キャリア段位制度とは、個人の実践的な職業能力を評価、認定する制度のことです。ここではキャリア段位制度の目的や評価方法、メリットやデメリットについて解説します。
目次
1.キャリア段位制度とは?
キャリア段位制度とは、政府が掲げる「21の国家プロジェクト」のひとつである「実践キャリアアップ戦略」を実現するために創設された評価制度のこと。実践的な職業能力に重点を置き、全国統一基準にもとづいた段位によって職業能力を評価・認定します。
一度は廃止・再検討となった制度
2010年6月に閣議決定されたキャリア段位制度ですが、府省庁版事業仕分けにて「費用対効果が見えにくい」という理由から、いったん廃止、抜本的再検討の判定を受けました。
しかしその後一転して事業は継続。同年秋からの実施に向けて作業が再開されたという経緯があります。
2.キャリア段位制度の目的
キャリア段位制度の目的は、部長や課長といった従来の肩書ではなく、キャリアや能力で評価される社会の実現、およびプロフェッショナルとして誇りを持てる社会の実現。
キャリア段位制度では企業や事務所をまたいで全国共通の基準を作成しました。これにもとづいた人材育成を進めて労働意欲の促進、そして今後需要が拡大するであろう分野での人材確保を図ります。
3.キャリア段位制度の評価方法
キャリア段位制度ではエントリーレベルからトッププロレベルまでの7段階でレベルを評価します。各レベルの特徴は以下のとおりです。
- エントリークラス
- 一定の指示のもと、ある程度の仕事ができる
- 指示がなくても仕事ができる
- チーム内でリーダーシップを取れる
- 特定の分野における高度な専門性を持つ(番号は5だがレベルとしては5と6になる)
- その分野を代表するプロフェッショナル
4.キャリア段位制度における介護プロフェッショナルとは?
キャリア段位制度は以下3つの分野でスタートしています。
- 介護プロフェッショナル
- エネルギー環境マネジャー(旧カーボンマネジャー)
- 食の6次産業化プロデューサー
ここでは介護職員の能力を証明する介護プロフェッショナル段位制度、略して「介護プロフェッショナル制度」について説明します。
介護プロフェッショナル制度成立の背景
介護プロフェッショナル制度成立の背景には、何があるのでしょうか。ここでは以下2つの視点から介護現場の現状について説明します。
少子高齢化にともなう介護人材不足
厚生労働省の調査によれば2000年以降、高齢者の人口は急速に増加。2025年に必要な介護人材の数は約250万人と予測され、達成するには年間約6万人の人材を確保しなければなりません。
2000年に約54万人だった介護職員は年々増加しており、2015年には180万人を超えるまでになりました。それでも業界の65%が人手不足だと感じています。少子高齢化にともなって、介護の担い手はまだまだ不足しているのです。
定着率の悪さ
2018年の介護業界の採用率は18.2%。ほか産業が15%前後である点と比べても、介護業界の採用率は比較的高いとわかっています。それにもかかわらず、なぜ介護人材は増えないのでしょうか。
そこには長時間労働や低賃金、劣悪な就労環境などさまざまな理由があります。介護業界は「職場環境が整っていない」「将来設計が立てられない」などの悩みを解決して、定着率の悪さを改善しなければなりません。
5.介護プロフェッショナルにおけるキャリア段位制度の7段階
キャリア段位制度では、既存の国家資格制度や研修制度との関係を考慮しながら、実践スキルを重点的に評価します。ここでは先に触れた「キャリア段位制度の7段階評価」について、もう少し詳しく説明します。
レベル1:エントリークラス
エントリークラスの「レベル1」は基礎的な教育を受けた段階。分野共通の段階としては、職業準備教育を受けたところになるのです。
介護プロフェッショナルのレベルでは、初任者研修によって働くうえで必要となる基本知識と技術を習得した段階を指します。
レベル2:一定の指示のもと、ある程度の仕事ができる
能力が向上するにつれて段位は上がっていきます。レベル2は一定の指示のもと、ある程度の仕事ができる段階。介護プロフェッショナルとして、利用者のニーズや状況の変化を把握・判断し、適切な介護を実施します。
基本的な知識と技術を活用し、決められた手順に従って基本的な介護を実践できる段階がレベル2です。
レベル3:指示がなくても仕事ができる
指示がなくても一人前の仕事ができるようになると、レベルは3になります。利用者の状況に応じた介護やほか職種との連携を行うため幅広い領域の知識と技術を習得し、的確な介護が実践できるようになるレベルです。
キャリア初期の介護職員は、はじめにこのレベル1からレベル3のあいだでスキルアップを目指します。
レベル4:チーム内でリーダーシップを取れる
レベル4から7までが「プロレベル」と呼ばれる段階です。レベル4では一人前の仕事ができる点にくわえ、チーム内でのリーダーシップが求められます。部下に対して指示や指導ができる段階です。
レベル4以上になると、人事評価や査定を行う「アセッサー」になれます。サービス提供責任者や主任などの肩書がつく場合もあるのです。
レベル5・6:特定の分野における高度な専門性を持つ
高度な専門性とオリジナリティ、そしてプロレベルのスキルが身に付くと、レベル5から6の段階になります。さまざまな生活障がいをもつ利用者に、介護プロフェッショナルとして質の高い介護を実践できるレベルです。
また介護技術の指導や職種間連携のキーパーソンにもなります。チームケアの質を改善するためには欠かせない存在です。
レベル7:その分野を代表するプロフェッショナル
レベル7になると、ついに「トップレベル」「介護のプロフェッショナル」として認められます。その分野を代表するプロフェッショナルの段階で知識や技術はもちろん、独自性のある介護が期待されるのです。
なお事業者側に立って経営に携わるには、一般的にレベル5以上の能力が求められます。評価を行う際は、事業者やアセッサーごとに評価がばらばらにならないよう、「できる」か「できない」かの2択で客観的な評価を行うのです。
6.評価を行うのはアセッサー
キャリア段位制度にて、人材の評価を行うのは「アセッサー」と呼ばれる人たちです。アセッサーとは、国で定めた全国共通の評価基準にもとづいて、介護職員の技術評価を行う人のこと。
アセッサーには介護職員のキャリアアップを推進していくとともに、スキルアップに向けた具体的な方策の検討、スキルアップの支援を行う役割も期待されています。
アセッサーになるためには講習を受ける必要がある
アセッサーになるためには「アセッサー講習」を受ける必要があります。アセッサー講習は指定テキストによる自主学習のほか、eラーニング学習、トライアル評価で構成されているのです。事業所はもちろん自宅でも受講できます。
アセッサー講習を受講したのち最後の確認テストに合格すると、アセッサーとして登録され修了証が交付されるのです。
アセッサーの受講要件
アセッサー講習を受講するためには、以下5つのうちいずれかを満たしている必要があります。
- 介護キャリア段位制度のレベルが4以上である
- 介護福祉士として3年以上実務に従事している
- 介護福祉士試験委員の要件に該当している
- 介護福祉士・保健師・助産師・看護師の資格を得たあと5年以上実務に従事している
- サービス提供責任者や主任、介護部門のリーダーである
7.キャリア段位制度のメリット
キャリア段位制度を活用するとどのようなメリットが得られるのでしょうか。ここでは事業所側、従業員側それぞれから見たキャリア段位制度のメリットについて説明します。
事業所のメリット
事業所のメリットは、下記の2つです。
- 職員の能力向上
- サービス水準のアピール
①職員の能力向上
キャリア段位制度で介護スキルを評価する際、「介護技術評価基準」と呼ばれる148個のチェック項目を使います。この基準には、介護現場に求められるスキルの習得具合を客観的に判断するための項目が細かく設定されているのです。
「介護技術評価基準」を活用すれば介護技術や指導内容の標準化を図れます。そのため「指導方法が異なる」「介護技術が自己流になりスキルに差が出ている」といった悩みを解決して職員の能力を高められるのです。
②サービス水準のアピール
介護利用者が「技術が高くて知識豊富な職員がたくさん働いている施設を選びたい」と考えるのは当然のこと。キャリア段位制度のレベル認定を受けた職員やアセッサー業務を行う職員が多ければそれだけ、サービス水準のアピールになるでしょう。
キャリア段位制度を活用すれば、利用者やその家族に対してより質の高いサービスを提供しているとアピールできるのです。
職員のメリット
続いてキャリア段位制度の活用における職員側のメリットについて、説明します。
- 自身のスキルを証明できる
- 処遇改善の材料になる
①自身のスキルを証明できる
キャリア段位制度を活用すれば、自身のスキルを客観的に証明できます。それまで何となくこなしていた実務やいつのまにか身につけていた知識、スキルのレベルが明確になるのです。
自身のスキルが明確になれば、目標達成までの手順を整理できたり、仕事に対するモチベーションを上げたりできるでしょう。
②処遇改善の材料になる
自身のスキルを客観的に証明できれば、処遇改善の材料になり得ます。介護労働安定センターの調査によれば、施設で働く半数以上の職員が「仕事内容のわりに賃金が低い」と回答しているのです。
キャリア段位制度を活用すれば、公平な能力評価が可能になります。さらに処遇改善のインセンティブにつながれば、職員に大きなメリットをもたらすのです。
8.キャリア段位制度のデメリット
キャリア段位制度にはさまざまなメリットがある一方、デメリットも存在するのです。ここでは事業所側、従業員側それぞれから見たキャリア段位制度のデメリットについて説明します。
事業所のメリット
事業所のデメリットは下記の2つです。
- 事務的な負担が大きい
- レベル認定に費用がかかる
①事務的な負担が大きい
キャリア段位制度の導入によって、アセッサーや段位認定を受ける人をはじめ、施設や事業所すべての人に事務的な負担が増えます。
特にアセッサーが内部評価を行う場合、被評価者の介護評価についての根拠をすべて記録しなければならないため、膨大な時間が費やされるのです。
介護現場はただでさえ人手不足が著しい現場。アセッサーの担当業務をほかの職員が代わりに行わなくてはならないため、結果として現場の負担が増えてしまうのです。
②レベル認定に費用がかかる
キャリア段位制度のレベル認定に費用が生じる点も、デメリットのひとつ。2020年度のアセッサー講習受講にかかる費用は2万3,230円でした。後述する助成金制度を設けている自治体もあるため、あらかじめ確認しておくとよいでしょう。
職員のメリット
職員側のデメリットとして考えられるのは、下記のとおりです。
- 能力育成制度ではない
①能力育成制度ではない
キャリア段位制度はあくまで実践における知識とスキルを評価するための制度。よって実践的な職業能力の育成を保証する制度ではありません。そのため評価の低い職員は就業機会が制限され、スキルアップの機会を失う恐れもあるのです。
とりわけ非正規職員の多い現場では、雇用の格差がそのまま評価につながらないよう、制度の導入前に、専門技術や知識の習得を制度的に保証する必要があります。
9.キャリア段位制度の導入による補助金制度
キャリア段位制度には、レベル認定やアセッサー講習の受講で費用がかかります。しかし自治体によって補助金制度を設けているところもあるのです。ここではキャリア段位制度の導入による補助金制度をふたつ説明します。
- 東京都介護職員キャリアパス導入促進事業
- キャリア形成促進助成金
①東京都介護職員キャリアパス導入促進事業
介護職員の質の向上と定着を促進するため、東京都では「東京都介護職員キャリアパス導入促進事業」を実施しています。補助対象は、キャリア段位制度によるレベル認定者への手当といった経費やキャリアパス導入体制づくりにかかる経費など。
本事業による補助金を受けるためには、以下2つの要件を満たす必要があります。
- レベル認定者およびアセッサーに手当相当額を支給している
- 事業所の管理者が、都の指定するセミナーに参加している
②キャリア形成促進助成金
「キャリア形成促進助成金」とは、介護職員のキャリア形成を効果的に促進するため、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成するもの。
介護職員の申出にもとづき、介護事業者がキャリア段位レベル認定の申請手数料を負担する際にその1/2を助成します。原則、中小企業の事業主が助成の対象です。