デジタル人材は、近年推進されているDX(デジタルトランスフォーメーション)に必要な人材で、リスキリングの目標でもあります。しかし、そもそもデジタル人材とはどういった人材を指すのか、採用や育成は可能なのかなど、気になる点も多いでしょう。
今回はデジタル人材の定義や重視される理由、必要なスキル・資格や採用・育成のポイントなどを詳しく解説します。
目次
1.デジタル人材とは?
デジタル人材とは、デジタル技術を活用して企業に新しい価値を提供し、企業を成長へと導く人材のこと。時代によってデジタル技術は変化し、現代では「AI」「ビッグデータ」「IoT」「5G」などが該当します。
デジタル人材の定義
デジタル人材は、AIやビッグデータなど最先端のデジタル技術を用いてビジネスに変革をもたらす人材です。しかし「これができるからデジタル人材」という明確な定義はありません。
ただし、単にデジタルスキルを持っているだけでなく、それを活用して組織やビジネスに新たな価値を提供できるまでがデジタル人材といえます。
また近年、企業にDXが求められているなか、DXを推進するリーダー的な存在をデジタル人材と呼ぶ場合もあるのです。
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2.デジタル人材とIT人材、DX人材との違い
デジタル人材と類似するものに、IT人材やDX人材があります。ここでは、デジタル人材との違いをみていきましょう。
デジタル人材とIT人材の違い
中小企業庁の定義によるとIT人材とはITの導入や活用を企画・推進・運用する人材のことで、デジタル人材と同義として扱われる場合もあります。
しかしデジタル人材はデジタル技術を駆使した「価値提供者」であるのに対し、IT人材はITの「運用者」といえる点で違いがあるのです。
デジタル人材とDX人材の違い
DX人材とは、単にデジタル技術を持っているだけでなく、デジタル技術を活用して組織に変革、つまりDXを推進する人材です。
DX人材に必ずしもデジタル技術が必要とは限りません。どちらかというと、ビジネス戦略やDX推進のマインドセットに関するスキル・知識があるか、が重視されます。
つまり、優れたデジタル技術を持っていてもDX推進に必要な知識やスキルがなければDX人材とはいえないのです。デジタル人材とは「DXに関する知識やスキルの有無」に違いがあります。
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3.デジタル人材が重視される理由
昨今、DXの推進が求められているため、デジタル人材が重視されているのです。日本はアメリカのようなIT先進国と比べると、IT化・デジタル化に後れをとっています。
DXによって企業が新たな価値を創出できれば顧客満足度や売上アップを実現し、競争優位性の確保も可能です。実際の調査からも、売上規模が大きくなるほどDXに取り組んでいる企業の割合が高くなる傾向にあります。
逆をいえば、DX化できないと企業は今後衰退の一途をたどってしまうでしょう。
しかし現状「膨大なデータを活用しきれていない」のように、DX化の基盤は整っていません。そのためデジタル技術を扱って新たな価値を創出できるデジタル人材やDXに知見があるDX人材の必要性が高まっているのです。
4.デジタル人材が不足する背景
急速に市場の変化が進むなか、企業のDX化が叫ばれています。しかしこれほど需要が高いのに、なぜデジタル人材が不足しているのでしょう。
そもそもIT・デジタル人材が不足している
IT人材の需要ギャップは2025年で36万人、2030年で45万人。ITニーズの拡大により今後もIT人材の需要は高まるものの、供給が追いついていないのです。
そもそも少子高齢化で労働人口が減少しているため、IT人材に限らず多分野で人材が不足しています。DXを推進する人材確保に関する調査でも、日本は約8割が不足と回答。
一方、アメリカでは半数が過不足はないと回答しており、IT先進国との大きな差がうかがえます。
デジタル人材の教育体制が整っていない
デジタル人材の教育体制を整えるにはデジタル技術に精通した教育者が求められます。しかし育成や獲得が追いついていません。
そして、優秀なデジタル人材の採用競争も激化。社内で育成するにも時間とコストがかかるため、デジタル人材はなかなか増えていないのです。
5.デジタル人材に求められるスキル
ここでは、デジタル人材に求められる具体的なスキルを解説します。
- ソフトスキル
- ハードスキル
- プロジェクトマネジメントスキル
①ソフトスキル
対人関係や仕事の進め方、考え方に関するスキルです。
デジタル技術を活用して新たな価値を提供する際、さまざまな人と連携し、戦略的に動く必要があります。そのうえでコミュニケーションスキルや課題解決能力、論理的思考力などが求められるのです。
ソフトスキルは後から身につけられます。しかし生まれ持った素質も大きく影響するのです。
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②ハードスキル
技術的な知識・能力のこと。デジタル人材でいえば、ITスキルやデータ解析スキル、最先端技術を使いこなすスキルなどです。
デジタル技術は日々進歩しているため、つねに最新技術をキャッチアップしてスキルを磨き続けなくてはなりません。
また、これらの技術を活用してどう新しい価値を提供できるか、課題やニーズを読み取ったうえで適切に提供するイノベーションスキルも必要になります。
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③プロジェクトマネジメントスキル
DX推進においてデジタル人材は、プロジェクトマネージャーとして機能します。実務にデジタルを導入するには、現場の課題や要望を汲み取り、適切に調整することが必要だからです。
よって調整力やコミュニケーションを持って組織を動かし、予算や品質、スケジュールを管理しながらプロジェクトを進めるプロジェクトマネジメントスキルが、求められます。
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6.デジタル人材に求められる資格
資格は、デジタル人材としての専門性を高めるために役立つもの。ここでは、デジタル人材に求められる代表的な資格をご紹介します。
- ITストラテジスト試験(ST)
- AWS認定
- ネットワークスペシャリスト試験
- プロジェクトマネージャ試験(PM)
①ITストラテジスト試験(ST)
国家資格の情報処理技術者試験の中でも最もランクの高いITストラテジスト試験(ST)はITを活用して経営戦略を実現できる人材であると証明できる資格です。
試験では情報セキュリティに関する知識のほか、システム戦略や経営戦略マネジメント、プロジェクトマネジメントなど戦略・マネジメント関連の知識が問われます。
②AWS認定
AWSは、Amazonが提供するクラウドコンピューティングです。サーバー環境構築やデータベース利用、セキュリティ対策やAI活用データ分析などさまざまなデジタル技術を利用できます。
AWS認定はこれらのデジタル技術に関する資格であり、試験は全12種類、経験度別に4レベルにわかれているのです。データアナリティクスや機械学習など、さまざまな分野の専門知識を認定しています。
③ネットワークスペシャリスト試験
ITストラテジスト試験と同様、情報処理技術者試験で最もランクが高い試験です。ネットワークやセキュリティ、システム開発技術など幅広い分野から出題されます。
目的に応じた技術やサービスが選択でき、企画・要件定義・設計・構築・運用・保守ができるといった実践的な知識が求められるのです。
④プロジェクトマネージャ試験(PM)
プロジェクトマネジメントの業務と役割を円滑に遂行するための知識、実践能力を、基礎から応用まで幅広く問われます。資格があるとプロジェクトマネージャーを任される場合もあるため、キャリアアップに役立つ資格です。
7.デジタル人材採用のポイント
DX白書2023「 DXを推進する人材の獲得・確保の課題」から読み解いた、デジタル人材採用のポイントを解説します。
- 採用したい人材のスペックを明確にする
- 自社に必要なデジタル人材のスキルやレベルを定義する
- デジタル人材の求める環境を用意する
- デジタル人材採用の予算を増やす
①採用したい人材のスペックを明確にする
効率的に採用を進め、かつ採用のミスマッチを減らすには、採用したいデジタル人材のスペックを明確にすることがポイントです。採用後、デジタル人材に担ってほしい役割や業務を踏まえて、必要なスペックの優先順位を明確にしましょう。
デジタル人材には、明確な基準や定義がありません。だからこそ、自社の状況に合ったスペックを持つ人材を補充するといった視点が重要になるのです。
②自社に必要なデジタル人材のスキルやレベルを定義する
デジタル人材のスキルやそのレベルは、人によってさまざまです。まずは自社にどのようなスキルが必要で、どのレベルを求めるのか、定義しましょう。
たとえば、データ解析技術を用いて早期に成果を出したい場合、データ解析に関する高い技術力を持つ人材が必要です。
必要な人材の定義を「どのような技術を用いてどの程度の成果を出したいか」といった具体化かつ細分化した形で定義できれば、ターゲットも明確になり、採用のミスマッチも軽減します。
③デジタル人材の求める環境を用意する
デジタル人材は需要が高く、採用競争も激化している状況にあります。
採用における優位性を確保するポイントは「ワークライフバランスを重視して働ける」「スキルアップできる環境が整っている」「福利厚生が充実している」など、デジタル人材の求める環境の構築です。
他社にはない魅力的な環境や条件を用意すれば、理想のデジタル人材を採用できる可能性も高まるでしょう。
④デジタル人材採用の予算を増やす
採用にかかる予算や人件費の制約で採用に支障が出ている企業も少なくありません。金銭的なコストはかかるものの、デジタル人材を採用して組織を変革しないと、そもそも企業の成長は見込めないでしょう。
採用コストは「投資」と考え、将来のためにデジタル人材の採用に予算をかけるのも大切です。
8.デジタル人材育成のポイント
デジタル人材は外部から採用するだけでなく、社内で育成するのも可能です。ここでは、デジタル人材育成のポイントを解説します。
- 学習環境を整える
- スキルマップを活用した戦略的育成
- OJTでスキルを生かす
①学習環境を整える
外部研修の導入や資格取得サポートなど、学習環境を整えましょう。
教育の内製化は、デジタル人材がそもそも不足している観点から難しいケースもあります。外部学習なら、高度な知識・技術を持ったデジタル人材から学びを得られるため、教育内容の質も向上します。
学習は強制的ではなく、主体的に行ってもらうことが大切です。そのためにもモチベーションを高めてスキルが身につけられる環境を会社が提供し、支援していきましょう。
②スキルマップを活用した戦略的育成
デジタル人材はハードスキルのほか、さまざまなソフトスキルが求められます。ソフトスキルは生まれ持った素質も大きいため、スキルマップを活用してデジタル人材としての素質や適性がある人材をピックアップし、戦略的に育成しましょう。
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③OJTでスキルを生かす
実践力や活用力を身につけるには、実践が重要です。社内プロジェクトを活用したOJTなら、デジタル人材に必要なスキルセットを実務で活用できます。
スキルアップが期待できる実務を任せられるため、社員のモチベーションも高まるでしょう。さらなるスキルアップに意欲的になってくれる可能性も期待できます。
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9.デジタル人材の育成事例
最後に、デジタル人材の育成事例をご紹介します。
- キリンホールディングス
- クレディセゾン
①キリンホールディングス
キリンホールディングスでは、長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027(KV2027)」の達成に向けて「価値創造を加速するICT」の実現を掲げ、さまざまな取り組みを実施しています。
その一環として、2021年よりDX人材の育成に向けたデジタルリテラシーとスキル向上のプログラムを提供する「キリンDX道場」を開始。
キリンホールディングスではデジタルスキルが特定の部門に偏り、営業・生産・物流などの現場社員に定着していない点が課題でした。
現場の課題に合わせてデジタルを活用できる人材を増やすことを目的に「キリンDX道場」を開始し、初期の募集では150人のDX人材育成を計画していました。結果、応募総数は750を超え、2024年までに1,500人のDX人材を育成する計画へと変わっています。
②クレディセゾン
クレディセゾンでは、営業女性がエンジニアになるために退職したいとの申し出をきっかけにデジタル人材育成のためのリスキリングプログラムを開始しました。
そこでは「アプリエンジニア」「内製化エンジニア」「データ分析」3つの研修プログラムを用意し、社内公募で参加者を募ったのです。2021年には「CS(クレディセゾン)DX戦略」を策定し、2024年までにDX人材を1,000人増やすことを目標に掲げています。
さらに、デジタル化を推進する人材を育成制度の拡充や中途採用によって拡大。デジタル経営戦略の重要度と優先度に連動したデジタル人材の配置に、取り組んでいます。