カスケードダウンとは、組織の戦略が上層部から末端まで細分化されていることです。ここではカスケードダウンの活用方法や成功させるポイント、戦術を練るための4Sについて解説します。
1.カスケードダウンとは?
カスケードダウンとは、企業活動において経営層が設定した上位レベルの戦略や目標が、下位レベルの部や課、社員へと細分化されていること。英語では「Cascade down」となり「滝が落ちる」「急降下する」という意味を持ちます。
会社の上層部だけが経営方針を理解し、下層部にはそれが伝わっていないときも少なくありません。これはカスケードダウンが正常にできていないという証です。
カスケードダウンが正常に行われている会社は、どれだけ大きな組織であっても各々が同じ戦略や目標を持ち、それを達成するために企業活動を行います。
カスケード(Cascade)
「連なった小さな滝」を意味する言葉。連鎖的に物事が生じる様子や、同じものが数珠つなぎに連結されている構造です。
ビジネスだけでなく生物や医学、電気など幅広い業界で使われています。階段状に水が落ちる様子や、庭園の傾斜地で階段状になっている流れを指して「カスケード」という場合もあるので覚えておきましょう。
2.カスケードダウンの活用方法
カスケードダウンは「目的」「戦略」「戦術」の3段階で構築されており、それぞれの階層が連動しています。
- 目的
- 戦略
- 戦術
①目的
「存在意義」や「達成すべき使命」のこと。「業界トップシェア」「従業員とその家族を幸せにする」「地域社会に貢献する」など、最終的に成し遂げたい使命を設定します。
カスケードダウンにおける「目的」は、組織の目標や戦略を会社全体に浸透させるための指標になるのです。下層部が目の前の仕事をこなすことだけに集中してしまう、各階層の連携が取れないなどのトラブルを防ぐためにも、上層部の目的を浸透させましょう。
②戦略
先に設定した「目的」を達成するために、具体的な行動を示したもののこと。たとえば「年間20億円の純利益をあげる」という目的達成のため「ターゲット層を拡充して売り上げを15%伸ばす」「管理費のコストを3%下げる」などの計画を立てることです。
戦略がないと「短期的な視点で仕事をしてしまう」「各業務に関連がない、それどころか一部矛盾や重複すら生じる」などの問題が生じます。戦略は長期的な視点で立てることが多いのも特徴です。
③戦術
戦略を達成するための具体的な手段のこと。「20代をターゲットにして販促活動を行う」「A社に300冊の冊子を配布する」など、戦略をより具体的にする行動を定めます。
戦術は下層部になるほど具体的に定めることがポイントです。ひとつの戦略に対して複数の戦術を立てたり、戦術が的確でないと判断した場合、別の戦術に変更したりします。
上位層の「戦術」は下位層の「目的」となるもの。そのため具体的な戦術は経営層ではなく現場の責任者が立てることも多くあります。
戦略と戦術の違い
実際のビジネスでは「戦略」のなかに「戦術」を含んで語るのが一般的です。あえて「この戦略の戦術は〇〇です」のような使い方はしません。戦略が比較的長期な指標であるのに対して、戦術では短期的な目標が設定されます。
また戦略は目的を達成するためのシナリオであり、全体像に鑑みながら現場と離れた場所で設定される場合もあるのです。しかし戦術は現地での行動様式として短期的かつ具体的な作戦を設定します。
戦略と戦術はどちらが欠けても一貫性や整合性のない計画になり、持続的な成長が難しくなるのです。
3.カスケードダウンの戦術を練るための4S
カスケードダウンの戦略を練るためには「4S」と呼ばれるフレームワークの活用が効果的です。4Sとは、以下4つの頭文字をとったもののこと。
- Selective
- Sustainable
- Sufficient
- Synchronized
①Selective(セレクティブ)
その戦略が選択的かどうかを見極めるもの。すべてを「やる」のではなく「やること」と「やらないこと」を明確に区別するのです。経営資源は基本、限りがあります。
自社は何をやって何をやらないのかを明確に区別して、経営資源を分配する場所を絞らなくてはなりません。
「やらないこと」を決めると「やること」の範囲が狭まるため、その戦局で勝つ確率が高まります。反対にあれもこれもと手を広げると、経営資源の分配が効果的に行われず、かえって疲弊、消費するだけになる恐れがあります。
②Sustainable(サスティナブル)
立てた戦略が短期すぎず中長期に継続できるかを判断するもの。たとえ短期的に見ればよいものでも、中長期的に見て競合にすぐ真似されてしまう戦略では勝ち残れません。戦略が継続的に維持できればできるほど、競合との勝負を有利に進められます。
次の「Sufficient」と紐づけて、経営資源を枯渇させないように継続できるSustainableな戦略が重要です。
③Sufficient(サフィシェント)
戦略で決まった経営資源のリソース配分が十分であるかを判断するもの。順を追って資源を投入していくと、別の戦局からその都度資源を割く形になるため、筋がよい戦略とはいえません。
Sufficientは先に触れた「Selective」と双子の関係にたとえられることもあります。戦略がSelectiveであればSufficientであり、SufficientになっていなければSelectiveを見直す必要があるからです。
④Synchronized(シンクロナイズド)
自社の特徴や強みを有効に活用できているか見る指標のこと。戦略が自社の特徴を生かしていればいるほど、成功の可能性は高くなるのです。たとえば自社に高い技術力があるのであれば、技術力を活かした戦略には整合性があり、成功の可能性が高まります。
反対に自社の特徴を生かし切れていない、つまり戦局を有利に進められない戦略では、狙いどおりの結果を出すことが困難です。この4つがすべて当てはまるケースは少ないものの、満たす「S」が多いほどよい戦略であるといえます。
4.カスケードダウンを成功させるためのポイント
カスケードダウンを効果的に活用できると、経営層の目標をより全社的に伝えられます。カスケードダウンを成功させるポイントについて説明しましょう。
- 主体的な目標の設定
- 従業員の意見を反映
- 定性目標と繰り返し
- 適切な目標設定
- SMARTの法則を使った目標設定
①主体的な目標の設定
私たちがコントロールできるのは、自分の行動と思考だけです。そのため目標設定は主体的に行う必要があります。
「上司の態度が厳しすぎる、もっと自分を認めてほしい」「もっと給料を上げてほしい」「トップ営業マンになりたい」これらは自分以外の他者が決めることであり、自身がコントロールできる範囲には限界があるもの。
目標を設定する際は、周囲の環境や他者に依存せず、自分がコントロールできる範囲に責任を持つことが重要です。
②従業員の意見を反映
従業員の意見を反映した「ボトムアップ型」の体制が適しています。たしかに会社全体としての目標は経営層が決定するものの、それを実行するのは現場の従業員たちです。
上位層の決定事項に沿って部下には指示だけする「トップダウン型」では、部下がその目標を自分事として考えられません。
「ボトムアップ型」で部下の意見を反映した目標を設定すれば、その目標は自分たちで決めた目標となるため、積極性や理解度が高まるでしょう。
③定性目標と繰り返し
カスケードダウンの成功には、目標設定だけでなく振り返りも重要です。成果に至るまでのプロセスに注目して、結果ではなく行動価値に注目した目標を「定性目標」といいます。しかしこの定性目標は振り返りが難しい目標でもあるのです。
しかし定性目標を立てると、目指すべき理想の状態が明確になり、目標達成に向けた軸を持てます。そのため定性目標をどう振り返るか、あらかじめ決めたうえで目標を達成できたかできなかったか、振り返るとよいでしょう。
④適切な目標設定
あまりにも現実的ではない目標が設定されていると、戦略は現実味のないものとなり、カスケードダウンはうまく機能しません。適切な目標とは、現実的な範囲で成果が挙げられる、かつその人に合った目標のこと。
たとえば「去年よりも事業規模を拡大する」という目標では、去年からどのくらい拡大すればクリアになるのかわかりません。
「部署Aから1億円の利益を出す」「昨年比120%の成長を実現する」のほうが現実味を帯びた目標になります。カスケードダウンの成功に向けた具体策も練っていけるでしょう。
⑤SMARTの法則を使った目標設定
適切な目標を設定するための手法に「SMARTの法則」があります。「SMARTの法則」では以下5つの要素から目標を達成し、成功をつかむための因子を探るのです。
- S(Specific):明確性や具体性のある目標
- M(Measurable):数値で計測可能な目標
- A(Achievable):現実的に妥当で達成可能な目標
- R(Relevant):事業や業務との関連性が高い目標
- T(Time-bound):達成期限が妥当かつ明確な目標
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5.カスケードダウンの課題と解決策
カスケードダウンの成功には定期的な見直し、振り返りも必要です。ここではカスケードダウンが抱えやすい課題やその解決策について説明します。
- 目標が押しつけになっている場合
- 上位目標に即していない場合
- 所管部門の業務に沿っていない場合
- 方向を見失ったら目的に立ち戻る
①目標が押しつけになっている場合
経営層があまりにも高い目標を設定していたり、数字ばかりを押しつけたりしていると、下層部は当事者意識が低くなり、目標達成に向けたモチベーションが低下します。カスケードダウンを浸透させるためには、納得性の高い細分化した目標設定が必要です。
各階層を交えた目標設定ミーティングを実施して、主体的かつ挑戦的な目標を設定するとよいでしょう。
②上位目標に即していない場合
カスケードダウンで生じやすい課題のひとつとして挙げられるのが、下位の目標が上位の目標に即していないという点。
上位の戦略が「管理費のコストを下げる」なのに、下位の目的が「新機材を導入して業務効率を上げる」では、目標達成はおろか、経営資源を無駄に消費してしまうだけです。
課題を解決するには、先に触れた「SMARTの法則」を活用して、相互の目的を定期的に確認し合う必要があります。
③所管部門の業務に沿っていない場合
カスケードダウンによって設定された目標は、所管部署の業務に即した内容でしょうか。
たとえば経営層の目標が「企画提案レベルの向上」だった場合、そのまま各エンジニアに目標を伝達しても、具体的に何をもって企画提案レベルの向上とするのか、日々の業務をどう改善してよいのか判断できません。
カスケードダウンを成功させるには上位の経営目標に対する所管業務の問題や課題を発見し、実際の業務に沿った具体的な改善目標を立てる段階を挟まなくてはなりません。
④方向を見失ったら目的に立ち戻る
戦略と戦術が乱雑になったり、同じ目的について確認しているつもりが実は違う階層の話をしていたり、という状況も少なくありません。方向性を見失ったら、一旦目的に戻ってみましょう。
カスケードダウンにおける会社レベルや部レベル、個人レベルの戦略は、具体的に見ればそれぞれ異なるものの、基本軸は一貫しているはずです。各レベルで方向を見失った際は、一度上位層の目的や戦略を確認しておくと、方向性のずれを抑えられます。