社会保険労務士とは? 種類、業務内容、選び方

社会保険労務士とは、労務や社会保険、労働の関連法令などの専門家です。ここでは社会保険労務士の役割や業務内容などについて解説します。

1.社会保険労務士とは?

社会保険労務士(社労士)とは、労働問題や社会保険、年金に関する専門家のことで、国家資格です。役割は、従業員が健全に働ける労働環境を構築あるいは維持するために、企業の人事労務管理をサポートすること。

具体的な仕事内容は、雇用や退職の手続きに関する相談への対応とそれら手続きの代行、労働問題を解決するためのアドバイスなどです。そのため企業からの需要が高く、顧問契約を結ぶ社会保険労務士も少なくありません。

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2.社会保険労務士の役割

社会保険労務士の業務は、「社会保険」と「労働」の2つの分野にわかれます。社会保険分野の主な業務は手続き代行、労働分野の主な業務は相談対応や監修です。

社会保険分野

社会保険の加入申請書類の作成や手続きを代行できるのは、社会保険労務士のみです。以下のような手続きを代行できます。

  • 企業が社会保険に加入するための手続き
  • 従業員の入退社に関する手続き
  • 賃金が変動した場合の手続き
  • 従業員に労働災害が生じたときの手続き

ほかにも社内規程や労働者名簿、賃金台帳などの作成も行えます。

労働分野

人事労務の問題として挙げられるのは、長時間労働やサービス残業、年次有給休暇の未取得やハラスメント、雇止めなど。社会保険労務士は、こうした問題の解決に向けてアドバイスや指導を行うのです。

社会保険労務士が実際に現場へ出向いて監査や調査を実施する場合もあります。

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3.社会保険労務士の独占業務

社会保険労務士法によって、社会保険労務士は独占業務(資格を所有している者だけが独占的に行える業務)が認められています。代表的な独占業務は医師の治療行為です。看護師であっても治療行為は行えません。

社会保険労務士の業務では、申請書などの提出に関する手続きの代行(1号業務)や、労働社会保険諸法例にもとづく帳簿作成(2号業務)などが独占業務に該当します。

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4.社会保険労務士の業務内容

社会保険労務士の業務は、企業の人事や経理、労務に関するものがほとんど。そのなかから6種類の業務内容について解説します。

  1. 労働保険・社会保険の手続き代行
  2. 法定帳簿書類の作成
  3. 助成金の申請代行
  4. 給与計算代行
  5. 労務関連の相談
  6. 紛争解決手続の代行

①労働保険・社会保険の手続き代行

労働保険や社会保険、雇用保険などに関する書類の作成や、行政機関への申請を代行します。社会保険労務士が行える手続きや申請・届出の例は以下のとおりです。

  • 労働保険や社会保険の新規加入と脱退の手続き
  • 労働保険の年度更新手続き
  • 労働災害保険の給付手続き
  • 各種助成金の申請手続き
  • 労働者死傷病報告書

なおこれらの作成代行や申請代行は、社会保険労務士の独占業務(1号業務)です。

②法定帳簿書類の作成

独占業務(2号業務)にて、「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿」の作成が認められています。3つの帳簿は「法定三帳簿」と呼ばれ、労働基準法にて整備と管理・保管が義務づけられているのです。

つねに10人以上の従業員を雇用している企業は、必ず作成しなければなりません。担当者が作成してもよいですが、社会保険労務士なら法改正があっても不備のない帳簿が作成できるので、安心できます。

③助成金の申請代行

社会保険労務士が行う独占業務(1号業務)には、厚生労働省が扱っている雇用関係助成金(人を新しく雇用する際や、雇用の維持を目的とした助成金)の申請代行も含まれます。

雇用調整助成金や特定求職者雇用開発助成金、人材確保等支援助成金など多数の助成金があります。なお経済産業省による補助金の申請代行は、士業の独占業務ではありません。

④給与計算代行

社会保険労務士は、労働基準法や雇用保険法、税法の知識を有するため、給与計算も代行できるのです。

たとえば中小企業では1人が多くの業務を担う場合も多々あります。そうなると担当者に残業代や雇用保険料・社会保険料を計算するための知識がない場合もあるのです。

社会保険労務士に代行を依頼すれば、正確な給与計算が可能となるでしょう。なおこの業務は社会保険労務士の独占業務ではありません。

⑤労務関連の相談

人事労務関連の相談や指導も社会保険労務士の業務となります。寄せられる相談として挙げられるのは以下のとおりです。下記の業務は「3号業務」と呼ばれ、独占業務ではありません。

  • 時間外労働や有給休暇など労働条件の相談
  • 解雇や退職の手続きに関する相談
  • いじめや嫌がらせ、パワハラなど人間関係やメンタルヘルスについての相談
  • 就業規則の作成や変更の相談

⑥紛争解決手続の代行

パワハラや賃金の未払いなどトラブルが起こった際、紛争解決手続(裁判ではなく調停で双方の話し合いによる解決を図ることでADRとも呼ばれる)を代行します。

社会保険労務士は双方の意見を聞き、最適な和解案を提案して解決に導きます。ただしこの業務を行うには、厚生労働大臣の指定する研修を受けて紛争解決手続代理業務試験に合格し、「特定社会保険労務士」の資格を取得する必要があるのです。

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5.社会保険労務士に依頼するメリット

社内で社会保険手続きや労働問題に対応する場合、多くの手間を必要とします。社会保険労務士に依頼するメリットは、そのような手間を減らせることです。

  1. 面倒な手続きから解放される
  2. 企業経営に専念できる
  3. 労働問題に対処しやすくなる
  4. 助成金や労働法の情報を入手できる

①面倒な手続きから解放される

雇用に関する申請書や届出書、報告書は多岐にわたるため、すべてを社内で行うとかなりの手間がかかります。不備があれば修正して再提出しなければなりません。社会保険労務士へ書類作成や申請手続きなどを依頼すれば、面倒な手続きから解放されるでしょう。

従業員数が多い、あるいは従業員の入退社が多い企業ほどこのメリットは大きくなります。

②企業経営に専念できる

経営に専念するため従業員を新しく雇ったにもかかわらず、手続きが増えて思うように専念できないケースもあります。とくに経営者や代表者が現場作業も担当するような企業によく見られる状況です。

社会保険労務士に社会保険や雇用保険の手続きや給与計算などを任せてしまえば、経営者や代表者は経営や管理業務に専念できるでしょう。

③労働問題に対処しやすくなる

社会保険労務士に労働問題を相談する、あるいは対処を依頼すると、早期解決が見込めるでしょう。企業側と従業員側の話し合いでは、雇用や給与、勤務時間やハラスメントなどの問題が解決しないケースもしばしば見られます。

紛争解決手続が行える特定社会保険労務士であれば、訴訟に発展するリスクを抑えられるでしょう。また日ごろから社会保険労務士に相談していれば、労働問題の発生を防止するためのアドバイスを受けられます。

④助成金や労働法の情報を入手できる

助成金制度や労働に関する法令は、たびたび改正されます。また改正にともなって、申請や手続きの条件や書類、雇用義務や雇用条件なども変わるのです。人事労務担当者が、これらについて正確な情報をいち早く得るのは難しいでしょう。

社会保険労務士と契約していれば、法改正やそれにともなう変更点、あるいは最新情報などを得やすくなります。

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6.社会保険労務士に依頼するデメリット

社会保険労務士に依頼するときのデメリットは、費用と意思決定の2点です。それぞれのデメリットを詳しく説明します。

  1. 費用がかかる
  2. 意思決定を左右されやすくなる

①費用がかかる

書類作成や申請代行などの業務を依頼すると、業務内容に応じた費用がかかります。また顧問契約をする場合、月額顧問料金が必要です。顧問料の相場は1万円から2万円ほどですが、依頼する社会保険労務士や依頼内容によって費用は変動します。

しかし費用がかかっても社会保険労務士に、就業規則の作成や人事評価制度の作成など企業の根幹となる業務を任せたほうが安心でしょう。

②意思決定を左右されやすくなる

依頼内容によっては、経営者ではなく社会保険労務士の意思によって企業が動いてしまうでしょう。社会保険労務士は、人材の採用や教育、給与形態や評価制度の構築など、経営の中枢にかかわる業務を行うこともあるからです。

社会保険労務士の判断を考慮したうえで、経営者が最終的な意思決定を行いましょう。

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7.社会保険労務士の選び方

社会保険労務士の判断によって、経営が大きく左右される可能性は高いです。業務を依頼する前に、いくつかのポイントを見極めましょう。

  1. 自社のニーズとの一致
  2. 実績
  3. 得意分野の把握
  4. 相談のしやすさ
  5. IT関連の知識

①自社のニーズとの一致

依頼する業務が、社会保険労務士に依頼するものとして最適か、確認します。たとえば書類作成代行を依頼したい場合、確定申告の相談や手続きが多いならば、社会保険労務士ではなく税理士に依頼したほうがよいでしょう。

補助金の申請代行は、行政書士や中小企業診断士などでも可能です。依頼前に、依頼内容と社会保険労務士の専任業務をよく確認しましょう。

②実績

実績が多い社会保険労務士は、多くのノウハウを持っているもの。よって実績が豊富な社会保険労務士は、深刻な労働問題や特殊な雇用事例に対応できるでしょう。

Webサイトに実績や事例を掲載している場合もありますし、無料相談や問い合わせなどで尋ねるのも可能です。セミナーや講演の実績からも、得意分野や事例を確認できます。

③得意分野の把握

社会保険労務士の業務は雇用保険や社会保険、賃金管理など多岐にわたるため得意な分野や業界があるか、確認しましょう。

なぜなら労働問題よりも「社会保険手続きが得意」「医療業界が得意」という社会保険労務士もいるからです。相談・依頼したい内容と得意分野がマッチすれば、安心して業務を任せられます。

④相談のしやすさ

長く付き合っていきたい場合、社会保険労務士との考え方はもちろん、人としての相性も大切です。無料相談や問い合わせを利用して、相性の良さそうな人を探しましょう。

「説明がわかりやすいか」「スムーズに意思疎通できるか」なども重要なポイントです。焦らずに相性の良い社会保険労務士を探しましょう。

⑤IT関連の知識

ITに強い社会保険労務士を選べば、労働保険や社会保険の電子申請なども任せられます。2020年時点でのオンライン利用率は全体で61%、社会保険や労働保険分野では全体の20%ほどと、まだまだ少ないのが現状です。

電子申請できれば、手続きによっては申請費用が安くなりますし、移動時間も削減できます。電子申請に対応できる社会保険労務士に依頼すると、コストの削減にもつながるでしょう。