CHROとは最高人事責任者のこと。今後の日本企業で必要になるとされている役職です。今回はCHROについて詳しく解説します。
目次
1.CHROとは?
CHROとは、Chief Human Resource Officer(最高人事責任者)の略称です。CHROという役職はもともと、外資系の企業で用いられていた役職でした。
日本では「執行役員人事部長」や「取締役人事部長」にあたる役職で、人事関連業務を幹部社員として統括する役割を担います。CHROは人事部長とは異なり経営視点を持っているのが特徴で、今後の日本企業で必要になるとされています。
CHOは同じ意味
CHROと同じような言葉で、「CHO」という言葉もあります。CHOは「Chief Human Officer」の略称で、経営責任における人事の最高責任者。つまりCHROと意味は同じです。
ただし企業によっては、CHOを「Chief Health Officer(健康管理最高責任者)や「Chief Happiness Officer(幸福最高責任者)」と定義します。
CHROが必要とされる背景
少子高齢化の影響で労働者の数が年々減少し、人材確保が難しくなっています。このような状況で自社に合った人材を確保するには、現状の経営戦略に則った人事戦略が必要です。
CHROは経営視点と人事視点、両方を担えるため、企業での需要が高まっています。CHROが経営中枢に身を置けば、時代の変化に対応するための迅速な経営判断と経営行動につながるでしょう。
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2.日本企業におけるCHRO
現在日本の企業は、人事について多くの問題を抱えているのです。人事の人間は人事の範疇でしか企業内で発言できず、「企業の経営に口を出せない」企業も少なくありません。
一方、近年では経営を絡めた人事戦略が重視されるようになっています。この2つの問題を解決するために、経営視点から組織を変えられるCHROという役職が必要とされるのです。
しかし2017年に発表された経済産業省の報告書では、CHROが導入されている日本企業はわずか13%。十分に機能しているとはいえないでしょう。
CHROと人事部長の違い
人事部長はあくまで、人事の部門での最高責任者。一方CHROは、企業の重要な資源である「人」を経営にどのように生かしていくか、という視点から経営戦略を立案します。CHROはいわば組織作りの責任者だといえるでしょう。
CHROは企業内で役員として配置され、人事部長は責任者としてその下に配置されるという点でも違いがあります。ただし企業によってはこの2つが兼任されている場合も少なくありません。
3.CHROの役割
経営を人事視点から見て全社戦略を行うCHROは、企業目標達成のための組織づくりを行ったり、企業文化を浸透させたりとさまざまな役割を担うのです。ここでは、CHROに求められている役割について説明しましょう。
- 人事面から経営への参加
- 経営戦略に沿った人事評価制度の整備
- 社員の育成
- 企業ビジョン・理念の組織浸透
①人事面から経営への参加
CHROに求められる役割に、「人事の側面から経営に参画する」があります。
たとえば企業が進めたいと思っているプランに対して、「企業として必要な人材が集められるのか」「計画を進めるためのスキルがある人材を何人集めればよいのか」など、人事面から具体的な進言を行うのです。CEOの右腕的な役割ともいえます。
②経営戦略に沿った人事評価制度の整備
評価基準を作成して終わりではなく、正しく実行されているかを確認したり修正したりするのもCHROの役割です。また数値での評価が難しい部署に対して、社員のモチベーションをどのように維持するか考えるのもCHROの重要な業務となります。
③社員の育成
人事を統括するCHROには、「社員を育成する」という重要な役割も。社員の育成を管理職に任せきりにするのではなく、各部署を横断した育成方法の確立が必要です。
経営戦略に沿った人員計画や採用・育成計画を立て、現場や管理職のマネジメントや社員のキャリアアップなどをサポートする仕組みづくりも、CHROの仕事となります。
④企業ビジョン・理念の組織浸透
企業のビジョンや方向性、そして理念を組織に浸透させていくのも、CHROに求められる役割のひとつ。
職場環境にも目を光らせ、「悪い風習が生まれていないか」「部署内の風通しが悪くなっているところはないか」などを確認し、企業の風土や文化を作りあげていくことが求められます。
働きやすい職場をつくっていければ、社員のモチベーションも向上するでしょう。
4.CHROに必要なスキル
CHROの役割は、経営戦略を実現するために企業に優秀な人材の登用と育成をすること。その役割を問題なく遂行するには、どのようなスキルが必要になってくるのでしょうか。ここではCHROに必要な能力について説明します。
- 組織を跨いだ人事マネジメント
- 労働法令をはじめとした人事労務における専門性
- 経営に関する知識
- 問題・課題解決力
- コミュニケーション能力
①組織を跨いだ人事マネジメント
CHROは企業の人事を統括する存在です。つまりすべての部署の役割について精通している必要があります。「どの部署がどのような仕事を行っているのか」「どのような人材を必要としているのか」を知っていなければ、人事に生かせません。
したがってCHROには人事の知識だけでなく、さまざまな部署の知識やマネジメントの経験が必要なのです。
②労働法令をはじめとした人事労務における専門性
CHROは人事のプロフェッショナルとして経営に参画します。そのため当然、人事労務についての知識も豊富でなければなりません。
しかし労働に関する法令はいつ改正されるか分からないもの。法令が改正される情報をいち早くキャッチアップし、理解して経営の戦略に組み込むことが求められるでしょう。
CHROはつねにアンテナを張り巡らせ、法令改正の施行前から社内規定や制度などの整備を進める必要があります。
③経営に関する知識
CHROは経営についても自身の意見を発信していかなければなりません。そのため、経営の知識も必要になるのです。
そのためには、「多くの企業や部署で働いて人と出会い見識を深める」「知識をもってCEOや幹部や社員の形態を理解しておく」などが重要となります。
④問題・課題解決力
問題解決能力もCHROには必要です。CHROには、人事や経営に関する豊富な知識をもとに、企業が抱えている問題や企業の目標を達成するための意見やアイデアなどを出すことが求められます。
意見やアイデアを出すだけでなく、課題が発生している状況を分析して改善策を考え、経営層および社員へ説明しなければなりません。これらのアクションを迅速に粘り強く解決していけるだけのスキルが必要です。
⑤コミュニケーション能力
上述したすべての業務を円滑にこなすためのコミュニケーション能力も、CHROには必要となります。
企業における組織や部署の最適化や社員のモチベーションを維持するには、CHROが社員それぞれと面談を行ったり、それらの声を経営陣に届けたりと企業の調整役として動く必要があるのです。
これらを円滑に実行するためにも、コミュニケーション能力は非常に重要な能力といえます。
6.CHROとなる人材の育て方
CHROになれるような人材を育てる方法には、何があるでしょうか。下記4つについて、解説します。
- 事業部門も経験させる
- ソフトスキルを伸ばす
- アジャイル思考を習得させる
- 早期から育成に取り掛かる
①事業部門も経験させる
CHROになる人材は、経営に人事の側面から参加するため、人事だけでなく経営における知識も必要です。
CHROになるような人材を育てるためにも、人事労務の部署だけではなく、さまざまな事業部門を経験させましょう。ほか部署の知識を得られれば、CHROへの道に近付きます。
②ソフトスキルを伸ばす
企業のビジョンやグローバル化などを実現するため、ソフトスキル(コミュニケーションやリーダーシップ、社員のモチベーションコントロールなど)を伸ばすこともCHROの育成に必要です。
グローバルな事業の展開を考えている企業には、特に重視されるスキルとなります。「海外の人事とのやり取りをする」あるいは「海外への事業展開を考えている企業がCHROを育てる」には、これらのソフトスキルが不可欠でしょう。
③アジャイル思考を習得させる
CHROには、素早い判断と対応力が求められます。それらの能力を獲得するために「アジャイル思考」を学んでおくとよいでしょう。
アジャイル思考とは、50点でもよいからとにかく動いてそこから得た結果をもとに改善し、100点に近付けていく考え方のこと。
スピードと質の両方を優先するアジャイル思考を持ったCHROは、より早い判断が下せるでしょう。
④早期から育成に取り掛かる
CHROを育成するためには優れた人材を早期に見抜き、早くから育成に取り掛かる必要があります。経営者となりうる可能性を持つ人材は、全体の5%未満ともいわれるのです。また見つかったとしても、育成に15年以上かかるケースも少なくありません。
優れたリーダーシップやコミュニケーション能力がある優れた人材を、早くからCHROなどの重要なポストにおけるように計画して育てていく手法は、非常に有効でしょう。
7.CHROを導入した会社
CHROはこれからの日本で必要となる役職で、「カゴメ」「サイバーエージェント」は、すでにCHROを取り入れています。ここでは、CHROを早くから起用している2つの企業の取り組みについて説明しましょう。
カゴメ
カゴメは、トマトケチャップや野菜ジュースなどで国内No.1のシェアを誇る大手総合メーカーです。創業120年という非常に長い歴史がある企業で、人事戦略の一環として日本でCHROをいち早く取り入れた企業でもあります。
CHROを取り入れて社内の評価制度や報酬制度を見直し、企業全体の風土改革を進めています。またCHROの戦略によって、販売のシェアを海外まで拡大しました。
サイバーエージェント
サイバーエージェントは、メディアやゲーム、インターネット事業で活躍する企業です。企業文化を社員に浸透させるため、CHROを取締役に導入しました。
「下位5%の人材にマイナス査定を行うミスマッチ制度」といった企業理念が浸透していない社員を早期に発見する社内制度をCHROが新たにつくりました。これにより、問題が大きくなる前に対処ができるようになったのです。