男女雇用機会均等法とは、事業主が雇用などの際に性別を理由にした差別を禁止した法律のこと。禁止例やハラスメントとともに解説します。
目次
1.男女雇用機会均等法とは?
男女雇用機会均等法とは、職場における性別による差別を禁止し、男女とも平等に扱うことを定めた法律です。募集や採用、昇進などの面での男女の平等を定めているほか、セクシャルハラスメント防止のために、事業主に対して雇用の管理を義務づけているのです。
女性が差別を受けず、家庭と仕事を両立できるようにすることも目的の一つ。ここからはそんな男女雇用機会均等法の内容や法改正の歴史について見ていきましょう。
男女雇用機会均等法って何?
男女雇用機会均等法とは、雇用における機会などを性別の差別なく確保することを目的として定められた法律のこと。通称を、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」といい、1985年に制定され、翌1986年に施行されました。
前身は、1972年に制定された「勤労婦人福祉法」です。高度経済成長期、女性の社会進出の機会が増加したにもかかわらず差別的な扱いを受けていた点を背景に、能力を十分に発揮できる環境の整備が求められ、法整備が進みました。
男女雇用機会均等法の内容
男女雇用機会均等法では、募集や採用、配置や昇進、教育訓練や福利厚生、退職や解雇の際に性別を理由にした差別を禁止しています。たとえば総合職や一般職において、男女どちらかを募集しなかったり、昇進の条件を男女で変えたりするなどです。
女性の結婚や妊娠、出産などを理由にした不当な扱いも違反となります。スチュワーデスという呼称を客室乗務員に、看護婦を看護師に変更したのもこの法律によるものです。
法改正の歴史
1986年の施行当初、各種差別の禁止項目は努力義務でしたが、1999年の改正により禁止規定となりました。2007年の改正では、出産・育児などによる不利益取扱が禁止され、これまで規制されていなかった男性に対する差別やセクシャルハラスメントの禁止が規定。
また2017年の改正では、マタニティハラスメントに対する防止措置を講じることが事業主の義務にもなったのです。さらには2020年6月のパワハラ防止法と合わせて、セクシャルハラスメント防止強化についても改正される運びになりました。
2.男女雇用機会均等法で禁止されている差別例
男女雇用機会均等法では、募集や採用、配置や昇進、教育訓練や福利厚生などさまざまな面において性別による差別を禁止しています。
一方で社内の女性の人数が少なく、女性のみで支店を立ち上げるなど「ポジティブ・アクション」と呼ばれる男女間の差を解消するための取り組みは、この法律の差別に該当しません。
ここからは事業主に対して具体的に差別が禁止されている項目について、例を挙げながら詳しく説明します。
求人募集
求人募集の際に、男女差別をすることは禁止されています。募集の際に、男性もしくは女性のいずれかを対象から外してはいけません。
これには、ある特定の職種において、「男性歓迎」や「女性向け」などと表記したり、職種名に男女どちらかの性別を明記したりすることも含まれます。
また募集の際に男女ともに採用の対象であるにもかかわらず、性別によって採用人数を設定したり応募の条件などに性別で差を付けたりすることも不当とされているのです。
面接・採用
面接・採用の際、男女で不当な扱いをすることは禁止されています。たとえば「結婚や出産をしても働き続けられるか」といった質問などは、女性に対する偏見に近いものです。
また企業にとっては産休や育休の取得などの問題があるため、デリケートな質問となります。面接官は女性の応募者に対して、能力の面から採用できるよう結婚・出産の予定などに関する質問は控えましょう。さらに女性が働きやすい環境の整備も大切です。
人員配置
性別などを理由にした不当な人員配置は禁止されています。たとえば、営業職への配置を男性のみとしたり、受付や秘書を女性のみとしたりするなどです。また結婚や子供の存在を理由に、特定の職務への配置の対象外とすることも不当とされています。
人員配置にて、男性は一定期間支店に勤務していればよく、対して女性はそれを上回る勤務経験でなければならないという条件は違法です。人員配置は個々の適性に応じて行う必要があります。
昇進に関して
性別を理由にして昇進させないことは禁止されています。たとえば女性には役職への昇進の機会を与えない、一定の役職までしか昇進できない制度などです。
また役職への昇進条件を男女で変えるのも不当な扱いになります。たとえば一定の役職への昇進試験において、女性のみ上司の推薦が必要といったものなどです。
現在でも日本の女性の管理職比率は低いため、企業は女性活躍促進のさらなる努力が必要でしょう。
教育・訓練
教育・訓練の際、男女間での差別は禁止されています。たとえば特定の性を教育・訓練の対象外としたり、研修の内容や期間を男女で異なるものにしたりするなどです。
また「一定年齢に達した」「結婚した」「子供がいる」などを理由に教育・訓練の対象から外すことも違法となります。教育・訓練の実施にあたって勤続年数や出勤率などを条件とする場合に、男女間で異なる条件を提示することなども不当とされているのです。
福利厚生面
性別によって、福利厚生を差別することは禁止されています。貸付や給付、住宅貸与などの要件を男女間で異なるものにするのは違法です。
世帯主としての例では、女性には配偶者よりも収入が多い場合に限ったり、女性にのみ配偶者の所得証明を求めたりするなどが挙げられます。
また会社の寮の入居対象者を特定の性に限定するなども違法です。それが判明した場合は差別解消の措置が求められるでしょう。女性用の独身寮がないことを理由に、女性を採用しないことも不当な扱いとなります。
職種や雇用形態を変える
職種や雇用形態の変更の際に、性別によって不当な扱いをすることは禁止されています。たとえば総合職から一般職への変更にあたって、制度上は男女双方を対象としているが、男性の一般職への変更を認めないなどです。
また女性のみ、一定年齢に達したら専門職から事務職へと変更することも違法となります。有期契約労働者が正社員になる際、試験の基準を男女間で異なるものにするなども不当な扱いとされているのです。
従業員の解雇
解雇にあたって、性別を理由に不当に解雇することは禁止されています。たとえば経営を合理化するために、女性のみを解雇の対象とするなどです。また解雇の際、男女のどちらかを優先させてはいけません。
解雇の基準を満たす従業員から、男性よりも女性を優先させて解雇の対象とするなどは不当な扱いとされます。解雇基準を設定する際も、男女間で異なる条件をつけることは違法となり、無効となるのです。
労働契約
性別を理由にして労働契約を変えることは禁止されています。たとえば経営を合理化するために、男性のみを労働契約更新の対象とし、女性については更新しない(雇止め)などです。
また労働契約の更新にあたって、男女どちらかを優先させてもいけません。労働契約の更新基準を満たす従業員から、女性よりも男性を優先させて更新の対象とするのは不当です。また、男女いずれかに契約更新の上限回数を設けるなども違法となります。
3.ハラスメントの防止のため
昨今、「ハラスメント」という言葉が頻繁に使用され、労働者が一方的に不当な扱いを受けるケースが多く見受けられます。
男女雇用機会均等法では、2007年の改正によりセクシャルハラスメントが、2017年の改正によりマタニティハラスメントに対する禁止が規定されました。またセクシャルハラスメントやマタニティハラスメントの防止措置が事業主に義務付けられたのです。
ハラスメント防止のために、企業はどのような対策を取ればよいのでしょうか。
ハラスメントとは
ハラスメントとは、相手に対して行われる「嫌がらせ」で、性的な嫌がらせを行う「セクシャルハラスメント」や、権力や立場などを利用して嫌がらせを行う「パワーハラスメント」などがあります。
ハラスメントは行う側の意識に関係はありません。本人にそのつもりがなくても、相手が傷ついた場合や苦痛を与えられた場合は、ハラスメントに該当するのです。ハラスメントは職場や学校などさまざまなコミュニティに存在します。
防止策
ハラスメントに対して、事業主はそれを防止するための措置を講じたり相談窓口を設置したりなど環境の整備が必要不可欠です。ハラスメント防止対策として、まずは従業員にハラスメントに対する正しい知識を持たせます。
企業としては、遅刻や欠勤など働く意欲を失っていないかなど従業員の変調を見逃さない風土や、従業員間で意思疎通が図りやすい風通しのよい職場づくりが必要でしょう。
4.ハラスメントの例
ハラスメントには、セクシャルハラスメントやパワーハラスメントなどさまざまな種類があります。セクシャルハラスメントが1980年代に世の中に認知されたことをきっかけに、ハラスメントが表面化したといえるでしょう。
現在ではマタニティハラスメントやパーソナルハラスメントなど、約30種類以上ものハラスメントが定義付けられています。ここからは、一般的にハラスメントと定義されている中でも認知度の高いものを紹介しましょう。
セクシャルハラスメント
セクシャルハラスメントとは、性的な嫌がらせのこと。男性、女性問わず行われるものですが、主に男性から女性に対して行われるものが多いです。略して「セクハラ」と呼ばれ、「対価型セクハラ」「環境型セクハラ」の2種類があります。
- 対価型セクハラ:職場などの立場を利用し、下の立場にある人に対して「性的な要求を受け入れれば昇進させる」などの言動を行うもの
- 環境型セクハラ:性的な言動を繰り返して、相手の働く環境を悪化させるもの
マタニティハラスメント
マタニティハラスメントとは、妊娠している、または出産した女性に対して行われる嫌がらせのこと。「マタハラ」と呼ばれ、妊娠や出産、育児のために休暇を取ったため業務に支障が出たという理由で行われるのです。
妊娠したため女性を降格させた企業に対して、最高裁は男女雇用機会均等法に抵触するという判決を出しています。未婚の女性などに、「多忙な時期に子供を作るなんて」などと嫌みを言ったり嫌がらせをしたりすることもマタハラに該当します。
パーソナルハラスメント
パーソナルハラスメントとは、容姿や性格、癖や趣向などプライベートで個人的な部分に対して文句を言うなどの嫌がらせを行うことで、容姿に関してあだ名をつける、癖などをからかう、個人的趣向を理由に仕事を制限するなどの行為が該当します。
原因として考えられるのは、ハラスメントを行う側が、容姿や癖などを自分の基準で推し量っていたり、相手よりも上に見られたいと思っていたりすることです。
マリッジハラスメント
マリッジハラスメントとは、結婚に関して圧力をかけたり、嫌がらせを行ったりすること。マリッジハラスメントのマリッジは結婚を意味し、未婚者に対して、「なぜ結婚しないのか」「そんな風だから結婚できないんだ」などの言動を行って苦痛を与えます。
職場の上司や先に結婚した友人、親戚などから「いい年をしてまだ結婚していない」などのプレッシャーをかけられることにより、未婚者が大きな負い目を感じるハラスメントです。
スクールセクシャルハラスメント
スクールセクシャルハラスメントとは、学校で教師が生徒に対して行う性的嫌がらせのことで、略して「スクハラ」と呼ばれます。
教師が立場を利用し、生徒に対して根拠もなく異性との交際を禁止したり、恋人について質問したりするものから、教育と称して生徒の身体に触れるなどいわゆる性的虐待となるものまで含みます。
生徒がほかの教師に相談しても問題が大きくなることを恐れ解決の糸口がないケースもあります。被害に遭った場合は、教育委員会などが設置する窓口に相談するとよいでしょう。
5.企業内でのハラスメント対策は急務
今回は、男女雇用機会均等法について解説しました。性別による差別を禁止する男女雇用機会均等法が制定されて35年目となります。法改正も進み、女性の社会進出は促進されていますが、管理職比率などは世界的に見るとまだ低い水準です。
また男女問わず相手に対して行われるハラスメントも社会問題となっており、時代の変遷とともにハラスメントの種類も多様化しています。企業内でもハラスメント対策が急務といえるでしょう。
トラブルが起きないように
男女雇用機会均等法に抵触した場合、厳しい社会的制裁を受けるほか、裁判にまで発展するケースも多々あります。労務担当者は、事業主と労働者間でトラブルが発生しないためにも、改めて均等法の内容について確認し、正しい知識を得る必要があるでしょう。
また従業員の変調を見逃さないよう、常にアンテナを張り、状況を適切に把握することも大切です。これらは個人の意識のみの問題ではありません。組織全体で取り組める体制を整備しましょう。