カタルシス効果とは、マイナスの感情を口にすることでその苦痛が緩和され、気持ちが軽くなる現象のことです。
目次
1.カタルシス効果とは?
カタルシス効果とは、不安や不満、イライラや悲しみなどネガティブな感情を口に出すと苦痛が緩和され、安心感を得られる現象のこと。自己完結で得られるのはもちろん、他者との交流によっても得られるのです。現在は心理学用語として使われています。
カタルシス効果の意味
カタルシス効果にはどのような意味があるのでしょう。人間は人に話を聞いてもらい、自分の体験を言葉にして話すと、マイナスの感情や葛藤から解放されるといわれています。
不安や悲しみなどを抱えているとき、「言葉にしてスッキリした」そんな経験を持つ人も多いのではないでしょうか。これがカタルシス効果です。
カタルシス効果の由来
現在は心理学用語として、また日常やビジネス現場などさまざまなシーンで使われるようになった「カタルシス効果」は、もともとギリシャ語の「katharsis(浄化)」という単語に由来するといわれています。
古代ギリシャの哲学者、アリストテレスも著書『詩学』にて「悲劇が人の心に憐れみと恐れを呼び起こし、その感情を浄化する効果」として展開しているのです。
カタルシス効果の症例
カタルシス効果の症例として有名なのが、S.フロイトの精神分析療法創始に影響を与えたというアンナ.Oの症例です。
オーストリアの生理学者、J.ブロイアーが治療していたアンナ.Oは、重い病気にかかった父親を献身的に看病していました。しかし消耗した彼女は拒食や不安発作、幻覚発作などを起こすようになってしまったのです。
彼女は水を飲むことを拒み、渇きに苦しんでいました。犬がコップから水を飲むのを見て、胸がむかついてから自身も水を飲むのが難しくなったといいます。
しかしこの話をJ.ブロイアーに語り終えた際、症状が消失したのです。J.ブロイアーは、ここから過去の外傷体験を話させて次々と症状を消失させていきました。これが「カタルシス効果」が扱われるきっかけになったといわれています。
2.カタルシス効果の具体例
カタルシス効果はネガティブな感情を口に出すだけでなく、泣いたり人と触れ合ったりするなどの方法でも得られます。私たちが生きていくうえで重要な役割を果たす「カタルシス効果」の具体例について、さらに身近なシーンを挙げて説明しましょう。
泣いてしまったとき
「涙を流したら気持ちがスッキリした」「ストレスが軽減された」という経験はないでしょうか。涙を流すとストレスの解消や混乱、怒りが改善した、という研究結果は国内でもいくつか報告されています。
感情が動いて流れる涙にはストレス物質が含まれており、涙を流すと物理的にその物質を体外に排出できるのです。
人に悩みを打ち明けたとき
人に話すと、モヤモヤとした感情を解消するきっかけになる場合もあります。「眠れない日が続く、心の不安定な状態が続く、そんなときは1人で我慢せず、家族や友人に話しましょう」といわれるのはそのためです。
ストレスのサインに気付いたら、それらを人に打ち明けるとカタルシス効果を得られます。
恋愛感情があるとき
ネガティブな感情を口に出すことでそれらを浄化する「カタルシス効果」ですが、実は恋愛感情にも作用します。親密になった相手の悩みや愚痴を聞くと、相手は「この人には何でも話せる=自分と相性がよい=安心できる、好意を持てる人」と感じるのです。
ここにはカタルシス効果によって脳の快感レベルが上がり、結果として好意を獲得できるといったメカニズムがあるといわれています。
人と触れ合うとき
カタルシス効果は人との触れ合いによっても得られます。人間関係の満足度は幸福度を予測するもの。この幸福度はどれだけ多くの人と付き合っているかではなく、付き合いの質への評価が幸福感に関連している、という研究結果も報告されています。
人との触れ合いが当人をマイナスの感情から解放させ、精神の安定に導くのです。
映画や音楽を楽しむとき
映画や音楽の鑑賞も、カタルシス効果を得やすいといわれています。失恋して悲しいときに「自分と同じシチュエーションが描かれた映画を見ると感情移入しやすい」「失恋ソングを聞くとスッキリする」といった経験はないでしょうか。
これもカタルシス効果の一種です。映画や音楽の鑑賞などはときに感情を強く呼び起こします。その影響でカタルシス効果が得られ、元気が出たり落ち込んだ気分が盛り上がったりするのです。
3.カタルシス効果によって得られるもの
日常生活にて、不満やストレスなどネガティブな気持ちは誰もが持つ感情です。カタルシス効果とは攻撃衝動を社会的に無害な形で発散させようとするアイデアのことで、脳の快楽やストレスの解消など、さまざまな効果を発揮します。
脳の快楽
たとえばカラオケには溜まったストレスを発散し脳の快楽を得る「カタルシス効果」があります。歌詞の多くには「○○したい」などの表現や「嬉しい、悲しい、楽しい」など多くの感情を表現する言葉が出てくるもの。
カラオケとカタルシス効果は一見何の関係もなさそうに見えます。しかし普段できない自己表現ができるため、一種の快感を覚えられるのです。
ストレス解消
自分の考えや気持ちを他者に伝える行動を「自己開示」といいます。怒りや不満といったネガティブな感情を自分の中に抑え込もうとするのは、それだけでも大変なストレスになります。
またときには嬉しいことや楽しいこともストレスの原因となるため、ストレスがまったくない生活はあり得ません。そこで自己開示がストレスの解消をもたらし、カタルシス効果を与えるのです。
QOLの向上
心の健康は生活の質、いわゆる「QOL(Quality of Life)」に大きく影響を与えます。QOL、心の健康を保つためには「適度な運動」「バランスの取れた栄養と食生活」そして「心身の疲労回復と充実した人生を目指す休養」が必要です。
カタルシス効果によるストレス解消は、このうちの「休養」に影響を与える、心の健康に欠かせない要素といえます。
4.カタルシス効果の活用
カタルシス効果は自分自身のストレス解消やQOLの向上にはもちろん、人間関係の構築や創作活動、ビジネスシーンなどさまざまな場面で役立ちます。ここでは3つのシーンから、カタルシス効果の活用場面を見ていきましょう。
研修でコミュニケーション能力向上を図る
カタルシス効果を狙った研修では、参加者に自分が気づいたことや自分の気持ちをほかのメンバーに伝えさせて内面の開放を促します。
たとえば営業職の場合、商談や接客において顧客の悩みを汲み取れなければ契約を結べまません。カタルシス効果はお客様の状況を理解する意識と、そのために密接な関係を築くコミュニケーション能力の取得に必要な要素なのです。
相手との距離を縮める
先に触れた「自己開示」、つまり他者に対して自分自身の情報を伝達する行動が相手との距離感を縮め、コミュニケーションの促進に作用するのです。
自己開示には本人の内面的なケアだけでなく、関係の親密化といった効果もあります。カタルシス効果を活用した自己開示によって相手との距離を縮め、良好な関係を構築できるのです。
人との信頼関係を築く
カタルシス効果は人との信頼関係を築く際にも作用します。感情を表に出すという自己開示が、信頼関係の構築に資する場合もあるのです。
表面的な一般意見を提示する人より、内面的な本音を開示する人のほうが親しみやすい、信頼しやすい、という気持ちに覚えはないでしょうか。どれだけ有効な心理テクニックを用いても、信頼関係の築けていない相手には悩みや不安を打ち明けられないのです。
5.カタルシス効果を実践するために必要なこと
日常生活でカタルシス効果を引き出すためには、いわゆる「聞き上手」を担ったりうまく自己開示を促進したりすることが重要になります。ここでは以下4つの視点から、カタルシス効果の実践に必要な要素について説明しましょう。
- 信頼関係を大切にする
- 聞き上手になる
- 自己開示を行う
- 創作活動に親しむ
①信頼関係を大切にする
私たちは日常生活のなかでさまざまな対象を「信頼」しながら生活しています。人が他者とかかわるうえで、信頼関係の構築は必要不可欠です。よほど大きな裏切りがない限り、信頼そのものを意識していない場合もあるでしょう。
相互の信頼関係があると、コミュニケーションにおけるカタルシス効果を気軽に引き出せます。
②聞き上手になる
カタルシス効果を実践するためには、いわゆる「聞き上手」になるのも有効といえます。
対話の際、相手の相槌や表情の変化などの「非言語的コミュニケーション」を見ると話し手は「この人は自分の話をしっかりと理解してくれる」「この人は信用できる、さらに深く相談したい」と感じるのです。
③自己開示を行う
自己開示には「主観的な内容を言語的に表現するため、自分の意見や立場を明確にできる」といった側面があります。
一方、「他者からのフィードバックを得やすい」「相手も自己開示し返す返報性の原理が働き、カタルシス効果が得やすい」といった特徴もあるのです。自己開示によって自分の感情を表に出しやすくなるため、同時に相手との心理的距離も調整できるでしょう。
④創作活動に親しむ
物語創作や楽曲製作、芸術作品の創作など、芸術活動によってもカタルシス効果は生じます。作品が作られたプロセスを推測して親しみを覚えたり、創作者と自己とを比較して自己に新たなイメージが浮かんだりする場合もあるでしょう。
芸術活動は感情の発露に寄与します。創作活動に親しんだ結果、自分と創作者とが比較され、カタルシス効果を得られるのです。
6.カタルシス効果を引き出すために必要なスキル
最後にカタルシス効果を引き出すために必要なスキルについて、解説します。相手のカタルシス効果を引き出すためには、信頼関係の構築や自己開示に必要なコミュニケーション能力、聞き上手になるための傾聴力などが重要になるのです。
- コミュニケーションスキル
- 思考力
- 傾聴力
- 表現力
①コミュニケーションスキル
カタルシス効果を引き出すには、相手の目線に立ったり上手な質問を考えたりする「コミュニケーションスキル」が必要です。コミュニケーションスキルの高さはカタルシス効果の大小にそのまま影響します。
顧客の要望をうまく汲み取ったり相手に「もっと話したい」と思わせたりするコミュニケーションスキルは、カタルシス効果の活用に欠かせないスキルです。
②思考力
カタルシス効果を引き出すには、適切なコミュニケーションを考えるための「思考力」も必要です。
「言わなくても分かるだろう」「この立場にいる相手はこう思っているに違いない」といった言語的明示性の低い日本固有のコミュニケーションスタイルは、もはや現代では通用しません。
相手の立場に立つ思考力がなければ、カタルシス効果はおろか、それに至るコミュニケーションもすべて小手先、表面上の関係に留まってしまうでしょう。
③傾聴力
相手の話に耳を傾け、熱心に聞くスキルを「傾聴力」といいます。
「積極的傾聴」「Active Listening(アクティブ・リスニング)」ともいわれる傾聴力は、言葉の意味を理解するだけでなく、表情や声のトーンなどから相手が本当に話したいことを引き出して理解するスキルです。
カウンセリングや面談の際には欠かせないスキルで、「傾聴力」があれば、カタルシスを引き出しやすくなります。
④表現力
カタルシス効果を引き出すには、話し手の「表現力」も欠かせないのです。イライラとも違う、悲しいとも違うモヤモヤとした気持ちをそのまま抱えていても、それを言語化する表現力がなければ、うまく気持ちを伝えられません。
人の力や創作活動の力を借りながら気持ちが表現できる表現力を身につけていくと、より大きなカタルシス効果を得られるでしょう。