デジタルディスラプションとは、IT技術を利用して創造的な破壊を起こすこと。デジタルディラプションの定義と関連語との違い、国内・海外の事例について解説します。
目次
1.デジタルディスラプションとは?
デジタルディラプションとは、低コストなIT技術を利用した新たなビジネスで、古いビジネスに創造的な破壊をくわえること。
具体的には、クラウドやビッグデータ、IoT、AIなどを利用して新たな価格・経験・環境を作り出し、その優位性で古いサービス・商品と入れ替わることを指します。
デジタルディスラプションの「Disruption」は「破壊」を意味しており、もとは1992年にアメリカの新聞で使われたのが始まりです。
単に「ディスラプション」といわれることもあるほか、低コストなIT技術を利用するその性質から「次世代型の破壊的イノベーション」とも称されています。
破壊的イノベーション
技術革新やアイデアにより既存の状態を壊し、業界のあり方そのものを変革させること。デジタルディスラプションと異なり、IT技術による破壊・変革だけに限定されません。
破壊的イノベーションは英語で「Disruptive Innovation」。1997年にハーバード・ビジネススクールの教授である、クレイトン・クリステンにより初めて提唱されました。対義語として既存の状態を改善して成長させていく「持続的イノベーション」が挙げられます。
2.デジタルディスラプション関連語
ここでは、デジタルディスラプションの関連語について説明します。
- ディスラプター
- デジタルトランスフォーメーション(DX)
- イノベーション
①ディスラプター
既存産業が立ち行かなくなる程の破壊と創造をもたらした企業のこと。デジタルディスラプションを起こした企業の中でも、特に程度が大きなものを指します。
ディスラプターは英語で「Disruptor」で、「デジタルディスラプター」「破壊的イノベーター」と呼ばれることも。実例としてはUberやAirbnb、Spotifyなどが挙げられます。
②デジタルトランスフォーメーション(DX)
IT技術の広まりにより働き方や市場、生活など社会そのものを変えること。
デジタルトランスフォーメーションは英語で「Digital Transformation」と表し、英語圏では「Trans」のつく語句を「X」と略して表記することから、各単語の頭文字をとってDXとも呼ばれます。
「IT化」や「デジタル化」に非常に近い概念で、そのうち「変革」を含むもののみを指します。もとはスウェーデンのエリック・ストルターマン教授により2004年頃に考案され、コロナ禍に入って急速に広まりました。
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デジタルディスラプションとDXの関係
デジタルディスラプションは、DXのひとつの結果として起こるものです。
例として、ブロックバスターとNetflixの例を考えてみましょう。スマホを始めとするIT技術の広まりにより、Netflixなどのサブスクリプションサービスが一般化しました。
それにより、「レンタルショップに行かなくてもよい」「定額で好きな動画が見られる」というDXが発生し、その結果として、Netflixは大きく躍進したのです。一方大手レンタルショップのブロックバスターは経営が破綻してしまいました。
このNetflixとブロックバスターのサービス・企業の逆転が、デジタルディスラプションです。
③イノベーション
技術革新やアイデアなどにより変革を引き起こし、社会的・経済的な価値を生み出すこと。イノベーションとは「革新」を意味する英単語です。
今日のイノベーションの概念は、ヨーゼフ・シュンペーターら経済学者により定義されました。ヨーゼフ・シュンペーターによると、イノベーションの分野は以下の5つにわかれます。
- 生産物
- 生産方法
- 市場
- 資源供給
- 組織
ヨーゼフ・シュンペーターはまた、「イノベーションは経済の発展に重要な役割を果たす」とも述べています。そのほか、クレイトン・クリステンセンは、イノベーションを破壊的イノベーションと持続的イノベーションの2種類にわけたのです。
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ディスラプションとイノベーションの関係
イノベーションには持続的イノベーションと破壊的イノベーションの2種類にわけられ、ディスラプションは破壊的イノベーションの一部と捉えられます。
- 持続的イノベーション:既存の状態を改善していくこと
- 破壊的イノベーション:既存の状態を壊し変えること
ディスラプションとは、破壊的イノベーションでも、新旧が入れ替わる程に激しいもののこと。破壊的イノベーションやディスラプションはその性質から、ベンチャー企業から大企業に向けてなされることも珍しくありません。
3.デジタルディスラプションが提供する価値
ここでは、デジタルディスラプションが提供する価値について説明します。
- エクスペリエンスバリュー
- プラットフォームバリュー
- コストバリュー
①エクスペリエンスバリュー
付加価値のある経験を提供し、顧客満足度を向上させること。具体的には、顧客にとってより利便性の高いサービス、またはより顧客の状況に応じたサービスの提供を指します。
たとえばAmazonは、幅広い選択肢から希望の商品を素早く自宅に届け、買い物にかかる手間を大幅に削減しました。さらにデータをもとに顧客の好みにあった商品を紹介し、これまでにないネットショッピング体験を実現したのです。
その結果、顧客満足度が向上し、現在の圧倒的な地位を築き上げました。Amazonはエクスペリエンスバリューを生み出す新たなビジネスモデルを創出したのです。
②プラットフォームバリュー
サービスを利用する環境を新たに創造し、圧倒的に有利な状況下で大量の顧客を獲得すること。
SNSや口コミサイト、インターネットブラウザなどのネットワークサービスは、顧客が増えるに従ってその優位性も上がっていきます。一旦環境を創り顧客を獲得してしまえば、後から他社が参入するのはたやすくありません。
そこでLINEでは、チャットや通話といったコミュニケーションサービスだけでなく、スタンプやゲーム、ショッピングや電子書籍などさまざまなサービスを用意。LINEをこれらサービスのプラットフォーム(土台)としたのです。
そしてLINEは高い人気を獲得し、長きに渡って圧倒的なシェアを誇っています。
③コストバリュー
最終的な小売価格を下げ、顧客満足度を向上させること。デジタルディスラプションが提供する価値のなかで、最も大きな影響力を持つといわれています。コストバリューを追求する手法は、主に以下の3つです。
- 製品やサービスをデジタル化し、物理的なコストを削減する
- ネットを介して購入者を集め、価格を下げる
- 比較しやすいよう多店舗の価格を可視化し、より安価に購入できるようにする
たとえば近年普及した電子書籍は、物理的な紙代などがかからないぶん、実書籍より安く販売されています。
3.デジタルディスラプションの国内の事例
ここでは、国内におけるデジタルディスラプション事例を説明します。
AKIRA(リサイクル業界)
従来型のリサイクルショップがフリマアプリの台頭に苦しみ、2018年、大手企業「AKIRA」が破産しました。
AKIRAは親のニーズを捉えて子供服に特化したリサイクルショップで、最盛期は全国に74店舗を経営。しかしAI出品機能や写真検索機能を搭載した、メルカリといったフリマアプリが台頭し始めます。
顧客と商材の双方を喪失したAKIRAは10億以上の負債を抱え、2018年に破産しました。
文教堂グループホールディングス(出版業界)
従来型の書店がネット販売に押され、2019年には文教堂グループホールディングスが事業再生ADRの利用に踏み切りました。文教堂グループホールディングスは、1898年に創業した中規模の書店チェーンです。創業以来、順調に店舗を広げてきました。
しかしネット販売や電子書籍の台頭で売上が激減。2018年の営業利益は約5億円の赤字となり、2019年には事業再生ADRの利用を申請しました。一方ネット販売や電子書籍を取り扱うAmazonは今日も売上を伸ばし続けています。
グリー(IT業界)
IT業界ではここ10年余りでスマホが急速に普及し、それに乗り遅れたグリーといったサービスは売上が激減しています。
ガラケー向けゲームで人気を集め、2012年6月期には1582億を売り上げたグリーは、スマホへの転換が上手く進められず、2018年6月期の売上が589億円と半減。一方でAppleやGoogleなどは、確実に売上を伸ばしています。
mixi(IT業界)
IT業界では新たな技能を搭載した海外発のSNSが流入し、国内発のmixiが苦境に立たされました。2011年には月間アクティブユーザー数1500万人を誇っていたmixiですが、実名制を売りにしたFacebookに押され、今では完全に立場が逆転。
Facebook台頭の背景には、実名制を基盤とした高精度な広告、知り合いを自動で表示する機能など、それまでにない新たなサービスがあったといわれています。
4.デジタルディスラプションの海外の事例
ここでは、海外におけるデジタルディスラプションの事例を説明します。
Uber(サービス業界)
IT技術の活用により、自社の車を持たないままタクシー業界に君臨するようになったのがUberです。
Uberはドライバーとユーザーをマッチングするアプリを開発し、事前にルートを確定して料金変動が発生しない仕組みを確立。またドライバーの評価もアプリから確認できる点もユーザーの安心感を高めました。
ユーザーにとっては新たなタクシーサービスを提供し、タクシー会社側にとってはタクシーが客を探して空車のまま移動する時間を激減させる仕組みを創造しました。
Amazon(EC業界)
AmazonはIT技術を駆使して、実店舗にはない幅広い選択肢と、これまでにないスムーズな物流を実現しました。
Amazonはネット販売に特化し、実店舗ではなし得ない品ぞろえに成功。順調にシェアを拡大し、多くの実店舗が撤退を余儀なくされました。さらに近年、ドローンを利用した配送も開始。物流面でも変革を起こしつつあります。
Robinhood(証券業界)
Robinhoodはスマホによる気軽な取引を実現し、オンライン証券業界に新たな衝撃をもたらしました。
証券取引の手数料を無料化し、さらに1ドル未満のわずかな元手で取引できるようにしたのです。その結果、これまで証券取引を行わなかった、投資経験に乏しい層へのアプローチに成功。
Robinhoodで投資活動を行う大学生は「ロビンフッダー」と呼ばれるなど、一大ブームを巻き起こしています。
THQ(ゲーム業界)
THQは家庭用ゲームの大手メーカーでしたが、スマホの普及による新たな流れに対応できず、2012年に破産を申請しました。
THQは50から60ドル前後でパッケージゲームを販売してきましたが、スマホゲーム企業は数ドルで遊べる安価なゲームを次々と発表。家庭用ゲーム市場が急激に縮小していった一方で、スマホゲーム市場は現在も拡大を続けています。
Netflix(IT業界)
Netflixは新たなサービスを次々と創造し、既存のレンタルショップに大きな衝撃を与えました。当初はDVDの郵送レンタル、販売を行っていたNetflixは、以下のような新たなサービスで急成長を果たしたのです。
- サービスのサブスクリプション化
- オンラインストリーミングサービスの導入
- 利用履歴から好みの動画を紹介
- オリジナルコンテンツの制作
レンタルショップ大手のブロックバスターが破産した一方、Netflixは近年も成長を続けています。
Airbnb(不動産業界)
Airbnbは貸主と借主の仲介アプリを運営し、宿泊施設を持たないままホテル業界で急成長を遂げました。Airbnbのビジネスモデルは、空き部屋を持つ貸主と安く宿泊したい借主を結びつけ、その仲介料で利益を得るもの。
宿泊施設を維持する必要がないため、従業員といった固定費が一切かかりません。現在Airbnbは世界約200ヵ国に広まり、毎日5〜6万人の顧客に利用されています。
5.デジタルディスラプションへの対応策
ここでは、デジタルディスラプションへの対応策を説明します。
- 外部委託
- IT技術の積極活用
- 新たな価値基準の創造
- 市場の開拓
①外部委託
技術開発を外部委託すれば、新たな視点が追加され、デジタルディスラプションに対抗できる可能性が高まります。
自社での技術開発は以前の成功に固執しがちで、なかなか新たな情報の取り入れ、挑戦につながっていきません。外部委託により新たな人・環境が混じれば、これまでにない新しい商品やサービス、改良が生まれます。
②IT技術の積極活用
IT技術の積極活用はDXにつながり、デジタルディスラプションに排除されにくい企業体質につながります。クラウドやビッグデータ、AIなどのIT技術を活用すれば、既存のあり方にとらわれず、最新技術を柔軟に取り入れられるでしょう。
結果としてDXを起こしやすくなり、デジタルディスラプションに排除される可能性も低くなります。
③新たな価値基準の創造
新たな価値基準を身につければ、デジタルディスラプションに適切に対処できます。
デジタルディスラプションを引き起こす商品・サービスは、新たな価値基準にもとづいていることも少なくありません。それを自社で創造しておけば、迫り来るデジタルディスラプションに対して、いち早く正しい評価と対処が下せます。
④市場の開拓
市場の開拓は成長の頭打ちを防ぎ、デジタルディスラプションに排除されにくい企業体質を作ります。
既存の顧客にばかり目を向けていては、新たな挑戦はなかなかできません。市場開拓の意識を持てば、成長し続けられるだけでなく、新たに挑戦しやすい環境も整います。
6.デジタルディスラプションの理解に役立つ本
ここでは、デジタルディスラプションを理解するための本を説明します。
大前研一 デジタル・ディスラプション時代の生き残り方
デジタルディスラプションの背景や対処法の理解に最適な一冊です。
著者は、思想的指導者として世界的に高く評価されている人物。これまでにも様々な論文や著作を発表し、イタリアのピオマンズ賞やノートルダム大学の名誉法学博士号などを受賞しました。
本作中では、デジタルディスラプションの背景や定義に触れたうえで、具体的な対処法について解説しています。
対デジタルディスラプター戦略 既存企業の戦い方
デジタルディスラプションの定義や対処法を、既存企業の立場から解説した一冊です。
アメリカの研究者らが著したものを、日本の研究者や翻訳家、イノベーション開発拠点などが翻訳した本作。デジタルディスラプションが既存企業に与える影響を丁寧に述べたうえで、以下の3点を詳しく解説しています。
- 既存企業の利益が見込めるエリア
- 対抗するための4つの対応戦略
- 反撃するための3つの組織能力
コマースの興亡史 商業倫理・流通革命・デジタル破壊
小売業界の歴史と現在のデジタルディスラプションを解説した一冊です。流通のデジタルディスラプションについて、理解を深められます。
著者の矢作敏行氏は、日本経済新聞社編集局や法政大学経営学部教授を務めた人物。自らが研究してきたマーケティングや流通の知識を元に、明治から現在に至るまでの小売業の歴史、それぞれの特徴を解説しています。
デジタルディスラプションについて触れるのは、作中3パート目にあたる9章周辺です。