従業員の中・長期的な能力開発法として注目を集めるCDP。本人の希望するキャリアプランと企業が求める人材像とを合わせて考えてキャリアプログラムを組むため、主体性の育成に大きな力を発揮します。
CDPについて、
- CDPの意味や目的
- CDPの効果
- CDPのメリットやデメリット
- 具体的な導入事例
などと併せて説明しましょう。
目次
1.CDP(キャリアデベロップメントプログラム)とは?
CDP(キャリアデベロップメントプログラム)とは従業員のキャリアや能力を開発するための中・長期的な計画のこと。Career Development Programの頭文字を取ってCDPと呼ばれています。
数年先から数十年先までの中・長期的なキャリアに対して目標を設定し、その実現に向かって、
- 必要な資格
- 積んでおくべき経験
- 求められる能力
を計画的に構築していくプログラムなのです。
具体的な施策として考えられるのは、
- キャリアビジョンの策定
- OJTなどの研修計画
- 配置やローテーション
- 社内外の自己啓発
など。
CDPの実施においては、
- 適性や将来のキャリア設計に対する希望
- 企業が期待する人材イメージ
の両方から検討を重ねます。
2.CDPの効果
CDPには、4つの効果があるといわれています。
- 従業員エンゲージメントの向上
- 離職率の低下
- 従業員の主体性を育成
- 人材を見える化(人材管理しやすくなる)
①従業員エンゲージメントの向上
1つ目は従業員エンゲージメントの向上。CDPでは、従業員が自分のキャリアについて主体的に考えます。
従業員はCDPに取り組むことで、自分が企業内のどんな分野で貢献できるのかといったビジョンを、早い段階から構築できるのです。
- 自らの希望をキャリアデベロップメントによってかたちにしていくことができる
- どのような業務や職種に就くか長期的に目標設定できる
- 従業員の意思決定に対して企業から必要な施策を提供
などが相乗効果を生み出し、
- 従業員と企業との間に信頼関係を構築
- 従業員エンゲージメントの向上
という大きな効果を生み出します。CDPによって、企業も従業員もともにwin-winの関係を構築できるのは大きなメリットでしょう。
②離職率の低下
2つ目は離職率の低下。
- 将来を描くことができる
- 企業と一緒に力を合わせて目標実現にまい進できる
という職場は、従業員にとって非常に魅力的です。このような職場は、従業員の気持ちを転職といった方向に向かわせません。従業員がモチベーション高く仕事に打ち込める環境をつくることで帰属意識が高められるCDPは、離職率低下も期待できるのです。
③従業員の主体性を育成
3つ目は従業員の主体性。
- 従業員が主体的にキャリア形成に携わる
- 企業がキャリア形成を全力でサポート
などによって、さまざまなチャンスを有効活用しながら自発的に自らを創出できる優秀な従業員が育成できます。従業員一人ひとりが自分の考えを持つ、つまり主体的な業務の遂行によって、企業活動はより質の高いものになるのです。
「個にスポットライトを当てることで、結果的に企業全体が光り輝く」そんな魅力ある企業が創造できるのはCDPのメリットでしょう。
④人材を見える化(人材管理しやすくなる)
4つ目は人材の可視化。可視化は、さまざまな問題を表面化します。従業員のキャリアを考えていく過程において、
- 従業員個人の現段階のキャリア
- 従業員個人のキャリアデザイン
- 企業が求めるキャリアや能力とのすり合わせ
が実施されます。
CDPの設計過程では、
- 今あるキャリアや能力がどの程度のものか
- 今後、どのようなキャリアや能力が必要か
- どうすれば必要なキャリアや能力が育成できるか
などキャリアに関するさまざまな問題がクローズアップできます。可視化された問題や課題に向き合い解決を模索すれば、今まで以上に人材管理できるでしょう。可視化によって人材管理しやすくするツールになる点は大きなメリットです。
3.CDPのデメリットと改善方法
CDPには、デメリットもあります。
- 優秀な人材の流動に障害を生じさせる(中途採用市場の活況、雇用の流動化)
- 人事評価制度との整合性を取りにくい
- グローバル人事への親和性が低い
- AI導入による配置転換に対応しにくい
①優秀な人材の流動に障害を生じさせる(中途採用市場の活況、雇用の流動化)
1つ目は、優秀な人材の流動に障害を生じさせること。
中途採用市場の活況から見ても分かるとおり、新卒採用がメインだった時代は終わりを告げ、今や新卒や中途にこだわらず、キャリアを生かせる採用活動に注力する傾向が強まっています。
雇用の流動化は激しさを増し、定年まで同じ企業で勤め上げる従業員は年々減少しているのです。そんな時代にいて、数年から数十年先のキャリア形成に向けてプログラムを組むというCDPの手法は、時代遅れの感があるでしょう。
- 長期間、企業に従業員を拘束することが難しくなっている
- 流動性を増す採用市場で出遅れると、優秀な人材の確保が困難になる
などはCDPの大きなデメリットといえます。CDPは、雇用の流動性も加味して設計しなければ、時代に追いつけずに終わってしまうのです。
②人事評価制度との整合性を取りにくい
2つ目は、人事評価制度との整合性が取りにくい点。
従来行われていたCDPは、年功序列をベースとした職能資格制度に則って設計されていました。
しかし、時代は変わります。現代では職能資格制度は影を潜め、代わって役割等級制度への移行が進んでいるのです。この結果、CDPで設計したキャリアは人事評価制度と整合性を取りにくくなりました。
人事評価と結び付かないキャリア形成にいくら力を注いでも、
- 従業員のモチベーション低下
- 優秀な人材の流出
は免れません。
CDPを用いるのであれば、現代版にアレンジして、
- 形成していくキャリアが人事評価制度とリンクする
- 人事評価制度とのリンクが従業員にも分かりやすい
といった観点を最低限押さえたものにしていくべきです。
③グローバル人事への親和性が低い
3つ目は、グローバル人事への親和性の低さ。
従来使用されていたCDPは、
- 日本型人事制度の下にいる従業員
- 日本国内で働く従業員
- 日本人従業員
という3条件を対象としたプログラムです。そのため、国外にある拠点で現地採用された外国人などの現地従業員の育成には適していませんでした。これではグローバルな事業展開を要する現代社会においてCDPを有効活用するのは難しいです。
CDPのグローバル化を図り、
- 全世界共通で使用できる
- 現地でフレキシブルな対応ができる
といった課題を解決しない限り、CDPは日本国内のみでしか使えないプログラムで終わってしまうでしょう。現地の言葉や文化、思想、経済活動なども加味したグローバルなCDPの構築が急がれます。
④AI導入による配置転換に対応しにくい
4つ目は、AI導入による配置転換に対応しにくい点。今AIは、企業の舵取りにも利用されつつあります。データの分析、解析に、もはやAI技術は欠かせないのです。
当然、人事の分野でもAIは活用されつつあり、その一つが配置転換。AIによって適材適所の配置転換が行われれば、中・長期的な視点でキャリアを提示するCDPの人事施策は隅に追いやられるでしょう。
代わりに、
- 長年蓄積してきた業務遂行能力の価値が一気に低下
- 従業員のモチベーションが低下
- 失職の危険性
などが姿を現すのです。技術革新を上手に活用すれば企業を新たなステージへ導くこともできます。しかし、従来からある古い体質を持ったCDPは、AIのような高度な技術力に対応する準備ができていません。それによってこのような弊害が生じてしまうのです。
4.CDPを導入するには? 具体的な実施方法
CDPを導入するための具体的な実施方法について説明します。
ステップ①企業側のニーズと従業員側の希望をすり合わせる
ファーストステップは、企業側のニーズと従業員側の希望をすり合わせること。
まず、
- 従業員一人ひとりが自分の希望するキャリア形成を提出
- 企業が求める人材像を提示
2つのすり合わせを行う場、具体的には人事部と従業員が直接話をできる面談を設定します。
状況によっては面談のほか、
- アンケートの実施
- 上司や同僚、部下からのヒアリング
などを用いて従業員の目指すキャリアの把握と企業側が求めるスキル、経験値を洗い出します。
情報が多いほうが正確なキャリア形成プランが構築できますので、丁寧な作業を心描けましょう。
ステップ②照合結果を用いて従業員のキャリア開発内容を具体化
セカンドステップは、照合結果を用いて従業員のキャリア開発内容を具体化すること。
従業員の意思と企業側の狙いをすり合わせた結果、従業員一人ひとりがどのようなキャリアプランを持つべきなのか、キャリアプランの具体化を検討します。
- OJT、Off-JTといった教育研修制度
- 資格取得
- 新規配属先の検討
- 自己啓発
などあらゆるツールを検討し、それぞれのキャリア開発に向けて具体的なプランニングを行うのです。
狭い範囲での能力開発で終わっては、グローバル社会で通用しない人材しか輩出できません。広い視点から具体的な開発内容を検討、精査することが重要です。
ステップ③配属、教育
サードステップは、配属や教育。セカンドステップで熟考されたキャリア開発プランの実行に移ります。
- 企業戦略に基づいた人材の配置
- OJTなどの教育研修の実施
などそれぞれのプランに応じて行動を起こし、進捗具合について一定期間で評価を行います。ここでの評価は、その期間における人事評価にリンクすることも可能です。
数年後から数十年後に一括でキャリアプランの評価を行うより、一定期間ごとに細かく評価したほうが、従業員のモチベーション維持にも役立ちます。
ステップ④定期チェック、修正
最後は、定期チェックと修正です。定期チェックは、面談で行うとよいでしょう。万が一進捗状況が悪かったとしても、軌道修正できます。なるべく修正幅が小さくなるよう、キャリアプランの進捗確認はこまめに行いましょう。
またCDPの実施中、
- 経営戦略の大幅な変更
- 企業を取り巻く市場環境の変化
- 技術革新による社会構造の変化
などで、企業が求める人材像が変わることも考えられます。その場合には、CDPとして設計したプログラムを柔軟に修正しましょう。
企業活動は、動きのあるもの。
- 定期的なチェック
- 変化に応じた修正
2つのポイントを押さえながら、時代に即したフットワークの良いCDPを推し進めることが重要です。
5.CDPを効率的に実施するための人事施策例
CDPを効率的に実施する鍵は、従業員がキャリアを高めやすい環境の整備にあります。具体的にどのような人事施策が効果的なのか、自己申告制度と社内フリーエージェント制度という2つの事例から説明しましょう。
①自己申告制度
自己申告制度とは、
- 従業員自身が携わったプロジェクトなどの業績に対する自己評価
- 自己のキャリア形成に対しての意向
- 人事異動や転籍といったものに対する希望
など、広く本人の希望を企業側に申告できる制度のこと。
従業員の意見に耳を傾ける姿勢が制度化されている企業では、企業文化そのものを企業と従業員が一体となって創造できます。
CDPは、従業員の意見と企業側の意見をすり合わせることでキャリアプランを具体化していくもの。自己申告制度を上手に活用すれば、
- 企業側が従業員の意思を理解しやすい
- 従業員側も企業に対し安心して本音で話ができる
ため、スムーズにキャリアのすり合わせが進むでしょう。
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②社内FA(フリーエージェント)制度
社内FA(フリーエージェント)制度とは従業員が自ら異動を希望する部署に対し、経歴やスキルといった自分の強みを売り込んで、異動や転籍を実現する人事異動制度のこと。
- 従業員は自分の強みをより強化して、企業に自分自身を高く評価してもらいたい
- 能力のある従業員には適材適所でモチベーション高く活躍してほしい
という従業員と企業の希望が一致するため、双方にとって良好な関係を生み出します。
この社内FA(フリーエージェント)制度を活用してCDPを設計すれば、CDPによる異動や転籍といった配置転換もスムーズに進むでしょう。
6.CDPの企業導入事例
CDPを導入している企業や団体の導入事例を見ていきましょう。どれも成功事例といえるものですので、参考になることは間違いありません。
- キッコーマン
- NTTデータ
- 静岡県
①キッコーマン
キッコーマンでは、
- 面談
- ジョブローテーション
- 教育研修制度
を柱とした、自己申告制度を活用したCDPを実施しています。
まず入社時に集合研修を実施し、
- 業務の基礎知識
- 社会人としての基礎
を身に付けます。配属後は先輩社員が「エルダー制度」に従って新入社員のサポートに回り、半年ごとに最後のフォロー研修を行って、スムーズな社会人生活ができるよう設計しているのです。
2年目以降は、
- 意識改革研修
- 人事との面談
- CDP研修
などを通して、従業員一人ひとりの意識やキャリアに関する情報を人事と共有していきます。
さらに、中堅社員になると、
- 管理職を見据えての能力開発
- 財務関連の研修
などを行い管理職としての準備を進めるのです。
またこの間、
- 複数の選択肢の中から学びたい内容を選択受講するマイチャレンジ研修
- 通信教育
- 職務関連の自己啓発
- 階層別研修
- 職種別研修
などを適宜実施します。
すべての研修は、「従業員自身の学びたいという姿勢から始まるべきもの」という考え方がベースにあるため、従業員も「キャリアは自らが磨くもの」という認識を持っています。
その結果さまざまな施策に積極的に参加する良循環が形成されているのです。
②NTTデータ
NTTデータが導入したのは、「プロフェッショナルCDP」です。
「プロフェッショナルCDP」の目的は、
- 高い専門性
- 変化に対応できる能力
2つを保有するプロフェッショナルな人材育成。
企業が求める人材タイプを、
- プロジェクトマネージャー
- ITスペシャリスト
- コンサルタント
など11タイプに分類し、それぞれの人材タイプに認定レベルを設けます。
認定レベルは、
- アソシエイト
- シニア
- エグゼクティブ
- プリンシパル
の4段階。
また、
- ビジネスパーソン能力の向上が図れる「ビジネス系研修」
- 技術的な専門性を高める「テクニカル系研修」
2つを設け、役職や業務に応じて従業員が自由に受講できる仕組みを整えているのです。
ビジネス系研修では、
- 自己確認
- 役割認識
- ヒューマンスキル向上
- パフォーマンス向上
といった内容で階層別に研修を行い、テクニカル系研修では、
- 高度専門機能に特化したプロフェッショナルCDP対応研修
- 専門職能への志向性を形成するCDPベーシック研修
などを行います。
ビジネス系とテクニカル系ともに新入社員研修が終わった従業員が受講対象者です。また、受講率を向上するため、研修受講計画を事前に立て、年間10日などと具体的日数も目標に定めています。
さらに計画達成率や受講達成率なども算出して、従業員全員の受講率を大幅に高めているのです。
静岡県
静岡県では、「静岡県キャリア・デベロップメント・プログラム」を展開しています。
特徴は、
- 職員が自らキャリア形成意識を持って、主体的に能力開発に取り組む
- 県として職員の意欲や能力に対し、人事異動や研修制度などの仕組みを通して支援していく
静岡県では職員を、
- 30歳前後のキャリアプラン基礎づくり期
- 35歳のキャリアプランの構築期
- 40歳のキャリアプランの完成期
に分けてそれぞれのキャリアプランを設計しています。
基礎づくり期では、
- 教育・異動を有効活用して、自己の志向、適性を考える
- 今後のキャリアの方向性と能力開発を考える
ことに主眼が置かれ、構築期では、
- 自己の特性や能力、経験値の判断
- 指導的立場に向けたスキルアップ
について考えを深めるのです。
そして完成期では、
- 自己の強みの再認識
- 自己の特性や能力を判断し、管理指導職としての能力発揮の考察
を考えます。それぞれの過程で研修や人事管理者と面談が実施され、その結果は人事異動に反映されるようになっているのです。