賃金制度とは? 目的や種類、作り方、基本的な考え方を解説

賃金制度は、企業が従業員に支払う報酬の体系を決める重要な仕組みです。この制度は、単に給与額を設定するだけでなく、社員のモチベーション向上や経営方針との整合性を保つためにも役立ちます。

この記事では、賃金制度の目的や種類、基本的な考え方、さらに設計手順について詳しく解説します。また、企業に適した賃金制度の運用のポイントも紹介するのでぜひ参考にしてみてください。

1.賃金制度とは?

賃金制度は、企業が従業員に支払う給与や報酬の仕組みを体系化したものです。報酬には基本給、賞与(ボーナス)、手当などがあり、それぞれの金額や支給基準が社員の能力や経験、業績にもとづいて決まります。

従業員一人ひとりの賃金は人事評価や等級によって決まるため、業務への姿勢や成果が適切に反映されるよう、公平な賃金制度の設計が必要です。また、賃金制度は企業の目標や戦略と連動して設計されるため、社員のやる気や生産性に大きな影響を与える重要な仕組みとなっています。

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2.賃金制度の目的

賃金制度の目的は、以下の3つです。

  1. 経営方針と方向性を合わせるため
  2. 従業員の不満を解消し、モチベーションを向上させるため
  3. 賃金を合理的に分配するため

①経営方針と方向性を合わせるため

賃金制度は、企業の経営計画や戦略と連動させることで、従業員の行動を会社の目指す方向に導く役割があります。具体的には、従業員の会社への貢献度を報酬として明確に示し、評価を通じて社員の成長を後押しする仕組みです。

たとえば、成果主義や能力給を取り入れることで、従業員の努力が会社の業績向上に直結し、その成果が報酬として反映される形を作れます。これにより、従業員と会社の目標が一致し、組織全体で経営方針に沿った行動を促進可能です。

②従業員の不満を解消し、モチベーションを向上させるため

公平で透明性のある賃金制度があると、従業員は自分の努力が評価されていると感じるため、モチベーションが高まります。とくに、昇給やボーナスの基準が明確であれば、従業員は成長や目標に向けて意欲的に取り組むようになるでしょう。

また、評価制度にもとづいた賃金制度を導入して評価を見える化すれば、賃金に対する不満を解消しやすくなり、働きやすい環境づくりにもつながります。

③賃金を合理的に分配するため

賃金制度は、限られた人件費を効果的かつ公平に配分するための仕組みです。従来の年功序列主義の制度では、勤続年数が評価され、高額な報酬が支払われることが少なくありませんでした。

しかし、賃金制度を見直すことで、「会社の利益に大きく貢献する人材に報酬を手厚くする」という方針を明確にし、人件費をより合理的に配分できます。

その結果、成果を上げる優秀な人材や将来性のある分野にリソースを集中できるようになり、企業全体の競争力を高めることが期待できるのです。

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3.賃金制度における報酬の種類

賃金制度における報酬の種類には、以下のようなものがあります。これら6つについて詳しく見てみましょう。

  1. 基本給
  2. 能力給
  3. 職務給
  4. 賞与(ボーナス)
  5. インセンティブ
  6. 諸手当

①基本給

毎月支給される給与のベースとなる賃金です。残業代や賞与、退職金計算の基礎となり、一般的に、年齢や勤続年数、能力、業績などに応じて決定されます。基本給の昇給や減額に関する規定は、企業の賃金制度にもとづいて定められています。

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②能力給

従業員の持つ技能や知識、経験などの能力に応じて支給される給与です。職務遂行能力や資格、スキルレベルなどを評価基準として決定します。多くの企業では、独自の評価基準に基づいて報酬額を算定しており、評価によって金額が変動しやすい特徴があります。

③職務給

従業員が担当する職務の難易度や責任の重さに応じて支給される給与です。同じ職務であれば、年齢や勤続年数に関係なく同一の給与が支払われます。この制度は、「同一労働同一賃金」の原則に基づいており、職務の価値に応じた公平な報酬を実現します。

④賞与(ボーナス)

毎月支払われる給与とは別に支給される賃金です。一般的に年に1~2回支給されることが多く、企業の業績や従業員個人の評価に応じて金額が決定されます。これにより、従業員のモチベーションを高め、努力や成果に対する報酬としての役割を果たします。

ただし、賞与の支給は法律で義務づけられていないため、支給しない企業もあります。また、金銭以外に、表彰や休暇、自社商品をボーナスとして支給する「非金銭的報酬」を採用している企業もあります。

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⑤インセンティブ

従業員の業績や成果に応じて支給される報酬です。営業成績の達成やプロジェクトの成功など、具体的な成果に対して支払われることが多く、従業員のやる気を引き出し、企業の目標達成を支援します。

インセンティブ報酬には、給与や賞与に上乗せで支給する金銭的報酬と、表彰や旅行、ストックオプションの付与といった非金銭的な形で支給されるものの2種類があります。

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⑥諸手当

基本給とは別に特定の条件や目的に応じて支給される手当の総称です。法律で支給が義務付けられている時間外手当(残業手当)や休日手当、深夜手当のほか、退職金、年金なども手当と呼ばれる場合があります。

また、企業が任意で支給する通勤手当、住宅手当、家族手当、役職手当などもあります。諸手当の設定は企業によって異なり、従業員のニーズや企業の方針に応じて柔軟に設計されることが多いです。

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4. 賃金制度の基本的な考え方

賃金制度は、以下の4つの考え方をもとに設計されています。詳しく見ていきましょう。

  1. 年功序列主義
  2. 成果主義
  3. 職務主義
  4. 職能主義

①年功序列主義

年功序列主義は、従業員の年齢や勤続年数に応じて賃金や地位が上昇する制度です。この制度では、長く勤めるほど給与が上がり、昇進の機会も増えます。日本の伝統的な雇用慣行として長く定着してきました。

メリットとして、従業員の長期的な定着と忠誠心の醸成、安定した生活設計の支援などがあります。一方、若手の意欲低下や人件費の増大といったデメリットも指摘されています。近年は、ほか制度との併用や修正が進んでいます。

②成果主義

成果主義は、個人やチームの業績や成果に応じて賃金や評価を決定する制度です。この制度では、年齢や勤続年数にかかわらず、実際の貢献度や達成結果が重視されます。成果主義の導入により、従業員のモチベーション向上や生産性の向上が期待できるでしょう。

また、優秀な人材の確保にも有効です。ただし、短期的な成果ばかりを重視すると、長期的な視野やチームワークが損なわれる可能性があるため、バランスのよい運用が必要です。

③職務主義

職務主義は、職務の内容や難易度にもとづいて賃金を決定する制度です。職務の内容や責任に応じて明確に賃金を設定するため、人件費の管理がしやすく、納得感も高いとされています。

ただし、この制度を導入するには、職務記述書(ジョブディスクリプション)の作成が不可欠です。また、職務が固定化される傾向があり、配置転換が難しくなるという課題もあるため、導入時は注意しましょう。

④職能主義

職能主義は、従業員の持つ能力や技能にもとづいて賃金や昇進を決定する制度です。この制度では、職務遂行能力や資格、スキルレベルなどが評価の基準となります。職能主義の導入により、従業員の能力開発や自己啓発を促進する効果が期待できるでしょう。

また、多様な業務に対応できる人材の育成にも有効です。ただし、能力やスキルは、勤務年数や経験を重ねることで向上するため、結果的に年功序列主義的な運用になりやすいといえます。よって若年層が年長者より低い待遇になるケースが多く、勤続年数の長い従業員が多い組織では総人件費の増加につながる可能性もあります。

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5.賃金制度設計の手順

賃金制度を設計する際は、以下のような手順で進めます。それぞれ詳しく見ていきましょう。

  1. 現状を把握する
  2. 人事評価制度との整合性を確認する
  3. 報酬体系を設計する
  4. 基本給を設定する
  5. 報酬テーブル・賞与テーブルを設計する
  6. 賃金制度運用時のシミュレーションをする
  7. 従業員の理解を得て運用を開始する

①現状を把握する

まず、自社の賃金制度を分析し、課題を明確にするステップです。従業員の給与データを収集し、年齢や勤続年数、職位などの要素と給与の関係性を調べましょう。

また、業界水準や同規模企業との比較も行い、自社の位置づけを確認します。現状の課題や問題点を洗い出し、改善すべき点を明確にします。この段階で、従業員の意見や要望も聞き取り、新制度設計の参考にすることが大切です。

②人事評価制度との整合性を確認する

次に、現在の人事評価制度が、新しい賃金制度の目的に合っているかを確認します。例えば、成果を重視した賃金制度を導入する場合、評価制度も成果を正しく測れる内容に見直す必要があります。

また、職種が多様な企業では、異なる評価制度を組み合わせて使うことも効果的です。このように、評価制度と賃金制度の整合性を高めることで、公平な運用を実現できます。

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③報酬体系を設計する

自社の賃金制度を見直し、人事評価制度との整合性を確認した後、報酬体系を具体的に設計します。このとき、企業の方針や業界特性に応じて、基本給、手当、賞与などの要素や配分を決めます。

たとえば、安定を重視する企業は基本給の割合を高く設定し、成果を重視する場合は業績に応じて支給額が変わる賞与の比率を増やすなど、柔軟な設計が可能です。

また、金銭的な報酬にくわえ、福利厚生などの非金銭的な要素も検討し、従業員の多様なニーズに対応できるバランスの取れた報酬体系を作ることが大切です。

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④基本給の水準を設定する

職種や役職ごとに基本給の水準を設定します。公平性を保つために、等級制度と連動させるとよいでしょう。この際、各等級の給与レンジ(特定の職位や等級ごとに設定される給与の上限額と下限額の範囲)を設定することが大切です。給与レンジには、以下の3つがあります。

開差型

等級ごとに給与レンジが完全に分かれており、隣接する等級間で重なりがないタイプです。このため、等級ごとの給与差が明確になり、従業員が昇格を目指す意欲を高めやすいメリットがあります。

また、管理職と一般職など、異なる職位間で公平な給与体系を構築しやすい点も特徴です。ただし降格した場合、給与が大幅に減少するリスクがあるため注意が必要です。

接合型

等級ごとに給与レンジが区切られており、レンジの境界部分が隣接するタイプです。昇格に伴い、給与が必ず上がる仕組みを保ちながらも、一定の柔軟性を持たせられます。しかし、境界部分での評価に敏感になりやすく、不満が生じる可能性がある点がデメリットです。

重複型

等級間で給与レンジが重なる部分があるタイプです。等級間で給与レンジに重複があることで、降格時に給与の減少幅を抑えられ、従業員の安心感が得られます。

一方、昇格しても給与が変わらない場合があり、モチベーション向上に繋がりにくく、等級間の基準が曖昧に感じられる場合があります。

給与レンジの種類を選択する際は、自社の文化や経営方針に応じて適切な型を選ぶとよいでしょう。昇進意欲の喚起には「開差型」、安定感を重視する場合は「重複型」、バランスの良さを求める場合は「接合型」が適しています。

⑤報酬テーブル・賞与テーブルを設計する

報酬体系と基本給の水準の設計をもとに、各報酬の具体的な金額を決定し、報酬テーブルと賞与テーブルを作成します。

報酬テーブルとは、各職位や等級に応じた給与範囲を一覧にまとめたものです。昇給の基準や上限も明確にします。賞与テーブルでは、業績評価と連動した支給額の決定方法を定めます。

設計の際は、インセンティブ、諸手当、非金銭的報酬についてもそれぞれのテーブルを用意する必要があります。公平性と透明性を確保しつつ、従業員のモチベーション向上につながるテーブル設計を心がけましょう。

⑥賃金制度運用時のシミュレーションをする

新しい賃金制度の導入前に、詳細なシミュレーションを行いましょう。実際の従業員データを用いて、新制度下での給与計算を行い、現行制度との差異を分析します。とくに、大幅な減給が生じる従業員がいないか、全体の人件費がどのように変動するかを慎重に確認しましょう。

また、将来的な昇給や昇格のシナリオも想定し、長期的な影響も予測します。シミュレーション結果に基づいて必要な調整を行い、スムーズな制度移行を目指しましょう。

⑦従業員の理解を得て運用を開始する

新しい賃金制度の導入にあたっては、従業員の理解と協力を得ることが不可欠です。制度の目的や内容、個人への影響などを丁寧に説明する機会を設けます。質問や懸念に対しても誠実に対応しましょう。

また、制度の移行期間を設けるなど、急激な変更による混乱を避ける工夫も必要です。従業員の理解と納得を得ることで、新制度の円滑な運用が可能になります。

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6.賃金制度運用のポイント

最後に、賃金制度を運用する際に押さえておくべき重要なポイントを5つ紹介します。

自社に合った賃金制度を導入する

賃金制度は、企業の規模、業種、経営方針、従業員の構成などに応じて適切に設計する必要があります。業界標準や他社の制度をそのまま導入するのではなく、自社の特性や課題を十分に分析し、最適な制度を構築することが重要です。

たとえば、若手の育成に力を入れたい企業では能力開発を促す職能給を重視し、専門性の高い人材が必要な企業では職務給を中心とした制度が適しているかもしれません。自社の強みや弱み、将来のビジョンを踏まえ、柔軟に制度を設計しましょう。

人事評価制度と連動させる

賃金制度と人事評価制度を連動させることで、従業員の公平性と納得感を高められます。評価結果が賃金に反映される仕組みを構築することで、従業員は自身の成果や能力が適切に評価されていると感じ、モチベーション向上につながります。

賃金制度は適宜見直す

賃金制度は、一度作った後も、社内外の変化や法改正に合わせて定期的に更新することが重要です。例えば、最低賃金の改定や同業他社の給与水準との比較を参考に見直すと良いでしょう。

また、見直しの際は従業員の声を反映させ、現場の実態に合った制度設計を心がけることが大切です。こうした適切な調整を行うと、従業員のモチベーションを維持し、優秀な人材の確保や定着を促進できます。

インセンティブは公平に設定する

インセンティブを設定する場合は、目標設定や評価基準を明確にし、全従業員に公平な機会を提供することが重要です。

たとえば、営業職だけにインセンティブを設定すると、ほか部署の従業員から不満が出る可能性があります。また、個人の成果だけでなく、チームや部門、会社全体の業績も考慮に入れることで、協力的な組織文化を促進できるでしょう。

システムやソフトを活用する

賃金制度の運用には、多くの計算や管理業務が伴います。これらの業務を効率化し、正確性を高めるためには、人事給与システムやソフトウェアの活用がおすすめです。これらのツールを使うと、給与計算の自動化や評価結果の反映、帳票の作成がスムーズになります。

また、データを一元的に管理すると、賃金の分析や将来の予測が可能になり、戦略的な人事施策の計画にも役立ちます。ただし、システム導入時には、自社の賃金制度に合ったカスタマイズや、従業員のプライバシー保護に十分配慮することが重要です。