目標達成や社員教育の手法として、コーチングを取り入れる企業が増えています。しかし、コーチングには高いコーチングのスキルを必要するのです。コーチングとは一体どのようなものなのでしょう。
本記事では、コーチングの効果や実施に必要なスキル、導入方法などについて解説いたします。
目次
1.コーチングとは?
コーチングとは、相手の話に耳を傾け、観察や質問、ときに提案などをして相手の内面にある答えを引き出す目標達成の手法のこと。類似する言葉としてティーチングがありますが、コーチングでは、ティーチングのように答えを与えることは行わず、あくまで自分自身の気付きに重きを置いて目標達成をサポートします。
ビジネスにおけるコーチングの意味
コーチングの手法は、
- 人間の可能性は無限
- 課題に対する答えは相手の中に必ずある
- 相手が自ら答えを見つけるためのパートナーに徹する
という3つの考え方に基づいており、それによって、
- 自分自身で答えを導き出す能力
- 主体的、自主的に物事に取り組んだり考えたりする姿勢
- 新しい価値観や新しい答えにたどり着こうとする前向きな気持ち
を身に付けることができます。
ただ、コーチングには、
- 短期間で成果を挙げることは難しい
- 相手が持っていない技術や能力に関してコーチングしても結果が出にくい
といった弱点も。コーチングを行う際は、
- 時間的余裕を持って取り組む
- ティーチングのほうが効率がよい場合は手法を切り替える
などに注意しましょう。
2.コーチングとティーチングの違い
コーチングと類似した言葉にティーチングがあります。コーチングとティーチングの違いとは何でしょう。
ティーチングとは?
ティーチングとは知識や技術、技能などのスキルを相手に直接指導すること。相手の内面にある答えを引き出すコーチングと異なり、正解そのものを相手に教えるときに用いられます。
ティーチングは、答えをダイレクトに教えるため、効果的に短期間で教育できます。一見、効果が高いようにも見られますが、ティーチングに慣れてしまうと、
- 指導者への依存度が高まる
- 自ら考えて行動しなくなってしまう
といったデメリットもあるのです。しかし、教育の現場を中心に広くティーチングが用いられていることからも分かるとおり、
- 業務手順
- 前提情報
- 業界知識
- ITスキル
- PCスキル
など、考えても答えが分からない分野では、ティーチングのほうが短期間での知識習得が可能となります。
それぞれのメリット・デメリット
ティーチングは、手本を見せたり教えたりと直接的に答えを教えることで多人数でも同時にかつ効果的に教えられる方法です。
対してコ―チングは質問や傾聴に力を入れることで相手の問題解決能力を高め、自主性や主体性を育みながら新しい解決法を探れるような人間に育てていくという教育となっています。
ティーチングのデメリットは、
- 指導者の知識レベルや技能レベルを超えることが難しい
- モチベーションが低下しやすい
- 受身の姿勢になりがち
対してコーチングのデメリットは、
- 相手に知識やスキルがないと答えが見つかりにくい
- 基本、一人ひとりに合わせたやりとりが必要になるため時間がかかる
- 多人数では活用しにくい
3.コーチングのメリット、デメリット
広く社会で認知され、企業の中でもさまざまな場面で活用されるコーチングですが、メリットとデメリットがあります。コーチングの効果に関するメリット、デメリットについて詳しく説明しましょう。
コーチングを受ける効果とは?
コーチングの効果・メリットは、
- 考える力を育み、自発性、主体性、応用力、再現性などを高める
- 内に秘めた可能性を存分に引き出す
- 個性を引き出し、生かす
- 学習能力を向上
たとえば、
- その人だけが持っている情報にアクセスしたい
- 正解を求めるのではなく、そこまでのプロセスを学習してほしい
- 反射的な答えでなく、熟考を促したい
- 自主的な行動を求めたい
といった場合、コーチングは効果的に機能します。
コーチングのデメリット
コーチングのデメリットは、
- 効果が出るまで時間がかかる
- 多人数を一斉に育成することは困難
- 個別の対応が求められるので、マネジメントが複雑
- 相手が知識や経験、能力を持ち合わせない場合非常に効率が悪くなる
新入社員の集合研修のように、
- 多人数
- 経験や知識不足が否めない
といった場合、コーチングは非効率な目標達成手法となってしまう可能性が高いです。
4.コーチングにおけるコーチ・トレーナーの役割
コーチングにおけるコーチの役割は、
- 個人の能力を最大限に引き出す
- 自ら適切な行動を取るように促す
- 一人ひとりが持っている能力や意欲、自主性、自発性、責任感、可能性などを自らの力で引き出していけるように導く
そのためコーチは、
- 相手の話を聴く
- 相手を観察する
- 相手の状況に応じたアプローチを行う
ことに注力します。そしてコーチは相手に対して、
- 素晴らしい能力を持っている
- 豊富な情報を持っている
- 鍵になるスキルを持っている
と信頼しすでに持ち合わせているにもかかわらず埋もれたままになっているスキル、資源を高めることに意識を集中するのです。
5.トレーナーに必要なコーチングスキルとは?
コーチングを効果的に行うためには必要なスキルが3つあります。一体どんなスキルなのでしょう?
- 傾聴
- 質問
- 承認
①傾聴
傾聴とは「相手の話を深部まで聴く」「相手の話し方、しぐさ、表情、姿勢などに注意を払う」両方を同時に行うことで相手を深く理解するコミュニケーション技法のこと。
傾聴には、
- 相手をありのまま受け入れる「受容」
- 相手の話を聴いて、その通りだなと思う「共感」
2つの特徴があり、適正に行われると相手は、
- 自分自身で自分の考えや自分への理解をより深めることができる
- 自主的、積極的、建設的な言動を採用できる
ようになります。一般的なカウンセリングなどのように、
- 人の話を聞く
- 答えに直結するような質問をする
ではなく、相手をまるごとそのまま理解することがポイントとなるのです。傾聴という漢字の意味から考えても、
- 相手の話に耳を傾ける
- 相手の表情やしぐさを目でしっかりと観察する
- 相手の感情に心を配る
ということが分かります。
- 相手も心を開くことができる
- コーチとの関係性を築くことができる
- 信頼関係の中で、自分の道を自ら切り開けるようになる
これらが、傾聴の最大の目的なのです。
傾聴とは? 意味と効果、三原則、具体的なやり方をわかりやすく
傾聴とは、「耳」「目」「心」を傾けて真摯な姿勢で相手の話を聴くコミュニケーションの技法。相手との信頼関係を築くだけでなく、傾聴を通して自分自身を知り、感情のコントロール等精神的成長を促すきっかけにもな...
②質問
人は比較的、相手からの指摘を素直に受け入れることが苦手です。しかし、自分自身で気が付いたことを反省し、改めていくことにさほど抵抗はありません。
コーチングはこの人間の特性を利用し、自らの成長を促せるような「気付き」の機会を多く持ってもらう質問をしていくのです。実際の例で考えてみましょう。
質問の例
- 「明日の会議資料の最終確認は済んでいる?」
- 「どうして事前に資料を追加して作成しなかったの?」
- 「あなたが事前に資料を追加して作成しなかった要因は何だと思う?」
1番目の質問は、上司が会議準備の進捗確認をしているだけで、質問者が把握しておきたいことを口に出しただけです。
2番目は質問をしているように思えますが、真意は相手に対する非難です。これでは、相手は萎縮するか言い訳を考えるかのどちらかとなるでしょう。相手はネガティブな感情を増大させるだけで、自分の成長のチャンスにしようといった発想にはなりません。
3番目の質問はどうでしょう。これは、問題の所在を相手の中に置いていません。相手は、ミスについて客観的に分析できる気持ちの余裕を生みだすことができるでしょう。
失敗について自分の言葉で分析できるよう導く質問を、「問題の外在化」と呼びます。コーチングの質問は、問題の外在化を上手に取り入れ、気付きの機会を増やすのです。
③承認
承認とは相手の長所を見つけたり言葉や態度で分かるように褒めたりするというスキルのこと。
相手が持っていないものを褒めればお世辞になりますから、必ず相手の良いところを見つけて褒めます。また、言葉や態度に出さなければ相手には伝わらないので、できるだけ言動で表します。
承認はどちらの要素が欠けても成り立ちません。褒められると人は褒められた行為をまた繰り返したくなるもの。その心理を利用して、
- すぐに:印象が強く残る
- 具体的に:何を期待されているのかを具体的に理解できる
- 一貫性を持って:褒めるに値することがあることを理解してもらうため
コーチングによって好ましい行動が定着してきたら、褒める頻度を少なくしていき、ここぞというときに再び褒めると効果的です。承認によって、長所や良かった点を褒め、相手に好ましい行動を繰り返し行わせ定着させると、コーチングの効果が生まれます。
6.ビジネスに使えるコーチングの手法
社内にコーチングを導入するためのステップがあります。
- 1.目的を具体化する
- 2.実施方法を決める
- 2-1.短期集合型のセミナーでスキルを習得する
- 2-2.マネジメント層がトレーニングを受け、認定資格を取得する
- 2-3.管理職などトップマネジメントにプロのコーチをつける
やり方①目的を具体化する
まず目的を具体化し、コーチングの定義や目的を当事者間で共有します。その際、できる限り具体的に目的を設定しましょう。
たとえば「マネージャーのリーダーシップ力を向上する」といった目標は、
- 部下による業績を向上させる
- 開発スピードを早める
- 部下の技術力を高める
- 部下と情報の共有化を進める
などと噛み砕いて考えていきます。
やり方②実施方法を決める
次に、実施方法を決めます。決定に用いられる3つの方法を説明しましょう。
②-1.短期集合型のセミナーでスキルを習得する
1つ目は、短期集合型のセミナーでスキルを習得すること。プロのコーチのレベルには届きませんが、短期集合型のセミナーでコーチングの練習をし、実際に職場で使ってみるという実施方法です。
プロのコーチが活用しているスキルから、ビジネスシーンで頻度の高い技を習得し、日常の部下との会話に取り入れます。
②-2.マネジメント層がトレーニングを受け、認定資格を取得する
2つ目は、マネジメント層がトレーニングを受け、認定資格を取得すること。
まず、マネジメントの立場にある者がコーチングスキルのトレーニングを受け、認定資格を取ります。そしてマネージャーは、部下などからコーチングの対象者を決定し、目標達成に向けてコーチングを行うのです。
②-3.管理職などトップマネジメントにプロのコーチをつける
3つ目は、管理職などトップマネジメントにプロのコーチをつけること。社内でコーチングのプロを育成するには時間がかかります。そこで経営に関わる管理職層や経営層に対し、コーチングのプロをつけて専門的なコーチングを行ってもらうのです。
この実施方法は、海外のトップ企業では一般的であり、今後日本でも普及することが考えられます。
7.コーチングが機能しない理由
コーチングが機能しない場合、いくつかの理由が考えられます。ここでは、多く見られる原因について説明しましょう。
- トレーナーのスキル不足
- コーチングすべき内容ではない仕事にコーチングしている
①トレーナーのスキル不足
まずコーチが相手の中にある答えを導き出せるような質問をし、コーチは相手の思考を整理させ、違った角度から物事を考えたり、別の次元で気付きを促し、相手の自発的な行動変容を引き出したりします。結果、相手は自ら設定した目標を主体的に達成するのです。
このような質問の手法は、一朝一夕に習得できません。トレーニングを積み、実務経験を通して質問のテクニックを習得した者にしか成し得ない業です。
「何でも質問すればいい」「何でも聞けばいい」といった姿勢では、相手の内面を呼び起こし、気付きを促すことは不可能でしょう。
コーチに求められるもの
コーチングを行うコーチにはコーチングに関する一定レベルの知識と技術、経験が求められます。
- 相手と呼吸やリズムを合わせる
- 話し方に気を配る
- 正しくペーシングする
- 相手の思考のぐらつきや思考回路をキャリブレーションする
- 認知パターンを熟知する
数日間のコーチング研修や簡易的なコーチングの検査などでコーチングの表面的な知識や情報を学んだだけのマネージャーがコーチングを行うケースがたびたび見られます。
しかしコーチング技術について鍛錬していないマネージャーが現場でコーチングすれば、部下は何を考えればよいのか分からなくなり、混乱してしまうでしょう。コーチングは、鍛錬を積んだコーチの存在が不可欠です。
②コーチングすべき内容ではない仕事にコーチングしている
コーチングを行う際の基本は「答えを教えないこと」。つまり、誰かから指南されるのではなく、答えを自分自身の中から引き出すことにあります。
コーチングは、「何となく分かっているけれど、なかなか実際にはできていない」「うっすらと分かっているけれど、どうしても自分自身を変えることができない」といった場合に効果を発揮するのです。
コーチングが機能しにくい状況
コーチングを行うコーチは、相手に自分自身で目標を達成させるための行動変容を促す高い技術を用います。
- 目標が定まっていない
- 目標達成に対する意欲がない
- 目標を達成するだけの能力がない
といった場合、コーチングすべき内容そのものが欠如しているといえますので、コーチングよりティーチングの手法を活用したほうが効果的です。
他にも、緊急を要する課題や仕事に関してコーチングを行うことは非常に難しいといえます。
コーチングには、
- 質問のやりとり
- 傾聴
- 相手が熟考する
などの期間が一定程度必要になるからです。
- 内容
- 意欲
- 期間
などからコーチングを行うに値すべき仕事かどうか、事前にしっかりと見極めましょう。
8.コーチング資格の取り方
コーチングの資格は、そのほとんどが民間資格です。民間資格は、企業・団体が独自の基準をもって認定を行うもので、法規制がありません。そのため現在、多くの企業・団体がコーチングに関するさまざまな資格を発行しています。
コーチングの資格を取得する際には、自分がどの団体の資格を取るべきか、資格の性質を見極めて選択することが重要になります。
コーチング資格の種類
どのようなコーチになることを目指すのか、目的によって、コーチング資格の取り方は変わります。どの団体の資格を狙うべきか、それぞれの特徴をおさえて検討してみましょう。
①日本コーチ連盟のコーチング資格
コーチングの普及・発展を目的とした団体である日本コーチ連盟は、資格の発行のほかにも、コーチング技能養成校「コーチアカデミー」の運営や、大学公開講座・検定試験の実施など、幅広く活動しています。
- コーチ資格
- インストラクター資格
コーチとして活躍するための資格(コーチ資格)と、 コーチングの技能を教授するインストラクターの資格(インストラクター資格)という、大きく分けて2種類の資格を発行しています。詳しくは下記をご覧ください。
②一般財団法人生涯学習開発財団のコーチング資格
1983年に設立された文部科学省所管の一般財団法人生涯学習開発財団では、コーチングだけでなく、生涯学習全般に関する情報提供や推進活動が行われています。
- 認定コーチ
- 認定プロフェッショナルコーチ
- 認定マスターコーチ
の3種類の資格を取得することができ、受験資格を得るには実践経験も必要となります。
コーチ・エィ アカデミア「(一財)生涯学習開発財団認定コーチ資格制度」
③国際コーチ連盟(ICF)のコーチング資格
世界最大規模のプロコーチ支援団体である国際コーチ連盟のコーチング資格は、国際資格です。取得すると海外においても資格が通用します。
- アソシエイト・サーティファイド・コーチ(ACC)
- プロフェッショナル・サーティファイド・コーチ(PCC)
- マスター認定コーチ(MCC)
上記3種類の資格が、ICF認定資格として容易されています。
コーチ・エィ アカデミア「国際コーチ連盟(ICF) 認定資格の取得」
9.コーチングの起源と歴史
コーチング誕生の歴史や日本での起源を説明しましょう。
由来
コーチングは、「コーチ (Coach)」という言葉から派生したものです。「コーチ (Coach)」という言葉の語源は「馬車」。
その時代の馬車の役割は、「大切な人を望む場所まで送り届ける」ことでした。「コーチ (Coach)」から派生して生まれたコーチングは、「人の目標達成を支援する」という意味で使われています。
ハーバード大学助教授:マイルズ・ メイス (Myles Mace) 氏
コーチングは、1950 年代に当時ハーバード大学助教授であったマイルズ・ メイス (Myles Mace) 氏の著書『The Growth and Development of Executives』(1959年) の中に「マネジメントにおいてコーチングは重要なスキルである」として初めて登場しました。
そして、1980年代から多くの出版物の中に登場していきます。
日本初のコーチ養成機関「コーチ・エィ(コーチ・トゥエンティワン ) 」
日本では、1997 年にコーチ・エィ(当時コーチ・トゥエンティワン ) が、日本初のコーチ養成機関を設立。
養成機関で、コーチングを体系的、体験的に学べる「コーチ・トレーニング・ プログラム (CTP)」の提供を行ったことがきっかけで、広く日本でもコーチングが知られるようになりました。