アメリカで生まれたチェンジマネジメントの概念。時代やテクノロジーの変化に伴い、日本でも取り入れる企業も増えています。
しかし、チェンジマネジメントとはどのようなもので、どんなときに役立つものなのでしょうか?その重要性について解説します。
目次
1.チェンジマネジメント(Change Mangement)とは?
チェンジマネジメントとは、変革を効率良く成功に導くためのマネジメント手法のこと。企業などの組織が成長し続けるには、時代に合わせた変革が不可欠です。
しかし、組織には変革を好まない保守的な人も存在しますし、保守派の反発が変革の妨げとなって、組織に軋轢をもたらすこともあります。
チェンジマネジメントはこのような、
- 変化が苦手な人
- 現状維持を希望する人
を含めた社員全員が変革に適応できるよう促し、変革を効率良く進める方法なのです。
始まりはアメリカ
チェンジマネジメントは、1990年代のアメリカでブームとなったBPR(Business Process Re-engineering:業務プロセス改革)を成功させるためのメソッドとして実践されたのが始まりとされています。
2.チェンジマネジメントの課題、ポイント
チェンジマネジメントの課題に、変革に抵抗感を持つ人のマネジメントの難しさが挙げられます。実際、変革に心理的な抵抗感を持つ人が要因でBPRに失敗する企業は多い、といわれているのです。
ボストン・コンサルティング・グループのコンサルタントであるジーニー・ダック氏は、変わることへの恐れや反発、嫉妬や興奮などといった感情のもつれを「チェンジモンスター」と呼び、変革を阻害する要因であると説いています。
同時に日本企業は保守的な傾向が強く、日本人特有のチェンジモンスターが存在することも指摘しているのです。
「チェンジモンスターはなぜ生まれるのか?」をよく見極め、うまく対処することが、チェンジマネジメントを成功させるポイントです。
3.チェンジマネジメントの手法
チェンジマネジメントを成功させるにはどうすればよいのでしょう。ハーバード大学ビジネススクールのジョン・コッター名誉教授が提唱する「8段階のプロセス」に従い、チェンジマネジメントの手法を解説します。
- 緊急性の明確化
- 強い変革推進チームの結成
- 変革ビジョンを決める
- 社内全員で共有
- 社員が動きやすいよう環境を整備
- 短期的目標の設定と達成
- さらなる変革の推進
- 新しいアプローチを定着
①緊急性の明確化
8段階のプロセスのうち、第1段階に当たりかつ最も重要なのが、「緊急性の明確化」です。なぜ今変革が必要か、自社が抱える危機と改善の緊急性を明確にし、それを社員に知らしめることがないままでは、変革を進めることはできません。
多くの社員が変革に抵抗するのは、危機意識や切迫感が欠けていたり、当事者意識がなかったり、このままでは自社がどのような状況に陥るのか理解していなかったりするからです。まずは変革の緊急性を社員に伝え、意識改革を図るとよいでしょう。
②強い変革推進チームの結成
第2段階では、変革を成し遂げるメンバーを集め、強い変革推進チームを結成します。多くの社員を抱える組織が一丸となって変革を成し遂げるには、変革をリードする強いパワーを備えたチームが必要です。ここでいうパワーとは、
- スキル
- 人脈
- 信頼
- 評判
- 権限
など。こうしたパワーを持つ人材を集め、変革推進チームをつくると短期間かつ効率の良い変革が目指せるのです。
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③変革ビジョンを決める
第3段階では、変革ビジョンを決めます。変革ビジョンについて、コッター教授は「将来のあるべき姿を示すもので、なぜ人材がそのような将来を築くことに努力すべきなのかを明確に、あるいは暗示的に説明したもの」と定義しています。
「最終的にどうなりたいか」というビジョンを明確にすることで、実現に向けた戦略の立案ができるのです。さらにコッター教授は、優れたビジョンに共通する6つの特徴を挙げています。
- 可視化できる:将来のあるべき姿がはっきり示されている
- メリットがある:社員や顧客、株主などステークホルダーが期待する長期的利益が見込める
- 実現可能である:現実的で達成可能な目標がベースになっている
- 方向を示す:意思決定の方向が明確に示されている
- 柔軟性:変化に柔軟に対応できるよう、個人の自主的行動とさまざまな選択を許容している
- 伝わりやすい:簡潔に(5分以内に)説明できる内容である
④社内全員で共有
第4段階では第3段階で明確化したビジョンと戦略を社内で共有します。まずは、変革推進チームが手本となって、率先して変革に向けた行動を示しましょう。また、
- さまざまなチャネルを活用
- 継続的に変革ビジョンを伝える
など社員の期待感を高める工夫も大切です。
⑤社員が動きやすいよう環境を整備
第5段階では、共有した変革ビジョンに基づいて行動しやすくなるよう、環境整備を行います。
既存の構造やシステムなど社内環境が変革に向かう社員の行動を阻害しては、元も子もありません。社員が自発的に新しいアイデアを考えたり行動したりしやすくするためにも変革の障害になりそうな要素を極力なくすのです。
環境の整備がうまくいけば、社員は自発的に変革に向けての行動を起こすようになります。
⑥短期的目標の設定と達成
第6段階では、短期的で達成可能な目標を設定します。
社員に変革のメリットを実感させるには、短期的で分かりやすい成果が必要です。短期間で成果の出る業績目標を掲げて、変革の進捗具合を見える化しましょう。
また、短期目標で成果を上げた社員に報酬を与えるなど、社員のモチベーションに弾みをつける工夫をすると、変革が進めやすくなります。
⑦さらなる変革の推進
第7段階は、変革をより一層推進するために積極的な行動を起こしていく段階です。
ここまでの段階を確実にこなせていれば、社員は変革の重要性についてすでによく理解しているはず。構造やシステム、制度などの整備や改革への異論、反発も起きにくくなっています。
このタイミングでインフラ面を変革しましょう。また、変革推進に貢献する人材を発掘し、採用と教育も同時に進めます。
⑧新しいアプローチを定着
第8段階では、これまでの変革の実績を社員に示し、変革が新たな企業文化になるよう定着させることを考えるのです。
各部署のリーダーは積極的に変革定着に努め、変革を定着させるための後継者や新たなリーダーの育成を実施しましょう。
4.チェンジマネジメントの事例
チェンジマネジメントの事例として、企業とサービス、2つの例を紹介します。
日産自動車
1つ目は、日産自動車の「リバイバル・プラン」です。
「リバイバル・プラン」は、1990年代、業績低迷状態にあった日産自動車で、社長に就任したカルロス・ゴーン氏が主導したチェンジマネジメント。就任からわずか1年で業績をV字回復させたことから、注目を集めました。
リバイバル・プランでは徹底的にムダを省いたコストカットが行われ、稼働率の低い工場の閉鎖、それに伴ったリストラを行い、1兆円規模のコストを削減しました。
こうした改革は、社員の反発を招きかねないため、非常に難易度が高いとされていますが、ゴーン氏は変革に向けた専任チームを結成し、旧来の慣習や規定をゼロベースで見直し、ひるむことなく変革を推進しています。
また、全社員向けのミーティングやイントラネット、さらにマスメディアなどを利用して、
- 日産はなぜ変わるべきなのか
- どう変わるのか
というメッセージを発信し続けました。ゴーン氏の語るビジョンは明快で一貫しており、社員にも理解しやすいものだったのではないでしょうか。
Google Cloud
Google CloudはGoogleが提供する、
- メール
- カレンダー
- ドキュメント作成
などビジネス用インフラをクラウドで提供するサービスの総称です。Googleは、既存の社内インフラからGoogle Cloudに移行するためのチェンジマネジメントを用意。すぐ実践できるポイントとして、次の5つを挙げました。
- なぜ変化するのかを考えて伝える:変化の目的を社員に明確に伝える
- エレベーターピッチとルールオブセブンを使い倒す:短く完結な言葉で、繰り返し伝えることで認知してもらう
- トップ層の「メドチ」を心得る:トップ層が「メ」(プロジェクトを通して目に見える参加と活動をする)「ド」(同盟を組む)「チ」(社員と直接コミュニケーションを取る)のアクションを取り、変革をサポート
- 支援してくれる人を誠心誠意サポートし、賞賛する:変化に対して前向きな捉え方をする人を見つけ、彼らをサポートして変化の満足感を高める
- 影響を受ける社員の現状をきちんと把握する:変化が社員に与える影響を正確に把握し、リスクを回避
また、
- 反対勢力と真摯に向き合い、意見を拾い上げてアクションにつなげる
- 声には出さないサイレントタイプの意見を吸い上げる
ことも成功へのきっかけとしています。