調整手当とは、給与の不均衡を是正し従業員間の給与バランスを調整する手当のこと。ここでは調整手当が支給されるケースや調整手当の種類、注意点などについて解説します。
目次
1.調整手当とは?
調整手当とは、基本給のほかに会社が支給する手当の一種です。目的は従業員間の給与バランスを適正に保つことで、調整給と呼ばれる場合もあります。調整手当が支給される理由は、次の4つです。
- ほか従業員との均衡を保つため
- 転職前の給与と転職後の給与の均衡をはかるため
- 残業代
- 基本給やそのほかの手当を合算しても、その従業員の能力や評価に見合わない場合の調整
2.調整手当が支給される意味とそのケース
調整手当は、いったいどのような場合に支給されるのでしょうか。ここでは調整手当が支給される意味と、そのケースについて解説します。
- 従業員の能力がわからないとき
- 給与の増減を防ぐとき
- 人事制度を改定したとき
- 従業員間の給与バランスを保つとき
①従業員の能力がわからないとき
調整手当が支給されるケースとして第一に考えられるのが、入社後すぐに従業員の能力を判断できないとき。特に新規採用では新たに入社してくる従業員の能力をはっきりと判断できません。
「技術があると見込んで高い給与にて採用したものの、給与に見合うスキルがなかった」という場合でも、かんたんに給与は下げられません。そこで基本給以外に調整手当を設けて仕事ぶりを見極め、調整手当で支給額を調整するのです。
②給与の増減を防ぐとき
給与形態によっては仕事のミスに応じて能力給が下がり、結果として手取りが減ってしまう場合もあります。これは従業員のモチベーションが低下する原因となり、最悪の場合辞職も考えられるでしょう。
貴重な人材を手放すわけにはいかないものの、基本給の変更には合理的な理由と従業員の合意が必要となるため、かんたんに増減できません。そこで調整手当によって、手取り金額の低下を避けるのです。
③人事制度を改定したとき
基本給の増減は人事制度を改定した際にも生じます。改定によって等級は変わらないのに基本給が下がり、それによってモチベーションが低下する可能性もあるのです。
せっかく育てた人材が離れてしまわないよう、企業としては調整手当を上乗せして、実質的な賃金が変わらないように調整する場合もあります。
その際、不満のあった従業員だけ個別に調整するのではなく「2万以上下がる場合は調整手当を3年間支給する」と、全員に平等な措置を講じなければなりません。
④従業員間の給与バランスを保つとき
調整手当は能力や成果に応じた成果給のような形で用いる場合もあります。たとえば能力の秀でた従業員や経験豊富な人材に対して、基本給はほかの従業員と同等に据え置き、これに加えて高い能力の対価として調整手当を活用するのです。
能力の高い従業員がほかの従業員と同じ給与では、本人のモチベーションが下がってしまいます。そこで特定の従業員を目に見える形で評価し、給与のバランスを保つために調整手当を利用するのです。
3.調整手当をなくすケースと残すケース
さまざまな目的で用いられる調整手当には、「なくしたほうがよいもの」「残しておいたほうがよいもの」があります。それぞれのケースについて説明しましょう。
調整手当をなくすケース
調整手当を都度支給しなくても、金額に見合うだけの実力がある場合です。
従業員の実力をもって今後も会社を引っ張ってもらう必要があると判断した場合、毎回調整手当で調整するのではなく、基本給を高く設定します。それにより毎回の給与計算にかかる時間や手間を削減するのも可能です。
安定した実力を提供している従業員に対して、調整手当で給与を調整し続けている場合、一度給与体系を見直してみましょう。
調整手当を残すケース
かんたんに基本給を変更できない会社も多く存在します。法律上、会社側は従業員の同意なく勝手に基本給を変えられないため、当面は調整手当で実質的な手取りを調整するといった対応をするのです。
調整手当は役職に実力がともなわない場合にも活用できます。名ばかり役職のまま昇給を続けていると、ほかの従業員にマイナスの影響をおよぼすおそれもあるでしょう。そこで調整手当を減額し、これまで払い過ぎていたと従業員に示すのです。
4.毎月支給される調整手当の種類
調整手当にはさまざまな種類があります。毎月支給される調整手当のうち、一般的なものと専門職別のものについて説明しましょう。
- 一般的な手当
- 看護師の調整手当の場合
- 保育士の調整手当の場合
- 介護士の調整手当の場合
①一般的な手当
手当とは、基本給以外の諸費用として会社が従業員に支払う賃金のこと。一般的な手当として、次のような種類があります。
- 役職手当:課長や部長などの役職に就き、責任が増えた分について支払う手当
- 家族手当(扶養手当):妻や子など扶養家族がいることに対して、生活補助の目的で支払う手当
- 通勤手当:通勤にかかる費用を支給する手当
- 住宅手当:家賃やローンの支払いなどを補助する目的で支給する手当
- 時間外(勤務)手当:法定労働時間を超えた際に発生する割増賃金
- 超過勤務手当:就業規則などで決められた勤務時間を超えて働いた際に支払う手当
②看護師の調整手当
看護師に調整手当が支払われるパターンは2つです。
- 能力や経験に対して毎月支払われるパターン:成果給のような形で支払われるパターン。たとえば別のクリニックから新規採用した看護師に即戦力としての働きを期待した場合、能力や経験を評価するかたちで支給する
- 給与規定の変更や計算ミスなどによって発生した臨時的な差額を調整するパターン:「残業代の計算に誤りがあった」「年末調整の不備で税金の調整が必要になった」場合、調整手当を使って精算する
③保育士の調整手当
保育士の場合、一般的な手当にくわえて「保育士の資格手当」「特殊業務手当」などがあります。保育所では、国家資格である保育士の資格を保有していない人も「保育補助」というかたちで保育業務に携われるのです。これを区別するための調整手当が「保育士の資格手当」となります。
また保育所には運動会や発表会などさまざまな行事があるでしょう。このような通常業務以外の仕事が増えたときに支給する手当を「特殊業務手当」といいます。
④介護士の調整手当
介護士にも一般的な手当のほかに独自手当があります。それが介護職員の給料を上げることを目的とした「処遇改善手当」です。
制度が創設される前まで、国は介護報酬(介護の売上)を上げて介護職員の給与を上げようと考えていたのです。しかしこの取り組みでは介護報酬を上げても経営者がそれを搾取してしまい、職員に届きませんでした。
そこで新たに創設されたのが、支払う金額を明確にして、経営者を介さず直接介護職員に支給する「処遇改善加算」制度です。
5.調整手当の地域手当とは?
調整手当のなかには「地域手当」と呼ばれる手当があります。これは物価や暖房費など、勤務地によって生じる支出の差を埋めるための手当で「勤務地手当」や「地域給」とも呼ばれます。地域手当を公務員と民間企業から説明しましょう。
- 国家公務員の地域手当
- 地方公務員の地域手当
- 民間企業の地域手当
①国家公務員の地域手当
国家公務員の場合、地域手当には次のような種類があります。
- 都市手当:物価や民間企業の賃金が高い地域に勤務する職員に支給
- 特地勤務手当:山間部や離島など、生活を送るうえで不便な地域に勤務する職員に支給
- 寒冷手当:雪が多く暖房費がかさむ地域に勤務する職員に支給
- 広域異動手当:元の職場から遠い地域に異動した職員に支給
相場は東京23区の20%から札幌や長崎などの3%まで、地域によって異なります。
②地方公務員の地域手当
地方公務員の地域手当は自治体により異なります。国家公務員の寒冷手当や都市手当、特地勤務手当のほかに、経済的文化的諸条件に恵まれない山間地や離島などの地域に勤務する職員に対して「僻地手当」を設けている自治体もあるのです。
2019年時点で地域手当を実施している自治体は26.3%。なかには国の基準を上回る自治体も存在します。自治体によって格差が生じるため、廃止の希望や給与配分の見直しも行われているのです。
③民間企業の地域手当
地域手当を支給しているのは公務員だけではありません。給与の地域差を調整するために地域手当を設けている民間企業もあります。
厚生労働省の調査によると、民間企業における地域手当の平均金額は2万2,776円。ただし会社により金額の差が大きく、まったく支給がない企業も少なくありません。
近年、同じ仕事をしていても地域手当によって格差が生じる点も問題視されています。そのため地域手当そのものを廃止する企業も増えているのです。
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6.調整手当を残業代として支給する場合
調整手当は残業代として支給するのも可能です。この場合、固定残業代として支給するケースと、基本給に含めて支給するケースにわかれます。
- 固定残業代として支給
- 基本給に含めて支給
①固定残業代として支給
従業員が就業時間以外に業務を行う場合、企業はその従業員に残業代を支払わなければなりません。
企業によっては従業員が一定時間残業することを前提とした「固定残業代」や「みなし残業代」などの名称を利用せず、単に調整手当として支給している会社もあります。
しかし企業側は通常の労働時間給と固定残業代を区別する必要があり、従業員もそのことを理解しておかなければなりません。万が一従業員が理解していなければ、労働基準監督署から指摘されるおそれもあるため注意が必要です。
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②基本給に含めて支給
毎月の固定残業代を調整手当として支給する場合調整手当を基本給の固定的支給項目として含めるか含めないかでボーナスの算定根拠が変わるため、注意が必要です。
そもそも調整手当は基本給を補うもので、固定的なもの(能力手当や役職手当など)を除く手当は基本給と別として扱われます。
月々で金額が変動する残業代は一般的に、基本給に含まれません。ただし残業代を固定的支給項目として基本給に含めた場合は固定給とみなされ、ボーナスの算定根拠に含まれます。
7.調整手当がマイナスになる場合
調整手当によって必ずしも手取り金額がプラスになるとは限りません。昇給による調整や保証期間の設定などを実施した場合、調整手当によってマイナスになる可能性もあるのです。
昇給による調整
昇給による調整は、調整手当が0円になるまで続きます。つまり昇給や昇格があっても、それによってプラスされる給与額が調整手当を上回るまで給与総額は変わりません。
これは調整手当がそもそもすべての従業員に必ず支給される手当ではなく、企業が支給不要と判断すれば減額できる手当だからです。
当該従業員には具体的な給与テーブルなどを見せながら「今後この役職になるまで給与の総額は変わらない」旨を伝え、納得してもらう必要があります。
保証期間の設定
賃金体系の見直しによって調整手当を突然0円にしてしまうと、収入が減ってしまった従業員からは当然不満の声があがります。この場合見直し前の賃金を保証するため、一定の保証期間を設定するのです。
これは従業員にとって「もらっている給与額相当まで実力をアップする猶予期間」という意味になります。期間を設定する際は、「全従業員の調整手当を0にできるか」「これまでの処遇に見合った期間であるか」の考慮が必要です。
8. 調整手当の規程例
就業規則や給与規定に、調整手当の運用について記載しておかないとトラブルに発展する可能性もあります。調整手当について就業規則に記載する場合と、その支給要件を定める場合の注意点について説明しましょう。
就業規則に記載する場合
就業規則に調整手当を盛り込む際は、給与の構成や手当を記述する項目に記載します。
- 調整手当の目的
- どのような場合に支給されるか
- 手当の額はどのように計算するのか
- 基本給に盛り込む時期はいつになるか
などをだれもが理解しやすい内容で記載するのです。これらが記載されていないと、その調整手当が固定的なものなのかそうではないのかを合理的に判断できません。残業代やボーナスの算定に影響をおよぼす可能性もあります。
支給要件を定める場合
就業規則に記載する際は、労使ともに理解しやすいよう具体例を記載するとよいでしょう。
- 基本給と各種手当の支給合計額を大きく上回る活躍をした従業員に追加手当として支給する
- 固定残業手当として調整手当を支給する
- 新卒従業員に対しての初任給調整として
など、種類別に具体例を記載しておくとわかりやすくなります。
9. 調整手当の注意点
給与バランスを調整できる調整手当は、支払い内容が不透明になる場合もあります。調整手当の注意点2つについて解説しましょう。
- 基本給が低い
- 調整手当で最低賃金をクリア
①基本給が低い
基本給の低さを隠すために調整手当を使用しているケース。額面は同じでも、基本給の低さにより従業員が損をする場合もあるのです。
賞与(ボーナス)や退職金額、時間外労働手当などは一般的に基本給を基準に算定します。たとえばボーナスが基本給3カ月分の会社を例に見てみましょう。基本給が20万円と18万円の人では60万円と54万円、6万円もの差が生じてしまうのです。
②調整手当で最低賃金をクリア
時給で働く場合は一目瞭然です。しかし月給の場合、最低賃金の問題を意図せず放置している場合があるため注意しましょう。
最低賃金のルール上、臨時に支払われる賃金は最低賃金の対象になりません。対象となるのはあくまでも毎月支払われる基本の賃金です。時間外勤務手当や休日出勤手当など、毎月定額で支給されない手当を最低賃金算定の基礎には含められません。