キャリアアップ助成金は、非正規雇用のキャリアアップに取り組む事業主を支援する助成金のこと。非正規労働者の待遇改善が注目を集める中、キャリアアップ助成金がクローズアップされています。
- キャリアアップ助成金の概要
- キャリアアップ助成金の目的
- 各コースの詳細
- 助成金額
- 申請手順
- キャリアアップ計画書の記載について
などを見ていきましょう。
目次
1.キャリアアップ助成金とは?
キャリアアップ助成金とは有期契約労働者のキャリアアップや待遇改善のために正規雇用転換やスキルアップ、昇給といった取り組みを実施する企業に対して支払われる助成金のこと。
キャリアアップとは?【意味を簡単に】助成金、転職、使い方
キャリアアップとは、知識やスキルを高めて地位や経歴を向上させること。キャリアアップの意味や転職、キャリアプランの立て方、助成金について解説します。
1.キャリアアップとは?意味と使い方
キャリアアッ...
キャリアアップ助成金の目的
キャリアアップ助成金の目的は有期契約労働者や短時間労働者、派遣労働者といった非正規雇用労働者の労働意欲の向上及びキャリアアップの促進です。
これらの実現は、生産性の向上や優秀な人材の確保といった企業側のメリットにもつながります。
2.キャリアアップ助成金の概要まとめ
キャリアアップ助成金の概要をコースと対象者から見ていきます。
- 7つのコース(平成30年度)
- 助成金の対象者
①7つのコース(平成30年度)
キャリアアップ助成金には、7つのコースがあります。
- 正社員化コース
- 賃金規定等改定コース
- 健康診断制度コース
- 賃金規定等共通化コース
- 諸手当制度共通化コース
- 選択的適用拡大導入時処遇改善コース
- 短時間労働者労働時間延長コース
キャリアアップ計画の中身によって、申請する助成金のコースは変わります。コースごとに助成金を受けられる要件も異なりますので、申請する助成金のコース概要をしっかりと確認しましょう。
②助成金の対象者
助成金の対象者は、有期契約労働者や短時間労働者、派遣労働者などの非正規雇用労働者です。無期雇用労働者でも、正規雇用者と比べて勤務が短い場合、短時間正社員以外は短時間労働者に該当するため助成金の対象となります。
支給対象となる事業主
どのコースにも共通するキャリアアップ助成金の支給対象となる事業主は、次の通りです。
- 雇用保険適用事業所の事業主
- 雇用保険適用事業所ごとにキャリアアップ管理者を置いている事業主
- 雇用保険適用事業所ごとに、対象労働者に対しキャリアアップ計画の作成、管轄労働局長の受給資格の認定を受けた事業主
- 該当するコースの措置に係る対象労働者に対し、賃金の支払い状況等を明らかにする書類を整備している事業主
- キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組んだ事業主
3.キャリアアップ助成金にまつわる労働者の定義
キャリアアップ助成金にまつわる労働者は、大きく4つに分かれます。それぞれの労働者の定義を見ていきましょう。
- 有期契約労働者とは?
- 無期雇用労働者とは?
- 派遣労働者とは?
- 短時間労働者とは?
①有期契約労働者とは?
有期契約労働者とは、期間の定めのある労働契約を結んでいる労働者のこと。
期間に定めのある労働契約を締結している労働者であれば、短時間労働者や派遣労働者も、有期契約労働者に含まれます。
②無期雇用労働者とは?
無期雇用労働者とは、期間の定めのない労働契約を結んでいる労働者のこと。
労働契約期間に定めがなければ、短時間労働者・派遣労働者も、無期雇用労働者に含まれますが、
- 正規雇用労働者
- 勤務地限定正社員
- 職務限定正社員
- 短時間正社員
以外の労働者でなければなりません。
③派遣労働者とは?
派遣労働者とは、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(昭和60年法律第88号)第2条に規定されている派遣労働者のこと。近年、派遣社員は社会でも広く認知されています。
④短時間労働者とは?
短時間労働者とは、「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(平成5年法律第76号)第2条に規定されている短時間労働者のこと。働き方改革の推進もあって、短時間労働者の活躍の場は増えています。
4.正社員化コース
正社員化コースは、有期契約労働者等を正規雇用労働者に、転換や直接雇用した場合に支給される助成金のこと。
正規雇用労働者の対象には、勤務地限定正社員や職務限定正社員、短時間正社員などが含まれます。母子、父子家庭の母や父を正規雇用労働者に転換した場合など、一定の条件下で助成額の加算もあります。
中小企業と大企業の定義
キャリアアップ助成金で用いられる中小企業事業主の範囲は、常時雇用する労働者の数から判定します。常時雇用する労働者とは、2カ月を超えて使用される者、かつ、週当たりの所定労働時間が当該事業主に雇用される通常の労働者と概ね同等である者のことです。
申請の手順、申請期限
申請には手順があります。
- 対象労働者を6カ月以上雇用
- キャリアアップ計画書を提出
- 就業規則を整備
- 正社員等へ転換
- 転換後の賃金を6カ月分支給した日の翌日から起算して2カ月以内に申請する
注意点
正社員化コース申請には、
- 入社時に正規雇用労働者など多様な正社員として雇用する約束をして雇用されていた場合は対象外
- 転換制度の規定と異なる手続きや要件、実施時期等で転換した場合は不支給
- 転換制度の規定の順序を間違った場合には不支給
といった注意点があります。
5.賃金規定等改定コース
賃金規定等改定コースは、有期契約労働者の賃金規定を、基本給の2%以上増額改定した場合に支給される助成金です。中小企業が3%以上増額改定した場合、職務評価の手法を活用して増額改定した場合に、加算されます。
賃金規定等とは?
賃金規定等改定コースにおける賃金規定等とは、賃金規定や賃金一覧表などのこと。
賃金規定等改定コースは、労働協約か就業規則、どちらかの中で賃金額の定めがあれば助成金の支給対象となります。
申請の手順、申請期限
賃金規定等改定コースの申請の手続きには、手順があります。
- キャリアアップ計画を作成、提出
- 賃金規定等の増額改定を実施
- 増額改定後の賃金に基づき6カ月分の賃金を支給する
- 6カ月分の賃金を支給した日の翌日から起算して2カ月以内に支給申請
6.健康診断制度コース
健康診断制度コースは、有期契約労働者に対して法律で定める基準を超えた内容の健康診断制度を新たに設けた、延べ4人以上の労働者に受診をさせたという場合に支給される助成金です。1事業所当たり1回のみ支給されます。
申請の手順、申請期限
健康診断制度コースの申請には、手順があります。
- キャリアアップ計画を作成、提出
- 就業規則等へ健康診断制度の規定を盛り込む
- 延べ4人以上に健診を実施
- 実施日の属する月の賃金支給日の翌日より2カ月以内に支給申請
7.賃金規定等共通化コース
賃金規定等共通化コースは、有期契約労働者等に関して、正規雇用労働者と共通する職務などに応じた賃金規定を新たに導入した場合に支給される助成金のこと。
1事業所当たり1回のみ支給され、対象労働者2人目以降、上限20人までに助成金の加算がある場合もあります。
申請の手順、申請期限
賃金規定等共通化コースの申請手順は、以下の通りです。
- キャリアアップ計画を作成、提出
- 有期契約労働者と正社員に共通する賃金規定を作成、実施
- 新たな賃金規定に沿った形で6カ月分の賃金を支給する
- ③の賃金支給日の翌日より2カ月以内に支給申請
8.諸手当制度共通化コース
諸手当制度共通化コースは、有期契約労働者に対して住宅手当や家族手当など、正社員と共通する新たな諸手当制度を導入した場合に支給されるものです。1事業所当たり1回のみ支給され、対象労働者の人数によって加算が行われる場合もあります。
申請の手順、申請期限
諸手当制度共通化コースの申請の手順は、以下の通りです。
- キャリアアップ計画を作成、提出
- 新たな諸手当制度を導入
- 新たな諸手当制度に沿ったかたちで6カ月分の賃金を支給
- ③の賃金支給日の翌日より2カ月以内に支給申請
9.選択的適用拡大導入時処遇改善コース
選択的適用拡大導入時処遇改善コースは、労使の合意に基づいた社会保険適用拡大の措置によって、有期契約労働者等を新たに被保険者として基本給を増額した場合に支給される令和2年3月31日までの暫定措置の助成金です。
1事業所当たり1回のみ支給され、支給申請上限人数は45人までです。
申請の手順、申請期限
選択的適用拡大導入時処遇改善コースの申請手順は、下記の通りです。
- キャリアアップ計画を作成、提出
- 社会保険の適用拡大措置に関して労使合意の措置を講ずる
- 有期契約労働者の社会保険加入手続きと基本給アップを行う
- 基本給アップ後6カ月分の賃金支給日の翌日より2カ月以内に支給申請
10.短時間労働者労働時間延長コース
短時間労働者労働時間延長コースは、
- 短時間労働者の週所定労働時間を5時間以上延長
- 賃金規定等改定コースと併せて実施し週所定労働時間を1時間以上5時間未満に延長
によって新たに社会保険を適用した場合に支給される助成金です。
申請の手順、申請期限
短時間労働者労働時間延長コースの申請手続きは下記のとおりです。
- キャリアアップ計画を作成、提出
- 1週間当たりの所定労働時間延長を実施
- 延長後6カ月分の賃金を対象労働者へ支給
- ③の賃金支給日の翌日より2カ月以内に支給申請
11.労働関係助成金の割増について
労働関係助成金には、割増が行われるケースがあります。
割増の対象は今後予測される労働力不足を補うために、企業内の労働生産性を高める取り組みを行い、その取り組みに効果が認められた事業主。助成金を申請する際は、助成金の上乗せ対象になるかどうか確認しましょう。
生産性要件とは?
生産性要件とは助成金を増額加算させるための支給要件のこと。助成金を申請する企業が、生産性要件を満たしている場合、助成金が増額加算されます。
生産性要件の計算式は、付加価値を日雇労働被保険者や短期雇用特例被保険者を除く雇用保険被保険者数で割ります。
付加価値は、企業の例でいえば、営業利益、人件費、減価償却費、動産や不動産賃借料、租税公課などを合計したもの。なお、生産性要件の算定期間に事業主都合で離職者を発生させていないことも助成金増額の要件となります。
12.キャリアアップ計画書とは?
キャリアアップ計画書とは、対象となる非正規労働者のキャリアアップを推進するために計画した内容をまとめたもののこと。
複数ある助成金の各コースによって、キャリアアップ計画書のプランは異なります。助成金受給においては、コース内容とキャリアアップ計画書の内容がマッチングするようなプランニングが必要です。
キャリアアップ計画書の書き方
キャリアアップ計画書の特徴は、
- 非正規雇用労働者のキャリアアップに向けて作成する
- 目標や実施期間、目標達成のための取り組みといったイメージをあらかじめ記載する
- 当初の計画を、変更届の提出で随時変更できる
- 異なるコースを同時申請できる
キャリアアップ計画書について、8つの項目から詳細を見ていきましょう。
- キャリアアップ管理者
- キャリアアップ管理者の業務内容
- キャリアアップ計画期間
- キャリアアップ計画期間中に講じる措置の項目
- 対象者
- 目標
- 目標を達成するために講じる措置
- キャリアアップ計画全体の流れ
①キャリアアップ管理者
キャリアアップ管理者は、キャリアアップ計画を推進する人物、1事業所当たり1名を配置、キャリアアップに関する知識や経験を保有する人物が望ましいが特別な資格は不要
といった条件から選びます。
一般的には代表取締役やオーナーなどが任命されるようです。
②キャリアアップ管理者の業務内容
キャリアアップ管理者の業務内容は、キャリアアップ計画の策定や推進、対象者への周知やフィードバックといったもの。これ以外には、非正規労働者のキャリアアップに関して、キャリアアップ管理者が中心となって行う業務が該当します。
③キャリアアップ計画期間
キャリアアップ計画期間では、キャリアアップ計画を実施しようとする予定の期間を記載します。計画書の内容にもよりますが、一般的には3~5年程度の期間で設定することが多いようです。結果を出せるよう、ある程度の期間確保が必要でしょう。
④キャリアアップ計画期間中に講じる措置の項目
キャリアアップ計画期間中に講じる措置として、同時に複数のコースを選択することも可能、変更届の提出があればコースが変更できる、提出時に予定しているコースを選択する、などがあります。
⑤対象者
キャリアアップの対象者について個人名を記載する必要はありません。ただし入社年月日
や配属先部署、雇用形態などについての説明は必要です。
キャリアアップ計画期間中に新規労働者を採用する可能性があり、当該新規労働者もキャリアアップの対象としたい場合は、「新規に雇用したパートタイム労働者」と記載します。
⑥目標
目標には、キャリアアップ計画終了時に目指す姿を記載します。正社員化コースを例に見ると、職業訓練などを活用して身に付けたいスキル、スキルを身に付けた後に面談を経て正社員にするなどとなります。
⑦目標を達成するために講じる措置
目標を達成するために講じる措置では、キャリアアップの目標達成に向けた具体的な措置の実施方法について記載します。
正社員化コースの場合、キャリアアップのために行う職業訓練の具体的内容、正社員にするための面談の設定などとなるでしょう。
⑧キャリアアップ計画全体の流れ
キャリアアップ計画全体の流れは、キャリアアップのための目標の実現に向けた措置、設定した措置の実施についてを記載します。
正社員化コースでいえば、
- 正社員志望の労働者を募る
- 職業訓練を実施
- 成果を面談で評価
といったものです。
ハローワークへ提出
キャリアアップ計画書を作成したら、自社を管轄するハローワーク、もしくは都道府県によっては労働局へ計画書を提出します。管轄労働局長の認定を受けるためです。
申請は、少なくともキャリアアップ計画を実行する前日から起算して1カ月前には行います。公開されているハローワーク提出前のチェックリストを活用して、不備や漏れがないかを事前にチェックしてください。