カルチャーフィットとは企業文化・風土が従業員にマッチしている状態であり、価値観や特性と企業文化のマッチング度合いを重視する採用手法を指します。
早期離職や人材の定着が課題となっている企業も多く、そうした企業はカルチャーフィットの考えを取り入れることが有効な解決策となり得ます。
カルチャーフィットとは何かをふまえながら、カルチャーフィット重視の採用を行うメリットや採用の進め方、カルチャーフィットの見極め方などを詳しくご紹介しましょう。
目次
1.カルチャーフィットとは?
カルチャーフィットとは、企業文化・風土に人材がフィットしている状態のこと。主に人材採用の分野で使われる言葉で、求職者の価値観や特性が企業文化とマッチしているかを採用基準とする手法です。別名「価値観マッチング」と表現される場合もあります。
企業には歴史とともに文化として定着した独自の風土があり、かんたんには変えられません。それゆえに、カルチャーがフィットすれば居心地のよさや安心感から、長期的に企業に所属してくれる効果が期待できるのです。
スキルフィットとの違い
スキルフィットはスキルや経験が企業の求める基準に達していること。採用においては、企業の求めるレベルを採用基準とする手法です。
カルチャーフィットよりも定量化しやすいため、採用基準として活用しやすく、一般的には前職での成績や保有資格など、事実に即した情報をもとにスキルフィットを判断します。
2.カルチャーフィットが重要視される理由
ここでは、カルチャーフィットが重要視される主な2つの理由を解説します。
人材不足の深刻化
現代は少子高齢化により、労働人口が年々減少しています。人材不足かつ人材確保が難しい状況にあり、採用は売り手市場です。
求職者が就職・転職先を自由に選択できるようになっていることからも、優秀な人材を確保し、かつ人材が競合他社に流れないようカルチャーフィットする人材を確保して、定着化を整える重要性が高まっています。
また、早期離職も大きな課題となっており、原因のひとつに企業文化とのミスマッチもあげられます。早期離職が活発な状況では、人手不足な状況もなかなか改善されないため、カルチャーフィットを重視した採用が必要です。
働き方の多様化
働き方の多様化も進み、リモートワークをはじめオンライン上でのコミュニケーションや会社以外で業務を行うことが増えています。良い面もあるものの、企業文化に触れて企業に馴染むといった点ではデメリットでしょう。
とくに、新入社員や中途社員のように、新たにメンバーとなった従業員がリモートワークになると、これまで以上に企業文化に馴染むことが難しくなります。
物理的距離があるなかで業務を行う際、カルチャーフィットしていると円滑に意思疎通できるため、カルチャーフィットが重要視されつつあるのです。
3.カルチャーフィットしない採用の悪影響
カルチャーフィットしない採用を行うと、下記のような悪影響をおよぼす可能性もあります。カルチャーフィットしない採用の悪影響をみていきましょう。
- 人材が定着しない
- 帰属意識が醸成されない
- 従業員同士の連携がうまくいかない
①人材が定着しない
入社してから「なんか違った」というミスマッチによる離職は多く、早期離職の主な原因でもあります。採用した人材が定着しないと、人手不足の企業であるほど一向にその状況が改善されません。
くわえて、新たな採用コストもかかってしまい、現場も教育の手間がかかり疲弊してしまう恐れもあります。早期離職は採用コストが無駄になるだけでなく、教育コストの損失も引き起こしてしまうのです。
②帰属意識が醸成されない
企業文化や風土に馴染めない、共感できないと帰属意識も醸成されません。なぜなら、企業の一員である自覚が持てず、企業のために頑張ろうというモチベーションにならないからです。
また意欲や自発的な行動が見られず、業務への取り組みが消極的になってしまう原因にもなり、生産性の低下を招いてしまいます。
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③従業員同士の連携がうまくいかない
カルチャーフィットできている従業員同士は価値観や思考が似ているため、馴染みやすい傾向にあります。そのため、業務においても円滑な連携や意思疎通ができ、良好な人間関係が築きやすくなるのです。
一方カルチャーフィットしない採用を行うと、従業員同士の人間関係がギクシャクしてしまって連携がうまくいかず、生産性の低下を招いて業務に支障をきたす恐れもあります。
4.カルチャーフィット重視の採用を行うメリット
カルチャーフィット重視の採用を行うと、下記のようなメリットが期待できます。
- 定着率の向上
- 社内コミュニケーションの活性化
- 生産性の向上
- エンゲージメントやモチベーションの向上
①定着率の向上
入社後に「社風が合わない」など、カルチャーへのミスマッチを感じてしまうと早期離職につながります。一方、カルチャーフィット重視の採用を行えば、この点を採用段階でクリアでき、ミスマッチによる早期離職のリスクを軽減できます。
近年、人材確保が難しい状況にあるため、いかに既存の従業員を定着させるかが重要です。カルチャーフィット重視の採用で定着率の向上を図ると、結果的に企業の成長・発展への貢献が期待できます。
②社内コミュニケーションの活性化
カルチャーフィットしている人材は考え方や価値観が近いため、良好な人間関係を築きやすく、社内コミュニケーションも活性化します。
また、意思疎通が円滑になり、経営理念や経営方針、社風など企業が持つカルチャーの浸透も早くなるでしょう。さらに従業員が同じ方向へと向かいやすいため、経営理念の実現にも有効です。
③生産性の向上
企業文化と類似する価値観や考え方を持った人材が多いため、無駄なコミュニケーションや軋轢が生まれにくい点もメリットのひとつ。
企業文化にマッチした考え方を軸に自律的に行動できるため、生産性が高まるだけでなく、円滑なコミュニケーションも可能となるため業務もスムーズに進みます。
④エンゲージメントやモチベーションの向上
コミュニケーションが充実し、良好な人間関係が構築されている職場は、心理的安全性が高く、居心地の良さや安心を感じやすくなります。
また、帰属意識も醸成されやすく、企業への愛着やロイヤリティも高い状態です。その結果エンゲージメントやモチベーションが高まって、企業のため意欲的に業務に取り組めるようになります。
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5.カルチャーフィット重視の人材採用の進め方
カルチャーフィット重視の人材採用を進めるには、準備と仕組みの整備が必要といえます。カルチャーフィット重視の人材採用の主な進め方は、下記のとおりです。ここでは、カルチャーフィット重視の人材採用の進め方をステップ別に解説します。
- 自社のカルチャーを明確化する
- 採用者のペルソナを設定する
- カルチャーを外部に発信する
- カルチャーフィットを重視した選考を実施する
①自社のカルチャーを明確化する
まずは自社のカルチャーを明確化し、社内で醸成します。カルチャーは感覚的なものであるため、実際は従業員同士で認識が異なっている場合もあるはずです。そのため、従業員と連携し、カルチャーを言語化して客観的に理解できる形に整える必要があります。
カルチャーの分析には、組織を客観的に診断できるフレームワーク「マルチフォーカスモデル」の活用がオススメです。採用担当者が自社のカルチャーを言語化でき、他者に対してもカルチャーフィットを客観的に判断できるようベースを整えましょう。
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②採用者のペルソナを設定する
カルチャーを明確にして社内で醸成を進めたら、採用者のペルソナを設定するステップです。カルチャーフィットを基準に、どういった人材を採用したいか、定義しましょう。
社内で活躍する優秀人材を参考に、ヒアリングをとおして価値観や考え方、行動の軸を分析してみるのもひとつの方法です。
③カルチャーを外部に発信する
カルチャーフィットする人材からの応募を増やすため、採用サイトやオウンドメディア、SNSアカウントなどを用いてカルチャーを外部に発信します。
たとえば、カルチャーを体現するのは従業員であるため、「働いている人の声」といったようなコンテンツは重要です。
カルチャーを発信すると、共感した・自分に合っていると認識した求職者からの応募が期待でき、多くの人から共感を得られるカルチャーが醸成できれば、企業イメージアップにもつながります。
④カルチャーフィットを重視した選考を実施する
ペルソナが設定されており、採用担当者がカルチャーを客観的に判断できる力が備わっていれば、カルチャーフィット重視の採用は難しくありません。選考内で価値観や志向を把握するプロセスを導入し、カルチャーフィットが判断できるよう整えましょう。
また社内イベントや社員と交流する機会を選考の途中で設けて、採用担当者以外の視点からカルチャーフィットを評価すると、多面的に判断できるようになります。
6.カルチャーフィットの見極め方
カルチャーフィットを見極められなければ、カルチャーフィット重視の採用を行なっても失敗に終わってしまうでしょう。選考だけでは測れない部分も多いため、多面的に見極める機会を設けることがポイントです。
ここでは、カルチャーフィットの見極めに有効な方法をご紹介します。
インターンを実施する
インターンは、カルチャーフィットを見極める代表的かつ効果的な方法です。現場で実際に業務を体験し、従業員と交流することでカルチャーフィットできそうかを双方が判断できます。
企業文化に触れてもらい、カルチャーフィットを評価する目的であれば、1DAYインターンで十分です。長期インターンよりも参加のハードルも低いため、多くの人にカルチャーを体感してもらえ、考えるきっかけが与えられます。
自社イベントに参加してもらう
自社イベントは業務外で従業員と交流してもらい、カルチャーにフィットしそうかを確認できる機会。選考や業務とは離れた時間であるため、お互いがリラックスした状態で人物像や価値観、考え方を理解し合えます。
複数の担当者が面接を行う
カルチャーは多面的であるため、一人の担当者だけでは判断が難しいもの。そのため、複数の担当者が面接を行うことで、多面的にカルチャーにフィットしているかを評価するのも必要です。
異なる視点からカルチャーにフィットしているかを判断できれば、選考の精度も高まるでしょう。ただし、このとき担当者の立場や部門が偏らないよう注意が必要です。
リファレンスチェックを実施する
リファレンスチェックとは、関係者に採用予定者の人柄や勤務態度などを問い合わせること。
第三者からヒアリングすると、選考ではわからない要素や実際に働いていた時の様子を客観的に知っていけるうえ、カルチャーにフィットしているかを判断する材料が増えるため見極めの質も向上します。
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7.カルチャーフィットを見極める面接質問例
選考時、カルチャーにフィットしているかを正確に見極めるには質問内容が重要です。ここでは、カルチャーフィットを見極めるための面接質問例をご紹介します。
カルチャーに関する面接質問例
- 弊社のカルチャーについて調べましたか?
- 弊社のカルチャーについてどのように感じますか?
- 弊社は〜といった考え方を大切にしていますが、あなたはどのように考えていますか?
- 弊社の理念に関連する過去のエピソードがあれば教えてください
カルチャーを知っているか、共感しているかといった表面的な質問では、本当にフィットしているかを見極めるのは困難です。どのように感じているか、考えているかを過去の行動やエピソードなどから多面的に情報を集め、特性を分析して見極めましょう。
STAR型の面接質問例
エピソードを質問する場合、STAR型の質問が役立ちます。
- 当時の状況(Situation)業務においてどのような困難に直面したか、状況もふまえて教えてください。
- 当時の課題(Task)そのとき、あなたはどのような課題を持っていましたか。
- 取った行動(Action) そのとき取った行動を具体的に教えてください。
- 得られた結果(Result)行動によって解決・克服できた課題、得られた成果を教えてください。
STAR型の質問では、上記の流れで質問を掘り下げます。具体的な状況や行動、その結果から人柄や価値観を把握することが可能です。
逆質問
面接の最後、候補者に「何か質問はありますか?」と促す逆質問も有効です。逆質問では、候補者が関心の高い内容を質問する傾向にあるため、関心のある分野から候補者が企業に対してどのようなポイントを重視しているのかが把握できます。
自由度の高い質問だからこそ、候補者のリアルな志向や価値観が理解できるのです。