キャリアパスとは、従業員が組織内でキャリアを積み重ねていくプロセスのこと。キャリアパス制度を導入している企業では、職種ごとに組織で成長していくためのステップが明示されています。
キャリアパス制度によって企業で働く将来をイメージさせると、モチベーション向上や離職率の低下など、さまざまなメリットがあります。今回はキャリアパスについて、必要な理由や書き方、具体例や導入手順などを詳しく解説します。
目次
1.キャリアパスとは?
キャリアパスとは、従業員が目標とする役職や地位、役割など、組織内でキャリアを積み重ねていくプロセスや道筋のことです。キャリアは「職歴」、パスは「道筋」を意味します。
キャリアパスを提示するのは企業であり、その役職や職に就くために必要なルートやスキル、経験などの基準を示します。これらの条件とともに、企業が制度として明示するものを「キャリアパス制度」といいます。

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2.キャリアパスの目的
キャリアパスの大きな目的は、従業員が自らキャリアを計画し、実現に向けて自身の成長を促進することです。
キャリアパスは、従業員が将来的に組織内でどうありたいかを具体的にイメージさせる指針ともいえます。キャリアパスがあると、自分が組織内で追求したいキャリアが明確になり、それを実現するための必要なスキルや経験など把握したうえで、具体的な目標が設定できるようになります。
企業側もキャリアパスがある結果、従業員の目標達成やスキル開発の進捗から、そのキャリアにふさわしい人材であるか、見極められるのです。
3.キャリアパスが必要な理由
キャリアパスは従業員が企業で働き続ける上の指針となる重要な要素です。では、具体的にどういった観点からキャリアパスが必要とされているのでしょうか。その背景と理由をみていきます。
働き方の多様化によりキャリア観が変化したため
現代は、従来当たり前であった年功序列や終身雇用といったシステムが実質崩壊しています。定年まで一つの企業に勤め続け、年齢にあわせて役職や給与が自動的に上がっていく環境では、個人がキャリアを設計する必要はありませんでした。
しかし、近年は働き方の多様化により、キャリアの選択肢も増えました。一つの企業に勤め上げ、かつ年齢に応じて役職や給与が上がる道筋がなくなったことから、企業側がキャリアパスを提示する必要が出てきました。
従業員一人ひとりが主体的にキャリアを形成し、同じ企業に勤め続けるという選択肢を与えるためにもキャリアパスが必要です。
従業員が将来の計画を立てやすくするため
キャリアパスは、その役職や地位、職に就くために必要なスキルや経験が明示されます。目標とするキャリアへの到達に向けて具体的な要素が提示されると、従業員はそのギャップを埋めようと然るべき行動を計画に落とし込めます。
今いる企業で働く将来をイメージできないと、何を目標に働けば良いか見失う可能性もあります。将来への漠然とした不安や意欲の低下から離職に発展するおそれがあるでしょう。従業員が将来の計画を立てやすい状況にすることは、企業が継続的に人材を確保するためにも必要です。
ジョブ型雇用に対応するため
終身雇用制度を前提としたメンバーシップ雇用が従来の定番でした。しかし現代はジョブ型雇用が注目を高めています。さらに、急速なグローバル化への対応や専門人材の確保により、国際競争力を上げる点でもジョブ型雇用の導入が推進されているのです。
キャリアパスは、職種ごとに提示されるもの。専門性が高められるため、ジョブ型雇用と相性が良い制度といえます。
企業の成長・発展を実現させるには、人材の専門性を高めることが重要なポイントの一つ。そのためにもジョブ型雇用への対応は必要不可欠であり、キャリアパスはジョブ型雇用を機能させる一つのアプローチ方法です。
4.キャリアパスとキャリアプランの違い
キャリアパスは「道筋、プロセス」であるのに対し、キャリアプランはどのようなキャリアを築いていくかの「計画」です。具体的には、以下のような違いがあります。
キャリアパス | ・役職や地位、職位に就くまでの道筋 ・企業が提示(企業の制度や規定に基づいて検討される) ・組織内でのキャリアを軸とする |
キャリアプラン | ・キャリアにおける計画 ・従業員自身が計画(個人の価値観や興味、スキルにもとづいて検討される) ・キャリア形成全体を軸とする(転職や独立も選択肢になる) |
キャリアパスは組織内でのキャリアを検討するための指針であるのに対し、キャリアプランは従業員個人のキャリア形成全体にかかわる計画です。キャリアパスは組織内で完結する目標やプロセスですが、キャリアプランはそれ以外に転職や独立なども選択肢となり得ます。

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5.キャリアパスの書き方
従業員が自分のキャリアパスをイメージできていることは、具体的な目標設定を行ったり、業務・行動に落とし込んだりするためにも重要です。
企業の成長に必要な人材を確保するため、従業員が目標に向かってモチベーションを高めて業務に取り組むためには、キャリアパスを明確にする必要があります。
キャリアパスは頭の中でイメージするだけでなく、書き出すなどアウトプットし、上司に共有してアドバイスをもらったり、定期的に見直したりすることがポイントです。ここでは、キャリアパスの書き方をステップごとに解説していきます。
- キャリアのゴールを定める
- 現状の把握
- 具体的な計画の策定
- 定期的に見直す
①キャリアのゴールを定める
まずは、キャリアのゴールを設定します。キャリアとあわせて、理想の働き方や将来像も明確にするとよいでしょう。このとき、目指したい役職や立場だけでなく、将来実現したいライフプランや価値観も考慮します。
漠然としたゴールではそのプロセスを具体化できないため「〇年以内に〇〇の役職、地位に就く」といった具体的なゴールを考えてください。ゴールは必ずしも出世とは限らず、第一線でプレイヤーとして活躍することも立派なゴールの一つです。
モチベーションを下げないためにも、努力次第で実現可能なレベルのゴールを設定するとよいでしょう。
②現状の把握
次に、自分の現状を把握しましょう。自己分析による適性の把握、スキルや経験、成果など、これまでのキャリアを棚卸しします。現状を把握すると、理想のキャリアを実現するうえでのギャップを明らかにできるからです。このとき、自分自身について客観的に分析・評価するとよいでしょう。
③具体的な計画の策定
ゴールから逆算し、ゴールに対するギャップを埋めるための具体的なロードマップを描きましょう。このとき、ゴールに到達する過程での中間目標を定めることがポイントです。
キャリアパスの実現に必要なスキルや経験をいつまでに培うか、必要な成果をいつまでに出すかなどといった内容が、中間目標の一例です。具体的な計画を策定すると、進捗も把握しやすくなります。
④定期的に見直す
キャリアパスを一度書いて終わりにしないこともポイント。環境や価値観の変化にあわせて、ゴールが変わることもあるでしょう。反対に、スキルや経験を早めに身につけられたなど、予定より中間目標やゴールに早く到達できるケースがあるかもしれません。
必ずしも計画どおりにいくとは限らないため、定期的に見直し、必要に応じて修正しましょう。
6.キャリアパスの具体例
実際にキャリアパスはどのように提示され、従業員はそこに向けてどうキャリアパスを描いていけばよいのでしょうか。企業から提示されるキャリアパスと従業員が描くキャリアパスの具体例をご紹介します。
【営業職】キャリアパスの具体例
X社の営業職のキャリアパス | |
入社1年目 | 営業の基礎知識、現場経験 |
入社2〜4年目 | 営業の独り立ち、新規顧客の開拓を中心に営業経験を積む |
入社5〜7年目 | 新入社員・後輩の指導や主任・リーダーの役職に就く |
入社8〜10年目 | 営業職のエキスパート、課長として部をまとめられるレベル |
入社11年目〜 | ゼネラルマネージャーとして営業企画や経営企画など、戦略へと関わるポジションへ |
Aさんが描くキャリアパス | |
ゴール | ゼネラルマネージャーを目指す |
3年以内 | いち早く独り立ちし、営業成績の上位20%達成を目指す |
5年以内 | 主任に就き、後輩の育成に携わる |
8年以内 | 最速での課長就任を目指す、ゼネラルマネージャーに必要な経営知識を身につける |
Bさんが描くキャリアパス | |
ゴール | 第一線でプレイヤーとして活躍する |
3年以内 | 新規顧客を一人で年に5件獲得 |
5年以内 | 部内の営業成績で1位を達成する |
8年以内 | 営業上位3位までの成績をキープ、自らのノウハウを共有して組織の営業力の底上げに貢献できる管理職となる |
【事務職】キャリアパスの具体例
Y社の事務職のキャリアパス | |
入社1年目 | ジョブローテーション、OJTによる基礎知識・業務の理解 |
入社2年目 | 人事、経理、総務、法務、営業事務から希望の分野に配属 |
入社3〜5年目 | 配属分野の事務業務をマスター |
入社5〜7年目 | 後輩社員の育成、現場リーダーへ |
入社8〜10年目 | 課長、部長ポジションへ |
入社11年目〜 | 現場マネージャー、あるいは経営企画に参入しゼネラルマネージャーとして活躍 |
Cさんが描くキャリアパス | |
ゴール | 現場マネージャーとして部を統括 |
3年以内 | 簿記の資格を活かし、経理部への配属を目指す |
5年以内 | 現場リーダーになり、後輩の育成に携わる |
8年以内 | 現場マネージャーとして、経理部を統括 |
Dさんが描くキャリアパス | |
ゴール | ゼネラルマネージャーとして経営企画に参入 |
3年以内 | 人事部に必要なスキルを身につける |
5年以内 | 最速で人事部の現場マネージャーを目指す |
8年以内 | 課長へ就任し、経営企画の知識・経験を培う |
7.キャリアパス制度のメリット
キャリアパス制度の導入により、以下のようなメリットが期待できます。
- 従業員のモチベーションが向上する
- 自社に適した人材の採用につながる
- 人材育成・人員配置の効果が高まる
- 人事評価が透明化される
①従業員のモチベーションが向上する
キャリアパスは、企業内での将来の道筋を提示したもの。具体的には、将来どういったポジションや役割に就けるのかを明示しています。そのため、現在の業務がそこにどうつながるか、キャリアを実現するためにどのようなスキルや経験を身につけ、どのような目標を設定すべきかが把握できます。
将来目指したい姿が具体的にイメージでき、かつそのために必要なことが理解できると、モチベーションが高まり意欲的に業務へ取り組めるでしょう。キャリアパスによるモチベーションの向上は間接的に生産性アップにも寄与します。
②自社に適した人材の採用につながる
キャリアパスは、採用のミスマッチ防止にも役立ちます。なぜなら、キャリアパスで明示されるポジションの条件は、企業が必要とする人材像ともいえるからです。
応募者はキャリアパスから自分が企業の求める人材像にマッチするか、自分が理想とするキャリアの実現にマッチするかが見極められます。企業と応募者の双方がキャリアパスからお互いのニーズを確認できるため、マッチ度の高い人材の応募を期待できるでしょう。
さらに、キャリアパス制度は優秀な人材の獲得にも有効です。キャリアパス制度が整っている環境では、従業員がスキルを高めやすいため、向上心がある優秀人材へのアピールにもつながります。
③人材育成・人員配置の効果が高まる
キャリアパスが提示されていると、従業員は実現に向けて必要なスキルや経験を身につけるための主体的な行動ができます。企業側も従業員それぞれの目標やキャリアパスにあわせた教育が行えるでしょう。
また、キャリアパスに沿って従業員がスキルや経験を身につけていくことで、専門性が高まります。従業員のスキルや適性が明確になりやすいため、適材適所な人員配置を検討しやすくなるメリットもあります。
④人事評価が透明化される
キャリアパスが人事評価の基準となることで、評価基準の透明化にもつながります。
キャリアパスを軸に評価できれば、従業員は自分の現状を客観的に把握しやすくなり、評価の公平性も高まります。また、評価結果をもとに、キャリアパス実現のためにどのようなスキルや経験が必要かを理解でき、評価への不満も起こりにくいでしょう。
人事評価への不満はモチベーションの低下や離職につながるおそれもあります。キャリアパス制度があることで間接的にそうした問題の解消も期待できるでしょう。
8.キャリアパス制度の導入手順
キャリアパス制度の導入手順を詳しく解説します。
- 各種制度の設計
- フォローアップ体制の構築
①各種制度の設計
キャリアパス制度は、下記4つの要素から構成されます。
- 等級制度
- 研修制度
- 賃金制度
- 評価制度
各種制度を設計し、キャリアパス制度を具体化していきましょう。
等級制度の設計
まずは組織内の職務を分析し、必要なスキルや要件を明確に定義します。そのうえで、役職や職位の階層を設定しましょう。
等級は「主任」「課長」「部長」のように役職で設定するケースが一般的です。しかし、役職が就くのは入社してから数年であるため、一般社員も経験年数や能力に応じていくつかの階層を設定するとよいでしょう。
2〜5年目の従業員は「一般職B級」、6〜8年目の従業員は「一般職A級」、9〜11年目になると「リーダー職」といったように、階層ごとにネーミングをつけ、ステップが把握しやすいよう工夫します。
評価制度の設計
キャリアパスは人事評価と連動させることがポイントです。階層や職種にあわせた評価制度を設計しましょう。
評価項目は、能力や業績、情意をバランスよく取り入れ、複数の項目を合算して総合的に評価できるようにします。評価基準は全体で統一し、公平性を保つことが大切です。
賃金制度の設計
設定した階層ごとに給与テーブルを設計しましょう。階層・等級が上がるにつれて、業務の難易度も高くなり、責任も大きくなるため、その点も加味した給与を設定することがポイントです。
給与テーブルは、社内でいつでも確認できるよう開示することも必要になります。それにより賃金制度の透明性が高まり、キャリアパス実現のためのモチベーション向上にも寄与するでしょう。
研修制度の設計
従業員がキャリアパスを実現するため、必要なスキルが身につけられる研修制度を設けることも必要です。階層にあわせて、適切なタイミング・内容の研修プランを作成しましょう。
研修は、社内研修や外部研修、eラーニングをうまく組み合わせることがポイント。書籍購入費用や外部セミナーの受講費などを負担する制度として構築するのもよいでしょう。
②フォローアップ体制の構築
キャリアパス制度は作成し、導入するだけでは機能しません。従業員が理解し、活用することで初めて効果を発揮するもの。
キャリアパス制度を機能させるには、従業員に理解を促すだけでなく、上司との定期的な面談や周囲のサポートなど、フォローアップ体制を構築することも重要です。キャリア相談室やキャリアアドバイザーを設置したり、定期的にキャリア講習を開催したりすることも効果的といえます。
9.キャリアパス制度導入のポイント
キャリアパス制度をうまく運用して効果を発揮するには、以下ポイントを押さえましょう。
社内のロールモデルを提示する
キャリアパスが提示されていても、具体的なイメージがつかないとキャリアを選択しにくくなってしまいます。キャリアパスを自分事として捉え、主体的にスキル・キャリア開発に取り組んでもらうためには、社内のロールモデルを提示することが有効です。
ロールモデルがどのようなステップで今のキャリアに到達したかの実例は、従業員が同じキャリアパスを目指すうえでの参考となります。また、ロールモデルが提示されることはキャリアパスが機能している証明にもなり、従業員に取り組む意義を伝えられます。

ロールモデルとは? 意味やメリット、具体例、見つけ方を簡単に
ビジネスパーソンに欠かせないロールモデルをご存じでしょうか?ロールモデルの存在は、自分の現状認識と成長に役立つのです。
ロールモデルとは何か?
役割
効果や影響
どのような手法でロールモデルを利用す...
キャリアパスは複数設定する
キャリアパスは複数設定すると、従業員側の選択肢が広がります。「昇格・昇進」はキャリアパスのなかでも大きな基準であるものの、それが必ずしもその人の適性やキャリアプランに応じた選択とは限りません。
新たなキャリアに挑戦できる機会、理想とするキャリアパスが実現できなかったときなどに備え、複数のキャリアパスがあると従業員が柔軟かつ臨機応変に歩めます。ライフステージにあわせた働き方に対する配慮も大切です。
ただし、運用の負担も考慮して、キャリアパスは作りすぎないよう注意しましょう。
到達点を明確にする
キャリアパス制度があるにもかかわらず、実際にはキャリアパスが実現しにくい状況に陥っているケースもあります。
形だけのキャリアパス制度にならないよう、必要な能力やスキル、経験や勤続年数などの条件を定義し、到達点を明確に提示しましょう。キャリアパス制度は、企業側が提示した到達点や昇格・昇進の基準をしっかりと守ることで機能します。