CHO、CHROという言葉をよく耳にするようになりましたが、一体どんな意味を持つ言葉なのでしょう?CHO、CHROとは、最高人事責任者と訳される人事のプロフェッショナルのこと。
- 企業の中でのCHOの役割や位置付け
- CHOが担う機能
- CHOに必要とされている能力はどのようなものなのか
- 企業事例
などについて見ていきます。
目次
1.CHO/CHROとは?
CHOとは”Chief Human (Capital) Officer”の頭文字を取ったもので、日本語では「最高人事責任者」と訳されます。CHROと表記されることもあり、その場合は”Chief Human Resource Officer”の頭文字を取ったもの。CHOとCHROは、同義語と解釈してよいでしょう。
CHOの使命は、経営者と従業員の間に立って人事が掌握する人的資源管理のすべてに責任を持ち、企業ビジョンや理念の達成、企業価値の向上のために寄与すること。
日本でも経営と執行を分離し、執行責任を明確にする傾向が強くなっていることから、CHO、CHROなどの名称が積極的に活用されるようになりました。
ただしCHOの責任の所在や権限が、日本企業に従来からある「役職」とほぼ同じである点から、CHOは単なる「人事部の部長」といった意味合いで用いられているケースもあるようです。
2.CHOの役割、機能
CHOの役割は、経営幹部職の一人として取締役会に出席し、人事戦略などの人事機能を統括する存在になること。
企業の3大資源は、「ヒト、モノ、カネ」といわれています。つまり「ヒト」は、企業の将来の成功を左右するものの一つ。CHOは、「ヒト」に関する全責任を負う存在としてCEOを補佐するのです。
企業における最高人事責任者であるCHOの役割は、
- CEOをはじめとする経営者の戦略のパートナーである
- 変革のエージェントであること
となります。
①戦略のパートナー
CHOの持つ具体的な役割、1つ目は、戦略のパートナーになること。CHOは人的資源に関する施策のすべてを掌握する最高責任者です。
企業全体、あるいは事業部門を包括した視野を持ち、その中の人的資源について経営的観点から課題を掘り下げ、事業部や企業全体が発展するためにどのようなビジネス戦略が立案できるのかを検討し、CEOや経営幹部に提案するのです。
その提案は、企業のビジョンや理念や経営戦略を実現するためのものでなくてはなりません。そのためCHOには、人事のプロとしての意見が求められるのです。
②変革のエージェント
CHOの視線は、現場にいる従業員にも向けられなくてはなりません。
企業理念や経営戦略の実現には、現場での生産性向上が不可欠。そのためにも、現場にいるラインマネージャーのパートナーになることも、CHOには必要なのです。
CHOは、ラインマネージャーの良き理解者となり、
- 企業変革のイニシアティブを取る
- 企業変革のエージェントになる
ことが強く求められています。
3.CHOに求められる要件、能力
CHOに求められている能力です。
- 人事のプロフェッショナル
- 経営戦略、事業戦略の理解
- 成果力(課題把握能力/問題解決能力、コミュニケーション力、リーダーシップ、グリット(やり抜く力))
①人事のプロフェッショナル
CHOは、日本語で「最高人事責任者」という意味を持ちます。その言葉通り、人事の部門の中でもトップの位置に君臨し、最も重い責任を背負った人物ということを認識しなければなりません。
人事の分野に関する専門知識や経験を有する、すなわち人事のプロフェッショナルであることは必要最低条件といってよいでしょう。
②経営戦略、事業戦略の理解
CHOに求められている能力に、経営戦略や事業戦略への深い理解があります。
立案する人事施策は、現場の各事業部の事業戦略とマッチしなければなりませんし、最終的には経営戦略の実現に寄与できるものでなければなりません。
そのためには、事業戦略や経営戦略といったものへの理解は欠かせないのです。
また、現場にいるリーダーの良き相談役として、
- 事業戦略に則った人事戦略を立案
- 中長期的な人材戦略に沿った人材採用・育成計画を実行
- 従業員の相談窓口になる
といった役割を全うするためにも人事に関する知識、経験、人脈だけでなく、企業が掲げるさまざまな戦略への深い理解が求められるでしょう。
③成果力
CHOに求められるのは、人事や経営面に関する要求だけではありません。一般的なビジネスパーソンが持っていなければならない能力の保持も必要です。
- 課題把握能力
- 問題解決能力
- リーダーシップ
- コミュニケーション力
- グリット
といったさまざまな能力を、可能な限り高いレベルで保持することが求められているのです。
課題把握能力/問題解決能力
一般的ビジネスパーソンが保持すべき能力をもう少し具体的にご紹介いたします。
- 課題把握能力:課題を整理し、鍵となる部分を把握する力
- 問題解決能力:今ある情報を活用し現時点で最善と判断できる手段で目的を達成できる能力
ここでいう「課題」「問題」とは、現状と目標・目的との間に生じるギャップを指します。
課題把握能力・問題解決能力とは「問題を認識し分析することで、解決策を立案し実行する」ステップを通して現状と目標・目的の間のギャップを埋めていく総合的な能力のこと。
CHOは、この能力が一般的なビジネスパーソンよりもはるかに高いレベルで保持することが、望まれるのです。
コミュニケーション力
すべてのビジネスパーソンに共通して求められる能力の一つに、コミュニケーション力があります。
新卒採用でも最重要視される評価項目と言っても過言ではないほど、あらゆるビジネスシーンでコミュニケーション力の高さが求められています。
AI技術の進歩やオートメーション化への大きな流れがあるとはいえ、ビジネスに限らず社会全体は人と人とのつながりで成り立っているのです。
相手の話に耳を傾けつつ、自分の主張も展開でき、最終的に双方の立場を理解して着地点を見つけ出すには、コミュニケーション力は欠かせません。
特にビジネスの世界では建前や駆け引きがあったり、交渉にユーモアを交えたりと、高いコミュニケーション力が求められる場面も多々。CHOは、このような場面でも堂々と交渉に臨めるようなコミュニケーション力が必須です。
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リーダーシップ
リーダーシップは目標やビジョン達成のために積極的に行動できる能力のこと。事業目標や経営目標の達成といった成果物を生み出すために、リーダーシップは欠かせない行動規範です。
リーダーシップというと、どうしても組織を引っ張るトップの人材にのみ該当するイメージがあります。しかし、組織を構成するメンバー一人ひとりにも当てはめられる概念なのです。
たとえば、リーダーではなくメンバーでも、目標に向かって歩みを進めている人物は、周囲にも良い刺激を与えます。その刺激に対する賛同者が増えれば、プロジェクトの進捗度や満足度などに大きな変化を及ぼすでしょう。
リーダーシップは、役職や地位にとらわれるものではありません。すべての従業員がリーダーシップを発揮すれば、組織の底上げだけでなく組織が掲げた目標の達成に大きく近づくことができるのです。
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グリット(やり抜く力)
ビジネスパーソンに必須の能力として、近年、注目を集めているのは、やり抜く力、すなわちグリット。グリットとは、
- Guts(度胸)
- Resilience(復元力)
- Initiative(自発性)
- Tenacity(執念)
という4つの言葉の頭文字を取った言葉。
ビジネスの世界以外でも「研究」、「芸術」、「スポーツ」などの分野で大きな功績を生み出す人の多くが、このグリットを保持しているといわれています。
グリットは、物事を達成する強い意志。一人でグリットを維持し続けることが困難であれば、チームや部署全体でグリットを設定し、相互でフォローし合うこともできます。
その際に必要となるのは、
- 「どうしてグリットを持つ必要があるのか」といった目的への理解
- 「継続は力なり」という言葉に象徴されるように「グリットを持ち続けよう」とする強固なマインド
です。
4.日本企業にCHOが1割しか存在しない理由
「人事白書2017」の調査によると、「自社にCHO(もしくは人事担当役員)がいるか」という問いに対し、「人事部門に特化した存在として存在している」という回答は12.8%にとどまっています。
対してアメリカでは、人事部門の重要性が当然のようにクローズアップされており、CHOの登用は当たり前になっているのです。なぜ日本企業にCHOが1割程度しか存在しないのでしょう?
その理由として考えられるのは、2つ。
- CHOを外注しているケースが多い
- 人事ローテーションが弊害となっている
❶CHOを外注しているケースが多い
日本企業にCHOがそれほど多く存在しない理由の1つ目は、CHOの外注。CHOは、最高人事責任者と訳されるように、人事施策全般に精通している人事のプロフェッショナルでなければ務まりません。
また、現代におけるビジネス環境は著しい変化にさらされており、一つの考えや方法にしがみついていては、あっという間に時代遅れとなります。
迅速に、時代の変化に対応した専門的な人事施策を打ち出すことは非常に難しい課題。そのため日本企業の多くは、CHOが統括する業務を人事のプロフェッショナルである外部コンサルタントに外注しているのです。
❷人事ローテーションが弊害となっている
2つ目は人事ローテーションの弊害。
人事部も企業部門の一つですから、人事ローテーションに組み込まれています。そのため、数年おきに行われるローテーションで、CHOのポジションに立つ人物も代わるでしょう。
その際、「前任者のやっていた通りに」といって慣習や前例をそのまま引き継いだ仕事をする者も少なくありません。反対に、「前任者がやっていないことに取り組もう」といった反発精神だけで、業務を遂行してしまう例も。
経営目標や企業のビジョンをブレイクダウンしながら、自分なりの明確な方向性を持って人事施策を行える人材が少ないことも、理由の一つといえます。
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5.CHOポジション導入事例
実際にCHOのポジションを導入した企業の例をご紹介しましょう。具体例から、自社へ応用できるヒントが見つかるかもしれません。
- サイバーエージェント
- 日清食品
①サイバーエージェント
サイバーエージェントは、ネット広告事業、メディア事業、ゲーム事業などを展開している企業。
CHOには、「事業」「未来」「数字」の3つのテーマと人事とのリンクが求められています。
- 事業:自社が展開しようとしているビジネスモデルについて経営陣と議論を重ね、それに見合った組織を構築すること
- 未来:大局から人事を捉えること
- 数字:組織づくりに関しても定量指標を持つこと
同社では、この視点でCHOの職務を構築していった結果、
- 職務が合っていないと感じる従業員を早期発見するミスマッチ制度
- 自分のパフォーマンスを月次でアンケート回答するGeppo(ゲッポウ)の導入
といった仕組みを導入するなど、チームプレーを重視しながら個々も尊重される働きやすい職場環境を構築できるようになりました。
そして、2016年度では売り上げ3000億円以上という経営目標を実現したのです。
②日清食品
日清食品は、言わずと知れた日本を代表する食品メーカー。日清食品におけるCHOの役割は、
- 社内に従来からある人事トレーニングプログラムを体系化する
- 国内外の事業会社との人材パイプラインを構築する
- 優秀な人材をグループ全体で増やす
ことです。
そのために、世界で活躍できるグローバル経営人材「グローバルSAMURAI」の候補者の定義や指標を作り、リストアップを進めています。目標は2020年までに200名をリストアップすること。
また、2015年に立ち上げた企業内大学「グローバルSAMURAIアカデミー」では、年代別5段階に設定されたコースを設定し、管理職や役員候補の人材や、女性管理職の育成を実施しています。
一部は挙手制も導入されており、やる気のある人材に早い段階からチャンスを与えているのです。このように日清食品は、グローバルな世界で活躍できる人材育成に励んでいます。