やりがい搾取とは、労働者のやりがいを悪用した企業の行為です。本記事では、やりがい搾取について解説します。
目次
1.やりがい搾取とは?
やりがい搾取とは、企業が労働者に対して「仕事のやりがい」を悪用することによって、不当な
- 低賃金労働
- 長時間労働
- 劣悪な環境下での労働
を強要する行為全般のことです。
やりがい搾取は、自分のやりたいことを仕事にできるという労働者の勤労意欲に企業が付け込んだ行為です。このような行為を行う企業をブラック企業とも呼びます。
やりがいの意味
やりがいの意味は、物事をするに際の心の張り合いです。仕事のやりがいといった場合には、自分が担う仕事を、
- 心の底から楽しむ気持ち
- 達成感
- 満足感
- 充実感
などを意味します。
仕事のやりがいは、自分が従事した仕事に関して、自身の労働に見合う成果が返ってくること。またそれによる満足感といった意味で解釈するとよいでしょう。
2.やりがい搾取が起きる要因
やりがい搾取が起きる要因はおおきく4つあります。ここでは、
- ブラック企業の横行
- 労働環境の問題
- ワーカホリックの問題
- 価値観のミスマッチ
といった4つの要因についてそれぞれポイントを解説します。
ブラック企業の横行
やりがい搾取が起きるひとつ目の要因は、ブラック企業の横行です。バブルが崩壊後、利益確保のために人件費の削減する企業が増えています。
その中には、
- 若い世代が活躍できます
- 経験に限らずすべて任せます
- 若くして管理職になれます
といった甘い誘い文句で労働者を雇用し、過重労働を強要する企業が多くあります。
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たとえば、
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労働環境の問題
やりがい搾取が起きるふたつ目の要因は、労働環境の問題です。終身雇用や年功序列といった日本型雇用が崩壊した結果
- 賃金が上がらない
- 昇給、昇進が思うように進まない
というケースが増えてきました。勤続年数が増えても仕事の責任が増すだけで賃金が上がらないといった労働環境が、やりがい搾取につながっています。
ワーカホリックの問題
やりがい搾取が起きる3つ目の要因は、ワーカホリックの問題です。ワーカホリックとは、本来ならば生活の糧を得るための手段である仕事に対して、プライベートを犠牲にしてまで打ち込む仕事中毒のこと。
ワーカホリックに陥りやすいのは、自己評価が低い人です。同僚や上司から認められたいために仕事に打ち込むため、やりがい搾取の対象になります。
価値観のミスマッチ
やりがい搾取が起きる4つ目の要因は、価値観のミスマッチです。IT化の流れにより、企業の業務は効率化が急速に進んでいます。
しかし、これらの流れに逆らうように、企業理念や経営方針などを理由に、まだまだ直接利益に関係ない業務に労働者を従事させることがあります。このような状況がやりがい搾取につながっています。
3.やりがい搾取を受けやすい業界や職種
やりがい搾取を受けやすい業界や職種があります。ここでは、いくつかの業界や職種をあげてポイント解説します。
アパレル業界
やりがい搾取を受けやすいひとつ目の業界は、アパレル業界です。アパレルの販売に携わる店員は来店客に応じた対応を求められるため、接客中は休憩がとれません。
- 接客が立て込むと一日中立ちっぱなし
- トイレに行くタイミングを逸する
- 厳しい販売ノルマを課される
- シフトの変更が難しい
など、心身ともに厳しい場合があります。
接客業界
やりがい搾取を受けやすいふたつ目の業界は、接客業界です。接客業界の多くは、土日を問わず営業しています。そのため、一年を通してシフトを組みながら仕事を回します。
しかし、アルバイトが集まらないなどの理由から、店長や社員でシフトをやりくりしているケースが多くあります。体調不良でもシフトを抜けられない状況が見られます。
介護・保育業界
やりがい搾取を受けやすい3つ目の業界は、介護・保育業界です。介護や保育業界の大きな問題点は、人手不足と低賃金労働です。
多くの人手が必要にもかかわらず、
- 経営の厳しさを理由に賃金据え置きや賃金カットされ、賃金が安い
- 低賃金の割に重労働を強いられる
などの理由から、現場は慢性的な人手不足に陥っています。
アニメ業界
やりがい搾取を受けやすい4つ目の業界は、アニメ業界です。アニメーションの作成には多くの工程を経る必要があります、そのため、徹夜で仕事をするなど、慢性的な長時間労働を強いられるケースがあります。
拘束時間が長くなるだけでなく、給与体系にも問題があるケースが見られ、やりがい搾取が疑われる業界と言われています。
レジャー業界
やりがい搾取を受けやすい5つ目の業界は、レジャー業界です。レジャー業界の特徴は、アルバイトなどを大量に採用するため、人の出入りが多いことです。
やりがい搾取に疑問を持ち退職する人がいても、代わりの新しいアルバイトを雇い入れられます。労働現場の問題点を改善する機会がなく、やりがい搾取が続く傾向にあります。
教育業界
やりがい搾取を受けやすい6つ目の業界は、教育業界です。教育業界では、「生徒のため」という言葉を口実にして、やりがい搾取が多く見られます。
たとえば、
- 授業時間は労働時間である
- 授業の準備時間は労働時間ではない
といった考え方を強いるケースです。また、生徒数確保のノルマを達成できなければ減給といったケースも見られます。
4.やりがい搾取の具体的な例
やりがい搾取の具体的な例として、
- 割増賃金を支払わない
- 最低賃金を下回る
- 有給を取得できない
という切り口で解説します。
割増賃金を支払わない
やりがい搾取のひとつ目の具体的な例は、割増賃金を支払わないことです。労働基準法第37条では、
- 時間外労働
- 深夜労働
- 休日労働
を行った場合には、割増賃金の支払いを義務付けています。
しかし、やりがい搾取では、これらの労働をしたにもかかわらず残業代などの割増賃金を支払わないケースが多く見られます。
賃金が最低賃金を下回る
やりがい搾取のふたつ目の具体的な例は、賃金が最低賃金を下回ることです。最低賃金制度は、労働者保護の観点から1959年に導入された制度です。企業は、都道府県ごとに決められた最低賃金を下回る賃金を設定できません。
しかし、本来なら最低賃金の算定に加えない、手当や残業代を含めて最低賃金を設定するなどが横行しています。
有給を取得できない
やりがい搾取の3つ目の具体的な例は、有給を取得できないことです。有給休暇の取得は、労働者の正当な権利です。
しかし、やりがい搾取が行われている現場では、
- 有給休暇取得が認められない
- 有給休暇が申請しづらい雰囲気がある
- 仕事が忙しく、とても有給休暇がとれる環境にない
といった状況が生じています。
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5.やりがい搾取が起きやすい企業や職場の特徴
やりがい搾取が起きやすい企業や職場には、特徴があります。ここでは、3つの特徴をあげてそれぞれ簡単に解説します。
「好きだから働く」という人が多い
やりがい搾取が起きやすい企業や職場のひとつ目の特徴は、「好きだから働く」という人が多いことです。労働者自身が自分の好きを仕事にしている場合は、やりがい搾取が起きやすい傾向があります。
自分自身が好きでやっていることは無理がきくため、企業から利用されやすくなるからです。「好き」な仕事をしていても、搾取されていいことにはなりません。
自己評価の低い人が多い
やりがい搾取が起きやすい企業や職場のふたつ目の特徴は、自己評価の低い人が多いことです。労働者の自分自身に対する評価が低い場合、搾取されていてもそれを問題視しない傾向があります。
同年齢や同程度のキャリアと比較した自身の待遇まで考えが至らず、現状で良いとしてしまうからです。このような人が多くいる場合、やりがい搾取が起きやすくなります。
成果主義
やりがい搾取が起きやすい企業や職場の3つ目の特徴は、成果主義であることです。成果に対して報酬を支給する成果主義を採用している企業や業種では、やりがい搾取が多く見られます。高評価を得るために、業務の範囲を超えて仕事をするからです。
しかし、サービス残業はやりがい搾取です。成果主義を導入する際は、業務の範囲を明確にしなければなりません。
6.やりがい搾取が起こらないようにする対策
やりがい搾取が起こらないようにする対策があります。ここでは、4つの対策をあげてそれぞれポイントを解説します。
経営者・社員の意識改革を行う
やりがい搾取が起こらないようにするひとつ目の対策は、経営者と社員の意識改革を行うことです。
労働者は、企業にとって大切な経営資源のひとつです。
- 経営者は、経営資源のひとつである人をどのように活用するか
- 社員は自分の能力をどのように使って企業活動に貢献するか
それぞれが基本に立ち戻った意識改革が必要です。
適切な労務管理を行う
やりがい搾取が起こらないようにするふたつ目の対策は、適切な労務管理を行うことです。労務管理はさまざまな法律によってルールが定められています。
法律に則った適切な労務管理を行うために、
- 勤務時間
- 有給休暇
- 給与
- 退勤記録
- 入退館記録
などのデータを把握するなどのチェック体制も構築します。
社内外に相談窓口を設置する
やりがい搾取が起こらないようにする3つ目の対策は、社内外に相談窓口を設置することです。仮にやりがい搾取が起こってしまった場合でも、社員が気軽に相談できる窓口が社内に設けられていれば、問題が大きくなる前に解決できます。
場合によっては社外も含めて、社員に対して相談の門戸を広く開放しておくとよいでしょう。
働き方改革を行う
やりがい搾取が起こらないようにする4つ目の対策は、働き方改革を行うことです。働き方改革では適切な労務管理を実践した多様な働き方を目指しています。
働き方改革では、
- 労働時間そのものの見直し
- 有給休暇取得促進
- 育児や介護休暇制度の拡充
などさまざまな取り組みを通して、労働者が働きやすい環境の整備を目指せます。