企業活動の中枢・中核を担うコアコンピタンスに、注目が集まっています。競合他社を寄せ付けない自社の強さを意味するコアコンピタンスとは、どのようなものなのでしょう。コアコンピタンスを見極める手段について、コアコンピタンスの導入事例を交えながら、ケイパビリティとの違いなどと併せて説明します。
目次
1.コアコンピタンスとは?
コアコンピタンスとは、企業活動における「コア」、すなわち中枢・中核となる強みのこと。コアコンピタンスを具体的に言い表せば、「競合他社を圧倒するレベルの高い能力」「競合他社が真似ることのできない確固とした能力「となります。
また、コアコンピタンスと認められる自社能力には、3つの条件があります。
- 顧客に対して何らかの利益をもたらすことのできる能力
- 競合他社が真似できない、真似されにくい能力
- 複数の市場や製品にアプローチできる能力
これらを満たすものが初めて、コアコンピタンスとして認められます。たとえば、
- ホンダのエンジン技術
- ソニーの小型化技術
- シャープの液晶技術
など。どれも日本を代表する技術力であり、かつ世界を見てもなかなか真似できない高い自社能力です。
2.コアコンピタンスとケイパビリティの違い
コアコンピタンスと類似した言葉にケイパビリティがあります。どちらも企業活動における「強み」を意味する言葉ですが、両者はどう違うのでしょう。
ケイパビリティの定義は、BCG(ボストン・コンサルティング・グループ)の、
- ジョージ・ストーク
- フィリップ・エバンス
- ローレンス・E・シュルマン
の3人が発表した1992年の論文『Competing on Capabilities: The New Rules of Corporate Strategy』 にあります。
論文では、「コアコンピタンスがバリューチェーン上における特定の技術力や製造能力を指すのに対し、ケイパビリティはバリューチェーン全体に及ぶ組織能力である」とされました。
つまり、
- コアコンピタンス:バリューチェーンにおいて他社との差別化ができている特定の機能
- ケイパビリティ:組織全体にまたがる優れた能力、企業活動における戦略論の一つ
という解釈、定義となったのです。
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3.コアコンピタンスを見極める5つの視点
コアコンピタンスの質を見極めるために5つの視点が必要です。また、5つすべてをトータルでクリアしていれば、それは真のコアコンピタンスだと分かります。
- 模倣可能性(Imitability)
- 移動可能性(Transferability)
- 代替可能性(Substitutability)
- 希少性(Scarcity)
- 耐久性(Durability)
①模倣可能性
まず、模倣可能性(Imitability)という視点に着目します。保有している技術や特性が、その分野で競合している他社に簡単に真似できるものかどうか、という視点です。
- 他社による模倣の可能性が低い
- 他社がその分野で自社に追いつくことは困難
といった場合、その分野で競争優位性を持つことができます。競合他社に簡単にコピーされるようでは、模倣可能性が高いという結論になるため、自社のコアコンピタンスとはいえません。
市場を独占できるような、他社の追随を許さない高度な技術や精巧な製品こそが、コアコンピタンスなのです。
②移動可能性
コアコンピタンスを見極めるには、移動可能性、すなわち「Transferability」という視点も重要です。移動可能性とは、
- 1種類の製品、分野に限らない
- 一つの技術で多くの製品や多方面の分野に応用が可能
- 幅広い展開が期待できる
といった視点のこと。
一つの技術やサービスが単体で完結するのではなく他の分野にも応用できる、ということです。「汎用性」と解釈すればより理解しやすくなるでしょう。
このように絶え間なく新しい製品やサービスを社会に広く提供できる能力は、コアコンピタンスとして認めることができます。
③代替可能性
コアコンピタンスを見極めるには、代替可能性、すなわち「Substitutability」といった視点もあります。
- 自社の強みと考える技術や能力、製品を別のものに置き換えることができない
- 自社の強みである技術や能力などは、唯一無二の存在
という視点です。他には代えられないユニークさやオリジナリティ、技術力のあるコアコンピタンスを持った企業は、その分野において独占的なシェアを維持できます。
簡単に代替品が見つかってしまうようでは、コアコンピタンスと呼べません。代替可能性のない技術や製品の開発は非常に難しいですが、コアコンピタンスでは避けて通れない道です。
④希少性
コアコンピタンスを見極めるには、希少性、つまり「Scarcity」という視点も忘れてはなりません。希少とは、数が少なく珍しいこと。コアコンピタンスでは、
- 技術や特性が珍しい
- 希少価値がその技術や特性などに存在している
を見極めのポイントとしています。ただし一般的には、
- 代替可能性
- 模倣可能性
の要件を満たしていれば、希少性もクリアしていると見なすことができます。
代替可能性、模倣可能性、希少性という3つの視点を持ち、それぞれの視点で高評価を得ることができれば、市場に対して圧倒的なアドバンテージを打ち出せるでしょう。
⑤耐久性
最後は、コアコンピタンスを見極めるための耐久性(Durability)という視点。つまり短期間で強みが消滅せず、長期にわたって他社の追随を許さない競争的優位性を保つことができるか、という視点です。
耐久性が高ければ高いほど、コアコンピタンスの精度や価値、信頼性が保証されます。しかし、現代社会の移り変わりは非常に激しく、IT技術一つとっても日進月歩。その中で耐久性を保持し続けることは難しいでしょう。
ただ、ブランド的価値や名声といったものであれば、経年により耐久性を増すことも考えられます。どちらにしても、耐久性という視点でコアコンピタンスを捉えることは重要です。
4.コアコンピタンスを見極める手順
コアコンピタンスを見極める手順を見ていきましょう。次のステップを踏み、何が自社のコアコンピタンスなのかを見極めてください。
- 強みの洗い出し
- 強みの評価
- 絞り込み
①強みの洗い出し
まず強みの洗い出しから始めます。自社の強みとなっている要素を議論のテーブルにすべて乗せるためです。
- 技術
- 能力
- 特性
- 製品
- サービス
- 人材
- 企業文化
- ノウハウ
など、あらゆる角度から強みと認識してよいものを洗い出します。
強みの洗い出しで必要なのは「競合他社の技術や特性、製品などと比較して、優位性を保っていると考えられるもの」を挙げること。ブレインストーミングによる洗い出しで構いませんので、自由な発想で考えます。
これは強みと判断していいか迷うような要素も、何かのきっかけになるかもしれません。分けずにひとまずリストアップしておきましょう。
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②強みの評価
次のステップは強みの評価です。
- ②-1. 顧客に価値をもたらすか
- ②-2. 競合他社に真似されにくいか
- ②-3. 応用が利くか
- ②-4. さらに5つの視点
②-1. 顧客に価値をもたらすか
強みの評価といった場合、いくつかの視点を用意することが必要です。その一つが顧客に価値をもたらすかどうか、という視点。自社の強みと考えてリストアップしたものが、
- 製品やサービスに付加価値を与えるものになっているか
- 顧客を満足させるものか
という視点で再考します。いくら自分たちで「これは強み」と確信を持っていても、顧客がその「強み」に利益や満足を感じられなければ、それは単なる自己満足で終わってしまいますし、コアコンピタンスとはいえません。
逆に言えば、
- 御社の製品は他社のものに代え難い
- 御社の技術によって新しい世界を切り開けた
といった声が顧客から聞こえてくるようなものであれば、それはコアコンピタンスである可能性が高いのです。
②-2. 競合他社に真似されにくいか
競合他社に真似されにくいか、という視点でも検討が必要です。真似されにくい、という点は、コアコンピタンスを示す重要な要素の一つ。ビジネスのグローバル化により、国内にとどまらず海外との競争にも打ち勝っていかなければならないのです。
このような社会においてそれぞれの企業は、
- 業界や競合他社の分析
- 最新情報の収集
に余念がありません。簡単に模倣できる技術や製品はすぐにコピーされてしまうでしょう。そうなれば、自分たちが自社の強みと思っていたものもあっという間に市場での競争力を失います。
競合他社に真似できないという条件を満たして初めて、コアコンピタンスと認めることができるのです。
②-3. 応用が利くか
強みの評価の視点で忘れてはならないのが応用力です。応用力とは、強みとしてリストアップしたものが、
- 幅広い業界
- 多くの製品
- 多様なビジネスモデル
などに応用できるかどうかという視点のこと。競合他社に真似できないような画期的な技術があるにもかかわらず、その技術がたった一つの製品にしか活用できないとしたらどうでしょう。
- 現代は技術革新のサイクルが短いため、時代遅れになりやすい
- 製品が古くなって需要がなくなった際、それを応用して挽回する手立てがない
などになりかねません。応用力は、長期的な視点でコアコンピタンスを捉える重要な視点となっています。
②-4. さらに5つの視点
強みの評価の視点は、
- 顧客に価値をもたらすか
- 競合他社に真似されにくいか
- 応用が利くか
の3点以外にもあります。それは、「3.コアコンピタンスを見極める5つの視点」でも述べたとおり、
- 模倣可能性(Imitability)
- 移動可能性(Transferability)
- 代替可能性(Substitutability)
- 希少性(Scarcity)
- 耐久性(Durability)
の5つの視点です。
- 模倣される可能性が低い
- 他製品や技術に活用できる
- 他製品に代え難い
- 非常に貴重で珍しい
- 長期間、競争優位性を保持できる
5つの視点も併せて強みの評価を行えば、真の意味で自社のコアコンピタンスが創出できるでしょう。
③絞り込み
最後のステップは絞り込みです。ブレインストーミングで「洗い出し」と「強みの評価」を行った結果として見えてきたものは、自社のコアコンピタンスになる可能性が高いもの。
最後のステップでは、リストに残ったものからさらに、
- 将来にわたってコアコンピタンスとして育成、進化させていきたいか
- 顧客に本当の意味で満足や喜びを与えられるものか
- 他市場や業界でも生かせるような汎用性の高いものか
- 将来的に考えて模倣されるようなリスクはないか
などと照らし合わせて、自社のビジネスの中核を担うコアコンピタンスを数個に絞り込むのです。
最後のステップは、経営方針にも関わる重大な選択になります。自社の将来や市場の未来を思い描きながら、経営陣と一緒に絞り込みを行いましょう。
5.コアコンピタンスの具体例、企業事例
①本田技研工業株式会社
本田技研工業株式会社は、世界に誇れる日本の輸送機器、機械工業メーカーです。二輪車では販売台数や売り上げ規模は世界首位。道路でHONDAの文字を見ない国はないほど、世界的規模で活躍している企業です。
この本田技研工業の創始者は、本田宗一郎氏。本田氏はエンジンの開発に命をかけ、厳しい基準をクリアできる画期的なエンジンの開発に世界で最初に成功しました。
本田技研工業は、このエンジンを自社のコアコンピタンスに据えます。
「コアコンピタンスであるからには汎用性にも富んでいる」という特性を生かして、エンジン技術を草刈り機や除雪機といった小さな機械から、オートバイや自動車といった大きな機械まで、機動力を必要とするあらゆる製品に高性能エンジンを応用してきました。
この過程を経て、本田技研工業は自社の「あらゆる用途やサイズに対応できる高性能のエンジンを作れる」というコアコンピタンスを確立したのです。
②ソニー株式会社
ソニー株式会社は、
- 半導体
- オーディオ
- ビデオ
- 情報通信機器
などを製造するだけでなく、グループ子会社を含めて、
- ゲーム
- アニメーション製作
- 出版
- 不動産
- 生保・損保
- 銀行
といったさまざまな業態を統括する多国籍コングロマリット(複合企業)です。
ソニーは、井深大と盛田昭夫によって東京通信工業株式会社として創業しました。創業当初は、真空管電圧計の製造と販売を手掛けていましたが、1950年に日本初のテープレコーダーを開発し、1955年には日本初のトランジスタラジオを発売します。
このように精密機械で培った技術力は、携帯型カセットプレイヤー「ウォークマン」の爆発的ヒットを生み出しました。そし後、コンピューター関連機器や携帯電話端末の開発、販売など、ソニーが関わる市場は世界に広がっています。
ソニーの躍進を生み出したのは、創業者である井深大氏の口癖「もっと小さくできないか」という想いにありました。
ソニーの発展は、社内文化として浸透していった「軽量化」「最小化」といったコンセプトがコアコンピタンスとして確立されたことを意味しています。
③シャープ株式会社
シャープ株式会社も、エレクトロニクスの開発や電気機器を製造する大手電機メーカーです。もともとはシャープペンシルの発明などが始まりでしたが、時代の流れに乗ってテレビの研究に着手します。
昭和20年代にテレビの試作品を完成させると、一気に家電メーカーとして有名になり、さらに、家電やコンピューター事業に大きく関わりを持つ電卓の液晶パネルの研究開発を成功させ、確固たる地位を築き上げたのです。
液晶パネルとは、自らは光を発しない液晶組成物を活用した平面状で薄型の表示装置のこと。液晶パネルは、たとえば携帯電話、時計、携帯型ゲーム機などデジタル化された電子機器部品の多くに使用されています。
液晶パネルについての研究の積み重ねは、シャープのコアコンピタンスとして据えられており、テレビ以外でも優れた液晶パネル製品の開発、生産に取り組んでいるのです。
④株式会社セブン&アイ・ホールディングス
株式会社セブン&アイ・ホールディングスは、
- コンビニエンスストア
- 総合スーパー
- フードサービス
- 金融サービス
- ITサービス
などを扱う企業グループを管理運営している純粋持株会社です。
- 購買量に裏付けられたバイイング・パワー
- POSなどを有効活用した顧客ニーズへの対応力
- 充実した店舗網
の3つを自社のコアコンピタンスとして確立しています。また、コアコンピタンスとは別にケイパビリティとして「組織全体を通じた優れた仮説検証力」を保有することで、異業種への参入を次々に実現していきました。
その一例がセブン銀行です。セブン銀行がこれだけ広まった背景には、
- 顧客ニーズを的確に把握
- グループの店舗網を徹底的に生かす
- ATMからの手数料収入に集中したビジネスモデルを展開
といったコアコンピタンスを生かした戦略にあります。「巨大ネットワークがあれば、他行が自社のネットワークを利用することで優位性を高められる」といったケイパビリティによる仮説の設定やその検証力も生かされたわけです。
⑤ワコール
ワコールは、女性におなじみの日本を代表する衣料品メーカー。日本人女性は外国人女性と比較して、下着にこだわりを持っている、とよくいわれています。
「下着もファッションの一部として考えるようになったことは、ワコールの誕生と企業戦略の成功が大きく関わっている」という話があるほど、日本女性の文化形成にインパクトを持つ企業です。
文化形成にまで影響を及ぼすワコールも、創業当初は下着というニッチな分野を扱うメーカーとしての存在でしかありませんでした。しかし、ワコールはニッチ、すなわち希少性を逆手に取り、女性の下着という狭義な領域でコアコンピタンスを確立していきます。
ワコールがこれほどまでに成功を収めたのは、
- 女性の下着業界という希少性の高い分野に特化した製品開発
- 製品の価値を宣伝する販売チャネルの絞り込み
- 独自の販売方法を生み出すことになった一貫性のある企業姿勢
にあり、これがワコールのコアコンピタンスとなっているのです。