コーピングリストとは、ストレスを感じたときに見る自分だけのストレス解消マニュアルです。コーピングリストの種類や作り方、実践方法などを解説します。
目次
1.コーピングリストとは?
コーピングリストとは、ストレスを感じたときの対処や工夫をリスト化し、まとめたもの。コーピングとはストレスを感じたとき、どうすればよいのか対処法を考えたり工夫したりすることです。
コーピングの英語表記は「coping」、つまり「対処する」という意味があります。もともとはアメリカの心理学者ラザルスが提唱し、メンタルヘルス用語として使われていました。
企業の取り組みが注目された結果、「ストレスコーピング」という言葉が浸透し、一般的に使われるようになったのです。
コーピングとは?【意味とやり方をわかりやすく】ストレス
「ストレス社会」といわれるほど、現代人はストレスにさらされる機会が増えています。その中で、自分のメンタルを守るために必要なのが「コーピング」という対処方法です。
従業員の精神衛生を管理するため、コーピ...
コーピングと適応機制(防衛機制)の違い
コーピングと適応機制は「意識の仕方」に違いがあります。適応機制とは、欲求不満や葛藤が起きたとき、心身の緊張や不安を和らげようとする働きです。いくつか例を見ていきましょう。
- 合理化=もっともらしい理由をつけて正当化する
- 逃避=苦しい状態から一時的に逃れようとする
- 補償=自分の苦手なことを違うことで補おうとする
コーピングを適応機制、2つの違いは下記のようになります。
- コーピング:「意識的」にストレスを管理する
- 適応機制:「無意識」な自己防衛
2.コーピングリストが注目される背景
コーピングリストが注目される背景には、仕事のストレスを抱えている人の増加が挙げられます。
令和3年に厚生労働省より発表された「労働安全衛生調査」の報告書によると、「仕事や職業生活で強い不安やストレスに感じることがある」と答えた労働者の割合は54.2%。つまり、全体の半分以上の労働者がストレスを抱えているのです。
コーピングリストを活用すれば、ストレスに対してどう対処すべきかが早期にわかるうえ、状況に応じてすぐにアクションを起こせます。ストレス社会のなか、解決の一助としてコーピングリストは注目されるようになったのです。
3.コーピングとストレスの関係
私たち人間はストレスを受けると、心身ともにさまざまな反応が現れます。「コーピング」を知る前に、まずは「ストレス」についての基礎知識を把握しておきましょう。
ストレスのメカニズム
一般的にストレスとは、外部から受けた刺激による精神的な「負荷」を指します。この負荷の原因を「ストレッサー」といい、これにより「ストレス反応」が心身に影響してくるというメカニズムになっているのです。
同じストレッサーでも、人により感じ方はさまざまでしょう。しかしそこでコーピングリストを活用するとストレス反応をコントロールできるようになるのです。
ストレスを放置するとどうなるのか
ストレスを放置したままでいると、心身へ悪影響をおよぼします。どのような影響があるのか把握しておきましょう。
- イライラ・不安・憂うつ・疲労感などを感じ、気持ちが安定しない
- ストレスによるやる気の低下。本来の能力が発揮できなくなる
- うつ病・心筋梗塞(しんきんこうそく)や脳梗塞(のうこうそく)など命にもかかわる病気になる
ストレスは、適度な緊張感として感じるものなら集中力を高める場合もあります。しかし過剰なストレスを感じている場合、心身に深刻な影響を与える可能性があるため、注意が必要です。
ストレスコーピングとは?
ストレスコーピングとは、自身が「どんなとき」「どんなこと」にストレスを感じるのかを見つめ直し、そのストレスに対して「どう解消するか」を検証していくこと。「ストレスへの意図的な対処」を表現する心理的用語です。
アメリカでは早くから企業や学校のストレスマネジメントに取り入れられていました。
4.コーピングの種類
研究の進展により、コーピングにはいくつかの種類があると判明しています。代表的なものとして挙げられる3つについて確認しましょう。
- 問題焦点型
- 情動焦点型
- ストレス解消型
①問題焦点型
ストレッサー(ストレスの原因)そのものに働きかけて、解決を目指す方法、つまりストレスの原因を根本から取り除くこと。どのような例があるのか見てみましょう。
- ストレスの原因:特定の人に対して、仕事の量が多すぎる
- 解決方法:担当を振りわけて仕事量を分散させる
しかしこういった例では、周囲を巻き込んでしまい人間関係が悪化してしまったケースもあります。仕事量を分散させるような場合は、事前に職場環境を調査し考慮する必要があるでしょう。
社会的支援探索型
自助努力だけでなく、周囲の協力を求めることで、問題焦点型のひとつ。周囲に協力を求めて問題を1人で抱え込まないようにして、ストレスの軽減を期待するのです。
たとえば「育児や要介護者を抱え悩んでいる」場合、このようなコーピングが考えられます。
- 家族で話し合い、子どもや要介護者に不測の事態が起きたとき、だれがどう対応するのか決めて共有しておく
- 勤務中に、急な休みが必要になったとき、誰がフォローできるのか決めておく
地域の支援サービスといった相談できる自治体を調べる。第三者の手を借りるプランも視野に入れておく
②情動焦点型
ストレスに対する考え方や感じ方を変えること。たとえば、「友達に悩みを聞いてもらう」「専門家のカウンセリングを受ける」などもそのひとつです。
情動焦点型は「情動処理型」と「認知的再評価型」の2つにわかれます。特徴的なのが、どちらもいわゆる「ポジティブシンキング」を行うこと。事例とともに、それぞれの特徴を見てみましょう。
情動処理型
問題の捉え方を見直すことです。意識を変化させる方法として、次のような例が挙げられます。
- ストレスの原因:部署が異動になり、つらく感じている
- 解決方法:「会社は自分の能力を期待しているに違いない」と捉え方を変え、自分に言い聞かせる
情動処理型は、「問題そのものの解決が難しい」「解決に時間が必要」といった場合に有効です。
認知的再評価型
ストレッサーに対し、見方を変えて前向きに受け止めること。意識を変化させる方法として、次のような例が挙げられます。
- ストレスの原因:厳しい営業目標に嫌気がさしている
- 解決方法:過去の成功体験から、「きっとできる」と自分を奮い立たせる
認知的再評価型は、達成がしやすい問題や解決に時間がかからない場合に有効です。
③ストレス解消型
ストレッサーを感じたあと、ストレスを身体の外へ追い出し、発散させる解消法のこと。たとえば「失恋したから飲みにいく」「人間関係に疲れたから旅行する」なども、ストレス解消型といえます。
ストレス解消型は「気晴らし型」と「リラクゼーション型」の2つにわかれます。特徴的なのが、どちらもいわゆるストレスを「発散・解放」させること。事例とともに、それぞれの特徴を見てみましょう。
気晴らし型
気分転換を図ってストレスを解消する方法です。日常生活のなかで「よく試すこと」や「手軽にできること」など、継続しやすいことをいいます。例は人によりさまざまです。自分が好きなことを行うとよいでしょう。
- 友達と食事やカラオケを楽しむ
- 温泉や国内旅行で日常生活から離れる
- 適度な運動をして気分転換をする
リラクゼーション型
心身がリラックスできる状態で、緊張状態を和らげる方法です。「自分がリラックスできる環境はどこか」を考えておきましょう。リラクゼーションの例として、次のようなものが挙げられます。
- お風呂に入り、ゆっくり疲れをとる
- 寝る前にアロマの匂いを嗅いで睡眠効果を高くする
- ヨガや瞑想(めいそう)でストレスに最適な腹式呼吸を行い、自律神経のバランスを整える
5.コーピングリストの作り方と実践法
効果的なコーピングを行うために、どのような手順でリストをつくればよいのでしょうか。実践法をご紹介します。
①ストレスになっている原因を見つける
まず自分が抱えているストレスには、どんなものがあるのか思いつくまま紙に書き出してみましょう。ポイントは、客観的に書くこと。
書き終えたものを見ると、自分がどんなことにストレスを感じているのか、一覧で理解できます。またリスト化すると解決策を見つけやすくなるでしょう。
②対処法を思いつくまま書き出す
次に書き出したストレスの解消方法や、リフレッシュ方法を考えていきます。対処法は、「自分のなかで解決できること」「周囲にアプローチすること」など、なんでも構いません。
ストレスに対しての対策や気晴らし方法を思いつくまま100個を目標に書いてみましょう。多ければ多いほどストレス対策の効果が高まります。
③観察する
ストレス反応を自覚したとき、自分が何を感じたかを客観的に考えてみましょう。「腹痛がする」「手が震えた」など、体がどのように反応したのか、そのときの自分を「観察」するのです。
ストレスを感じると、「いら立ち」や「悲しみ」でいっぱいになります。しかしそこで、自分がどのように感じているのか客観的に意識すればコーピングの向上につながるのです。
④リストの対処法を実践する
リストに記した実践法を試してみましょう。ストレスは我慢するのではなく、感じたときにできるだけ早急に対処するのが重要です。
作成したコーピングリストは持ち歩くと、同じようなストレスを感じたときに取り出して確認できます。リストのなかで状況に合ったものを選び、ストレス解消方法やリフレッシュ方法を試してみてください。
⑤リストの対処法を検証する
「観察」と「実践」を行った結果、ストレスがどのくらい緩和されたかを確認しましょう。ストレスがかなり減っていれば、その対処方法に効果があったという証拠になります。
基準として、10点満点で採点する方法もおすすめです。効果がなかったものはリストから外し、新しいコーピングを加えてアップデートしていきましょう。コーピングリストは自分に合ったものを考えていくことで継続していけます。
6.コーピングリストを作る際のポイント
せっかく作成したコーピングリストの効果をさらに高めてみませんか。ストレスに効くリストをつくるために、次のポイントに注意しましょう。
- 原則を守る
- 行動と認知のバランスをとる
- すぐに確認できるようにしておく
- リストの実践を楽しむ
- 自分を認める
①原則を守る
リストに記す内容は原則、次のことを守るよう心掛けましょう。コーピングの最中はよいものの、新たなストレスの要因になりかねません。注意しておきたいポイントをご紹介します。
- 時間をかけない
- お金をかけない
- 無理せずに実行できる
- 人間関係に影響しない
- 健康に悪影響しない
- 実行した結果、後悔しない
- 人を巻き込まない(助け合う関係であればよい)
②行動と認知のバランスをとる
コーピングリストを作成する際は行動をともなうものと、頭の中で妄想するもののバランスをとることが大切です。
たとえばストレス発散のため「買い物」や「飲み会」など行動量が増えた結果、お金を浪費してしまうケース。それでは発散するどころか新たなストレスになる可能性もでてきてしまいます。
またコーピングリストを具体的に書くのも重要なポイント。たとえば、漠然と「音楽を聴く」のではなく、「どんな曲」を「どんなタイミングで聞く」か考えるのです。詳しく考えると、ストレス解消につながります。
③すぐに確認できるようにしておく
コーピングリストをすぐに見られる状態にしておかないと、ストレスがたまるだけで終わってしまいます。ストレスは日常生活のあらゆるところに潜んでいるもの。
コーピングリストは「スマホのメモ登録の活用」や「手帳へ記入」しておきましょう。予期せぬタイミングでストレスを感じたときに見ると、ストレスを迅速に解消できます。
④リストの実践を楽しむ
思ったような効果が得られなくても、落ち込む必要はありません。ゲームのように、「ストレス」という敵が現れたら「コーピングリスト」からアイテムをえらんで倒すというイメージを持ちましょう。
「昨日はこれが効かなかったから、今日はこれにしよう」というように、楽しみながら実践していくとよいでしょう。続けると、ストレス耐性が磨かれていきます。
⑤自分を認める
ストレスを抱えている自分を責めないことが重要です。「今、自分は辛い」という状態を受け入れ、自分を認めることが大切です。
また落ち込んでいて、気持ちが切り替えられない場合もあるでしょう。そんなときは、作成したコーピングリストを見るとよいです。「どの方法で自分を助けてあげようか」と、客観的に自分を見るだけで気持ちが切り替わる場合もあります。
ストレスを感じたら、「自分を否定せず、状態を受け入れ、リストを見る」。これを繰り返し、習慣にしていくとよいでしょう。