経歴詐称とは、自分の経歴を偽ること。経歴詐称の原因や種類、罪状や対応、防ぐ方法について解説します。
目次
1.経歴詐称とは?
経歴詐称とは、学歴や職歴を偽ること。たとえば下記のようなものです。
- 求人応募の際、履歴書に本当ではない内容を書く
- 面接時の受け答えで誇張した内容を伝える
- 未経験の事柄を、実務経験が豊富であるように伝える
- 犯罪歴を隠す
- アルバイト歴を隠す
企業に入りたいがため、応募者が経歴を偽り、企業も見抜けないまま採用してしまう場合があります。しかし日本の法律では、経歴詐称が発覚してもアルバイトやパート含め一度採用した社員はかんたんに解雇できません。
詐称と偽証の違い
詐称と偽証の違いは、下記のとおりです。
- 詐称:事実をいつわり、よく見せるように述べる。経歴詐称のほかに、年齢詐称や学歴詐称などがある
- 偽証:「事実をいつわって証明や証言をする」「法廷などで、宣誓した証人が事実とは異なる陳述をする」などのこと
2.経歴詐称をしてしまう原因
経歴詐称をする原因は何でしょうか。2つの場合から見ていきましょう。
- 採用されたい
- 仕事を受注したい
①採用されたいため
採用担当者の心証を良くして採用に有利になるよう、軽い気持ちで経歴を偽ってしまいます。たとえば下記のようなものです。
- 契約社員や派遣社員などの非正規雇用だった経歴を正社員と偽る
- 早期退職した前職の経歴を書かない
- 退職年月日を偽り、職歴にブランクがないように見せる
②仕事を受注したいため
あるIT人材会社が顧客に紹介したシステムエンジニアやプログラマーの職務経歴書が、実際とは異なるとわかりました。
そこには「従事していない業務を偽った」「経験年数を長くした」「十分に習得していない言語を使えることにした」といったものが多くあったのです。
3.経歴詐称の種類
経歴詐称には、いくつか種類があります。それぞれについて見ていきましょう。
- 学歴の詐称
- 資格の詐称
- 職歴の詐称
- 犯罪歴の詐称
- 病歴の詐称
①学歴の詐称
学歴詐称とは、実際とは異なる学業の経歴を伝えること。中途退学や科目履修生、聴講生にもかかわらず、「卒業した」と主張する場合も該当します。
地方公務員の職員採用試験では、高卒以下とする場合があり、採用試験を受けるために低学歴に詐称するケースもありました。
②資格の詐称
実際に持っていない資格や免許を所有しているとする経歴詐称もあります。たとえばTOEICのスコアを実際より高くし、語学力があると見せかけることです。免許・資格の保有が応募条件となっている場合、よく見られます。
③職歴の詐称
職歴の詐称で多いのは、前職の在籍期間が変更されているパターン。ひとつの会社に長く勤務したように変えたり転職回数を少なく見せたりなどです。しかし面談中、整合性のない部分が出て発覚する場合もあります。
④犯罪歴の詐称
犯罪歴のある人は、採用選考時に隠します。ただし採用選考時に労働者が会社に申告する必要のある犯罪歴は、有罪判決が確定した犯罪に限られているのです。したがって犯罪歴を申告しなくても、経歴詐称と見なされない場合もあります。
⑤病歴の詐称
採用時に病歴の申告がなく、あとから問題になる場合があります。たとえば過去に重病を患った応募者が、それを隠していた場合です。勤務が開始したのちに発覚し、休職する状態になる可能性も考えられるでしょう。
ただし一度入社してしばらく普通に勤務できていた場合、解雇は難しいといえます。
4.経歴詐称で問われる可能性がある罪状
経歴詐称の行為が必ずしも犯罪になるわけではありません。とはいえ「会社の就業規則により懲戒処分がある」「勤務し続けられても周囲の雰囲気が冷たい」といった可能性も高いです。
また一定の条件を満たすと、経歴詐称行為は犯罪として扱われます。経歴詐称で問われる可能性がある、以下の罪状について見ていきましょう。
- 詐欺罪
- 私文書偽造罪・公文書偽造罪
- 軽犯罪
①詐欺罪
詐欺罪に問われるのは、偽りの経歴を使って他人をだまし、金銭や経済的な利益を受け取った場合です。経歴詐称だけでなく、他人から金品をだまし取ったり、支払いをまぬがれたりなどがあれば、詐欺罪になります。
②私文書偽造罪・公文書偽造罪
経歴詐称により私文書偽造罪や公文書偽造罪に問われる可能性もあります。
- 卒業証書やTOEICといった資格の証明書を偽造する(私文書偽造)
- 運転免許書や健康保険証といった公的機関で発行される証明書を偽造する(公文書偽造)
③軽犯罪
悪気なくつい行ってしまうものが軽犯罪法違反となります。警官や消防士といった官公職ではないのに、そうであると騙って相手をだました場合、軽犯罪法違反になる可能性が高いです。実際に所持していない資格を持っていると言った場合も該当します。
5.採用後に経歴詐称が発覚した場合の対応
もし社員の採用後に経歴詐称が発覚した場合、どうしたらよいのでしょう。企業が取るべき対策について説明します。
- 解雇する
- 雇用を継続する
- 自主退職を促す
①解雇する
経歴詐称をして入社した社員を解雇できる場合があります。判断のポイントや懲戒解雇、普通解雇について見ていきましょう。
判断のポイント
経歴詐称による解雇が認められるのは、「真実を知っていたら、採用しなかったであろうと考えられる程度の重大な経歴詐称」「経歴詐称により、企業の秩序を乱す可能性がある」場合です。
「資格や能力が必須であるのに、実際は能力が皆無であった」「犯罪歴があり、起訴されて公判係属中であった」などで、解雇が認められた判例もあります。
懲戒解雇
労働者に対し、懲戒処分として行うのが懲戒解雇で、最も重いペナルティです。
- 一般的に、予告期間のない即時解雇がされる
- 解雇予告手当の支払は必要である
- 就業規則に定められていれば、退職金のすべてまたは一部が不支給となる
懲戒解雇とは? 理由や条件、手続きなどをわかりやすく解説
懲戒解雇とは、労働者に科されるペナルティの中で最も重い処分です。
懲戒解雇の意味
懲戒解雇の理由
懲戒解雇の要件
懲戒解雇の判断基準
懲戒解雇の手続き
懲戒解雇を言い渡された際に残っていた有給休暇に...
普通解雇
普通解雇とは、会社が労働契約を一方的に解約する行為全般のこと。「客観的に合理的理由がない」「社会通念上相当といえない」場合、無効となります。解雇理由として認められるのは、下記のような場合です。
- 労働者に非違行為がある
- 労働者としての適格性がない
- 勤務態度や労働能力に問題がある
- 会社が経営的に雇用を維持できない
②雇用を継続する
経歴詐称した労働者をそのまま雇用し続ける、という選択肢もあります。詐称の内容が業務に大きな影響を与えない場合、雇用を継続しても差し支えないでしょう。
経歴詐称した従業員を雇用するリスク
経歴詐称する人物を雇用すると大きなリスクになります。それを防ぐためにも、採用段階でしっかり対策を取りましょう。たとえば「面接など採用段階でのチェックを厳しく行う」「提出書類を精査する」「第三者から情報収集する」などです。
③自主退職を促す
経歴詐称を行った人物に、自主退職するよう促す方法もあります。手順は以下のとおりです。
- 証拠を確保したうえで、本人から事情を聞く
- 本人が自主的に退職する意思があるかどうかを確認する
- 退職の意思がある場合は、退職手続きをする
- 本人に退職する意思がない場合、普通解雇または懲戒解雇を検討する
6.経歴詐称を防ぐポイント
採用時の経歴詐称を防ぐポイントは何でしょうか。下記について説明します。
- 書類審査
- 面接
- 採用後の提出書類
①書類審査
応募の際、最初に行われるものが書類審査です。「真に良い人を選ぶ」「経歴詐称する人物を採用しないよう見定める」ためのポイントを紹介しましょう。
応募条件
経歴詐称やミスマッチを防ぐためにもあらかじめ採用条件を検討しましょう。そして学歴や職歴、資格やスキル、学歴不問などを募集要項に明記します。もしも学歴や経験を不問とすると、あとで経歴詐称がわかっても、解雇が難しくなるのです。
履歴書・職務経歴書
応募者から、履歴書や職務経歴書を受け取ったあとチェックするポイントは以下のとおりです。
- 求める人材のスペックに合った職歴が何年あるか
- 専門性や柔軟性といった観点で、応募者のキャリアが一貫しているか
見落としがちな内容
次のような点に注意すれば、隠された経歴詐称を見抜けます。
- 職歴にある会社が実在するか、存在したか
- 入社・退職年月日は正しいか(正直に申告しているか)
- 所属していた部署が正しく言えるか面接で確認する(詐称の場合、正しく答えられない場合が多い)
前歴調査
応募者の経歴や前職での働きぶりについて調査すること。ただし個人情報の収集にあたり、不適切な行為と考えられています。
厚生労働省の指針によると、応募者の個人情報収集は「本人から直接収集し、または本人の同意の下で本人以外の者から収集すること」とされているので気をつけましょう。
②面接
書類選考ののち、応募者と面接します。「質問内容」「面接内容を記録する」「リファレンスチェックを行う」といったポイントについて解説しましょう。
質問内容
面接では、履歴書や職務経歴書について事実確認します。「つじつまが合っているか」「誇張されていないか」を確認するのです。
固有名詞や数字を引き合いに出すと、詳細がはっきりし、詐称を見抜きやすくなります。また書類ではわからない人間性も見ていきましょう。
面接の記録
採用面接を行ったら、記録に残しておきましょう。
- 会社がどのような質問をしたか
- 応募者がどのような経歴詐称を行ったか
これらを記録に残すと、あとで証拠にできるのです。また何度も面接をすると生じた矛盾に気づいたり、経歴詐称が明らかになったりします。
リファレンスチェック
履歴書や職務経歴書の内容が事実かどうか、第三者に確認すること。管理職といった重要な地位での採用で、前の職場へヒアリングを実施する場合があります。その際、応募者に事前に説明して、承諾を得なければなりません。
③採用後の提出書類
採用後に提出してもらう書類で、経歴詐称を確認できます。下記について見ていきましょう。
- 雇用保険被保険者証
- 源泉徴収票・年金手帳
雇用保険被保険者証
雇用保険被保険者証は、雇用保険加入の手続きに必要なため、入社時に提出を求めます。ここには前職の会社名や退社日が記載されているため、職歴の詐称がある場合、見つけられるでしょう。
源泉徴収票・年金手帳
前職の源泉徴収票は、年末調整に必要なため提出が必要です。ここからは前職年収や会社名の詐称などを見抜けます。また年金手帳に社会保険加入日や入退社日が記入されている場合、ここから詐称がわかります。