中小企業診断士とは、中小企業に対して成長戦略の診断、アドバイスを行う専門家のことです。ここでは中小企業診断士の仕事内容や求められるスキル、中小企業診断士になる方法などについて解説します。
目次
1.中小企業診断士とは?
中小企業診断士とは、中小企業に対する経営診断や助言、アドバイスをするための専門的知識とスキルを備えた専門家のこと。経営コンサルタントとしての唯一の国家資格であり「中小企業支援法」第11条にもとづいて経済産業大臣が登録します。
中小企業診断士の資格を取得すると、企業の経営全体を幅広く診断し、解決案を立案できる能力が身につきます。企業では専門知識を持つだけでなくさまざまな経営課題を解決してくれる人材を求めているため、幅広いビジネスシーンでの活躍が期待されているのです。
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MBAとの違い
中小企業診断士は「日本版のMBA(経営学修士)」とも呼ばれています。MBA(Master of Business Administration)とは、経営学の大学院修士課程を修了すると授与される学位のこと。
中小企業診断士は国家資格で、MBAとは基本カテゴリーが異なるものの、経営学に関する豊富な知識を有しているという意味では共通するものがあります。
MBA/経営学修士とは?【取得したらどうなる?】タイプ
MBAは、Master of Business Administrationの略で、日本では経営学修士と呼ばれています。経営学の大学院修士課程を修了すると与えられる学位のことです。
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2.中小企業診断士の仕事内容
中小企業診断士のおもな仕事は「現状から企業の成長における策を診断、分析して適切なアドバイスを行うこと」。一般的な流れは以下のとおりです。
- 中小企業からの依頼を受けて診断方針を作る
- 経営内容や課題を聞き取り、経営上の問題点を洗い出す
- 問題点に対する具体的な改善方法の提案、さらに経営計画策定の支援や実行後のフォローなどを行う
経営の診断や助言を外部から行う中小企業診断士は、学習を通じて得た「企業経営」の視点を日常業務に生かして、付加価値の高い人材に成長する可能性もあります。
3.中小企業診断士に求められるスキル
経営上の問題を解決し、長期的経営戦略の構築とアドバイスを行う中小企業診断士には、次のようなスキルか求められます。
- 経営全般に関する幅広い知識
- コミュニケーションスキル
- 専門家へのつなぎ役を担うスキル
- 創業や経営革新を促進するスキル
①経営全般に関する幅広い知識
外部から企業の経営診断や助言を行う中小企業診断士には、経営全般に関する幅広い知識が求められます。売上向上やコスト削減、新技術の開発など、各々の経営目標を達成するためには局所的な知識だけでなく、全社的な視点で物事を考える必要があるからです。
中小企業診断士には技術革新や特許所得のために専門家と協力する局面もあります。ここでも経営全般に関する知識が求められるのです。
②コミュニケーション能力
中小企業診断士は企業経営者や従業員とコミュニケーションを取りながら課題の把握、診断、アドバイスなどを実施します。
立場や経験、背景の異なるさまざまな人物と会話するため、どのような人とでも問題なく会話できるコミュニケーション能力が不可欠です。このほか、導き出した解決策を経営者に伝えるプレゼン力、リーダーシップなども求められます。
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③専門家へのつなぎ役を担うスキル
経営者は事業内容によって、さまざまな悩みを抱えているもの。それぞれの悩みに対して中小企業診断士がすべて解決する必要はありません。しかし「この悩みを誰に相談すれば解決できるのか」を助言するスキルは必要です。
法律に関する問題なら弁護士、財務や税務に関する問題なら税理士、Web集客に関する悩みにはWeb制作者など、それぞれの専門家につなぐための能力を身につけておく必要があります。
④創業や経営革新を促進するスキル
企業を取り巻く環境は日々変化しています。この経済変化に適応できない企業はおのずと淘汰されるため、中小企業診断士には企業のかわりとなって創業や経営革新を促進する能力が求められるのです。
中小企業診断士は価値創出や実務成果を生み出すためにその能力を発揮するスペシャリスト。現状の問題を解決するだけでは、優秀な中小企業診断士とはいえません。
現状を分析して理論的かつ戦略的な解決方法の策定、さらに将来を見越した適切なアドバイスや斬新なアイデアなどが必要です。
4.人事担当者が中小企業診断士の資格を取るメリット
中小企業診断士の資格は、士業として独立を目指す人だけでなく、人事担当者にとってもさまざまなメリットがあります。
- 管理職を目指しやすくなる
- 社内のハブになれる
- 人脈を広げやすい
- 人事の仕事に生かせる
①管理職を目指しやすくなる
人事担当者は会社の人材を管理するという重要な仕事を任されています。そこに企業経営論や運営管理、経営情報システムなどの知識を持った人材がいれば、会社にとっては手放すのが惜しい人材となり、管理職に抜擢される可能性もあるでしょう。
もちろん人事の管理職として働きながら、中小企業診断士として自社の経営診断や経営戦略の提案を行うのも可能です。
②社内のハブになれる
中小企業診断士の資格を取得するには、財務や会計、経営法務などさまざまな分野の知識が必要です。そして人事担当者は社内のなかでもとりわけ他部門の連携、交流する機会の多いポジションといえます。
顔の広い人事担当者がこれらの知識を有した中小企業診断士になれば、社内のハブになれるでしょう。そこから経営改善のための人事や労務対策をスムーズに進められます。
③人脈を広げやすい
先に触れたとおり中小企業診断士は、ほかの診断士や職種の人と連携して仕事を遂行する場面の多い資格です。そのため中小企業診断士の資格を持っていると、広い人脈を持った人事担当者になれます。
近年、人事担当者に求める能力として「社外人脈」を挙げる企業も増加。人事担当者には専門性だけでなく、社外人脈からのリアルな一次情報が必要でしょう。その情報を得るために効果的なのが広い人脈、つまり中小企業診断士の資格なのです。
④人事の仕事に生かせる
人事担当者には、幹部候補の育成や将来的な人員の過不足などを見据えて人材を配置する能力が求められます。これには人員のバランスはもちろん、企業を取り巻く状況や社会状況に鑑みた客観的かつ俯瞰的な視点が必要です。
中小企業診断士の資格取得では、会社を財政や人事、運営管理などさまざまな視点から見る力が問われます。この力が企業を多角的に見る能力になり、より効果的、より現実的な人事施策に活用できるようになるのです。
5.中小企業診断士になる方法
中小企業診断士の資格を取得するためには「中小企業診断協会」が主催する試験を受け、合格する必要があります。試験は1次試験と2次試験の2段階。1次試験通過後は2つの方法によって中小企業診断士に登録されます。
- 同協会が実施する第2次試験に合格後、実務補習を修了するか診断実務に従事する
- 中小企業基盤整備機構あるいは登録養成機関が実施する養成課程を修了する
なおどちらの場合も中小企業診断士の登録有効期間は5年間。登録を更新するには更新研修や論文審査など一定の要件を満たす必要があります。
参考 中小企業診断協会J-SMECA 中小企業診断協会6.中小企業診断士の難易度や合格率
中小企業診断士の資格試験は絶対評価です。1次試験の合格基準は総得点が60%以上であり、くわえて1科目でも満点の40%未満がないことを条件としています。
2次試験の合格基準は筆記試験と口述試験の2種類。筆記試験の1科目でも40%未満がない、かつ総点数の60%以上を獲得している、そして口述試験で評定が60%以上を獲得していることが条件になります。
なお令和2年度の1次試験合格率は42.5%、2次試験の合格率は約18.4%でした。
7.中小企業診断士の試験内容
中小企業診断士の資格を取得するための試験は1次試験と2次試験の2段階で構成されています。ここでは中小企業診断士の試験内容について、説明しましょう。
一次試験
「中小企業支援法」第12条「中小企業診断士の登録等および試験に関する規則」にもとづいた筆記試験です。以下7つに関する幅広い経営知識が問われます。
- 経済学および経済政策
- 財務および会計
- 企業経営理論
- 運営管理(オペレーション・マネジメント)
- 経営法務
- 経営情報システム
- 中小企業経営および中小企業政策
なお1次試験の受験資格に関して年齢や学歴などの制限はありません。マークシート方式による多肢選択式で実施され、受験手数料は14,500円(令和4年度から受験手数料が改定)です。
二次試験
受験資格があり、以下3つのうち1つを満たす必要があります。
- 当年度(2次試験を受ける年の)第1次試験に合格している
- 前年度(2次試験を受ける前年の)第1次試験に合格している
- 平成12年度以前の中小企業診断士1次試験に合格している
つまり1次試験合格者は原則として2年間2次試験が受けられます。受験手数料は17,800円(令和4年度から受験手数料が改定)です。
2次試験の目的は、中小企業診断士となるのに必要な応用能力を有するかどうかを判定すること。筆記試験および口述試験の2段階で判定します。
筆記試験
二次試験の筆記試験では中小企業の診断および助言に関する4つの事例をもとに出題されます。各実施時間は80分です。
- 組織(人事含む)を中心とした経営戦略および経営管理に関する事例
- マーケティングや流通を中心とした経営戦略および経営管理に関する事例
- 生産や技術を中心とした経営の戦略および管理に関する事例
- 財務や会計を中心とした経営戦略および経営管理に関する事例
各事例に5問程度の問題が出題されます。また事例4には計算問題が多いのも特徴です。事例1から3は一部得点が可能ですが、解答は文章で記述するため正誤や点数がわかりにくいといった特徴があります。
口述試験
口述試験は10分程度の面接です。中小企業の診断および助言に関する能力について、試験官3人対受験生1人の面接試験を行います。
質問は筆記試験で問われた4事例のいずれかに関する内容です。2つの事例から2題ずつ出題され、なかには1事例から4題、もしくは4事例から1題ずつ出題される場合もあります。
口述試験の合格基準は面接官による評定が満点の60%以上であること。一見高い水準に見えますが、実際は9割以上が合格しています。選抜というよりコミュニケーション能力の確認といった意味合いで実施される試験です。
(二次試験を受けない場合)養成課程
従来の資格認定試験を受けず「養成課程」の修了をもって中小企業診断士となるパターンもあります。この「養成課程」を受講、修了すると2次試験および15日間の実務補習が免除されるのです。
養成課程に入るには基本、書類審査と面接審査をクリアする必要があります。しかし択一式の試験を課すところもあれば、小論文の提出、グループディスカッションなどを実施しているところも。実は具体的な審査内容について、各機関の自主性に任されています。
2次試験を受けずに済む、そして通学して中小企業診断士に関する知識を学べるのが養成課程のメリットです。
実務補習と実務従事
中小企業診断士の合格条件として15日以上の実務補習または実務従事という条件があります。
- 実務補習:国の登録機関が行う実習制度のこと
- 実務従事:さまざまな企業や団体が資格の取得に必要な診断実務の場を提供するために実施しているもの
どちらかを15日以上行う、あるいは2つを組み合わせて実務補習を5日間、実務従事を10日間受けると登録可能になります。
実務従事の実施内容は主催企業や団体によって異なるものの、実務補習は全国一律で「総合診断」をテーマとしています。実務補習には総合診断のスキルが学べるメリットが、実務従事には企業ニーズにマッチした提案が選べるメリットがあるのです。
8.中小企業診断士になるための勉強法
中小企業診断士の資格を取得するためには、ポイントを押さえた勉強法が肝心です。ここでは中小企業診断士になるための勉強法について説明します。
- 出題される可能性の高い論点を勉強する
- スケジュールをしっかり立てる
- 資格予備校に通う
①出題される可能性の高い論点を勉強する
中小企業診断士に合格するには、全体で6割以上の点数を取る必要があります。もちろん出題範囲のすべてを完璧に覚えれば容易に合格できるでしょう。しかし勉強時間に限りのある社会人が幅広い出題範囲のすべてを勉強するのは困難です。
そこで有効なのが、出題される可能性が高い論点のみに的を絞って勉強すること。過去問を分析したテキストや問題集を使えば、過去に出題回数が多かった分野を重点的に学べます。
1次試験には7つの科目があり、難易度や2次試験との関連性はそれぞれ異なります。2次試験の出題範囲にも直結する「財務会計」「運営管理」「企業経営理論」を重点的に勉強する方法も効果的です。
②スケジュールをしっかり立てる
中小企業診断士は独学による資格取得も可能です。独学なら勉強代もかからず、好きなタイミングで勉強に取り組めます。
ただし独学では勉強時間の確保が難しいため、あらかじめスケジュールをしっかり立てておく必要があるのです。たとえば1年後の試験当日までに1,000時間勉強すると仮定した場合、1日当たりの勉強時間は1,000時間÷365日の2.7時間になります。
もちろん毎日継続して3時間近く勉強できるならこの計算で問題ありません。しかし仕事後に3時間の勉強時間が確保できない場合も十分考えられます。
たとえば平日は1時間、休日は7時間など、自分の生活スタイルに合わせたスケジュールを立てなければなりません。
③資格予備校に通う
「スケジュールを立てても予定どおりに実行できない」「そもそもスケジュールを立てるのが面倒」という人は、はじめから資格予備校に通うことを検討しておきましょう。
資格予備校なら勉強のスケジュールがすでに組まれているうえ、志を同じくする受験仲間とモチベーションを高め合えます。「独学ではモチベーションが上がらない」「孤独な闘いを最後まで続けられない」人にもおすすめです。