DESC法とは、自分の要望を4つの段階に分けて、相手とポジティブなコミュニケーションを取る手法です。
目次
1.DESC法(デスク法)とは?
DESC法(デスク法)とは、「Describe:描写する」「Explain:説明する」「Specify:提案する」「Choose:選択する」のこと。4つの頭文字を取ったもので、アメリカの心理学者ゴードン・バウアーらによって提唱されました。
コミュニケーションスタイルの定義
DESC法を説明する前に、まず私たちが使っているコミュニケーションスタイルの定義を見ておきましょう。アメリカの心理学者ウォルピィは、コミュニケーションは3つのスタイルに分かれると提唱しています。
- アグレッシブ型
- ノンアグレッシブ型
- アサーティブ型
①アグレッシブ型
アグレッシブ型は、自分の主張を押しとおしたり相手を論破したりといった、攻撃的なコミュニケーションのこと。「自分本位」「相手に指示」「自分の命令に従わせる」といった特徴が挙げられます。
相手の気持ちを無視して自分の考えを押しとおすため、意見はとおりやすいものの周囲から敬遠されたり相手にストレスを与えたりします。
②ノンアグレッシブ型
消極的・非主張型と訳されるノンアグレッシブ型は、自分を後回しにしたり、他者の主張を優先したりするコミュニケーションスタイルで、「引っ込み思案」「依存的」「他人本位」といった特徴を持ちます。
「自分が思った事柄を主張できない」「いつも他人に振り回される」と感じる状況が多いため、「なぜ相手は分かってくれないのか」というストレスが生まれるのです。
③アサーティブ型
アサーティブ型とは、自分の考えや気持ちを正直に伝えつつ、相手の反応も素直に受け止めようとするコミュニケーションスタイルのこと。
アグレッシブ型とノンアグレッシブ型の中間ともいえるタイプで、お互いの主張が違っても、そのなかから合意点を見つけていきます。そのため自分も相手もストレスが少なくなるのです。
DESC法はアサーティブ型
DESC法は、3つのうち「アサーティブ型」に該当します。攻撃的でも受け身的でも作為的でもないコミュニケーションスタイルなのです。
また「誠実」「率直」「対等」「自己責任」4つのキーワードを柱として、相手を尊重しながら自己主張するコミュニケーション方法となっています。
DESC法の意味
DESC法はそれぞれもととなる4つの英単語があり、それぞれに意味があるのです。ここではDESC法を構成するアルファベットの意味について解説します。
- Describe(描写する)
- Explain(説明する)
- Specify(提案する)
- Choose(選択する)
①Describe(描写する)
Describeは、「相手の行動や解決しようとする問題の状況について客観的に描写する」という意味を持ちます。
仕事を依頼された際、「今忙しいから無理です」とむげに断らず、「16時までに今の業務が終われば、引き受けられます」と客観的な事実や状況を具体的に話す手法です。「自分の思い込みや感情を含めない」「推測で話さない」などがポイントとして挙げられます。
②Explain(説明する)
Explainは、D(Describe)で描写した客観的事実に対して自分の主観的な気持ちを述べる手法です。Explain(説明する)だけでなく、やExpress(表現する)やEmpathize(共感する)をあてる場合も。
「大変な状況も分かるためお手伝いしたいのですが、今日は難しいです」といったように、感情的にならず思いやりを持って建設的に伝えることがポイントです。
③Specify(提案する)
Specifyは、同じ意味を持つSuggestに置き換えられる場合もあります。「最短で明日からなら対応できます。こちらならどうでしょう」など、状況を変えるための具体的かつ現実的な代替案を提案するのです。
ポイントは、「相手を責めない」「強制力のない提案をする」などになります。
④Choose(選択する)
最後にChoose(選択する、結果を示唆する)によって、選択肢や代替案を示します。
「ほかに対応できる者を探しましょうか」もしくは「今日中に終わらせるのであれば、今ある業務の優先順位を変えられるか確認してみます」などのように、提案について出た「YES・NO」それぞれに対して次にどうするか、選択肢を用意しておきましょう。
DESC法の会話例
DESC法の会話について、ビジネスシーンにおける例を見てみます。ポイントは「何が起きているのか」「どんな問題が生じているのか」「どうすれば解消するのか」「解消することでどんな効果が生まれるのか」といった具体性を持たせること。
- 「どうすればいいか」を明確に伝えると、相手に理解や納得を促せるのです。それでは例について見ていきましょう。
- 「明日の会議なんだけど、まだスライドの準備ができていないってほんと?」(D:描写する)
- 「申し訳ありません。どうも一昨日頃から故障しているようで…」
- 「え!事前に報告してもらわないと会議に影響出るから困るでしょ。どうするの?」(E:表現する)
- 「報告できていなくて、申し訳ありません」
- 「会議に必要な機器や会社の備品が壊れていた場合、いつまでに直るか報告してもらえるかな(S:提案する)。ほかの部署から借りることも検討できるし、修復に時間かかるようならレンタルもしくは購入も考えなきゃいけないし(C:結果を伝える)」
- 「はい、次回からはそうします」
2.DESC法の実行する上での心得
さまざまな場面でスムーズに提案・要望を展開できるDESC法。実行の際は、以下に注意しましょう。ここではDESC法のメリットとデメリット、実行するうえでのポイントについて見ていきます。
メリットとデメリットを把握する
DESC法のメリットとデメリットは、下記のとおりです。
- メリット:「簡潔に分かりやすく説明内容が相手に伝わる」「建設的な話し合いになりやすい」
- デメリット:「自分の意見を強く伝えられない」「複数の提案内容を持つ必要がある」
必要なポイントを押さえる
DESC法を実行する際は、結論としてのC(選択する)から逆算して組み立てましょう。それによって、より分かりやすくなります。また要望を強制せず、「お互いの妥協点を模索する」を目的として使用するとよいでしょう。
DESC法はあくまで、「お互いが納得して解決とする」を目指します。自分の主張を押しとおすものではない、のです。
3.DESC法の活用方法
世代や役職を超え、さまざまな人とのコミュニケーションを円滑に行えるDESC法。具体的にどのようなシーンで活用できるのでしょう。ここではDESC法が活用できる場面を3つ紹介します。
- 無理な仕事を断るとき
- 会議中意見の違う同僚から同意を得るとき
- 圧迫面接を切り抜けるとき
①無理な仕事を断るとき
DESC法は、断りづらい無理な仕事を断る際に使えます。「頼まれた仕事にNOを返すのは勇気がいる」という人も少なくないでしょう。とはいえ、我慢してすべて引き受ければいいというわけではありません。
DESC法を活用して代替案を伝え、「このままではうまくいかない」「ほかにうまくいく方法がある」と伝えるのです。
その際に「忙しくて手が回らないという声が挙がっている」「こうするとチームも納得しやすい」といったように、主語を「I(私)」から「We(私たち)」にしても、NOの意思を間接的に伝えられます。
会議中意見の違う同僚から同意を得るとき
会議中、意見の違うメンバーから同意を得たいときにもDESC法は有効です。
たとえば、プロジェクトリーダーであるあなたのもとに、Aさんの担当業務の遅れ、そのフォローによる周囲の不満があげられたとします。あなたはメンバー間の協力関係を保ちつつ、Aさんに改善を伝えなければなりません。
DESC法を活用して次のように伝えれば、Aさんとの関係を壊さずに意見を伝えられるでしょう。
「Aさんの担当業務がたびたび遅れてしまうことで、フォローしている人たちに負担がかかっているという声が挙がっています。Aさんが丁寧な仕事をしてくれる点にはいつも感謝しているからこそ、遅れについて心配しているのです。チームへの影響を考慮して、具体的な改善策を考えてみませんか。それによってチームの協力関係も築けますし、Aさんの仕事も進めやすくなると思います」
圧迫面接を切り抜けるとき
DESC法は圧迫面接を切り抜ける際にも有効です。圧迫面接とは、相手にプレッシャーをかけて反応を見極める面接技法のひとつ。意地悪な質問に対して本気で怒ったり表情に出したりすると「感情のコントロールができない人」と判断される場合もあるのです。
「3回も転職しているあなたは、根気のいるこの仕事に向いていないのでは?」という質問を受けたとしましょう。DESC法を活用して以下のような回答をすれば、相手にプラスの印象を与えられます。
「御社の法人営業は新規顧客開拓の段階にいると存じます(D:描写)。おっしゃるとおり、私は3回転職しているため新規開拓について苦になりません(E:説明、共感)。試用期間中の結果で評価いただければ幸いに存じます(S:提案)」
4.DESC法のプレゼンテーションでの使い方
DESC法はプレゼンテーションの構成としても有効な手段です。DESC法を活用し、はじめに問題点の指摘ではなくDescribe(描写)にあたる客観的な事実を説明します。こうすることで、メインとなるプレゼンテーションの提案部分に、より一層の説得力を持たせることが可能になります。
そもそもプレゼンテーションとは?
プレゼンテーションとは、「聞き手の立場に立ちながら要望を認識する」「聞き手が知りたい情報を伝えて具体的な行動を促す行動」のこと。
語源に英語のPresent(プレゼント、提示する、進呈する)という言葉があるとおり、聞き手の立場に立って分かりやすく伝える点が重要になります。
DESC法は問題解決型のプレゼンテーションに最適
プレゼンテーションには価値提案型や価値創造型などさまざまなタイプがあります。なかでもDESC法が真価を発揮するのは問題解決型のプレゼンテーションです。
「自社のグローバル化は競合他社に対して後れを取っている」と問題点を冒頭に述べるのではなく「国内市場は縮小の一途で他社はグローバル化を進めている」といったように客観的な事実の説明から始めると、中心となる提案部分に力を持たせられます。
DESC法以外の方法
聞き手の理解を促したいときに効果的な方法は、DECS法のほかにもいくつかあるのです。ここでは下記2つの手法について解説します。
- 結論重視で説得力がある「PREP法」
- 聞き手が理解しやすく記憶しやすい「SDS法」
①結論重視で説得力がある「PREP法」
PREP法(プレップ法)とは、以下4つの頭文字を取って名付けた手法です。
- P(Point)結論、ポイント
- R(Reason)理由
- E(Example)事例、具体例、実例
- P(Point)結論、ポイントを繰り返す
冒頭でプレゼンテーションのポイントや結論を述べ、次にその理由を述べます。そして理由を裏付けする事例を出し、最後に結論を繰り返して説得力を持たせるのです。
②聞き手が理解しやすく記憶しやすい「SDS法」
SDS法は、以下3つの英単語の頭文字を取って名付けた手法です。
- S(Summary)全体の概要
- D(Details)詳細の説明
- S(Summary)全体のまとめ
テレビニュースや通販番組でもよく使われている構成となります。初めに伝えたいポイントを述べ、次に具体的な説明、最後に「~についてお伝えしました」というように全体をまとめるのです。
それぞれの項目で同じ内容を3回繰り返し説明します。そのため、聞き手は理解しやすくかつ記憶しやすくなるのです。
3つの方法を使い分けるポイント
「DESC法」「PREP法」「SDS法」は、用途や目的によって使い分けましょう。
- DESC法:聞き手に何かを承認させたいとき。提案や企画資料に有効
- PREP法:聞き手に何かを教えたいとき。セミナーや教本など教育的な表現に有効
- SDS法:目的を選ばずに使用できる。DESC法やPREP法が使えないシーンや、報告、日記などに有効