整理解雇とは、人員削減といった理由のもと企業が一方的に解雇を行うこと。今回は整理解雇について詳しく解説します。
目次
1.整理解雇とは?
整理解雇とは、企業が人員削減のために行う解雇のこと。希望を募る早期退職と異なり、経営難や事業の縮小などを理由に企業が一方的に通知するケースがほとんどです。
近年、新型コロナウイルスの感染拡大や緊急事態宣言による外出自粛などの影響で、飲食業界や旅行業界を中心に経営状況が悪化。部署の統廃合や過剰人員の削減などが必要となり、整理解雇を実施した企業も少なくありません。
厚生労働省によると、新型コロナウイルスの影響で解雇や雇い止めをされた人は、2020年9月時点で5万人超。整理解雇を受けた人も多く含まれていると考えられます。
2.整理解雇の有効性を判断する4つの要件
企業の経営が困難になったといっても、かんたんに解雇できるわけではありません。整理解雇を行うには、4つの条件を満たす必要があります。
- 人員を削減する必要がある
- 解雇される人物の選定法に合理性がある
- 解雇を回避する努力をつくした
- 従業員に対して差別的取扱いをしない
①人員を削減する必要がある
人員を削減する以外の方法はないか、検討しなければなりません。解雇の実施には債務超過や累積赤字など「経営が困難である」という裏付けが必要だからです。
十分に検討したうえで整理解雇が必要と判断した場合、自社の財務状況や数値、削減する人数の根拠などを従業員へ説明します。なお事業の一部のみが赤字の場合でも、整理解雇の必要性が認められれば解雇を行えるのです。
②解雇される人物の選定法に合理性がある
整理解雇の対象者は、合理的な基準をもとに選定しなければなりません。一般的に基準として挙げられるのは年齢や勤続年数、扶養家族の有無や職種、公的資格など。
企業に対して批判的な従業員や、労働組合活動に意欲的な従業員のみを対象にするなど、合理性に欠ける基準は認められません。基準に不自然な点があった場合、解雇権の濫用または不当労働行為と認定される可能性があります。
③解雇を回避する努力をつくした
整理解雇は、あくまでも最終手段です。整理解雇に至るまで、解雇を回避するための努力、つまり解雇回避努力義務を尽くさなければなりません。
希望退職者の募集や勤務時間の短縮、出向や転属など、解雇を回避するための対策を行っていない場合、整理解雇が認められない傾向にあります。
ただしこの努力義務は、企業の経営状況や従業員数なども踏まえたうえで判断されるため、必ず行わなければならないものではありません。
④従業員に対して差別的取扱いをしない
整理雇用の基準にて、男性と女性の間で差別的な扱いをしてはいけません。たとえば「女性従業員のみを対象とする」や「男性の年齢の基準を女性より高く設ける」など。このような差別的な基準が見受けられた場合には、整理解雇は無効となります。
基準で整理解雇を行うと男女雇用機会均等法違反になる恐れもあるでしょう。
3.整理解雇をするときの手順
実際に整理解雇を行う際、告知をしてから人選し、対象者に解雇予告をしなければなりません。ここでは整理解雇を行う際の手順について説明します。
- 解雇しなければならない人数:どれくらいの人数が過剰になっているかを判断し、人数を決定する
- 解雇の対象となる従業員の範囲:年齢や勤続年数など
- 解雇から除外となる条件:「業務上必要な人材は、対象の範囲内で合っても解雇しない」など、除外条件を決める
- 解雇となる日程:解雇する日程を決める
- 退職金の支払いや取り扱い:規定で決められた金額を支払う、あるいは規定の金額に上乗せして支払う
また社内の全員が、確実に見られる場所へ掲示するのも重要です。公表する書面には、解雇人数や解雇の対象範囲、解雇日や退職金の取り扱いなど整理解雇に関する詳細を記載します。
解雇候補が普段どうか評価を確認し、業務態度や資格の有無など、だれが見ても納得できるような人選にします。解雇の判断に私情を介入するのは避けなければなりません。
告知は口頭でも問題ないものの、証拠を残しておく意味でも、解雇予告通知書を発行しておきましょう。
従業員側から要求があれば、解雇理由証明書も発行します。もし30日以上前に告知ができなかった場合、企業は従業員に対して解雇予告手当を支給しなければなりません。
手渡しができなかった場合、書留郵便による郵送もできます。「従業員が解雇辞令を受け取っていない」状況がないようにしましょう。
- 公共職業安定所に雇用保険被保険者資格喪失届を提出
- 本人に離職票を交付
- 社会保険事務所に厚生年金、健康保険被保険者資格喪失届を提出
- 年金手帳を返却
手続きがすべて完了した段階で、整理解雇が完了したことになります。
4.整理解雇をするときの注意点
企業がやむなく整理解雇を行う際、注意したい点がいくつかあります。整理解雇の注意点について説明しましょう。
- 解雇予告手当
- 退職金
- 有給休暇
- トラブル防止のために書面に残す
①解雇予告手当
解雇の告知を30日前までに行わなかった場合、企業側には解雇予告手当を支払う義務が生じます。予告日数と手当は日割りで支払いが可能です。たとえば15日前に予告が行われた場合には、15日分の平均賃金で支払わなければなりません。
平均賃金とは過去3か月の間に支給した総賃金を総日数で割ったもの。総賃金には時間外手当や休日手当、交通費なども含まれます。なお賞与は含まずに計算しても問題ありません。
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1.解雇予告手当とは?
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②退職金
整理解雇は企業都合での解雇となるため、規定されている退職金について支払いの義務があります。このとき退職金を優遇する義務はありません。とはいえ整理解雇は従業員に非がないので、できる限り優遇したほうがよいでしょう。
優遇する場合、「一定金額を加算して支払う」や「年齢や勤続年数に応じた加算を行う」など、内容を明確にしておくことが大切です。
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③有給休暇
解雇になる従業員に残っている年次有給休暇は、解雇の段階ですべて無効になります。有給休暇を消化してもらいたい場合、整理解雇の告知を30日以上前に行いましょう。解雇告知を行ったのち、残りの日数を有給休暇で消化してもらうのも可能です。
ただし本人が望まない場合、無理に有給休暇を消化する必要はありません。
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④トラブル防止のために書面に残す
解雇の告知は口頭でも行えます。しかしのちのちのトラブルを防ぐためにも、解雇予告通知書や解雇理由証明書など書面で残しましょう。口頭で伝えるだけでは、企業の意思や選出された理由などが正しく伝わらない恐れもあるからです。
解雇予告通知書には解雇日と整理解雇に関する就業規則の条項を記載し、解雇理由証明書には解雇に至った理由や企業の考え方などを記載します。
5.不当解雇に対しての制限
ケガや病気、出産などによって休業あるいは休暇している従業員は、労働基準法によって解雇できない期間が定められています。
- 産前産後休業
- 業務災害による療養
- 制限の例外
①産前産後休業
産前産後の休業期間中とその後の30日間は、当事者である従業員を解雇できません。ただし天災といった事情で事業の継続が厳しい場合は、例外として解雇が認められます。
また出産予定日の6週間以内でも、本人が休職をしない場合、「産前休業中には当たらない」という判断となり、解雇の対象になるという解釈もあります。
②業務災害による療養
業務災害にてケガや病気などに見舞われた従業員は、解雇の対象にできません。労働基準法では、療養のために休業している期間、またその後の30日間については、解雇してはならないとされているからです。
なお治癒後の通院をしている状態の従業員は、療養にあたらないため解雇できる場合もあります。しかし療養のための休業には、通院のための一部休業が含まれる場合もあるので慎重に検討するべきでしょう。
③制限の例外
解雇制限の対象でも以下の条件のいずれかを満たす場合、例外として整理解雇が認められるケースもあります。
- 天災事変など、やむを得ない状況で経営の継続が不可能
- 傷病の治療が3年経過した時点で労災保険から傷病補償年金を受給している、あるいは受給が決定している
やむを得ない状況として該当するのは、「事業所が火災によって焼失してしまった」といったもの。傷病補償年金を給付する場合、企業が打切補償を支払ったとみなされるため解雇制限がなくなるのです。
6.不当な整理解雇を受けた場合の対処法
不当な解雇を受けた際、従業員側はどうすればよいのでしょうか。ここでは、不当な解雇を受けた場合の対処法について説明します。
- 直接交渉
- 解雇理由証明書を請求
- しかるべき機関に相談する
①直接交渉
「解雇は無効である」という主張をもとに企業と直接交渉を行って、再解雇や未払いの賃金、慰謝料を請求できます。解雇が無効だと認められれば、企業には解雇後の賃金支払い義務が生じるのです。
なお解雇が無効であるという主張は、口頭だけでなく内容証明郵便を使用して訴えるのも有効となります。内容証明郵便は郵便物の内容を郵便局が公的に証明するからです。
②解雇理由証明書を請求
解雇通知書や解雇理由証明書の発行を必ず請求しましょう。従業員から請求があった場合、企業はそれに応じなければならないと労働基準法で定められています。
また証明書を確認し、解雇の理由が正当なものかどうかも確認しましょう。この証明書は不当解雇を証明する証拠となるので、解雇予告を受けたら必ず書面にて受け取ります。
③しかるべき機関に相談する
自身だけではどうしてよいのかわからない場合、しかるべき専門の機関に相談してみましょう。たとえば弁護士や労働局の紛争調整委員会を訪ねるといった方法です。ここでは、弁護士と紛争調整委員会に相談するメリットについて説明します。
弁護士
弁護士に相談すれば、自身の解雇が正当か不当かについて、公平な判断を得られます。解雇が不当だった場合、その後の企業との交渉や各種法廷手続きを同時に依頼するのも可能です。
また慰謝料や未払い賃金など、ほかに請求できるものがないかも確認してもらえるでしょう。労働問題を多く扱っていて実績が豊富な弁護士を探すのがおすすめです。
労働局の紛争調整委員会
紛争調整委員会とは、弁護士や大学教授などの専門家によって組織された委員会のこと。紛争調整委員会に相談すれば、労働局の担当者が公正中立の立場から、第三者として企業と従業員との話し合いを調整してくれます。
あっせんを使うメリット
紛争調整委員会の協力をあっせんするメリットには、以下の点が挙げられます。
- 費用が無料
- 手続きが迅速でわかりやすい
- プライバシーが保護される
- 第三者が介入するため、自身だけで話を進めるよりもスムーズに話し合いを進められる
なお従業員側が紛争調整委員会の協力をあっせんしたことを理由に、企業側が不利益な扱いをしてはなりません。
あっせんを使うデメリット
紛争調整委員会の協力をあっせんするデメリットは、紛争調整委員会が提案した案を企業側が受け入れるとは限らない点。あっせん案に応じるかどうかは企業側の自由なので、話し合い自体を拒否される可能性もあります。