

環境を整える

従業員の主体性を意識するあまり、丸投げになってしまわないよう注意が必要です。キャリアマネジメントには、継続的な学びが欠かせません。企業内で学べないと、従業員は学びが得られて理想のキャリアが実現できる他社へと流れてしまうリスクが高まります。

キャリアマネジメントを活かして企業力を高めるためには、企業側が必要な支援を提供したり、学べる環境を整えたりすることが必要です。

企業の適切な支援のもと、従業員は必要なリソースを活用しながら効率的に成長しつつ、キャリアを実現していくことができます。

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5.キャリアマネジメントに関する人事施策

企業が行うキャリアマネジメントは、組織内キャリアマネジメントといいます。組織内キャリアマネジメントは人材育成・開発を目的としており、それが従業員のキャリア支援にもつながります。

キャリアマネジメントにおいて、企業は継続的な学びの機会・環境を提供することが求められます。具体的には、以下のような人事施策からキャリアマネジメントを行っていきます。

異動・配置転換

異動や配置転換により異なる業務を経験することは、新たなスキル・知識の習得や経験値の向上に有効です。

新たな職種を経験することで、潜在的な適性や能力に気づくきっかけにもなるでしょう。異動・配置転換を行う際は、従業員のキャリアプランや適性に応じて実施することがポイントです。

研修

研修では必要なスキル・知識を身につけるだけでなく、キャリアマネジメントを考える場としても活用できます。従業員自身で研修内容を選択できることで、主体的にキャリアマネジメントが行えるようになるでしょう。

企業側も自社に必要な人材要件から不足する能力が補える研修を提供することで、企業のニーズを満たしながら従業員のキャリアマネジメントが支援できます。

面談

面談もキャリアマネジメントに有効な人事施策の一つです。面談の目的は、企業と従業員の考えの擦り合わせです。企業が適切なキャリアマネメントができていると思っていても、従業員が納得できていない場合もあるでしょう。

このギャップが埋まらないと従業員のモチベーションが低下し、最終的には流出してしまう可能性も考えられます。

企業側が従業員のキャリアプランを把握し、必要な支援を提供するためにも、面談によって定期的なすり合わせが必要です。

スキル・資格などの習得支援

キャリアプランを実現するうえでは、必要なスキル・資格などが習得できるかもポイントです。支援の一例として、外部研修やセミナーの参加費負担、書籍購入の補助やeラーニングの導入などが挙げられます。

こうした支援は従業員が企業からサポートが受けられていることを実感しやすく、エンゲージメントが向上し、習得したスキルを業務で発揮してくれることに期待できるでしょう。

企業が提供したサポートで身につけたものを貢献してくれるため、双方にとってメリットがあります。

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6.キャリアマネジメントの企業事例

キャリアマネジメントの取り組みは、企業によってさまざまです。ここでは主に厚生労働省の『実践事例 変化する時代のキャリア開発の取組み』から、キャリアマネジメントの企業事例を3社からご紹介します。

アステラス製薬株式会社

アステラス製薬株式会社では、自社での成長やキャリア形成は「自己責任」を基本としています。キャリアマネジメントを意識した能力開発・キャリア開発に対して、チャレンジの機会を提供し、最大限のサポート・配慮を行っています。

具体的な取り組みとして、「社内リクルート制度」と「社内インターンシップ制度」を実施しています。

  • 社内リクルート制度:タイムリーにチャレンジできるグローバル共通のシステム。随時希望の部門に応募でき、募集部門と応募者のニーズがマッチすれば異動が実現
  • 社内インターンシップ制度:全社員が参加可能。新しいフィールドに挑戦する機会を提供し、ありたい姿が実現できる。通常業務と並行し、別部門のやりたい仕事にチャレンジできる制度

また、同社では社員一人ひとりのキャリア観を重視した配置・育成を実施。入社時に選択した職種における長期的なキャリア形成を基本としていますが、同時に自律的なキャリアを歩める支援制度を提供しています。

異動・昇格についても本人の意思が尊重され、個人の意思が尊重されるキャリアマネジメントができる環境です。

SCSK株式会社

SCSK株式会社では、経営戦略と連動した自律的なキャリア開発を実施。一人ひとりのキャリアプランを尊重しつつ、経営戦略を実現する人材育成のため、iCDP(自律的・戦略的・統合的なキャリア開発)の考え方のもと、人事関連の取り組みを連動しています。

自律的なキャリア開発のために、従業員が自身の長期的なキャリア展望を上司に伝え、企業が目指す方向性とのすり合わせを行っていくCDP制度を構築。

CDP制度では、上司と面談を通じて社員一人ひとりの強みや課題を振り返り、組織の期待や方向性をふまえて1〜2年後の配置や業務のすり合わせを行っています。

個人のキャリア目標と会社の方向性を踏まえた話し合いのもと、双方のギャップを埋めながらキャリアマネジメントができています。

また、自律的なキャリア開発を促す制度・施策として下記のような制度も提供しています。

  • 若手キャリア開発プログラム
  • 実年キャリア(シニア)
  • 人材公募制度(ジョブ・チャレンジ制度)
  • 社内FA制度(キャリア・チャレンジ制度)

組織として個人のキャリア形成について話し合う機会を確立し、自律的なキャリア開発を支援する施策や制度も提供できている事例です。

カゴメ株式会社

カゴメ株式会社では、人事制度の設計・運用に際して各社員のキャリア自律を徹底しています。基本的には個人の希望が優先されるべきであると考え、人事異動は完全に本人の希望を前提としています。

また、各社員が自分でどんなキャリアを実現したいか、そのためにどんな知識・スキルを身につける必要があるかを社員自身が決定するようにしています。そして、会社はその決定を後押しし、サポートする姿勢を整えています。

さらに、自律的なキャリア構築を支援する主な制度として、以下のような制度も提供しています。

  • 自己申告制度
  • キャリア異動希望制度
  • 社内公募制度
  • カフェテリア型教育・研修